<第16回> かき氷は嫁を救う | Dr. ミナシュランの台湾グルメと「ママ、ときどきドクター」

Dr. ミナシュランの台湾グルメと「ママ、ときどきドクター」

美味しいものが大好きで、本名の「みな」とグルメの「ミシュラン」をかけて、「ミナシュラン」と呼ばれています。台湾でぽかぽか子育てしつつ、ときどき日本に帰ってお医者さんする「ママ、ときどきドクター」な暮らしの子育てエッセイと美味しいもののブログです。

 台湾で子育てしている日本人女性は、大雑把に2つに分けられる。
・「駐妻」(駐在員の妻、ご主人は日本人)
・「嫁」(台湾人と結婚して台湾に来た人)
である。
 それぞれに特徴や特有の悩みがあって興味深く、そしてそれぞれに力強く生きておられる様は魅力的なのだが、どちらにも共通するのは、「慣れない海外で子育てをしている」という困難さの中にいるということだろう。

 それは、私が大きなお腹を抱えて台湾に来た3年前。
 まだ知り合いも少なく、心細く過ごしていた頃、「かき氷を食べに行きましょうよ」と声をかけてくれたのは、主人の友人が紹介してくれた、同じく妊娠中の日本人嫁さんだった。
 (かき氷? わざわざかき氷を食べに行くの??)
 私は、なぜ交通機関に乗ってまでかき氷を食べに行かなければいけないのか疑問だったが、とりあえず彼女に付いて行ってみた。
 案内されたのは、薄汚くて小さなかき氷屋さん。
 (他にもカフェとかたくさんあるのに、なんでここに?!)
 疑問は膨らむばかりだったが、彼女のオーダーしてくれたマンゴーかき氷を口にした瞬間、私の疑問は風船に針を刺したように弾け散ることになる。
  パーーーーーーン!
 「何これ?! めっちゃ美味しい!!!!!」
 それは、私の「かき氷」の概念を完全に粉々にする、大事変だった。
 新雪のようにふわふわ柔らかい真っ白な氷の上に、甘酸っぱいマンゴーがたっぷりと乗っている。ただそれだけだった。氷にマンゴーを載せただけなのに、どうしてこんなに天国なの!?
 

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 夢中で食べながら、私たちは「美味しいねー!」「最高だね!」とかき氷の感動を語り、そして、いろんなおしゃべりをした。
 「新居になぜかお姑さんがダルマを飾っちゃってるんだよ」「ちょ! うちもある、ダルマ!! なんなんだろうね、ダルマ」「うちは、キッチンになぜか、めっちゃ大きい電気鍋が置かれてる……」「オーマイガー、うちも! めっちゃ場所取る! でも、『要りません』とは言えない!」「その上、なぜか電子レンジが体に悪いからって、禁止されてる」「うちは電子レンジ、何とか買ってもらったけど、『加熱』ボタンを押したら、他の部屋に走って避難するように言われてるよ」「なんなんだろうね」「ところで焼きそばUFOが食べたいんだけど見つからないよ」「デパートの下の日系スーパーにあるんじゃない?」「一平ちゃんはあるけど、UFOがないんだよ」「日本が恋しいねえ……」「恋しいねえ……」「でも、マンゴーかき氷美味しいねえ~!」「美味しいねえ~!」「台湾ではね、妊婦はお腹を冷やしたらいけないから、かき氷食べたらいけないらしいよ」「ま、いいでしょ」「美味しいから仕方ないね」「また二人で食べに来ようね」「うん、来ようね」

 悩み事は、ひとつも解決しなかった。
 でも、本当に美味しいかき氷があって、しょーもないことを話せる友達がいる……。
 かき氷をもうすぐ食べ終えようとしたその瞬間、私は突然、「私、台湾でもやっていける」と思った。突然、そう思えたのだ。
 「かき氷は嫁を救う」……!

 生きていく場所に心から愛せるものがあって、それを一緒に楽しめる友達がいる。
 それって、本当にありがたいことだ。

 さて、3年の月日が流れ、私は台湾で2児の母になった。
 友人も増えた。「駐妻」、「嫁」どちらのお友達も、異国でたくましく生きておられて、話を聞くだけでとても面白い。
 また、かき氷の他にも、美味しい物もたくさん開拓した。いつしか友人には、私の本名の「みな」とグルメガイドの「ミシュラン」をかけて、「ミナシュラン」と呼ばれるようになった。(変換しようとすると「みな酒乱」となるが、お酒は弱めです、念のため。でも最初の一口のビールは大好きです、念のため。)

 最近、台湾に来たばかりだという人と知り合った。あの薄汚いかき氷屋さんに誘ったら、感動してくれた。えっへん、美味しいでしょ!
 もし今、台湾で心細く思っている方がもしおられたら、お友達を誘って、美味しいものでも食べに行ってみられてはいかがだろう。季節外れのかき氷も、悪くないかも……。

(注 ここに書いたかき氷屋さんは、マンゴーの美味しい季節だけ営業しているという「冰讚」という有名店。今年はもう営業終了したが、来年の夏になったら、ぜひ「マンゴーかき氷」「夏期のみ」で検索を。)

(注 個人的に、最近ハマっているのは杏仁豆腐味のかき氷(「杏仁豆腐」「かき氷」で検索を)。小豆、緑豆、はと麦、フルーツ、芋団子などのトッピングもたっぷり。家から徒歩5分ということもあり、この夏は週に3回のペースで昼食の代わりにこのかき氷を食べる、という「かき氷ダイエット」を実践してみた。涼しくて美味しくて最高のダイエット方法だと思われたが、なぜか体重が減らないのが唯一の問題点である。)

(注 「嫁」と「駐妻」の分類について、「駐妻は女子力が高く、嫁は人間力が高い」と書こうとしたが、色々支障がある気がして原稿から削除したのはここだけの話である。……深く考えないで下さい。)

(注 「ミナシュラン・ガイド」ではありませんが、私が密かにメモしているお気に入りのレストランのまとめをブログに載せてみました。一つ前のエントリーをご覧下さい。ただし、回転寿しのコーン軍艦をこよなく愛する味覚の持ち主なので、レストランご訪問は自己責任でどうぞ。)