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2005-07-11 02:20:01

うそ日記(願い事)

テーマ:うそ日記・その壱

tanabata2


「たなばたまつり」のお誘いをうけた。

ご用聞きの兄弟から。

七夕。

織り姫と彦星の、年に一度だけの逢い引きの日。

だから、もしかしたら花屋に逢えるかも。

花屋がやってくるかも。

と、なんの根拠もない期待を抱いて、

その日一日花屋を待ってしまいそうだったので、

ご用聞きのお誘いをありがたく受けることにした。

「期待」など抱かない方がいいのだ。

期待はずれというコトバは、

期待する者のためにだけあるのだから。


ご用聞きの家は、

裏庭を通って、桑畑を突っ切ったその果てにある。

こじんまりとした木造の粗末な小屋だけれど、

その庭はどこまでも広く、あちらこちらに四角く区切った畑がある。

ほうれん草や小松菜、トマトやナスやサヤエンドウ。

その庭の真ん中あたりに、例の木がある。

そら豆の木。


小屋には不釣り合いなほどに大きいドアをノックすると、

「弟」が顔を出した。

大男である弟を見あげながら、

腕にぶらさげたカゴの中から無花果のジャムを取り出し、

「おみやげ」と言って掲げた。

庭の無花果がたくさんの実をつけたのだ。

次から次に熟れて割れる実をどうにかしなければ、と、

昨日一日ジャムを煮ていた。

心なしか、あたしのからだからもジャムの甘酸っぱい匂いがする。

大男はちょっとぶっきらぼうに、「どうも」とだけ言って、

それでも大事そうに、大きなてのひらで瓶をつつみこみ、

オーバーオールの胸ポケットにそっと入れた。


その弟の兄である「ご用聞き」は、あのそら豆の木の下で、

あたし達を待っていた。

そら豆の木は、たしかに大きくて、

「弟」の背の2倍ほどもあるのだった。

木の傍らには、木でできた頑丈そうなテーブルが設えられていて、

そこには野菜と果物とパンとチーズが、

それぞれのカゴに景気よくどかんと盛られていた。

その他には干したオレンジをつけこんだ果実酒と、

水をなみなみと張ったガラスのボール。

その水面には、青々とした空が映って揺れていた。

と、「弟」の胸ポケットから、ぽーんと何かが飛び出して、

その青空の真ん中に着水した。

アマガエル。

どうやらジャムの瓶にはりついていたらしい。

それを知らずに、アマガエルごと「弟」にあげてしまったのだ。

機嫌を損ねているらしいアマガエルが、青空の真ん中でふくれている。


ご用聞きは、アマガエルとあたしに「ようこそ」と言ってから、

ではさっそく、と椅子をひいた。

促されて座ると、目の前に大きな箱がそっと置かれた。

その蓋を、ご用聞きがうやうやしく持ちあげる。

中に入っていたのは、折り紙だった。

長方形の、さまざまな色の。

ご用聞きが、さ、どうぞ、とペンを差しだす。

え? 

なんでもいいんですよ。いくつでも構いません。

何が?

何がって、もちろん、あれですよ。

あれって。

あたしは首をにねってご用聞きの顔を見る。

ほら、七夕につきものの。ええと、その。

ど忘れしたらしく、ご用聞きは弟の顔を見る。

「弟」はひとつ大きく頷いて、「ねがいごと」と小さく言った。

そう、そう。願い事。なにしろ七夕祭りですから。


なるほど、色とりどりの折り紙は短冊だったのだ。

たしかに七夕に短冊はつきものだろう。

でも、これを飾る笹の葉は?

ササノハ? 

今度はご用聞きが首をひねる。

この辺りにはササノハなんてものはありませんです。

じゃあ、この短冊はどうするの?

