黄昏はいつも優しくて3 ~第38話~ | 活字遊戯 ~BL/黄昏シリーズ~

黄昏はいつも優しくて3 ~第38話~

「これっぽっちも、女の匂いがしないのよね」
「それとこれとは別の話だろう。とにかく、これ以上、俺を巻きこむな」
「あっそう。別れた女なんてどうでもいいってわけ。以前なら誰にだって優しかったのに。もういいわ。雅人には頼まない」
 貴子が目に涙をにじませている。篠塚が口をつぼませ瞬をみてきた。
 なんなのだ、そのアクションは。気づかぬふりをしてデスクにもどる。貴子が帰ろうと踵をかえしたとき、篠塚が「今夜だけだぞ」といった。
 貴子が顔をほころばせうなずく。頭をかかえたくなった。どこまで人がいいのだ。篠塚は女の涙に弱すぎる。このままでは篠塚のいうとおり、ストーカー騒動がおさまるまで一緒に暮らすことなどできないではないか。
 いつだって、そうだ……。
 悔しかった。結局、いつまでたっても瞬は篠塚の「特別」にはなれない。そんな気がした。


 仕事後、篠塚のマンションの駐車場で車をおりた。
「ぼくはこれで失礼します」
「おまえも泊まれよ」
「結構です」
「怒っているのか。仕方ないだろう。事が事だ」
 なにが仕方がないのか理解できない。だいたい、この展開に怒らない恋人がいるだろうか。結婚生活に冷めきってしまった熟年夫婦と一緒にしてもらっては困る。いったい篠塚はどんな関係を瞬に望んでいるのだ。
「瞬」
「帰ります」
「珈琲だけでも」
「失礼します」
 軽く頭をさげ出口へとむかう。篠塚は追ってこなかった。

 昔の恋人の危機を見て見ぬふりができない。それが篠塚の美学だというのなら瞬にしたっておなじだ。小姑(こじゅうと)よろしく二人の行動をうかがい夜を明かすなど瞬の柄ではない。
 どうせ、なにをいっても聞いてくれないんだ……。
 危険なのは貴子だけではない。篠塚にしても安全だとはいえない。あの百合の花が送られてきた時点で篠塚は渦中の人となってしまった。もし篠塚の身になにかがあったとしたら瞬は貴子を一生恨むことになるだろう。そんな展開にだけはなって欲しくなかった。
 篠塚は今夜だけだといったが決してそうはならない。騒動が一段落するまで篠塚は貴子から目がはなせない。そんな予感があった。
 瞬が女性であったのなら篠塚の態度もかわっていたのだろうか。男だから。同性だから。篠塚にとって瞬は恋人であるまえに秘書であり同じ道場の門人であるのかもしれない。だとしたら、あまりにも虚しい。
 家路をいそぎながら、ふと背後をふりかえる。人影はない。一息つき歩きだす。北沢がいい医者を知っているといっていた。紹介してもらおうか。篠塚は嫌がるだろうが、一生、マケインの影に怯えて暮らすなど耐えられない。それにしてもマケインはどうして、この地に戻ってきたのだ。あの事件のことは篠塚と瞬しかしらない。マケインにしてみれば好都合だろう。公になっていない以上、道場に戻ることもできるわけだ。そう考えて身の毛がよだった。
 冗談じゃない……。



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