「チルソクの夏」
- 角川エンタテインメント
- チルソクの夏 特別版
特集【日本映画を語ろう!】
【プレイバック2004】第四弾は「半落ち」で注目されて以来、
今年も「四日間の奇蹟」「カーテンコール」と新作が次々に公開された
佐々部清監督による2004年の劇場公開作品「チルソクの夏」。
東京では非常にひっそりと小規模で公開されてましたが、
作品の出来を考えれば、もっと多くの人に公開当時は見てほしかった作品でしたね。
もっとも私自身も劇場公開当時は見損ねていたんですけどね…
2004年劇場公開作品
監督:佐々部清
出演:水谷妃里、上野樹里、桂亜沙美、三村恭代、淳評、他
1977年夏。
下関と韓国・釜山は親善事業として関釜陸上競技大会を毎年交互に開催していた。
長府高校の陸上部員・郁子(水谷妃里)は、この年、
下関側選手の一人として釜山での大会に出場する。
そこで、同じ高跳び競技に出ていた釜山の高校生・安大豪(淳評)と出会う。
帰国前夜、安は戒厳令中にもかかわらず、郁子の宿舎まで会いに来てくれた。
郁子はそんな安に淡い恋心を抱き、“来年のチルソク(七夕)に再会しよう”と約束を交わす。
しかしこの時代、日韓にまたがる恋は前途多難。
それでも郁子の初恋をなんとか実らせようと親友たち(上野樹里、桂亜沙美、三村恭代)も
懸命に後押しするのだったが…。
現在日本では相変わらず“韓流ブーム”が続いている。
さすがにかつて程の勢いはなくなったものの、
それでも韓流スターの来日には老いも若きも女性たちが多数詰め掛け、
現在でもかなりの盛りあがりを見せている。
しかし、このブームでついつい忘れがちな事…。
つい最近まで日本と韓国の間には修正しようにも埋まらない深い溝があったという事を。
確かに日本での“韓流ブーム”、そして韓国でも“日本ブーム”が同時的に起きて
両国の文化交流は一気に解禁となり、一見この“溝”は解消されたかのように見えるが、
しかし長い事修正できずにいたこの“溝”が昨今のブームで容易に埋め合わされたとは到底考えにくい。
長い事“溝”があった事を両国は深く受けとめながら、
一時のブームで終わらさずに長い時間をかけて交流を続けてこそ
始めてこの“溝”は解消されるのではないだろうか。
その証拠に某首相の某神社参拝によって韓国ではアッという間に反日感情が噴出したではないか。
“日本ブーム”で文化交流が解禁になった国が、
この騒動で急に「反日!」と手のひら返しをしてしまうのだから
やはり両国の“溝”は埋まっているとは思えません。
“溝”は深く長いものなのです。
前振りが長くなりました。
この佐々部清監督の「チルソクの夏」は、日本の女子高生と韓国の男子高校生の恋という
一見昨今の“韓流ブーム”に便乗したような内容に見えますが、
その作品から送られるメッセージは全く対極なもの。
「日本よ一時のブームでつい最近までの韓国との関係の事を忘れるなよ」という
問題提起を静かに深く見る者に訴えかけます。
日本ではつい最近まで韓国は“差別”の対象であった事を。
またあちらの韓国でも日本は“恨”の対象であった事を。
しかしこの作品はその問題提示を決して声高には叫びません。
前述の通り日本の女子高生と韓国の男子高校生の恋という甘く切ない世界を通して
しかし彼らが容易に交際が出来ない背景として、
この“差別”と“恨”が両国には根深く残っている事を浮き彫りにしていくのです。
日本と韓国の関係など何も知らない、そして気付かなかった両者だからこそ、
両国に実は根深い“溝”が存在していた事を
見る者は彼らと同じくらいの衝撃をもって改めて気付かされる訳であります。
しかも彼らの交際のきっかけが、親善事業としての関釜陸上競技大会でありながら
親善事業はOKでも個々の交際は御法度というのは何とも皮肉なものでありますし、
当時の親善事業をいかに両国が政治的に利用していたかという
当時のピリピリした状況すらも見えてきてしまうのであります。
とまぁ、この「チルソクの夏」は深い問題提起を行っている作品ではありますが、
作品自体は非常にピュアな精神に貫かれた作品であります。
郁子(水谷妃里)と安(淳評)が来年のチルソク(七夕)で再会を約束するシーンなど
高い壁の上下での告白は、まるで「ロミオとジュリエット」ばりのシーン展開でしたし、
作品の重要なアイテムとなる歌が、懐かしやイルカの「なごり雪」なのですから
考えてみればちょっと気恥ずかしくなってくるアイテムがこの作品には次々と登場してきます。
しかしこの気恥ずかしいアイテムも佐々部清のピュアな精神に貫かれた演出を通して、
全くイヤ味のないものに実にうまく変換させているのが見事だと思いました。
ラストで26年後の郁子(高樹澪)が安と奇跡的に再会できたのか?
というところをはっきりさせず潔くスパッと作品を終わらせたというのも
ベタついたところがない、このピュアな精神に貫かれたこの作品らしい終わり方だなと、
非常に好感を持って見終える事ができましたね。
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