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第6編 Battle of Blood

けたたましくドアが叩かれる。
銃を握った父が、わたしを物置に押し込んだ。
外では、怒声と銃声が飛び交う。
何を言っているのか聞き取れない。

銃声と悲鳴。
わたしは、男達に引きずり出された。
死体がひとつ、玄関脇に捨てられている。
頭がないが、父と同じ服を着ていた。

家の前の通りまでひきずり出された。
裸の母がいた。
母は男に犯されていた。
生きているのか死んでいるのかわからない。

服を引き裂かれた。
わたしはその男を知っている。
母を犯している男も知っている。
ここにいるほとんどの男達を知っている。

みんなこの街の男達だ。
わたしは、5人に犯された。
わたしは収容所に入れられたが、母は殺された。
収容所でも犯された。

わたしは妊娠した。
収容所、わたしが通った小学校。
そこに6ヶ月閉じ込められた。
もう堕胎はできない。

ここで何人もが死んだ。
自殺した者、病気で死んだ者。
死体は、ただ穴の中に埋められた。
それだけだ。

死ぬものか。
あんな穴の中はごめんだ。
生きてやる。
生きてこの子を産んでやる。

悪魔の子。
あなたのパパの名前を教えてあげる。
全部で28人。
早く大きくなって、そいつらを殺してちょうだい。

    ( 「わたしは、その顔を忘れない」より)


本作品には、実際の国名・地名が出てきますが、全くのフィクションです。


SCENE 1

ボスニアとクロアチアとの国境。

つい数ヶ月前、ここは、クロアチアからボスニアに脱出するセルビア人で溢れていた。
今は、戦火の収まったクロアチアに出国するクロアチア人たちでいっぱいだ。
ただし、それは観光でも帰郷でもない。
この国を追い出されたのだ。

クロアチアから大量にセルビア人がボスニアに流れ込んだせいで、ボスニアの民族構成比がくずれた。ボスニア・ヘルツェゴビナの連邦からの独立を求めるボシュニャク人に対しボスニアからの分離独立を掲げるセルビア人たち。
セルビア人の民兵組織の専横を止める力が無い。
セルビア民兵のターゲットは、ボシュニャク人にとどまらない。
すでにセルビアと戦火を交えたクロアチア人もまたセルビア人の攻撃対象になってしまった。

民族の浄化
それは、他民族を追い出し、殺すこと。
他民族の女に自分たちの子供を産ませること。

サーニャ・シェシュリヤ
セルビア人の両親は、クロアチアで殺された。
姉は、サーニャの目の前で犯され、殺された。
クロアチア人が憎いわけではない。
ただ、わけもなく殺されるのはまっぴらだ。
戦場の壊れたビルに隠れ住んでいたが、侵攻してきたセルビア人民兵に捕らえられ、そのまま民兵の組織に加わった。
そうするしか方法が無かった。
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SCENE 2

1992年 ボスニア

「どこをやるんだ?」
「そこの角の家だ」
「若い女はいるのか?」
「亭主は若いから、女房もそこそこじゃないのか」

男達の会話を聞きながら、サーニャはこみ上げてくる怒りのやり場に困っていた。
民家を襲うのは、これが2回目だ。
それ以外に方法がなかったとはいえ、民兵に加わったことを激しく後悔していた。
民兵の仕事は、人殺しだ。
罪もない人を殺す。
他民族だというただそれだけの理由で…。

できるだけ残酷に殺す。
できるだけむごく犯す。
家に火をつける。
見せしめだ。
数日後には、その街から彼らは出て行く。

自分もそうされた。
サーニャは、無理矢理そう思ったが、それで正当化できる行為ではない。
罪悪感のかけらもない男達。
サーニャの足取りは重い。
日中だというのに外には一人の人影もない。