もちろん、アレにぶらさげるんです。

ご用聞きが指さしたのは、豆の木だった。

幾重にも実った緑色の莢が、太陽の下でつやつやと光っている。

あたしは驚いて、ぽかんと口をあけてしまった。

大丈夫です。弟がいますから。どんなに高いところでも飾れます。

いや、そういうことじゃなくて。

そら豆の莢は最初上向きになるんです。だから天の豆。でも、

中の実が次第に大きくなるにつれ、莢も少しずつ下を向く。で、

ぽってりとふくらんできたら収穫です。今日の分は夜明けと共に

弟がすべて収穫してしまいました。ですので、どうぞご遠慮無く。


結局、あたしは願い事を書いた。

初めは何を書こうかとあれこれ願い事を考えてみたが、

そのうちに、思いつくことを端から書いていくことにした。

なにしろ、いくら書いても短冊が減らないのだ。

いったい何枚あるのだろう。


健康でありますように。いつも笑顔でいられますように。

あたしはせっせと願い事を書く。

世界が平和でありますように。

ご用聞きも、弟も、せっせせっせと書いている。

空が落ちてきませんように。海が干からびたりしませんように。

アマガエルの分までもせっせと書く。

水がいつまでも透明でありますように。明日が晴れでありますように。

半ばやけになって、何でも書く。

希望という名の列車がきますように。

花屋に逢えますように。

花屋が来てくれますように。

花屋があたしを忘れませんように。


あ。

と、気づいたときには、もう書いていた。

一度書いてしまったら、もう止まらなかった。

あたしは何枚もの短冊に、「花屋」のことを書き続けた。

何かの呪文のように書き続けた。

短冊の中に花屋をとじこめるようにして。


あと一枚です。

そう呟いた「弟」が、ため息をついて天を仰ぐ。

その一枚を、ご用聞きがあたしの前にそっと置く。

最後の一枚、何を書こう。

ペンを握ったまま考えていると、

天を仰いでいた弟が、その姿勢のまま小さく言った。

くもだ。

真っ青だったはずの空に、雲が押しよせてきていた。

はるか地平線に湧きあがる入道雲の向うから、

薄灰色の雲がじわじわとやってくる。

こりゃまずいですな。

そう言ってご用聞きが立ち上がるのと同時に、

風が庭を渡ってきた。

土埃をたて、ほうれん草を倒し、トマトを揺らして、

小さな竜巻のようなつむじ風が駆けてくる。

そうだ、短冊。

はっとそう思ったときにはもう遅かった。


短冊が、大きな蝶のように飛び立っていく。

くるくると、一気に舞いあがる。

色とりどりの願い事が、豆の木に絡みつく。

その向うへ、軽々と消えていく。

空の果てへ。

地の果てへ。



あたしの願いは、天に届くだろうか。

花屋のところまで、届くだろうか。


あたしは、胸の中で最後の願い事を呟いた。

祈るようにして。



「願い事が叶いますように」





◆◇◆


「平塚」の七夕祭りに行って来ました。

なんとなく、どこか懐かしい「夏祭り」

写真と共に、新ブログにアップしましたので、

ぜひ遊びにきてくださいね。


夢ウツツ@田川ミメイWeblogMook

http://blog.livedoor.jp/mimei14/

2005-05-27 03:49:28

うそ日記(アイスティー)

テーマ:うそ日記・その壱
tea

かろん、と、音をたてて、氷が揺れた。

今日は晴天。

で、アイスティーを作ってみた。

台所の白い戸棚に、大きな紅茶の缶をみつけたのだ。

蓋をあけると、まるで5月の陽射しのような芳しさ。

ポットいっぱいにアイスティーを作って、ご用聞きの兄弟にあげよう。

寝違えを治してもらったお礼に。


澄んだアイスティーを作るのは、思いのほか難しい。

すぐにそのまま飲むのなら、

氷をたくさんほうりこんでしまえばいいのだが、

ポットいっぱいに作るとなると、そうはいかない。

かと言って、冷蔵庫になんか入れたらアウトだ。

たちまち濁る。

太陽が隠れた空みたいに。


光が透けて通る、澄み切ったアイスティー。

それを目指して、

熱い湯で、濃いめにいれた紅茶を、

ゆっくりゆっくりと冷ましていく。

硝子のポットをみつめつづけるあたしを、

あまがえるが呆れ顔で眺めている。


そういえば、子どもの頃。

紅茶といえば、レモンがつきものだった。

喫茶店の紅茶には、薄い輪切りのレモンがついてきた。

アイスティーといえば、

必ずレモンが浮いていた。

四角い氷のあいだを、浮き沈みする黄色い輪っか。

家にお客がくるときも、紅茶に添えるレモンがないと、

母は慌てて八百屋に走った。


紅茶にはレモン、だったのに。

いつのまに、別れてしまったのだろう。

ゴールデンカップルだったはずなのに。


ゴールデンカップル。

花屋が言いそうなコトバ。

古ぼけていて、どこか懐かしい。

ねぇ、そう思わない?と同意を求めると、

あまがえるは、けこっと笑った。


ほどよく冷めた紅茶をグラスにそそぎ、氷を入れて飲んだ。

少しだけ、渋い。

こういうときこそ、レモンだ。

渋みを甘みにかえてくれる檸檬色のレモン。

せっかくの澄み切ったアイスティーにミルクなんて御法度だ。

レモンがあれば。

でも、ないものはしかたがない。
そう、しかたがないのだ。

紅茶にレモンがなくたって。

ここに花屋がいなくたって。

しかたがない。

空のてっぺんには、飛行機雲。

水平線には、半人前の入道雲。

グラスの中で、氷が静かにとけていく。

ご用聞きは、まだ来ない。






2005-05-17 04:12:00

うそ日記―大男―

テーマ:うそ日記・その壱

こんこんこん、と遠慮がちなノックが3つ。

ご用聞きだ。

そう思ってドアをあけたあたしは、思わずのけぞり、後ずさってしまった。

 

