ハチミツを塗ることについて

その甘やかな行為について

ためらわぬ人がいて

ためらう人がいて

 

ためらったものの、あえてハチミツを塗る夜には

ハチミツを塗ってやったと思う自分を戒め

なるべくハチミツを塗ったこと自体を忘れたいと願うもの

 

ハチミツを塗ることについて

その甘やかな行為について

ためらわぬ人がいて

ためらう人がいて

 

けれどたしかにハチミツは塗られ

それを塗ったのは自分であって

やはりそこに自我の香りが漂ってやしないかね?

意地の悪いクエスチョンに今宵も答えは出やしない

 

ハチミツを塗ることについて

その甘やかな行為について

ためらわぬ人がいて

ためらう人がいて

 

そうだまったくそのとおり

俺はハチミツを塗った自分が好きなだけかもしれなくて

それでもハチミツを塗らないことは考えられなくて

でもハチミツを塗らないのも自我なんではないかと思うと

結局そんなことはどうでもよく

ただハチミツのとろりとろとろばかりが表皮を覆うのではと思うので

 

そうかまったく俺は無駄なことで頭を悩ませたのだなぁと

またひとつあくびをしたりする

 

ハチミツを塗ることについて

その甘やかな行為について

ためらわぬ人がいて

ためらう人がいて

 

今宵もまた黄金色の幸福を舐める

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漬物が冷蔵庫に残っている

僕の死んだある朝の話さ

うぃいいいん闇うぃいいいん闇

「ココカラ先ドウシタライイノサ」

 

カットされているのはもちろん

僕が生きているときに包丁でスッとね

いくつかなくなっているのはもちろん

ごはんの相手にカリッとね

 

どこの誰かが漬けて

どこの誰かが売って

どこの誰かが買って送ってくれた

そうして冷蔵庫に辿り着いた漬物を

その未来のことなんか考えもせずに

ある朝僕は死んでしまった

うぃいいいん闇うぃいいん闇

「コレジャ腐ルコトモデキヤシナイ」

 

残されたのは何で

食べられたのは何で

死んでしまったのは何で

生きているのは何で

そういう一つ一つのことを考えながら

君にはぜひともある朝唐突に

僕の冷蔵庫の漬物のことをぼんやりと考えてほしい

 

「あの日、わたしが送った漬物は……」

そういいぞいい調子だ

もっと思い出せ

何もなくても思い出せ

僕は君に何も残さない

何も残さず消えていく

でもいいから思い出せよ

そして走るんだ

どこへってもちろん冷蔵庫へ

 

うぃいいいん闇うぃいいいん闇

「静カニシロヨ、誰カクル」

 

しなびた漬物を取り出したら

ほかほかのご飯を炊けよ

そして食べるんだ

カリッと音を立てながら

そこでかつてすきっ歯の僕がそうしたように

 

約束だよ

漬物が冷蔵庫に残っている

僕の死んだある朝の話さ

うぃいいいん闇うぃいいいん闇

「騒ガシク冷タイ闇デ君ヲ待ツ……」

 

 

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塩の輪、僕はいかにも君がきらいだ

生まれてきては涙を流し、おしっこをし
白い血を飲んでは新たにたくわえる
僕たちはみんなそうやって塩をめぐらす
たった数カ月、たった数日で終わった命でさえもそれは変わらない
みんなみんな塩を作ってはながし作ってはながし
そうしてまた塩の輪ができる

遠いあの日、同じ日に失われた命も
今日という日に、静かに消えた命も
塩と引き換えに毎日きょろきょろと首を動かし
瞳をくるりくるりと回し
日の眩しさに笑い、夜の冷たさに唇を固くした
そうしてまた塩の輪ができた

そんなあれこれを考えるからか
それとも残された者の瞳からいま出て行こうとしている塩を思うからか
僕の瞳からもやはり同じようにまた塩が出ていく
何か飲まなければ
からからに乾いてしまうよ
けれどこのからからは君の出て行ったからからで
いっそからからのままならば何も失わないのにと
塩の輪から逃げたくなる

もうこんな思いはしたくない
もうこんな思いはしたくないと
机の下の子どものように思うから
ずっとこのからからと一緒にいたいと願ってしまう
けれど僕たちは強さという弱さのために
きっとそのままではいられなくて
また結局、白い血を口にふくんではゴクリふくんではゴクリ
そうしてまた塩の輪ができる

ときどきは礼を言う
塩の輪、ありがとう

けれどやっぱり塩の輪、おまえがきらいだ
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