竜にまつわるイメージをかき集めるのだけれど

まず竜が何を食べるのかを知らないので

君が朝起きてトーストをかじるのを見つめるのだ

たとえばある朝、竜だって起きたくもない朝はあるだろうし

うろこの手入れだとか、うろこの入れ替えだとか

はたまた髭のカラーリングだとか

そんなことのためにやれやれと身を起こす

それから何を食べようと頭を悩ませる

「ねえなんでさっきから見つめているの?」

「いや竜がね」

「はい?」

「竜が」

「りゅう?」

「竜はトーストはかじらないよね」

「知らないわ。私竜じゃないから」

だろうね、僕はまったく無駄なことをしていたのだ

でもほかにどうしようもないじゃないか

いまこの部屋には君がいて

いまこの部屋でものを食べている

この部屋には竜がいなくてましてや竜の食べ物もない

「でも硬いものは避けるでしょうね」

「どうして?」

「どんな歯だっていずれは摩耗するもの。

竜って長生きするんでしょ? 何百年も何千年も生きていたら

歯がもたないわ」

「ああ」

「うむ」

それから僕らは題名のない音楽会なんかを見ながら

いそいそとセックスをする

いつもより長いのは竜のうろこを数えているから

「集中して」

竜になりすまして動き出した僕に彼女は説教をする

ここに竜はいないけれど

竜の調教師はいるようだ

ねえご主人さま、まず僕は何を噛んだらいいでしょう?

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ハチミツを塗ることについて

その甘やかな行為について

ためらわぬ人がいて

ためらう人がいて

 

ためらったものの、あえてハチミツを塗る夜には

ハチミツを塗ってやったと思う自分を戒め

なるべくハチミツを塗ったこと自体を忘れたいと願うもの

 

ハチミツを塗ることについて

その甘やかな行為について

ためらわぬ人がいて

ためらう人がいて

 

けれどたしかにハチミツは塗られ

それを塗ったのは自分であって

やはりそこに自我の香りが漂ってやしないかね?

意地の悪いクエスチョンに今宵も答えは出やしない

 

ハチミツを塗ることについて

その甘やかな行為について

ためらわぬ人がいて

ためらう人がいて

 

そうだまったくそのとおり

俺はハチミツを塗った自分が好きなだけかもしれなくて

それでもハチミツを塗らないことは考えられなくて

でもハチミツを塗らないのも自我なんではないかと思うと

結局そんなことはどうでもよく

ただハチミツのとろりとろとろばかりが表皮を覆うのではと思うので

 

そうかまったく俺は無駄なことで頭を悩ませたのだなぁと

またひとつあくびをしたりする

 

ハチミツを塗ることについて

その甘やかな行為について

ためらわぬ人がいて

ためらう人がいて

 

今宵もまた黄金色の幸福を舐める

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漬物が冷蔵庫に残っている

僕の死んだある朝の話さ

うぃいいいん闇うぃいいいん闇

「ココカラ先ドウシタライイノサ」

 

カットされているのはもちろん

僕が生きているときに包丁でスッとね

いくつかなくなっているのはもちろん

ごはんの相手にカリッとね

 

どこの誰かが漬けて

どこの誰かが売って

どこの誰かが買って送ってくれた

そうして冷蔵庫に辿り着いた漬物を

その未来のことなんか考えもせずに

ある朝僕は死んでしまった

うぃいいいん闇うぃいいん闇

「コレジャ腐ルコトモデキヤシナイ」

 

残されたのは何で

食べられたのは何で

死んでしまったのは何で

生きているのは何で

そういう一つ一つのことを考えながら

君にはぜひともある朝唐突に

僕の冷蔵庫の漬物のことをぼんやりと考えてほしい

 

「あの日、わたしが送った漬物は……」

そういいぞいい調子だ

もっと思い出せ

何もなくても思い出せ

僕は君に何も残さない

何も残さず消えていく

でもいいから思い出せよ

そして走るんだ

どこへってもちろん冷蔵庫へ

 

うぃいいいん闇うぃいいいん闇

「静カニシロヨ、誰カクル」

 

しなびた漬物を取り出したら

ほかほかのご飯を炊けよ

そして食べるんだ

カリッと音を立てながら

そこでかつてすきっ歯の僕がそうしたように

 

約束だよ

漬物が冷蔵庫に残っている

僕の死んだある朝の話さ

うぃいいいん闇うぃいいいん闇

「騒ガシク冷タイ闇デ君ヲ待ツ……」

 

 

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