「父と暮せば」 | こだわりの館blog版

「父と暮せば」

バンダイビジュアル
父と暮せば 通常版

10/31岩波ホールにて

先週「ナイン・ソウルズ」鑑賞時に
<すっかりおとなしくなった原田芳雄>
などと書いてしまったが、前言をここで撤回します。
少なくとも「父と暮せば」の原田芳雄はこの10年間の
ベストプレイといっても過言ではありません。
いや、この作品で彼は全く新しい方向性をみつけたのですから
今後10年間の彼の代表作にもなる事でしょう。

この作品の原作である井上ひさしの戯曲は10年前
こまつ座で初演され、その初演を私は見ていたのですが、
舞台版の父親役<すまけい>があまりにも適役で、
今回の映画化の件も、父親を演じるのが原田芳雄と聞き
すまけいと原田芳雄がとても同一線上で考る事ができず
正直、あの父親役を原田芳雄があの“アク”で演じられたら
堪らないなと、内心危惧しておりました。

しかし不安は映画を見て一瞬にして吹き飛びました。
いままでの彼の“アク”が出てくるどころか、
全く新しい原田芳雄が画面に登場してきたのですから!
とにかく彼の父親像の造詣は見事でした。
娘を想うやさしさにあふれ、
娘が生きる事に疲れた、と弱音を吐けば
溢れんばかりのユーモアで彼女を勇気付け叱咤激励する
その父親像の器のなんと大きな事!

それでいながら<エプロン劇場>で広島原爆の惨状を口上する
シーンではお得意の“凄み”を効かせて、見るものを圧倒させる。
緩急自在なその演技。
100本近い映画出演作の総決算をするかのような見事さであります。

原田芳雄の名演技に加えて
共演の宮沢りえもこれまた名演技で
(舞台版の娘に映画版は“美しさ”が加わって見事!)
「父と暮せば」映画版は
舞台版と負けじ劣らずの傑作でありました。