2007-07-29 16:53:45

長靴

テーマ:うそ日記・その弐


nagagutu


七月三十日  はれ のち かみなり


午後遅く、盛大な夕立がやってくる。
ざあざあと降る雨の音に、昼寝する獏のいびきも聞こえぬほど。
雷神さまに何かあったのだろうか。
何かよほど、気持がくさくさとするようなことがあったのか。

それにしても、このままではいたるところ洪水、ということになりかねない。
にわかに不安になり、うろたえたとたん、雨はやんだ。
蛇口をきゅっと締めたように、ぴたりとやんだのだった。
呆気にとられ、玄関の引き戸をあけて、空を見あげると、
もう気が済んだとばかりに、悠々と引き上げていく黒雲が見えた。
くさくさとした想いは晴れたのだろうか。
雲の透き間から、薄青い空が、困惑気味に広がっていく。

ふと、家の前に並べた植木の影に見慣れぬものを見たような気がして、
思わず目を懲らす。
と、黒いゴム長靴が一足。
しまった、と思う。
今朝の薄日に油断して、日だまりに干しておいたのである。
長靴はこいびとが置いていったものなので、日頃長靴など履かないあたしは、
その存在をつい失念してしまったのだった。

ゴム草履をつっかけて駆け寄ると、長靴の中にはたっぷりと雨水が溜まっていた。
青空を映すその水たまりの中に、金魚が一匹泳いでいる。
赤くすらりとした金魚である。
はて。いつのまに。
雨と共に降ってきたのだろうか。
雷神さまからの贈り物であろうか。

ふくらはぎに跳ね返った雨水が、ぽつんと冷たい。

 

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