「将棋観戦記者 小暮克洋氏から、弁護の依頼を受けた」とのことで、大山滋郎弁護士が「三浦九段不正疑惑について、渡辺明竜王を弁護する」なる文章をホームページで公表した。

 

一読して、呆れるとともに、趣旨の一貫しない文章に顔をしかめられた方も多いだろう。

混乱をもたらすだけで、誰にとっても益のない文章だと思う。
 

以下に、問題点を指摘しておく。

 

まず、冒頭、「1. 初めに」に、次の一文がある。

 

「刑事弁護人」として、渡辺明竜王に言い分があるのなら、それを世間の人たちに理解してもらおうと決意した。

 

 なんとも、歯切れの悪い言い方である。
「渡辺明竜王に言い分があるのなら」とはどういうことか。
 あるのかないのか。

 

 1万字を超えるこの文書では、以下に、渡辺竜王の言い分とか主張とかは、一切明示されない。

 

 この文章は、改めて、三浦九段がソフト指しをした疑いは強いと主張し、それを「問題提起」した渡辺竜王は非難される言われはない、と弁護するものだ。
 その内容が、渡辺竜王の言い分だと受け止められてもいいのか。

 

 大山滋郎弁護士が「渡辺明竜王に言い分があるのなら、それを世間の人たちに理解してもらおうと決意した」のであれば、ぜひ、週刊文春に記事が出ることを事前に知ったということについての言い分、週刊文春にインタヴューが載ったことについての言い分など、問題の解決につながるような渡辺竜王の言い分を伺っていただいて、説明してくれればと願う次第である。
 

 

次に、「2. 事件の概要」での、渡辺竜王の行為についての誤魔化しである。

 

 

(1)  三浦九段への疑惑と竜王戦出場停止
 本件は、三浦九段が竜王戦などの対局において、「技巧」という将棋ソフトを用いて、カンニングを行ったと疑われたものである。三浦九段が竜王戦の挑戦者になったのも、カンニングしたためとの疑惑である。この疑惑について、日本将棋連盟に問題提起をしたのが、渡辺竜王である。
 この問題提起を受けて、将棋連盟内でトップ棋士たちが、問題の対局そのもの、「技巧」の指し手との比較などを検討した。その検討結果も踏まえて日本将棋連盟常務会が三浦九段と話し合い、同九段が出場辞退を申し出たことにより、竜王戦の挑戦者の変更がなされた。

 

 大山滋郎弁護士は「日本将棋連盟常務会が三浦九段と話し合い」と書かれているが、当該常務会(昨年10月11日開催)には、メンバーではない渡辺竜王、千田六段が参加し、その両名から、「三浦棋士に対し、主に本件4対局について、三浦棋士の指し手(感想戦での読みの内容を含む。)と技巧が示す指し手との一致率等を示しながら、長時間の離席や頻繁な離席を繰り返した理由について質問がなされた。」(第三者調査委員会調査報告書概要版)
 その常務会は「多数の者による追及的な雰囲気」(同概要版)であったとされるが、それを主導したのは、渡辺竜王なのだ。

 

 渡辺竜王は、決して「問題指摘」をしただけというものではない。
 大山滋郎弁護士は、それを知らされていないのだろうか。
 根本的に誤解しているように思える。

 

「5. 渡辺竜王弁護の基本的な方針」では次のとおり書いている。
 

 

(1)  疑うだけの客観的な根拠があったのか
 渡辺竜王への非難は、「何ら疑うべき根拠がないのに、三浦九段がカンニングしたと問題提起した」という点にある。従って、三浦九段が本当に黒だったかは別にして、「疑う根拠」があったことを示せれば、渡辺竜王に対する「弁護」はできるものと考えた。

 

 それは誤りだ。
 根本的に誤解している。


 

 第三に、大山滋郎弁護士はあくまで疑惑の根拠の存在、疑惑をもった多数の棋士の存在を主張する。一方では、次のとおり述べながら。
 

 

(2)  第三者委員会での「白」判定
 ところが、三浦九段の不正問題を検討するために、3人の弁護士で組織された第三者委員会は、三浦九段の不正を根拠付ける証拠は認められないとの結論を下した。
 本件に対して、何ら利害関係を持たない、学識・経験豊富な委員会の判断は、受け入れざるを得ない。

