2010年06月14日

黄昏はいつも優しくて3 ~第35話~

テーマ:黄昏はいつも優しくて3

 思考がもどってきた。
 一緒に暮らす……?
 一軒家なら。いや一軒家にしても秘書と暮らすというのはどうだろう。財閥ならば執事が同居するという話をきいたことがある。そもそも篠塚はマンション暮らしだ。実家である渋谷の屋敷ならともかく、ここで同居となると社内で噂がたった場合、誤魔化すことさえ難儀だ。勝彦など、ここぞとばかりに悪評を流すだろう。
「でも。社内に知れたら」
「問題ない」
「しかし」
「いいからこい」
 明確な意思表示だった。こと瞬との関係において、篠塚がこれほど自分の意思を押し通したことがあっただろうか。
 勢いに気おされ「はい」と、返事をする。にわかに嬉しさがこみあげてきた。胸が熱くなる。すがりつくようにして篠塚を抱きしめる。篠塚が抱きしめかえしてきた。


「夕食は家でとるのか」
 篠塚がシャツをはおりながら問いかけてきた。瞬はすでに着替え終わりカウンターにいて珈琲を淹れていた。
「ぼくは、どっちでも」
「なら食いにいこう」
 時刻は八時になろうとしていた。
 先刻から雨が降りはじめていた。大粒の雨がバルコニーを濡らしている。滲んだ街が風になびくカーテンのすきまからのぞく。春冷えのする夜だった。
「ご両親には、俺から話す」
「え」
 篠塚のことだ、菓子折りをもって「ご子息を預からせてください」などと言いだしかねない。それではまるで嫁入りではないか。瞬としては、さりげなく話をすすめたい。篠塚がでると大事(おおごと)になるのは目に見えていた。
「ぼくが話しますから」
「どう話すんだ」
「仕事の都合上、一緒に住むって」
「ご両親はそれで納得するのか」
「はい」
「おまえがそうしたいのなら、それでいい」
 胸を撫で下ろしカップに珈琲を注ぐ。篠塚がさぐるように瞬をみてきた。
「おまえはいいのか」
 いいに決まっているではないか。湯気のたつカップを篠塚にわたし「はい」と、だけ答える。貴子だったら抱きついて「嬉しい」とでも言うのだろう。素直になれない自分が嫌になる。だが、篠塚は「そうか」といって、口元に笑みをうかべた。


 駅の近くで食事をとることになった。部屋をでてエントランスへとおりる。郵便受けのまえを通り過ぎようとして篠塚が足をとめた。
 郵便受けのところまでいきダイヤルをまわす。扉をあけ、篠塚がなかから一本の百合をとりだしてきた。大輪のカサブランカだ。
 郵便受けに百合の花。妙な気がした。近寄ってのぞきこむ。花の茎に結び紙があった。
 篠塚が丁寧にほどき紙をひらく。
「貴子のやつ……」
 貴子からなのだろうか。篠塚の手元にある紙をみて息をのむ。そこには紅い文字で一言だけかかれてあった。
 死……。
「まんまと巻き込まれたな」
 片頬笑いで篠塚がつぶやいた。



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