三浦九段の4五桂

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 平成28年10月3日、順位戦で渡辺竜王と三浦九段が対戦した。
 角換わりの局面となり、29手目、先手三浦九段が4五桂と桂を跳ね出した。

 

 桂馬の高飛び、歩の餌食。
 ヘボが指せば、そう言われるような桂跳ねだ。
 しかし、この桂跳ね以後、圧倒的な攻めが続き、三浦九段の会心譜となった。

 

 毎日新聞の観戦記(10月19日)は、「渡辺ショック」というタイトルで次のように書いている。 

渡辺は▲4五桂に少なからずショックを受けた様子だった。
「桂得だからと思っていたが……。▲4五桂が成立すると、これまでの定跡がおかしくなって、後手は作戦の幅が狭まってしまう。しかし現実的に勝ちづらさを主張されてしまうと……。玉形や金銀の形がひどいから、桂得ぐらいでは追いつかないんですね。危機感が足りなかった……」
 渡辺の言葉は歯切れが悪かった。終盤の感想戦は一切なし。形式的に一礼を済ませると、渡辺はぶぜんとして対局室を立ち去った。(上地隆蔵)

 

 そして、この対局がご存知のとおり、渡辺竜王がソフト使用の疑惑を三浦九段にかけるきっかけともなった。

 

 実は、角換わりでの4五桂跳ね出しは、三浦九段は4年前にも指していた。

 

 2012年7月15日大和証券杯・ネット将棋最強戦、郷田真隆棋王vs三浦弘行八段(当時)。
 解説が高橋道雄九段で、29手目(平成28年10月3日の順位戦とは少し違った局面だが)三浦九段が4五桂と跳ね出した場面から、解説コメントは次のように付されている。

 

 これは、非常に積極的な手で出ましたね。もしかすると、三浦さんの事前の研究があったのかもしれません。この手順はどこかで△4四歩と突かれて、桂損になる可能性があるので、かなり自信がないと決行できない攻め手順です。

 

(三浦八段が飛車先交換した局面で)
 先手陣は比較的、飛車を渡しても強い形ですのでこの状態なら飛車を切って攻めてもいけるという三浦さんの研究でしょう。これはしかし、郷田さんとしても意表をつかれたのではないかと思われます。

 

 この対局の結果は、三浦九段の黒星となったのだが、感想戦では次のような発言が見られる。

高橋九段「では三浦さん、非常に意欲的な仕掛けでしたが、事前の研究だったのでしょうか?」
三浦八段「研究というよりはある筋だと思っていました。」
高橋九段「郷田さん、29手目▲4五桂の局面は感触はいかがでしたか?」
郷田棋王「はい。成立するかどうか、微妙な局面で1度は指してみたいと思っていました。」

 

高橋九段「郷田さん、どのへんで勝ちを意識されましたか?」
郷田棋王「ずっと苦しいと思っていたので、本当に最後の局面です。」
高橋九段「では、勝った郷田さんからこの一局全体の感想をお願いします。」
郷田棋王「難しい将棋でした。もう少し後手にも工夫の余地があるように感じました。」
高橋九段「ありがとうございました。続きまして、三浦さんお願いします。」
三浦八段「 確かに難しい将棋でした。終盤何かあったかは精査しないとわかりませんね。」

 

 近年の、コンピュータソフトを使っての研究の中で、三浦九段がこの4五桂を研究しなかったはずはないだろう。

 

 4五桂は、後手の3三銀に当っており、後手は次に、銀を2二に引くか、4二に引くか、4四に出るか、の3択。
 当然、その3つの対応について、三浦九段はコンピュータソフト(GPS将棋?)でも検討し、自分自身の読みも深めていただろう。

 後手が2二銀と引く展開を見ていくと、筆者の導入しているコンピュータソフト(Apery、技巧)でも、七筋を攻める読み筋が出てくる。妙手8五桂も出てくる。研究の際に、先に三浦九段が見つけたか、ソフトが見つけたはわからないが、一度この攻め筋を経験していれば、対局場で思い浮かぶのは当り前だ。

 

 このように見てみると、平成28年10月3日の順位戦は、渡辺竜王が三浦九段の研究に完敗したものと考えるのが最も自然だと思う。

 

 

 

 

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