時事新ポオ vol.5(8月号)

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「どこの党がなっても結果は同じなのにね」
 珍しく夕食の時間に帰宅した夫のポオは、ワインを片手にそんなことを言った。先日の参院選の話をしているのだろう。私はそれをキッチンで料理をしながら聞いていた。
「同じなわけがないでしょ? 政策も方向性も違うわ」
「そうだね。でも歴史には力学がはたらく。慣性の法則みたいに、元に戻ろうとする力がね。その力は強大ないっぽうで元を辿っても一個人や一団体には簡単に還元しにくい。スクールカーストのように、ごく自然に発生するものだ。よく言うだろ? 歴史は繰り返すって」
「歴史に力学なんておかしいわ」
 私は夫の前にトマトとモッツァレラのチーズを置く。ポオはそれに食卓の塩と胡椒を振りかけ、一度口髭を撫でてからフォークを突きさす。
「今日のはとびきり新鮮そうだね。君の美しい肌のようだ」
「残念ね。私の肌は何一つ損なわれていなくってよ」
「損なわれても困る」
ふふっとポオは笑う。このシニカルな微笑に、私はいつも心を動かされてしまう。もう結婚してだいぶ経つというのに。そもそも家に居つかない夫に、飽きようはずがない。滅多に出ないテレビ俳優に飽きがこないのと同じ原理だ。本当に夫は卑怯だ。殺してやりたいくらいに。
「ええっと、それで、歴史の力学の話だったかな。まず前提として、この国は江戸幕府の200年以上に及ぶ歴史に幕を閉じ、開国して明治政府を作ったものの、その構造は暮らしの外観を大きく変えただけで実際は江戸と大差のないものだった。第二次大戦の終りまで身分制度もあったしね。それが大きく変わったのは大戦後に民主主義国家を目指すようになったからだ」
「目指すとは妙ね。ここは民主主義国家よ」
「そう呼ばれている。でも民主主義国家というのはどこの国もそうだが、それ以前の国家体質をどうにかこうにか民主主義に向かわせようとしつつも民主主義に徹しきれないのが現状さ。この国もメディアでも国会でも民主主義とは思えない耳を疑うような言動が日々飛び交い、政策がまかり通っているじゃないか」
「そう言われれば……たしかに……」
「無理をしているのさ。でもこの無理はやるべき価値のある無理ではある。少なくとも、より良いイデオロギーを見つけるまではね。ところが、ここでさっき言った歴史の力学がはたらく。慣性の法則はもとの状態に戻りたがる。民主主義を目指すより前の状態にね。僕がどこの党に入れても結果は同じと言ったのはそういうことさ。この国は全体的生命としていずれ力学に「負ける」気がしている。いっそ、AIにでもすべてを任せたほうがいいね」
「そうかしら。そんなことをしたら非人間的な国家になっていくわ。無駄をすべて排除して、経済的必要があれば戦争も辞さないような国に」
「何が現状と違うというんだ? それ、今まさにこの国が向かおうとしている方向じゃないか。いま国家は非人間的な方向へと舵を切りつつある」
「非人間的……そうね、先日の相模原の事件もそんな今を象徴していると言えそうね」
「ふふ、君がそんなことを言いだすとはね。あの事件を政治と結びつけたり、この国の状況と結びつける声をよく巷で聞くが、僕はあまり賛同できないな」
「どうして? だってあの事件は現代社会の問題点を浮き彫りに……」
