黒猫:さて、今夜で第5回を迎えます、活字ラジオ。今日は久々にのんびりできる回だと聞いているが?
作者:そうなんだよ。あ、でもその前に一つ前の告知をここで軽くさせてもらいますね。一つ前の記事で『花酔いロジック』の飼い主におなりいただいた方を対象にした「酔いのエピソード募集」のお知らせがあります。締め切りまで一か月近くありますのでどしどしご応募いただければと思います。
黒猫:でもこれ、抽選で5名にサイン本って書いてあるけれど、もうすでに持っている本だから二冊あることになっちゃうんだな。
作者:い、一冊は保存用に、もう一冊は布教用にという手も(汗)
黒猫:まあそこは飼い主の皆様にお任せというわけだね。
作者:うんうん。よし、これで業務連絡は済んだな。さて何について話そうかな。
黒猫:君のミステリ観について聞いてみたいね。
作者:まったく興味ないなそれ。そんなものを語るくらいなら、自分のミステリ観を体現した本でも出したほうが早い。
黒猫:それは言えている。僕も、言ったもののまるで興味がない。
作者:俺のミステリ観を語ったところで、読んだ人の感想が変わるわけでもないからね。
黒猫:じゃあ、季節にちなんだ話でもどうだろう? 日本の四季折々の美しさについて、その繊細な美をあらゆる観点から……聞いてる?
作者:いや、いま水着について考えてたから聞いてなかった。
黒猫:水着? 
作者:今日は海の日だろ? 付き人はどこで何をしてるんだろう、と思ってね。
黒猫:……それってつまり、彼女の水着姿を想像したという意味か?
作者:なんでそうなるんだ? 水着と付き人について深い考察を巡らしていただけなのに、君はすぐそうやって彼女をいやらしい方向に……。
黒猫:だ、誰がだ! ハメたな、貴様……。
作者:作者を貴様なんて呼ぶと次巻でひどい目に遭わせちゃうぞ。
黒猫:だいたい水着と彼女についての深い考察って何だよ。
作者:水着なしで泳いだら、ちょっとアブナイし、付き人なしで黒猫シリーズがもつわけないだろ? つまり水着と付き人はある意味で同じ役割を担っているわけさ。
黒猫:それは間接的に僕を裸と等位に置いたことになるぞ。だいたいそれ、たった今思いついたんだろ?
作者:あ、バレた? 
黒猫:そんなことより、ちょっとはこの先の話でもしたらどうだ? 刊行予定とか。
作者:そうだね。その前に、ちょっとハマってる音楽のことでも話そうか。
黒猫:先に音楽のコーナーをやってしまうわけか。
作者:今日は水曜日のカンパネラというユニットのアルバムの中から『シネマジャック』というアルバムについて。
シネマジャック/作者不明

