kiss scene66 | 活字遊戯 ~BL/黄昏シリーズ~

kiss scene66

「はい」
「誰が決定したんだ」
「会長、副社長をのぞく役員会のメンバーには、すでに承認済みです」
「……聞いていない」
「ですから、いまお話しています」
「本人の意志は関係ないのか」
「お嫌ですか」
「務まるわけがないだろう。俺はこれまで兄貴の雑用しかしていない」
「はい。礼状の宛名書き、スケジュール管理はすべてあなたがしていました。主要な会議や会合、パーティーにいたるまで良造さんがあなたを同伴しなかったことはない。取引先企業と重役、そして交流団体と担当者。どれほどの頻度で誰と会い、どのような話し合いがなされていたか、あなたの頭の中にはすべて入っているはずです」
「しかし、それと実務とは」
「同じです。いいですか、京介さん。あなたは社長職に就くために貝原工業に入社したんです」
「………」
 榛名は興奮した面持ちで二人の会話に聞き入っていた。京介は良造の雑務ばかりやらされていたと愚痴をこぼしていたが、その雑務こそが社長職そのものであったに違いない。良造は長い年月をかけ後継者を育ててきたわけだ。京介は決して孤独などではない。胸がつまった。ただ無性に嬉しかった。

 京介は戸惑いをかくせないでいる。自分が社長職に就くなど想像すらしていなかったのだろう。
「……事が露見すれば貝原工業は企業としての信用を失墜する。事業も立ちゆかなくなる」
「そのために我々は動いているんです」
 危険を冒してまで自力で内偵をする理由がここにあったのだ。被害者の遺族はわからないが、すくなくとも斉藤と良造は貝原工業の存続をかけて動いている。斉藤が京介をして切り札といった意味がようやく理解できた。貝原工業は同族会社だ。株主会、役員会には一族が名を連ねている。京介は会長の息子であり社長の弟だ。実務に支障がないのであれば、役員会としても社長の娘婿である孝之に社長職をゆだねるよりは京介を推したいところだろう。
「ぼくは社長秘書になれますか」
 榛名が頬を紅潮させ、おもわず口走る。斉藤と京介が虚をつかれたさまで榛名をみてきた。斉藤が失笑すると、つづいて京介が吹きだした。どうやら不適切な発言をしてしまったらしい。榛名はばつの悪さに、すいと肩をつぼめた。



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