そこにいたのは、見あげるほどの大男だった。

背の低い、どこもかしこもまあるいご用聞きだとばかり思っていたのに。

あんぐりと口をあけたまま見あげているあたしを見て、大男は言った。

「僕、おとうと」

え? そんな。

あたしには弟などひとりもいない。

それどころか、兄も姉も妹もいない。 

「おとうと?」

大男は、がっしりした顎をぶんと振ってうなずく。

「ええと、どなたの弟さん?」

「兄さんの」

思わず眉があがってしまう。そりゃそうでしょうよ。でも兄さんって、誰。

「兄さんの、代わりに、ご用聞きに」

あ。ああ、ああ。ご用聞きの弟さん。

あの大きなそら豆の木のそら豆をとるという、あの弟さん。

勢い込んで言うあたしに、

大男ははにかんだような笑みを浮かべて、

ゆったりとうなずいた。

 

どうやら、如才ない兄と違って、

この大男はかなりの恥ずかしがり屋らしい。

ごろごろとぶつ切りになって出てくる言葉は、

どこかぶっきらぼうで要領が得ない。

でも不思議なことに、嫌な感じはしないのだった。

それにしても。

「代わりに」ということは、ご用聞きの身に何かあったのだろうか。

からだの具合でも悪いのか、と、心配になって訊ねると、

大男は、首を大きく横にふり、あたしの首のあたりを指さした。

「なおしに、きた」

え。なにを。

「寝違え」

あ。

 

あたしは、慌てて首筋に手を這わす。

おそるおそる、ゆっくりと首を動かしてみる。

右、左、上、下。

ぐるり、ぐるりんとまわしてみる。

 

「治ったみたい」

大男に驚いて思い切り天を仰いだのがよかったのだろうか、

どこをどう動かしても、もう首に痛みはなかった。

「みたい、だな」

そう言って、おかしそうに笑う大男を見て、

あたしもなんだかおかしくなって笑ってしまう。

ふたりで声をあげて笑い出す。

 

あははうふふと笑っていると、背後でぽしゃんと水音がした。

振り向くと、硝子の器に飛び込んだあまがえるが、

ひょこんと首から上を水面に出して、こちらを見ていた。

まるで温泉につかっているかのような恰好だ。

頭に手拭いでものせてみたくなる。

水音に気づいた大男が、腰をかがめて、おずおずと家の中をのぞきこんでいる。

そして、のんびり水につかっているあまがえるをみつけると、

慌てて、へこっと頭をさげた。

あまがえるに向かって、ぎくしゃくと、でも丁寧に言う。

いつもお世話になっています、と。

 

ご用聞きといい、この大男といい、なぜかあまがえるには敬意を払う。

ときに、ご主人様とかダンナ様とか呼んでみたりもする。

あたしのことは、名前ですら呼ばないのに。

うやうやしく頭をさげる大男を見て、あたしは少し憤慨する。

憤慨しながらも、あれ、と思う。

ダンナサマ?

思わず首を傾げて、考えこむ。

あまがえるは、はたしてオトコなのだろうか。

たしかにあたしはいつのまにか、オスだと思いこんでいたけれど。

だが、きちんと確かめたわけではない。

だいたい、どこでどうやって見分けるものなのか。

それさえも分からない。

 

ご用聞き兄弟の態度からすると、あまがえるはオスのようにも思えるけれど。

でも、花屋はたいそう甘かった。

あまがえるに優しかった。

妙に愛おしそうだった。

……あやしい。

もしかしたら、あまがえるはメスなのか。

 

突っ立ったまま首を傾げ、考え込んでいるあたしに、

大男がぼそぼそと訊いた。

「どうした? また、寝違えたのか?」

 

 

 

+++

 

久々のうそ日記。

ずいぶん間があいてしまったので、

うそ日記の日付が間の抜けたものになってしまうので、

これからは日付ではなくサブタイトル(?)をつけることにしました。

 

なんだかまだ本調子ではありませんが、

(うそ日記の本調子って、いったいどんなだ……)

間をおきながらも、ぽっつりぽっつりと続けていきたいと思います。

どうぞよろしく。

 

+++

 

ビタミン1やら16やらを配合した薬(?)を飲みはじめたら、

なんとまぶたのケイレンが消えました。

まだ、時々ぴくりとしたり、ちょっと強ばったような感じはあるけど。

からだ中を移動するびびびっという痛み(神経痛?)も、

それ以前にくらべれば、だいぶ楽になってきたような。

ううむ。

完全復活まで、もう少しの辛抱、か、な?

