2009年10月13日

second scene38

テーマ:黄昏はいつも優しくて2

 北沢の言葉を無視してミネラルウォーターを口のなかに流しこむ。咽喉をとおる冷たさに、ようやく人心地ついた。
「昨夜はずいぶん酔ってしまったみたいだけど」
「お世話をかけてすみませんでした」
「おぼえているのかな」
「なにをですか」
 北沢がおおきくのびをした。焦らされているようで癪にさわる。昨夜のことを憶えていないのが何としても痛かった。
「篠塚先生の名前を呼んでいたでしょう」
 ペットボトルを持つ手に力がはいった。記憶はいっこうに戻らない。瞬は「さあ……」と、とぼけた返事をしてミネラルウォーターを口にふくんだ。
「ぼくに抱きついて……」
「え」
 北沢が優雅なしぐさで向き直ってきた。北沢の態度をみるにつけ強烈なラブシーンを演じたわけではなさそうだ。おそらく、すがりついた程度のことだろう。
「技をかけている夢でも見たんだとおもいます」
 言って、瞬はバルコニーへとでた。これ以上、詮索されるのはごめんだった。
 手すりに両肘つき、たちこめる静粛の気に肌をさらす。身も心もひきしめられ雑多な想いが遠退いていく気がした。
 瞬は都会が好きだった。都会には人間らしい孤独がある。誰もがいくばくかの孤独と不安をかかえ生きている。自分だけではないのだとおもうと心が癒される。だが、この悠然とした自然の中で感じる孤独は救われない。脈々とつづく山の峰のように果てない孤独が心を満たしてくる。
「熱はひいたか」
 篠塚がバルコニーにでてきた。凍てつくような冷気に身震いして肩をすぼめる。
「はい」
「連中、今日は観光に出かけるらしい。どうする」
「え?」
 篠塚が並ぶようにして手すりに両肘をあずけた。ちらと部屋にいる北沢をふりかえり「行きたくないのなら適当に断るが」と、言った。
「断るって……」
「二人でいたい」
 とたんに顔がゆるみそうになる。瞬は「いいですけど」とつぶやき、かろうじて無表情をよそおった。



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