リーン、リーン、リーン、リーン、
すっかり放置され埃をかぶっていた部屋の電話は
久しぶりの忙しさにうれしそうに音をまき散らす。
もう、うるさいなあ、あなたの存在を忘れたわけじゃないの
携帯でほとんど用事は済んじゃってたから仕方のないことでしょ?
私は受話器を上げ「もしもし」と言ってみる
・・・・・・・・ガチャッ
まただ。
昨日から執拗に沈黙を投げかけてくるひとがいる。
電話の背後には重たい静寂がべったりとはりついている。
いたずらにしては暇をもてあましすぎてはいませんか?
なにが楽しくてそんなことをするのですか?
さびしいからですか?
リーン、リーン、リーン、リーン、
“ただ今留守にしております。メッセージをどうぞ”
・・・・・・・・・・・・・・ガチャッ
もう勘弁してくださいな。
私がうろたえたり怒ったりするとでも思っているのですか?
私とわかっててかけてくるのですか?
私に恨みでもあるのですか?
リーン、リーン、リーン、リーン、
「もしもし」
・・・・・・・・・・・・・・ガチャッ
あなたはいったいなにがしたいのですか?
なんの恨みがあるというのですか?
私にどうしてほしいのですか?
リーン、リーン、リーン、リーン、
けたたましい呼び出し音の中で
つい不安に襲われる。
もしかして・・・・
どこでどうばれたのか。
あの女か。
あの男か。
どこでどう動けばいいのか。
逃げ場はないのか。
私はとっさに頭を働かせる。
イケナイイケナイ、
アイテノオモウツボ
沈黙の中で
私はひとを裏切り、傷つけていることに溺れそうになる
ひとに恨まれてもおかしくはない自分を思い知らされる。
そんな私をあざ笑うかのように
また、電話が鳴る。
リーン、リーン、リーン、リーン、
受話器を取れば私の部屋にも静寂がくるのだ
私は思わずすがりつくように受話器をとる。
あなたは受話器越しにその痛みを押し付けようとしているのですか?
私だって好きで過ちを犯しているわけじゃない。
私だってこの苦しみを押し付けてしまいたいのは一緒なのだ。
このままじゃ相手の沈黙に飲み込まれてしまう。
私はこの沈黙に耐え切れず、この沈黙をぶち壊したくなる。
もうやめて。
リーン、リーン、リーン、リーン、
ねえ出て、お願い。
この沈黙から助け出して。
私はあなたの声が聞きたいの。
リーン、リーン、リーン、リーン、
“この電話は電波の届かないところか電源を切っている可能性があります”
そんなあ、こういうときに限って繋がらないんだから。
リーン、リーン、リーン、リーン、
“この電話は現在使われてはおりません”
あれ、おかしいよ、そんなことないはず。
リーン、リーン、リーン、リーン、
“この電話は現在使われてはおりません”
あれ、あなたはいったいどこへ行っちゃったの?
私はいったいどうすればあなたと話ができるの?
リーン、リーン、リーン、リーン、
ねえ、お願い、あなたを出して。
このままじゃ、なにもわからない。
どうして何も言ってはくれないの?
私はどこへ電話をすればいいの?
ねえ、私を忘れてしまったなんて言わないで。
私はあなたの声が聞きたいだけなのに。
どうして何も答えてはくれないの?
リーン、リーン、リーン、リーン、
リーン、リーン、リーン、リーン・・・・・・・