 

でも、神経にはビタミンが効く、というのはホントみたいです。

同じようなお悩みをお持ちの方、一度お試しを。

 

 

2005-05-02 02:03:48

うそ日記―4月―

テーマ:うそ日記・その壱

tree5


首が右にまわらない。

左にもまわらない。

うつむくのもだめ、空を仰ぐのもだめ。

動かしたとたん、肩甲骨のあたりが、びりっと痛い。

寝違えたらしい。

だから、まっすぐ前を見ているしかない。

 ひたすら、まっすぐ。


今日はご用聞きの家によばれていたのに。

畑のソラマメを見にいくことになっていたのに。

 

午後、迎えにきたご用聞きに事情を説明し、

だから、今日は行けそうにないの、ごめんなさい、と、

頭をさげた。

背中をまっすぐにしたまま腰を折って。

まるで操り人形のお辞儀みたいだ。

「いいんです、気にしないでください」

ご用聞きは、ふくふくとした小さな手をぱたぱたと振って、

「ソラマメはまだまだこれからですから。

 慌てることはありません。

 それより、どうぞおだいじに」

そして、何度もうなずきながら、尚も言った。

首はだいじですからね、首はからだのカナメと言うくらいで。

あ、いや、それは腰のことだったかな。いや、コメカミのことだったかな。

ええと、まぁ、その、なにしろ、とにかくほんとにおだいじに。

 

ご用聞きを見送ってから、回れ右をして家に入る。

まっすぐダイニングテーブルまで行き、椅子をひき、

まっすぐ前を向いたまま、すとんと座る。

背中をまっすぐにしたまま、ため息をつく。

ふぅ。

座ったものの、やることがない。

この不自由さでは、何もやる気がおこらない。

 

あたしのまっすぐな視線の先のローテーブルの上で、

あまがえるがこちらを見ている。

どうやら、いつになく行儀のいいあたしの姿に違和感があるらしい。

今にも笑い出しそうな顔で、

(この頃あまがえるは、げこげこと笑ったりするのだ)

でも笑ってはいけないということは承知しているらしく、

口をぐっと閉じたまま、じっとあたしを見つめている。

 

ご用聞きの家のソラマメの木は、たいそう立派らしいのだ。

1日にかっきり10センチ伸びるという。

「わたしなんかもう手が届かなくて。

ソラマメを採るときには弟に頼まないとなりません」

弟は、家族の中でただひとりのノッポなのだと、

ご用聞きはそう言って、ほんの少し得意げに胸を(腹を)はった。

それは、どれくらいまで伸びるものなの?

さぁ。どうでしょう。天の豆っていうくらいですから。

 

ゆうべあたしは寝る前に、そのソラマメの木を思い描いた。

閉じたまぶたに浮んできたのは、

「ジャックと豆の木」の「豆の木」だった。

まさか、あんなにはならないだろうけど。

くすくす笑いながら眠りにつくと、長い長い夢を見た。

くねくねとまがりながら天まで伸びる、ごつごつと太いソラマメの木。

その足元で、あたしは迷っていた。

登ろうか、登るまいか。

あの雲にかくれた木のてっぺんに、花屋がいるような気がする。

いや、それはまやかしで、そこにいるのは花屋ではないかもしれない。

花屋にみせかけた、料理学校の講師かも。

長い髪を水に浸した、リュウグウノオトヒメかもしれない。

あたしは、迷いながら天を仰いだ。

白い雲の先の青ざめた空を、いつまでもじっと見あげていた。

 

そして夢からさめたら、首がまがらなくなっていたのだ。

右にも左にも上にも下にも。

あまりにも天を見あげすぎたのだ。

 

でも。

夢のせいで、寝違えるなんて。

まっすぐな姿勢のまま、あまがえるに向かって愚痴を言うと、

あまがえるは、ぷっと小さく吹きだした。

もうがまんできないとばかりに、肩をふるわせて笑い出した。

 

ふん。なによ。そんなに笑うことないじゃない。

あたしは口をとがらせて、立ち上がり、

台所に行こうとして、テーブルの脚につまづいた。

まったく、もう。

 

ひたすら前だけを見ているのって、なんて不自然なことだろう。

不自由で、窮屈で、退屈で。

 

まっすぐに前だけを見て、まっすぐに生きていく。

そんな人生、あたしには無理だ。

 

たぶん、あまがえるだって。

 

きっと、花屋だって。

 

 

++++++

 

えーー。

数日前、ほんとに寝違えたらしくて。

貴公子、いや気功師ミメオの魔法の手(患部に触れると、

カイロのように熱くなる)のおかげで、

かなり回復はしたのだけれど。

昨夜のコンサートが、これまた良い席すぎて、

ずっとステージを見あげっぱなし。

で、またぶり返してしまったもよう。

はぁ。

 

連休だっていうのに(だからこそ?)