こじんまりとした家。
男達は、なんのためらいもなく門を開け中に入っていく。
玄関脇に置かれた三輪車。
サーニャは立ち止まり、動けなくなってしまった。

男が玄関をハンマーで壊す。
ドアがこじ開けられた。
男達の自動小銃の音に混じって、ひときは大きな発射音が2つ。
サーニャが聞いたことのない発射音だ。

「うおぉーっ」
怒声が飛び交った。
自動小銃の音がやんで、男が一人、血だらけの男を担ぎ出した。
大きな発射音はショットガンだったようだ。
担ぎ出された男、来る途中、女はいるかと聞いた男だ。
顔が真っ赤だ。
もう首に力がない。

男たちが、女の両脇を抱えて出てきた。
後ろの男は子供を抱えている。
ショットガンを撃ったのは彼女ではあるまい。
その男は、家の中で、おそらくは元の形がわからないほどになっているに違いない。

庭先に突き飛ばされて女が地面に横たわる。
サーニャの目が女と合った。
いや、女の目はサーニャに向いたが、焦点が合っていない。
すでに自分の運命を悟ったようだ。

男達が女を囲む。
はやくも一人がズボンのベルトをはずし始めた。
女に見える位置で男が子供を下ろした。
5歳か6歳、泣きじゃくる子供の目の前で、男は自分のものを女の顔の前に突きつけ舐めさせる。
女を四つんばいにさせ、後ろから、別の男が突き入れる。

子供が人質なのだろう。
女はまったく抵抗しない。

男達は、全部で7人いたが、ひとりは、顔がぐしゃぐしゃになって横たわっている。
仲間の死体をそのままに、ほかの男達は下卑た笑いを浮かべながら次々と女に群がる。
「おい、こっちだ」
ベンチに座った男が、女を呼ぶ。
「四つんばいで来い」
女は、犬のように四つんばいで男のところに行く。
「舐めろ」

「けつを振れ」
たっぷり肉付きのいいお尻が左右に揺れる。
「じゃぁ、俺はけつだ」
別の男が、女のお尻の穴につき立てる。
女は腰を引いて逃げるが、男にしっかりと尻を抱えられた。
「ヒィ・・やっ・・ぃぃぃい…」
女の悲鳴は、男の肉棒で塞がれる。

子供を抱えていた男が、子供のズボンを下ろす。
「ほう、ちいさなちんちんだ。今度はこっちに来い」
男が女を呼んだ。
「さぁ、これを舐めろ」
男は、小さな子供の性器を指ではさんで女の顔の前に突き出す。
子供の引きつった顔。
サーニャは、目をそらせた。

女は、自分の子の性器を口に含む。
その女のお尻をまた、別の男が犯す。
(ひどい…)
サーニャの手が震えた。
男の子を後ろから抱えていた男の手が、男の子の首にかかった。
(何をするんだ・・・やめろ・・・やめろーっ)
サーニャの手が小銃の引き金にかかる。
母親は、とっさに自分の子供を抱えた目の前の男に体当たりするが…。
男は動じない。
子供の首があらぬ方向を向いた。

「ギャァァァァー」
母親の叫び声。
その声を、サーニャのAK47がかき消した。
タタタタタタ・・・・
フルオートで30発。
6人の男が、吹き飛んだ。

「わぁぁぁぁぁぁぁ」
銃声がやんでも母親の叫び声は終わっていない。
戦場では、見たくない光景が無理やり視界に入ってくる。
この光景を忘れ去るのは、おそらく無理に違いない。

カタン
空になったマガジンを捨て、新しいマガジンを装てんする。
サーニャが無意識に行った行為だ。
母親が振り向いた。
女は目の前で倒れている男の自動小銃に手を伸ばした。
(何を…?)
女がその銃を引き寄せる。
「やめろ。撃つつもりはない」
しかし、女は銃口をサーニャに向けた。
「死ね!セルビア人」
女の指が引き金にかかる。
「やめろぉー」
タン・タン

引き金を引いたのは、サーニャだった。
母親の体が、後方に吹き飛んだ。
(どうしてわたしを…?)
“死ね、セルビア人”
サーニャは女の言った最期の言葉を繰り返した。
(わたしもセルビア人だから?)