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黒猫:一度だけ聴いたことがある。何とも、妙な音楽だよね。エレクトロサウンドは正統派だけど、ラップの乗せ方とか、歌詞が妙なのかな。
作者:いや、俺はね、あれは妙なのは歌詞ではなくて音楽と詞とリスナーの「間(ま)」みたいなものだと思うね。
黒猫:「間」か。
作者:キン肉マン、ゴジラ、ケンシロウ、ランボー…こう聞くと二十世紀的なモチーフがレトロな雰囲気を出してそれがアクセントになっているんじゃないかと考えてしまう。でも、必ずしも毎回20世紀的なものが出てきているわけではない。このアルバムは一応映画をモチーフにしていることになっているが、義経やダ・ヴィンチなど歴史的な軸に向かったり、最新曲では北海道自体を扱っていたりする。共通するのは、現代に存在していたり、存在が知られてはいるものの、ある一定の距離をとっているであろうもの、ということかな。ゴジラはみんな知っている。でもゴジラが好きな人でなかったら、ゴジラの周辺については語れない。
黒猫:なるほど。たしかに水曜日のカンパネラの歌詞は、興味の有と無の境目にあるかも知れないね。それこそ「キミと僕」で完結しているJ-POPがそぎ落とした現代の無意識みたいなものを突いているのかも知れない。
作者:うん。そこに日々を生きているリスナーがおり、どこか静謐でストイックでもある旋律を奏でるエレクトロサウンドがあれば、〈間〉が生じる。音楽ってね、透明な娯楽だと思うんだよ。
黒猫:透明な娯楽?
作者:絵画も映画も小説も、手を休めなければ興じることはできない。でも、音楽は仕事をしながら同時に享受することができる。
黒猫:ああ、たしかにね。そこに香水も加えてもらいたいところだね。
作者:あ、そうか、匂いもそうだね。
黒猫:椅子の芸術というのもお忘れなく。座って仕事をしているだけで、椅子に秘められたテクネーを味わうことができるんだから。
作者:そうそう、そんな感じで、要するに「ながら鑑賞」って、どうしても「快」だけを求めがちになるんだけれど、そうしていくといつの間にか排除されていってしまうノイズみたいなものがあって、でもその排除しがちなノイズのほうにこそ重要なものがあることもあるんだよね。そもそもこの世界なんて自分にはあんまり関係ないものばかりで構成されているわけだから。
黒猫:その辺りは君の創作ともたしょう関係してきそうだな。
作者:そうだね。仰る通り。昨今の音楽シーンを見てると、ゲス極もそうだけれど、音楽それ自体や歌詞自体ではなくてリスナーとの〈間〉みたいなものが、一つの体験のキーワードみたいになっている。この〈間〉の問題を小説の問題にパラフレーズするとどうなるのか。
黒猫:どうなる?
作者:わからない。考えてる。考えてたら、ミステリ頭巾ちゃんという妙なキャラクターが空から降ってきて俺の腹をぼこぼこ蹴った。
黒猫:ひどい。
作者:でもミステリ頭巾ちゃんが、「毒入り密室島チョコレート」みたいな短篇に登場したと想像してみると、何かそこにはゲス極的な、あるいは水カン的な何かが現出しそうな気がしないではない。それを俺が書くことに意味があるかって問題になるとまたべつなんだけどね。
黒猫:そこで立ち止まれるようになるとは。キミも大人になったね。
作者:そうだね。この三年で学んだのは、いいアイデアと思っても、必ずしも自分が書かなきゃいけないアイデアじゃないことも多いってことかな。
黒猫:だろうね。実際、現代には知られていないだけでバッハの楽曲のなかに「これバッハ?」と言いたくなるものもないわけではない。何をやってもいいけれど、何をやってもバッハと感じられるわけではない。同様の問題は君にも言えるだろうね。
作者:そうだね。ずっと感じてるのは、これまで出したようなものをこれからも作り続けるってのはそれほど大変じゃないんだけど、ただそれだけだと俺がつまらないってことなんだよね。
黒猫:そうなると、これから出すものはこれまでとはまた変わってくるわけだね?
作者:そうかな、たぶん。まあ連載をまとめたり、連載してなくても定期的に編集さんに渡していたりするので、正確に最新型というわけではないんだけど、やっぱり少しずつ何かが変わってきてるんじゃないかなとは思う。それが読者からどう見えるかというのは分からないんだけど。とりあえず、直近で出ると思われる9月のものについてものすごく曖昧な話をしておきたい。
黒猫:曖昧な、いいんじゃないかな、先の話だしね。
作者:まあ三年経って、だいぶ書き方によくも悪くも慣れというか、そういうものは出てきた頃かな、と思う。で、初期に比べてうまくなったところもいっぱいあれば、そぎ落とされたものもあると思う。それこそ、無意識のノイズみたいなものだ。もっとも大きなものというのは、「初期衝動」ってやつだよね。いつ初期衝動が消えるのか、作家にはなかなかわからない。でもたぶん自然と初期衝動って消化されていってしまうものなんだと思う。
黒猫:だろうね。「初期」だからね。
作者:そう。一生初期衝動を保つというのは難しい。先日久々に『奥ノ細道オブザデッド』を数ページ読みかえしたんだけど、ひっくり返ったね。何じゃこりゃ、と。そもそもクリスティ賞とれる予定がないなかでラノベの執筆依頼を受けて書いていたものだから、「これ一冊で俺は終わるかもしれない」と思いながら書いてるから、詰め込み具合が半端じゃない。一方でストーリーなんてあってないようなもんだし、とにかく滅茶苦茶なことをやってるんだよね。でもそのパワーたるや何とも言い難いものがあり、ああ、これはさすがにその後の作品のどれにもないものだな、と。
黒猫:となると、その初期衝動の復興がテーマ、かな?
作者:いや、初期衝動は復興しない。それは無理。あそこまでの滅茶苦茶は今後もオブザデッドの続編をやるのでなければ、やる気はないよ。ただ、初期衝動のなかにある純度の高い青色みたいなものをすくい取って保存したいな、と改めて思ったんだよね。
