鳥取の養護学校での看護師全員辞職の問題を考える | 岐路に立つ日本を考える

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 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
 日本の抱えている問題について自分なりの見解を表明しながら、この思いを広げていきたいと思っています。


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 鳥取の養護学校で6人の看護師全員が一斉に退職した事件は、非常に衝撃的なものがありました。この件については一部の保護者の極めて威圧的な態度に看護師がついていけなくなったためだと受け取られているように思いますが、その視点で見るのは表層的なものではないかと感じています。

 実は私の息子は重度の自閉症で、年齢では中学生ということになりますが、言葉を発して意思表示することが今なおできません。そのため、特別支援学校(養護学校)にずっと通っています。特別支援学校には実に様々な症例を持った子供たちが集まっており、暴力的な衝動を持っている子供たちも少なくありません。つまり、先生方の目が行き届いていない時に衝動的な暴力を振るってしまう子供もいるわけです。

 今回問題となった鳥取の養護学校ほどではないでしょうが、私の息子の通う特別支援学校においても恒常的な人手不足となっています。うちの息子も先生方の目が行き届かない時に、顔面に3針縫うような大怪我をして帰ってきたことがありました。恐らく特別支援学校に通う生徒たちであれば、こうした経験は皆あることではないかなと思います。

 こうした人手不足の原因は、単純に予算上の問題です。先生方にせよ看護師さんたちにせよ、十分な人数を確保することが予算制約でできなくなっており、しかも近年はその制約がさらに厳しくなってきています。そのため、例えば運動会における出し物についても、様々な出し物について練習させることができなくなっており、以前と比べると出し物の数がかなり減りました。ハンディを背負った子供たちに多様な訓練を施すことができなくなってきている実情が、この点にもよく表れているのではないかと思います。

 鳥取の場合には、本来8人の看護師が必要とされているところに6人しかおらず、そしてこの6人が全員非正規雇用であり、実質的には5名体制であったことが明らかになっています。なぜ全員を非常勤に頼り、人数も充足できていないのかといえば、そこには間違いなく厳しい予算制約が課せられていたからでしょう。8人分の仕事を5人で行わなければならないとすれば、無理が生じるのはやむをえないところですが、その結果としてケアに落ち度が発生することは必然的に高くならざるをえません。

 今回の経緯を見てみますと、保護者、看護師、教師を交えた話し合いは何度かなされながらも、このまま働き続けるのは無理だという結論に看護士全員が至ったのが実際だということがわかります。その根っこには、もともと人間らしく働ける職場としては無理が大きすぎたということがあるように思います。

 保護者の威圧的な態度に耐えられなくなったというのはもちろん直接の原因でしょうし、その保護者の態度に大いに問題があったであろうことは間違いないでしょう。同じメッセージを相手に伝えるにせよ、言い方によって心証は随分と違うわけで、そういうことが理解できない親がいたことに悲劇の直接的な原因があるのは言うまでもないことだとも思います。

 しかしながら、全ての人間にそのような高度なコミュニケーション能力を求めることもできないでしょうし、ケアの仕方によって我が子の生命に危機が生まれる可能性もあるという場合に置かれては、感情が先走るような言動になることにも、ある程度の理解は必要ではないかとも思います。

 そして何よりも、引き金を引いた原因が保護者の対応だとしても、根本原因は厳しい予算制約にこそあるという点を見失うべきではないでしょう。学校側の配慮がなかったことが理由の一端として取り上げられていますが、予算がない中でやりくりさせるしかない学校としては、できることには限りがあったことは認めなければならないでしょう。

 世界で外国に最もお金を貸している日本という国において、なぜ予算制約という馬鹿げたことを考えているのかという点について、突っ込んだ議論をしていくべきではないかと思います。


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