「一個人の犯罪からモデルニテを摘出するのはナンセンスさ。現代に生きている以上、どんな愚行にもモデルニテ(現代性)があるに決まっている。だが、それは社会に問題提起するものではない。前からあるものに、犯罪者が乗っかっただけだ。騒ぎ立てるには及ばない。愚行は愚行でしかない。あの犯罪が何かを象徴するというなら、すべての犯罪に今が刻まれているよ。むしろ僕が興味深かったのは、あの事件が何を象徴するかではなく、世間があの事件にかこつけて何を語ろうとしているか、だ。人々は事件を、国家の非人間的体質と結びつけようとしている。恐らくは前から薄々気づき始めていたことに、今回の事件を得て、うまくそれを結びつけたのだろう。要するに、この国はすでにだいぶ前から非人間的国家への道を辿っていたということだ。ただし、ただの非人間的国家ではない。そこに帝国主義へと帰ろうとする力学がある。僕がいっそAIといったのは、AIには歴史の力学がはたらかない可能性があるからだ。もっとも、それは人間社会の歴史力学よりよほど悲惨な結果を生む可能性もはらんでいるけどね」
「……あなたの話は難しいわね」
夫は嬉しそうにモッツァレラをフォークとナイフで切り分ける。
「ところで君、僕が今日早く帰ってきたわけがわかるかい?」
「さあ、わからないわ」
「僕のお気に入りの女の子が行方不明になってねえ。とても白い、そう、ちょうどこのモッツァレラのような肌をした子だったんだが」
そう言いながら夫はそれにフォークを刺す。
「ふむ。モッツァレラから赤い液体がねぇ」
「トマトよ」
「トマトか、そうか。それにしてはずいぶん赤い」
夫は最後のひとつを口に収めると、それを味わい尽くすように目を閉じた。それから、立ち上がると私を抱き上げた。抵抗したくてもその力は存外に強くて、その腕のなかでは暴れることさえできなかった。
「君に御礼を言わなくてはね。本当に愛おしい一品だった。今夜はどうも君の愛の力学に抗えそうにないな」
そう言って優雅に微笑むと、夫はいつものように寝室へと向かった。私は思った。力学に抗えないのは私も同じだ、と。たとえその先に崩壊しか待っていないとしても、待つことしかできないのだ。今宵は夫を独占しよう。腕によりをかけた甲斐があるというものだ。
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時事新ポオ vol.4(7月号)

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 金に汚く権力に固執する知事の辞意表明、アメリカでの銃乱射事件、有名女優のヒモのような旦那の薬物使用逮捕、さらにはイギリスのEU脱退……このところ世界が妙に騒がしい。落ち着かない気持ちで私は新聞を折り畳んでテーブルの上に置いた。
「まったく、嫌になるわね」
 向かいの席でココアを飲んでいる夫のポオは私の顔をみてニヤニヤと笑う。
「先日の知事の退任が遠い過去に思えるね。世間では、『申年は騒ぐ』というのが常套句になりつつあるようだ」
「まったくよ、申年のせいね」
「未年だったとしても何かこじつけたとは思うけどね」
 夫はいつもどおりシニカルな批評を加える。それから、ふとこんなことを言う。
「都知事を辞職に追い込んだのは正解だったのか不正解だったのか。それは、いまイギリス国民が抱えているEU脱退は正しいか否か、という問題と毛色が違うようで、存外似通った問題が漂っている」
「似通った問題?」
「問われているのは、国民が主観性から訣別できるのかどうか、だ。良し悪しはべつにして、都知事の金使いの問題に我慢ならなかったのも、連合の運営や決まりに耐えられなくなったのも、場当たり的であった感はどちらにもあるんじゃないだろうか」
「そうね。たしかに、それが吉と出るか凶と出るか、という結果論の前に、プロセスとしてどれほど事態を俯瞰できていたかは疑問ね。でも、世論とはそうしたものよ。たとえば、都知事のことにしても、その後の選挙で莫大な金がかかることなんか考えもしないんでしょう。権力に固執する性根が気に要らない、となれば是が非でも引きずりおろしたくなるわけね」
「結局、いまの国民はどこの国もある程度刹那的なんじゃないだろうか。アメリカ国民がトランプに賭けてみようとするのも、ある意味そういう問題な気がする。この刹那主義はどこからきているんだろう? 人間個人で考えるなら、刹那主義というのは生き急ぐ人間に現われる徴候だよ。とすれば、いま人間はどこの国の者も等しく何らかの理由で生き急いでいるんだね」