黒猫:ふうん、要するに中二臭さを忘れるな、と?
作者:うっ! そうまとめられるとちょっと抵抗を感じるが。
黒猫:大事なことなんじゃないか? それこそさっきの話につながる。音楽がリスナーとつながるためにはクオリティよりも「間」を重視しているように、小説における「間」と言えるものが、もしかしたら初期衝動のなかにある「青色」には少しばかりあるのかも知れないよね。
作者:そうなんだよ。たとえば君と付き人の関係の今後を描くうえでも重要かなと思うね。
黒猫:そこに話がいくか……。
作者:「薔薇」「約束」を経て読者はいよいよ次は、と期待してもいるだろう。こうなると期待どおりのほら、あれでしょ?と思っている人は多い。
黒猫:それについてはノーコメントだ。
作者:恋愛って交際関係が成立しかけるときに同時に何かを失いがちなんだよね。それが何かというと初期衝動。表面張力ぎりぎりだった、みずみずしい初期衝動が溢れて減っていく。そのほうが穏やかに幸せにはなっていけるわけだけれど、それって傍から見ていていちばん気持ちのいい部分はもう過ぎちゃってるんだよ。
黒猫:たしかに、夫婦の日常を描いたドラマを恋愛ドラマとは言わないな。
作者:そうなんだよ。だから次作について詳細はまだ言わないでおくけれど、テーマは「青」かな、と思う。
黒猫:ほうほう。わかりやすいと言えばわかりやすい。
作者:僕は作品って一人で作るものではなくて編集者と二人三脚で作るものだと思っていて、だから毎回編集さんとはディスカッションを重ねるんだよ。
黒猫:大事なことだ。
作者:基本的に依頼してくる編集者さんは僕の作品に興味をもってくれてお声かけいただくわけだけれど、その興味をもつポイントって皆さん違うわけ。だから、最初にするのが「どの部分を気に入って声をかけてくれたのか」のヒアリング。で、そうすると、その人が俺のどういう部分を引き出したいのかが見えてくるわけ。そこに乗っかる乗っからないというのは、ある種の賭けでもあるんだよね。今度出すところの編集さんは「黒猫」と「奥ノ細道」両方を読んでくれていて、しかも「奥ノ細道」のほうにも好意的な意見を寄せてくださっていたので、両方とも評価してくださる方って、ある意味とても珍しい方なんだ。
黒猫:珍しい(笑)。いや、失敬。
作者:いやホントに。大抵は黒猫を褒める人は奥の細道についてはさりげなく言葉を濁して逃げるし、逆に奥ノ細道をプッシュする人は黒猫のほうは内心では口に合わなかったっぽいところがある。
黒猫:なるほどなるほど。
作者:でも、だから何をやってもいいってわけではないだろうな、と思ってもう一つ、僕がよく編集さんにぶつける質問をした。
黒猫:何だろう?
作者:映画でも小説でも好きな作品を一つ挙げてもらったんだ。そうすると、そこから逆算してその人が自分の作品のなかのどの辺りに魅かれているかがわかってくる。で、その方が挙げてくださったのは、とある青春漫画だったんだ。それを僕もたまたま読んでおり、ああなるほど、と何かちょっと合点がいったんだよね。
黒猫:曖昧な合点の行き方だな。
作者:まあね。それで、キーワードとして「音楽」、「喪失感」から始まる「初期衝動」みたいなところがぼんやりと浮かび上がってきた。偶然にも、そのミーティングの行きの電車で思いついたプロットがそのキーワードに合っていたから、それを口にしたら気に入ってくださったので、舞台は学校、軽音部、というところまであっさり決まった。
黒猫:それがいつ頃の話?
作者:「遊歩」を刊行した二か月後くらいかな。
黒猫:けっこう前だね。
作者:そう。結局、何だかんだやりとりしているうちにどんどん細かい点が変わっていき、どうにか現在の形に近づいたのが半年くらい前かな。で、そこから慎重に作業を進めて、いまゲラ作業中というところ。
黒猫:タイトルは?
作者:『(仮)そして、何も残らない』。
黒猫:直球だな。
作者:うん、ストレートな青春ミステリだと思う。梗概は、まあこれからおいおい語っていくことにしよう。とにかく、初期衝動の「青」をテーマに、ひりひりとした痛みを伴うような物語に仕上がっているのではないかと思うので、お愉しみに。
黒猫:もう少し内容が知りたいところだが、それは次回にとっておくことにしよう。
作者:ところでさっき、誰も夫婦って単語を出してないのに、勝手に「夫婦の日常を描いたドラマを恋愛ドラマとは言わないな」とか言いだしたよね? あのとき、付き人と夫婦になることとか想像してた?
黒猫:な……君は一体何を言ってるんだ?
作者:いいじゃないか、誰と夫婦になる想像をしたって。誰も気にしないから言っちゃいなよ。想像してたんだろ? 付き人と夫婦になるところをさ。
黒猫:そんな質問に僕が答えると思ったら大間違いだ。どう答えたって損をするに決まってる。
作者:ふうん、そうか、さっき付き人の水着姿を目撃したから写メを撮っておいたんだけど、きみ要らなそうだし、削除しちゃおうかな。
黒猫:……それは消す前に拝見するだけはしておこうか。美学的に興味がないこともない。
作者:何が美学的興味だ、このスケベ。
黒猫:何を言っているのかわからないな。さっき君が言ったことじゃないか、水着と彼女の間には深い考察を繰り広げる余地があるんだよ。
作者:あ! この男、何という都合のいい……。
黒猫:それでは皆様、今夜はこのへんで。
作者:皆さん、この男はただのムッツ……あ! ケータイ取った! 泥棒!
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さてさて、発売から十日近く経ってから飼い主募集というのもおかしな話ですが、飼い主を募集しています、のお知らせです。
前回、活字ラジオでもお話しましたが、今回飼主さまを募集しておりますのは、花酔いロジックの続編、『花酔いロジック 坂月蝶子の恋と酔察』です。
前回以上に甘くほろ苦くなった一冊。