もうひとつのブログは、サーバーダウンしてるしなぁ。

ううむ。

これはもしかして、今少し休めよ、という、天からのお達しか。

なんて都合良く考えてみたりして。

えへへ。

どっちにしても、今夜は早寝(これでも?)いたします。

おやすみなさーい。

 

 

写真は、Spwce5さんから。

 http://space5.cool.ne.jp/index.html

2005-04-25 03:41:29

うそ日記―4月―

テーマ:うそ日記・その壱

ukon

 

窓をあけたら、花びらが入ってきた。
緑がかった白い花びら。
光が透けるほどに薄いけれど、桜のようである。
今年は桜が遅いと聞いていたけれど、
もう咲いているのだろうか。
いったいどこで。

それにしても、あれから何日経ったのだろう。
一昨日も昨日も今日も、
毎日同じように過ぎていくから、
すっかり日にちが分からなくなってしまった。
それでも、要りようなものはご用聞きが届けてくれるし、
家の中にはたいていのものが揃っているし、
何も不自由がないから、ここにいるのだ。
あまがえるはこの家がすっかり気に入ってしまったらしく、

毎日のびのびと泳いだり寝たり食べたりして、
心持ち、大きくなったようでもある。
それでもそら豆ほどしかないけれど。

そう、そら豆。
今日は、ご用聞きがそら豆を持ってくるのだ。
そら豆を所望したのは、あまがえるで、
ご用聞きは、手にした大きな帳面に、

ちびた鉛筆で几帳面に書きつけていた。

開けていた窓から、花びらがなおもちらちら入ってくる。
風もないのに、どこから降ってくるのだろう。
外に出て、舞う花びらを辿っていくと、裏庭に出た。
裏庭の向うは畑になっていて、
青々とした葉がうねってしげっている。
ぐるりと首をまわすと、裏庭の隅に、
白い花をつけた小さな木がみつかった。
あたしより、ほんの少し丈が高く、
あたしの足より細い幹の、若い木だった。
それなのに、花の数は驚くほど多い。
小さな白い花が、重なるようにして咲いている。
これは桜だろうか。
こんなに白い桜があるのだろうか。

ぼんやりと見あげていると、
どこからか、じりじりと音がした。
古びたベルの音。
家の中から聞こえてくるのかと振り返ってみたが、
音はもっと近い。
耳をすませて目の前の花を見ていると、
ふいに風が吹いてきて、
花が一斉にゆらめいた。
花びらが、雪のように舞う。
降るような花びらの向うの、たなびく細い枝に、
何かが引っかかっている。

木の下に入り込み、見あげると、
それは受話器だった。
持ち重りのする、黒い受話器。
そっと耳にあてると、さぁっと音がした。
また水音かと思ったが、どうやら違うらしい。
水底のようにくぐもってはいない。
もっと流れているような、撫でていくような。
そう、風の音のような。

もしもし。もしもし。
風の音の向うから、かすかに声が聞こえる。
モシモシ。
どこにいるの。いつくるの。
くりかえすあたしの声の合間に、花屋の声がかすかに交じる。

ソラ……。

え?空?

ソラマメハ
そらまめ?
ソラマメハテンノマメ……。

え、なに?と聞きかえしたところで、
風の音がぱたりとやんだ。
無音。
もう何も聞こえない。

花屋はなんて言ったんだろう。
ソラマメハテン……。
口の中で繰り返していると、ふいに肩を叩かれた。
飛び上がって振り返ると、
ご用聞きが立っていた。
にこにこと笑いながら、大きな帳面をさしだしてくる。
オクラのような太い指が、その帳面を指さすので、

つられるようにしてのぞきこむ。

天豆。

てんまめ?
ご用聞きが、ゆるゆると首を振り、
低く掠れた声で、静かに言う。
そらまめ。
あ。

ソラマメハテンノマメ。

そら豆は天の豆。

畑を渡ってきた風がうずを巻き、
白い花びらがまいあがる。
澄んだ青空に向かって、
天に向かって、白い白い花が降る。




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