「TAKESHIS'」
【劇場公開作品より】
11/19 丸の内プラゼール にて
監督・脚本・編集:北野武
出演:ビートたけし、京野ことみ、岸本加世子、大杉漣、寺島進、美輪明宏、他
北野武の映画の根底にあるのは【笑い】であります。
その【笑い】へのアプローチの仕方は、
ストレートに観客を笑わせようとする場合もあれば、
格好良くクールに決めた後の照れ隠しのように観客を笑わす場合など様々ですが、
11本の監督作品には常に【笑い】の要素が脈々と流れているのであります。
だから本来であるならば「みんな~やってるか!」(1995)のような作品こそ
北野武が描きたい題材なのであって
もっともっと作品内で【笑い】の要素を盛り込みたいと思っているに違いありません。
ではなぜ「みんな~やってるか!」以降、ああいう作品は作らなくなったのか?
「みんな~やってるか!」の完成後に、
ご承知の通り北野武はバイク事故を起こし生死の境をさまよいました。
復帰後「みんな~やってるか!」は公開されましたが、
その評価は低く、興行的にも惨敗した。
だからこの「みんな~やってるか!」は【呪われた作品】だから今後は作らなくなった…
こう書くと、それなりの理由になりそうですが、
どうにもそれだけでは済まされない要素を含んでいるようにも思えます。
ようは「みんな~やってるか!」で北野武は
【笑い】をストレートに描く事の【難しさ】を肌身に感じてしまったのではないだろうか。
自身が漫才出身だから人様からは【笑い】を描く事くらい、
職業にしていたくらいなのだから容易いのではと思われている。
だからこそ失敗は出来ない。
しかし様々な文献を読んでみると「みんな~やってるか!」は製作当時、
北野武自身、相当神経をすり減らして作っていたという。
その神経をすり減らした結果がバイク事故であったとも、その文献では触れている。
しかしここまでやっても「みんな~やってるか!」は失敗した。
もう失敗はできない。
そのプレッシャーが北野武だからこそ誰よりも重くのしかかり
「みんな~やってるか!」のような作品は作らなくなったと思うのです。
それに「HANA-BI」(1997)がベネチア映画祭グランプリに輝いたのも
作らなくなった事への相乗効果となった。
つまり「それほど【笑い】にこだわらなくても世論には“それなり”に評価されるのだ」と。
だから「HANA-BI」以降、北野武の作品は【笑い】の要素を含みつつも、
照れ隠しのように、それ以上の別要素を全面に押し出すようになった
「菊次郎の夏」が【ハートウォーミング】であったり、
「座頭市」が【残酷なアクション】であったり…
しかし、やはり【笑い】は北野武の根底にあるもの。
容易に【笑い】を捨てる事は出来ないし、逆に【未練】は募るばかり。
海外の評価も決定的となり、興行的にも最近は安定してきた。
それではそろそろ「みんな~やってるか!」の続きをやってみようか…
その結果が、前振りを長々と書いてきたが本作「TAKESHIS'」の発表ではないだろうか。
「TAKESHIS'」は、北野武が様々な角度から【笑い】へアプローチをしている作品である。
岸本加代子(怪演!)、大杉漣、寺島進、渡辺哲らに、
今まで自身の作品で演じてきた同じ傾向の役と、
それと同時に180度異なる逆キャラクターを裏のストーリーで演じさせたり、
松村邦洋、内山信二を“デブコンビ”としていたる所に配置、
作品の【ピエロ】的な役回りにさせたり
(そういえば売れない役者“ビートたけし”の最初の登場もピエロだった)
仕舞には美輪明宏氏まで登場させ、
現在の美輪氏に「ヨイトマケの歌」時代の丸山明宏の扮装をさせ、実際に歌わせたり、などなど
ストレート、滑稽、ブラックと、色や形は様々ながら
「TAKESHIS'」は常に画面から【笑い】を観客に投げかけている。
しかし、非情な言い方をすれば、残念ながら「笑えない」のである。
どうにもこの作品で、北野武は【笑い】と真正面から向き合おうとしていないのだ。
「みんな~やってるか!」の失敗が相当に堪えたのか…。
真正面から【笑い】と向き合わないから、
おのずと照れ隠しのように、あえて作品の構成を複雑にして観客を煙に巻くのである。
現実と幻想の世界があやふやになってきて、どれが本当の世界かわからなくなってくるのだ。
そう前述の通り、せっかく【笑い】を取り上げておきながら、
それ以上に【作品構成の複雑さ】という別要素を持出し、
それを全面に押し出してしまっているのである。
これではせっかくの岸本加代子や美輪明宏氏の怪演も、空回りせざるを得なくなってくる。
そして最後には北野武のもう一つのお得意技【ピストルのドンパチ】でTHE END。
なにかこの【ドンパチ】が
「【笑い】を描きたかったんじゃないの?」と私が不満を言おうとしているところを
「うるせー、うるせー、バカヤロウ!」と逆ギレして不満を封印する
北野武氏の姿そのもののようにも見えてしまのは、
うがった観方なのだろうか?
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