乙女失格ー恋は面倒くさい♯3ー
乙女失格ー恋は面倒くさい♯3ー
2週間程前から、仁美は仕事帰りに近所にあるカフェに寄ることを日課のようにしていた。
そこは、ちょうど駅から自宅までの通り道から一本奥まったところにあった。その店に気づいたのは、たまたま立ち寄ったスーパーから近道をして帰ろうと思ったからに過ぎない。
午後7時過ぎ、その日も仁美はくたくただった。
いつもなら帰路を急ぐのに、その日はそれよりもどこかで休憩したい、という気持ちが先走った。
駅前にはチェーン店の珈琲ショップはいくつもあった。けれど、そこではちっともくつろげない。どこか感じのいいカフェはないか、と探していた矢先に出合ったのが、その店だった。
重たそうな焦げ茶色の木製のドアを開けると、カウンターにいたマスターが笑顔で迎えてくれた。
マスターと言っても、まだ若い。おそらく仁美と同世代に見えた。
「ここ、何時までですか?」
「だいじょうぶですよ、8時までやってますから」
メニューのなかからキリマンジャロをオーダーすると、仁美はテーブルに突っ伏した。
「あぁぁぁぁづがれだーーーー」
声にならない声を全身があげていた。
その要因が何かは、わかっている。
けれど仕事の愚痴を誰かに話してスッキリするという習慣を持ち合わせていない仁美は、全身でそれを受け止め、それに我慢ができなくなると、時々こうして仕事帰りに現実逃避をしたくなるのが常だった。
テーブルに置かれたカップを手に、一口珈琲を含む。
途端に、仁美の身体から悪い気がどんどん流されて行くような気がした。
毎日のように通うようになって、少しずつ仁美はマスターと話をするようになった。席もテーブル席からマスターのすぐ側、カウンター席へと変わった。
「今日もお疲れのようですね」
そんな誘い水に、仁美はついつい仕事であった理不尽なあれこれをこぼすようになった。何を愚痴っても、マスターはいつも同じような笑みを浮かべ、静かにうなずいてくれた。
それが仁美には心地良くて、気がつけば同僚との飲み会やごはん会も断り、ここへ通うことが日課になっていたのだった。
つづく
加藤ミント
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2週間程前から、仁美は仕事帰りに近所にあるカフェに寄ることを日課のようにしていた。
そこは、ちょうど駅から自宅までの通り道から一本奥まったところにあった。その店に気づいたのは、たまたま立ち寄ったスーパーから近道をして帰ろうと思ったからに過ぎない。
午後7時過ぎ、その日も仁美はくたくただった。
いつもなら帰路を急ぐのに、その日はそれよりもどこかで休憩したい、という気持ちが先走った。
駅前にはチェーン店の珈琲ショップはいくつもあった。けれど、そこではちっともくつろげない。どこか感じのいいカフェはないか、と探していた矢先に出合ったのが、その店だった。
重たそうな焦げ茶色の木製のドアを開けると、カウンターにいたマスターが笑顔で迎えてくれた。
マスターと言っても、まだ若い。おそらく仁美と同世代に見えた。
「ここ、何時までですか?」
「だいじょうぶですよ、8時までやってますから」
メニューのなかからキリマンジャロをオーダーすると、仁美はテーブルに突っ伏した。
「あぁぁぁぁづがれだーーーー」
声にならない声を全身があげていた。
その要因が何かは、わかっている。
けれど仕事の愚痴を誰かに話してスッキリするという習慣を持ち合わせていない仁美は、全身でそれを受け止め、それに我慢ができなくなると、時々こうして仕事帰りに現実逃避をしたくなるのが常だった。
テーブルに置かれたカップを手に、一口珈琲を含む。
途端に、仁美の身体から悪い気がどんどん流されて行くような気がした。
毎日のように通うようになって、少しずつ仁美はマスターと話をするようになった。席もテーブル席からマスターのすぐ側、カウンター席へと変わった。
「今日もお疲れのようですね」
そんな誘い水に、仁美はついつい仕事であった理不尽なあれこれをこぼすようになった。何を愚痴っても、マスターはいつも同じような笑みを浮かべ、静かにうなずいてくれた。
それが仁美には心地良くて、気がつけば同僚との飲み会やごはん会も断り、ここへ通うことが日課になっていたのだった。
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