「またおかしな理屈をこねはじめたわね」
「一方で、刹那主義で、許容の狭い世の中なのに、許されている人はいる。某落語家の不倫とかね」
「ああ、あの会見は見事だったから仕方ないわ」
「見事だったから仕方ない? 面白いことを言うね。でもそうなんだよ。我々はコトガラを糾弾しているようで、じつはフンイキしか見ていない。コトガラにどう対処するか、見る者に快感情を与えるような何かがあれば許され、なければ許されない」
「対処を問題にするのは大事なことよ。さすが美しい国だわ。誰だってきれいな対処を望むものよ。誰にだって失敗はあるわけで、その後が問題でしょ?」
「たしかにね。そういう一面もある。でも、そのような世間の姿勢は、結果として『うまく取り繕える奴だけで世界を回していこうぜ』というシステムを創り出しているんだよ。その発想こそが、もっとも非寛容で、刹那的なんだ。世の中には、うまく対処できない奴がいっぱいいるよ、失言ばかりしてしまう奴だっている。そういう人間を血祭にあげ、うまく対処できた人間は悪いことをしていても仲良くしていこうとばかりに許す。もちろん、全員を許せと言っているわけではない。重要なのは──」
「我々が刹那的だってことね?」
「そういうこと。刹那的な我々はどこを目指すのか? 僕には我々が素敵な楽園を目指しているとはとても思えない。滝の下へと真っ逆さまに向かっているのに、急流に身を任せているから誰も気付かないんだ。いいかい、物事の正解、不正解を考えるのは大事だ。しかし、まずはいま動き出している事態が我々の刹那的態度からきている可能性を、そしてその根源は何なのかを考えることさ」
「朝からまったくよくしゃべるわね」
「ところで、さっきから台所にいる青年は誰だい?」
 気づいていたようだ。私は彼を手招きする。
 冷蔵庫の影に身をひそめていた彼はやってきてお辞儀をする。
「セキシビョータロウです、こんちには」
 先日、駅前のファミレスに一日中いる美青年が気になり、声をかけると帰る家がないと言うので連れ帰ることにしたのだ。
「ちょっと待て。君、なんでナイフなんか持ってるんだ……?」
 そう、青年は手にナイフを握っている。私がもたせたナイフだ。私はポオに説明する。
「あなたはいつも帰ってきてほしいのにちっとも帰ってきてくれない。私はもう寂しさが臨界点に達したんです」
 セキシ青年は私が手で合図すると、ナイフをもってポオのほうへと向かっていく。数日前、「あなたの言うことなら何でも聞きます」と青年は言ってくれた。ならば、と私は夫の心臓を私の手に、と依頼したのだ。
 セキシ青年がポオにとびかかる。一瞬だった。青年は鮮やかなナイフさばきでぐさりとポオの胸を切りつけると、皮をはぎ、まだ微かに動いている心臓を鷲掴みで取り出した。
「これであなたは私といつも一緒にいられるわね」
 ところが次に予期せぬことが起こる。
「なんて非寛容なんだ、君は」
 その声は、ポオの口からではなく、青年の口からでもなかった。しゃべっているのは心臓そのものだった。
「君のその刹那主義なところ、それこそが社会悪で……」
 私はおしゃべりな心臓をつかむと窓の外から放り投げた。
 室内は静かになった。だが、直後に混乱に襲われた。私はポオと二人で部屋のなかにいたのだ。恐ろしき錯視。一瞬にしてポオの身体に覆いかぶさった青年だったが、結果ナイフで刺されたのは青年のほうだったのだ。
「まさか君、僕が腹話術がうまいのを忘れていたのかい?」
 さっき心臓がしゃべったと思ったのはポオが喋っていたのだろう。ポオはいつものように私を抱き上げると、言った。
「さて、また死体が出てしまったな。後始末をどうするか。ゆっくりベッドで考えるとしようか」