収録短篇は以下の5話。

「朧酔いロジック」
スイ研の先輩、三鳥が失踪。手がかりは恋人の証子が事前に画面保存したSNSの謎の女性とのやりとり。やがて、蝶子と神酒島は一軒の居酒屋にたどりつく。果たしてそこに三鳥はいるのか。そして謎の女は何者なのか?

「紅酔いロジック」
血でつくられたという幻の酒を求め、閉鎖的な町を訪れるスイ研メンバー。だが、そこでは前日に神父が酒でつぶされていた。幻の酒は実在するのか?

「華酔いロジック」
花火大会の夜、蝶子は雑踏のなかで男女の謎のやりとりを耳にする。その謎の一言から酔理合戦が始まるが真相は……?

「化酔いロジック」
大学で行なわれるハロウィンのイベントのさなか、後輩の一年女子の兄が突然やってくるというハプニングが発生。しかし、奇妙にも兄は妹に接吻をしたのだった……。

「卒酔いロジック」
卒業コンパのさなか、証子先輩が一時的に閉ざされた空間から消失する事件が発生。彼女はどこへ消えてしまったのか?

といった感じです。
前作以上にバラエティ豊かにはなっているかな、と思います。
そして、神酒島先輩が幹事長をやめ、蝶子も二年生。新入生を歓迎せねばならない側に回ります。
さらに厄介な新入生も現れ、恋のほうもひと波乱の予感。
といった感じです。
また、二つ前の記事でもお伝えしたとおり、本作をより楽しむための無料PDFが、現在期間限定にて公開中です。まだの方、ぜひともこの機会にお読みいただければと思います。

さて、それでは、タイトルにもあるとおり、もう一つのお知らせに移ります。

「酔い」の面白エピソード大募集


【募集期間】7月8日0時00分~8月8日23時59分59秒
【内  容】お酒にかぎらず、「酔い」にまつわる面白エピソードを募集いたします。自分の体験、他人の体験は問いません。私、森晶麿が仕事を終え、ビールを飲む際に拝読しながら思わずニヤッとしてしまうようなエピソードを140字以内でお送りください。

【応募方法】Twitterにて〈①140字以内のエピソード、②お買い上げいただいた花酔いロジック2単行本の写メ、③末尾にハッシュタグ「#花酔いロジック」〉以上の3点を記入・添付のうえ呟いてください。
【対  象】『花酔いロジック 坂月蝶子の恋と酔察』の飼い主におなりいただいた皆様。
【抽選特典】エピソードを呟いてくださった方の中から抽選で五名様に花酔いロジック2のサイン本(当選者様ご本人のお名前も添えたもの)をプレゼント致します。
【発  表】8月10日ブログ及びnote、Twitter上にて、当選者のエピソードを公開します。※鍵アカさんの場合は、エピソードのみ紹介させていただきます。

当選者の方へは、別途ダイレクトメッセージにてご住所などをお教えいただくことになると思いますので、その旨ご了承くださいませ。
それでは、私のお酒が美味しくなりそうな楽しいエピソードを首を長くしてお待ちしております。
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