 

 こう書きながら、大山滋郎弁護士はまず、「3.三浦九段への疑惑の根拠」では次のように書き進める。
 

 

…カンニングを疑われたときの三浦九段が、非常に強かったということもあり、席を離れてカンニングをしているのではと疑われたのである。
…「技巧」の示す指し手と、三浦九段が指した現実の指し手が一致する率が高いとの印象が持たれた。そのため、一定数の棋士が三浦九段の指し手に違和感を覚えたようである。渡辺竜王も、そのような違和感を覚えた一人である。

 

 主語を曖昧に「疑われた」として、次に「一定数の棋士が三浦九段の指し手に違和感を覚えたようである。」とある。
 一定数の棋士は誰か。久保九段、渡辺竜王、千田六段以外にいたのか。
「一定数」というならば、明らかにされたい。

 

 また、「疑われた」との表現が「違和感」と書き換えらえ、次の文章に利用される。
 

 

 この違和感は、渡辺竜王の要請で、名人、竜王、羽生三冠など、現代のトップ棋士が数名がかりで検討したときにも、多くのトップ棋士たちが共有した違和感であった。

 

 これは、昨年10月10日の島先生宅で行われた会合であるが、第三者調査委員会調査報告書概要版では、次のように書かれている。

 

 

 

 参加した棋士の中には、上記のとおり、渡辺棋士と千田棋士がそこまでいうのであれば三浦棋士が不正をしたのではないかという疑念を示す意見、その場で初めて聞いた話でもあり疑わしいものの結論は出せないという意見、疑念を払拭するために三浦棋士本人から話を聞くべきではないかという意見等もあった。 

 

 「現代のトップ棋士が数名がかりで検討した」のではなく、渡辺竜王たちが「確信」していた疑惑(思い込み)を聞かされただけである。
 「違和感」を「多くのトップ棋士たちが共有した」のではなく、渡辺竜王たちがそこまでいうなら、本人に聞いてみればどうか、我々は(クロだと賛同して)結論を出すことはできない、と言われたのだ。

 

 大山滋郎弁護士は更に、「8. トップ棋士にしか見えない「何か」」では、次のように書いている。
 

 

…その「何か」が原因となり、多くのトップ棋士が、三浦九段を怪しいと判断したのではないかと、推理してみたのである。

 

 さっきは、一定数の棋士の違和感だったのを、こんな風に書き換えていいのか。

 

 この根拠なしに、「複数の棋士」というような表現をして、読み手に、多くの棋士が疑っていると思わせるのが、今回の事件で繰り返し使われている手法だろうと筆者は思う。
 

 大山滋郎弁護士は、「多くのトップ棋士、三浦九段を怪しいと判断した」とまで書いている。ならば、ぜひ、多くのトップ棋士の実名を教えてほしいものだ。

 


 第四に、「6.一致率の検討」から「11.離席回数との関係」までの記述は、問題外だろう。
 いまだに、一致率云々、初歩的な数学知識で、三浦九段を疑うのには、呆れざるを得ない。

 弁護士ともあろう方がこのような文章を公表する前には、「統計の専門家などを加えての調査が必要であると信じる」と思った次第だ。

 


 第五に、悪意のある二枚舌だと感じざるを得ない点である。
 「11.離席回数との関係」の末尾に、
 

 

(3)  離席と関連するその他の問題
なお、これは離席とは直接関係ないが、三浦九段の対局ビデオを確認していると、久保戦では、終局間際にセーターを脱ぎながら離席し、戻ってきて、丸めたセーターを押し入れにしまっている。丸山戦第3局でも終局5分前に何かを押し入れにしまう場面が残されている。

 

と書きながら、すぐに、
 

 

12. 終わりに
(1) 改めて本「弁護」の目的
三浦九段を「黒」だと言い立てることではない。第三者委員会とことさら事を構える意思もない。

 

と書く。


 これは一体、どういう主張をされたいということだろうか。

 

 いまだに、三浦九段がカンニングしたことは間違いないと言いつつ、第三者調査委員会がシロと認定したので容赦してやるから渡辺竜王にケチをつけるのはもうやめろ、と言っているのだろうか。

 

 

 

 

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