 ああまたこうして私は夫に誤魔化されてしまうのだ。私の刹那主義を、夫はうまい対応ではぐらかす。そして、そんな夫と別れない私こそが、世界に蔓延するスキャンダルそのものなのかもしれなかった。

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時事新ポオ vol.3(6月号)

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夫のポオと遅めのゴールデンウィークに出かけたのは、6月のはじめのことだった。
「君からデートのお誘いとは珍しいね」
助手席の窓を開け、風を受けて乱れた口髭をいじりながらポオはそんなことを言う。
「よく言うわ。あなたこそ、忙しいのに私の誘いを受けてくれるなんて珍しいじゃない?」
「広島に二週間ほど取材に行く予定だったが、例の演説で取り締まりが強化されていて面倒が多そうだからやめたんだ。そうこうするうちに月が変わってしまったけどね」
「たしかに、あなたの相貌じゃ、ちょっと怪しまれるかもね」
ポオは名前のとおり、この国に昔からいたわけではない。いまだに単一民族国家への執着が強いこの国では、夫のような容姿の人間が大事な演説のある日にそういったスポットをふらりと歩いていたりしたら、確実に職務質問を受けることになるだろう。
「本当に取材かしら?」
「嫉妬かい? 心地いいね。それより、どこへ向かってる?」
「キノコ狩りに山へ行くの」
「ほう、キノコか。僕はキノコが好きだよ。生物と無生物とを媒介する、重要な存在だ」
「喜んでもらえてよかったわ」
「キノコ狩りと言えば、キノコ狩りと称して山に置き去りにされた子が行方不明になった事件があったね」
「見つかったみたいよ。自衛隊の施設で寝泊りしていたみたい。親御さんはしつけのつもりだったようね。それについての私の個人的見解は控えるわ」
私は言いながらアクセルをぐんと踏んだ。
安全運転を頼むよ、とポオは苦笑いする。そんなことを言うなら運転免許をとれ。ポオはそんなこちらの不満は知りもせずに続ける。
「こういう事件があると、しつけのモラルが云々される。そして、子どもが生還されると、その辺りの議論はうやむやになり、やがて美談に変わる。子が何を言ったか僕は知らないが、おおむね生還となれば、親が謝まり、子はそれを許すだろうね。親を絶対許さない、と言う子どもはまずいない。そして大人はそんな子の無条件の愛にあぐらをかく。世の常だ。逆ならどうだろう? 我々が年をとる。子が君を山に捨てる。やがて、警察が君を助ける。子が君の前で泣きながらごめんなさいと繰り返す。君は許すだろうか?」
「まだ子どもがいないから何とも言えないわね。ただ、一度捨てられた記憶は、それが何かの実験であったにせよ、根にはもつかもしれないわ」
「そういうことだ。逆の立場ならそう考えるのに、子どもに対しては、多くの人が最後にごめんねと言えば許してくれると思っている。生還というハッピーエンドをもって、親が涙ながらに子に謝り、それを子が『いいよ』と言うことを、大衆がもし期待していて、そのとおりになっていることに安堵の溜息をもらしているとしたら、その事態全体こそが愚の骨頂だと思うね」
「ずいぶん辛辣なのね」
「それがこの国のかたちだということさ。失踪事件はどうでもいい。しつけかどうかという議論も、どうでもいいんだ。しつけとは身を美しくするために行なわれるわけだが、効果のある方法だけがしつけの名に値する。効果のなかったものはしつけのための試みのエラー。人間だからヒューマンエラーはもちろんある。が、効果のないものや、事故を誘発する要素のあるものはしつけのつもりでも、結果としてエラーだってことは認識しなければならない。今回のはエラーだったんだろう。もし、今回の件で重要なことがあるとすれば、この国はいまだしつけとしつけの試みのエラーの区別があまりついていない曖昧な国だということ。