サーニャは、走った。
“死ね、セルビア人”
女の言葉は、どこまでもサーニャを追いかけてきた。
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SCENE 3

仲間を殺した。
もうこの街にはいられない。
セルビア人に守られないセルビア人が暮らせる国ではない。
どこへ行く?
セルビアには行けない。
ずっと南に下って、マケドニアかコソボか?

もういい。
セルビア人もクロアチア人もボシュニャク人も
キリスト教もイスラム教もどうでもいい。
サーニャはセルビア人という帰属から逃れたかった。
(帰りたい)
家に帰りたかった。

その場しのぎ的な和平の結果、サーニャのいた街の半分は、今でもセルビア人が住んでいる。
クロアチア内に残ったセルビア人居住区。
サーニャは、再びそこに舞い戻った。
セルビア人民兵が大勢いた。
ボスニアでの内紛が飛び火して、ここも再び戦場になろうとしていた。
サーニャがいられる場所ではない。

農園の端にある、小さな小屋。
とにかく横になりたくて、そこに入った。
疲れていた。
注意が散漫になっていたのだろう、回りには誰もいなかったはずなのに、すぐに男が入ってきた。

「誰だ?ここで何してる?」
サーニャは、ジャケットで隠した腕でしっかりと拳銃を握った。
「お前…」
男は、記憶をたどるようにじっとサーニャの顔を見ている。
サーニャには見覚えは無い。
「あんたは、見覚えが無いだろうが、俺はあんたを知っている。別に何もしない。銃はしまってくれ」
男は、両手を開いてサーニャに見せた。
男はサーニャが銃を構えていることを知っていたようだ。
危害を加えそうな感じではない。
サーニャは立てていた銃を横に寝かせた。

「俺は、スアドっていう。あんたは?」
「サーニャ」
「以前にあんたを見かけたことがある」
男はサーニャの正面に腰を下ろした。
「俺は、国道を封鎖していた狙撃兵を見張ってた。そしたら、やつらが女を連れ込んだ。あんただ」
「連れ込ませたんでしょ」
「それは知らん。俺は、通りの向いでやつらを見張ってただけだ」
知らないわけではなかったが、スアドが指示したわけではない。
「わたしごと、殺そうとしたわ」
機関銃を撃ち込まれた。
それはスアドの指示だ。

「威嚇だ。俺たちは、やつらを窓際に寄せたくなかった。仲間が下の国道を渡るところだったんでな」
殺す気で撃ってはいたが、やつらにはたぶん、当たらない。そう思ってたよ。実際、やられたのは、俺達のほうだ」
リーダー格の男を撃ったのはサーニャだが、スアドはそれを知らない。
「ここはまた、戦場になる。セルビアに行ったほうがいい」
サーニャは首を振る。
「なにかあるのか、この街に?」
「わたしの家」
「家族がいるのか?」
サーニャは首を振った。
両親も姉も殺された。
「国道の向こうだろ?そこに行きたいのか?殺されるぞ」

「自業自得」
サーニャはぽつんと呟いた。
「なんだって?」
「わたしも殺したわ。クロアチア人、ボシュニャク人…」
「やらなければ、こっちがやられる」
「彼らもそう言ってるわ」
「しょうがないだろう。今さら…」
「そうね…」
“しょうがない、今さら…”
こんな簡単な言葉で片付けられる問題ではないが、それを今ここで、この男を相手に論じてもしょうがない。
「行き場所がないなら、俺と来るか?」
「あなた、民兵でしょ?」
「ああ」
サーニャは、早く行けとでもいうふうに手を振った。

集結しているのはセルビア人民兵だけではなかった。
通りを挟んだ向かいには、クロアチア正規軍がどんどん増強されつつあった。
それに対抗するように、いつのまにか民兵のふりをしてセルビア正規軍が流入し始め、いつかのように国境にはセルビア正規軍が集結していた。

第6編 Battle of Blood END

本作品は、フィクションであり、登場する人物・地名・その他固有名詞は、実在する人物・地名等となんら関係はありません。

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