フリージアvol.22 最終回
テーマ:小説:フリージア私の中で確かなものを感じる。
克弘に頼るのでも、津崎に求めるのでもない、強い光のようなものを。
そして私はその光を解き放さないではいられない。
私の中から外へ向かって。新しい命へ向かって。
雨はいつの間にかやんでいた。
空が少しずつ、少しずつ、白くなりだしていた。
朝が来る。
私の目はゆっくりとまわりを見渡すことができた。
あたり一面、真っ白な霧に覆われていた。
私はどうやら丘の中腹にいるようだった。
丘の向こうには海があるのだろう。波の音があたり一帯を静寂へと導いていた。
私はずっと孤独だった。
私は今まで、ずっと受け入れることしかしてこなかった。
その人のすべてを受け入れるだけということは、結局のところ、自分で自分の存在を消してしまう作業にほかならなかった。
私は自分の存在を消すことで、人を愛する行為を怠ってきた。
そんな孤独は孤独ですらない。
愛することは、深く傷つき、ときには血も流す。
私はそこからひたすら逃げていた。
自分から飛び込み、傷つくことを恐れるあまり、私は愛そのものさえもわからなくなっていた。
愛されることさえ見えなくなっていた。
その歪みだったのだ。
私のからだが、いつもそんな私に悲鳴をあげていたのだった。
私は愛さなければならない。
たぶんこれからも孤独を感じていくことにそう変わりはないのかもしれない。
でも孤独でいることの意味を私が変えなければならない。
私はやっと、私のからだの奥底に押しつぶしてきた光を感じとることができたのだから。
私は逃げずに存在しながら傷つき、それでも愛することをやめないで孤独でいようと思う。
何かが変わり始めている。
私の中で確実に変わり始めているのがわかる。
私は目を凝らした。
丘は一面、白いフリージアで覆われていた。
丘の向こうにあるであろう海岸線まで、どこまでもフリージアが咲いている。
花はみな、朝日を待っていた。
今までの闇に耐え、霧をかきわけるように、白々と明るくなり始めている東の空へ向かって、
一斉に花を咲かせていた。
一本一本のフリージアが、たったひとりで大地に静かに根をはり、風に逆らうことなく、力強く咲いていた。
誰に頼ることもなくすべてを受け入れ、そして、すべてを包みこむ美しい香りを、見返りのない愛を注いでいた。
私もこうありたい。
この丘に咲くフリージアのようでありたい。
私は空を見上げた。
闇は完全に終わりを告げようとしていた。
風を体中に浴びて、これから昇ってくるであろう陽の光を強く感じた。
そして空へ向かって大きく背伸びをするように、私は立ち上がった。
と、そのとき、太陽の光がひとつの線となって一瞬にして丘一面を走りぬけた。
私は眩しくて目をあけていられなかった。
あまりにも激しく、熱く、痛いくらいに光が私の中を突き抜けていく。
まるで己の意志でもって私を貫いているかのように。
私のからだの中で芽生えていた光がこの陽の光と衝突して、からだの外へはじき飛ばされるように閃光した。
アツイ――――――――――――――!
私のからだが引き裂かれていく。
ヒキサカレテイク
私はなにが起こったのか、再び真っ暗な闇の中へ投げ出されたみたいで、
痛みも、私のからだの存在も、自分のいる場所もなにもかもわからなくなっていた。
ただ私はとてもおだやかで静かな気分だった。
それと同時に、何もない、何も見えない闇が私の存在そのものを呑み込むように、
重たく私の中へと入りこんでくるのを感じた。
でも、もう私は大丈夫だ。
私は何も恐れてはいない。
私はこのままゆっくりと、静かに、闇を切り裂くように、大きく目を開けよう。
そしてこの新しい朝に、
この新しい命に、
私も光を降り注ぐのだ。
そして、私も再び生まれる。
そう、この太陽の光とともに。
<完>






