黄昏はいつも優しくて3 ~第140話~
もう感情論や恋人云々のレベルではすまされない。この縁談話はすでに当人たちの手をはなれてしまっている。そんな確信があった。しかも、これは単なる政略的意味合いをもつ婚約ではない。当事者である雪乃が篠塚に恋情を抱いているのだ。両者がそろって反対するのならまだしも男である篠塚ひとりが理由もなく拒んだところで、どれほどの説得力があるというのだ。雪乃は瞬からみても魅力的な女性だ。そして間宮家という絶対的な後ろ盾。破談などありえない。誰もがそう考えるだろう。
まるで縁(えにし)という名の巨大な蜘蛛の巣をおもわせる。もがけばもがくほど糸は複雑にからみつき、気がつくと身動きがとれなくなっている。篠塚はすでに半身を投じてしまっているのかもしれない。間宮の、こと篠塚と雪乃の婚儀にかける意気込みは生半可なものではない。
傍観者を余儀なくされているとはいえ、いや、だからこそ、瞬には間宮の言葉から伝わってくる強い意思が感じとれる。単なる結婚話ではない。間宮にとって今回の縁談は、孫である雪乃と恩師の孫である篠塚の将来を磐石のものとするための最良の手段であるのだ。老いた自分にできる亡くなった恩師への最後の奉公とでも考えているのかもしれない。
「……考えてみる」
キーボードを打つ手がとまってしまった。
篠塚がすばやく視線を投げてくる。同時に腕時計をのぞきこんだ重樹が「おっと、いけない」と、声をあげた。
幸い重樹は気がつかなかったようだ。焦ったようにドアへとむかい、つと足をとめた。
「間宮会長、昨日のスピーチでもぼやいたんだって?」
「ああ。先がみじかいから焦っているんだろう」
「年寄りをあまり焦らすなよ」
重樹が冷やかすようにいって姿をけす。
篠塚は自分のデスクにもどると、しばらくの間なにをするでもなく頬杖をついていた。この沈黙の意味はなんなのだろう。なぜ何もいわないのだ。
どうして……。
それは篠塚へむけたものではない。瞬が自身にむけて放った問いだった。なぜ自分は、この状況になっても沈黙していられるのだと。
ぼくは、いったい篠塚さんの何なんだ……。
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