そして、曖昧な国はこんな議論をちょっと真面目な顔でしてはみても、いつしか問題をうやむやにして昔ながらの美談に変えて安堵してしまう。どこまでも曖昧なんだ。もちろん曖昧には美しさもあって、それは桜の花に象徴されてもいるわけだが、曖昧である必要のない部分というのはたくさんあるのに、問題を履き違えるのもこの国のお得意でね。大衆の興味の持ち方自体が、曖昧で移ろいやすい。オバマの広島訪問にしても、奥深くまで見つめようとしないよね。なんで今このタイミングで広島に来たのか。追求すべきはそこの部分だけだと思う。政治家のやることに政治的な意味以外あるわけがない。それをさまざまな感情論と美談に変える【美談マシン】の乱用、オバマ演説が終わった後ではその平和的意義の重要性が語られるか、はたまた、謝罪の言葉がなかったことを言うかのどちらかしかない。前者は美談マシンの乱用、後者は感情論。そして曖昧な大衆は、そのどちらも早急に忘れ去ってしまう。桜の花が散るように」
「やれやれ、なんだか、死にたくなってくるわね」
私はそう言って車を停めた。
それからトランクから、大きな箱を取り出す。
「ずいぶん大きな箱だ。キノコがたっぷり入りそうだね」
「そうね。人ひとり分くらいはたっぷりキノコを採りたいの」
「この箱、たしかに大きいけど人間はさすがに入りそうにないな」
「入るわよ。試してみる?」
「そうだな。君で試そう」
「え…わ、わたしで?」
「いくよ」
ポオはそう言って私を抱き上げると、箱にそっとはめ込んだ。
「ぴったりだ」
驚いた。私が用意した箱はポオにぴったりのサイズに造られていたはずなのに、いつの間にか箱がすり替えられていたのだろうか?
「君はうっかりしていたようだね。君は女性としてかなり長身なほうだ。つまり僕たちの身長はほぼ同じ。どうだい? 抜け出せるかい?」
抜け出せない。いくら足掻いても、身体がぴったり箱にハマり込んで動けない。
「こんな国で生きていくくらいなら、死んでしまったほうがラクかも知れないね」
ポオはそう言いながら箱に蓋をした。そして、私が用意していた落とし穴に箱を落とした。
私はどこまでも落ちていく。どこまでも、どこまでも。
それは私がポオのために用意しておいた墓穴。
彼を生きたまま、早すぎる埋葬をしてしまうための穴。
けれど──こんなに深く掘った覚えはないのに……。
それどころか──まだ着地しない。衝撃がこない。
私は落ち続けている。

そのうち、意識が途絶えた。

次に目覚めたとき、私はポオと船に乗っていた。
漕いでいるのはポオ。
「リオの海はどうだい? いいもんだろ?」
私はいつの間にか、地球の反対側にいたのである。そして、やはり目の前では、ポオがにっこり微笑んでいた。
「こんなに愉快なのは新婚旅行以来だと思わないか?」
夫が着替えさせたのか、私は深紅のドレスを着ていた。そして、指には大きな指輪が。
「ええ、本当に」
夫は覚えていてくれたのだ。今日が私たちの結婚記念日だということを。
ずるい男だ。また殺しそびれてしまった。でも悪くない。
「そろそろディナーにしたいわ」
夕暮れ時の海は、ワイン色に染まり始めていた。
「いいね。アモンティラードでも片手に、シュラスコを食べよう」
ポオは気づいているだろうか?私たちがいま、巨大な渦に巻き込まれつつあることを。恐らく、ポオが地球の裏側まで穴を掘ってしまったせいだろう。海がその開いた穴を中心に渦を作っているのだ。
私たちはこの渦に飲み込まれる。その後は?
ポオは呑気に口笛を吹きながら船を漕いでいる。ねえ、私たちはもうすぐ死んでしまうというのに。
まあいいか、と私は思い直す。この人がこんなに楽しそうなら、どこが終わりでもいいのかも知れない。行けるところまで行ってみよう。
曖昧な国に生まれた私は、そんなふうに憎悪も愛も曖昧に溶かしてひとつにまとめ上げてしまうのだった。
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