お陰様で、さまざまな読者の方から次々とご感想をお寄せいただいております拙著新刊『四季彩のサロメまたは背徳の省察』につきまして、本日は一点、ご報告させていただきたいことがございます。

四季彩のサロメまたは背徳の省察/早川書房

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『四季彩のサロメまたは背徳の省察』には先日、特典クイズを出させていただきました(二つ前の記事をご参照ください)。
しかし、もう一つこの初版限定の申し訳ない特典のほうをご報告させていただきます。
266頁4行目の「忍」→正しくは「カラス」です。
謹んでお詫び申し上げます。
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こんばんは。
Twitterを現在、華影忍に乗っ取られているので、話をするのが久しぶりな感じがしますが、きっと気のせいでしょう。
さて、ご存知かと思いますが、飼い主を探しております。
ペットの名は、『四季彩のサロメまたは背徳の省察』
四季彩のサロメまたは背徳の省察/早川書房

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詳しい仕様は、ひとつ前の「黒猫の夜話または活字ラジオ」をご参照ください。
艶っぽくも気品あふれる丹地陽子先生による装画が目印です。

今回は、飼い主におなりいただくのに、かなり難しい条件があります。
・まず、恋人やパートナーに内緒で飼っていただける方。
・そのうえ、万一、その存在を知人や友人に指摘されたときに、「ただのミステリ」という無難な回答をすることのできる方に限らせていただきます。

詳しくは言えませんが、黒猫シリーズの飼い主の皆様にもぜひ、とは申しましたが、もちろん内容自体は、黒猫シリーズなんか毛ほども知らなくとも楽しめるものとなっています。

本作を執筆するにいたった経緯も、前回の活字ラジオやnoteの「ココダケ話」などに書いておりますので、そちらをご参照ください。

じつはこの三年、悩んでおりました。
僕としては、作家名を意識しないで読めば、作品自体は必ずやご満足いただけるものを書いているつもりでおりましたし、その思いは今も同じです。
しかし、「黒猫シリーズでミステリ界にデビューした森晶麿」というフィルタを通すとなると、かなり実験に満ちた三年だったように思います。正直に言えば、「これは森晶麿に求めるテイストではない」的なことを言われたのは一度や二度ではありません。
僕自身があまり作家を意識して読むことがなく、特に国内作家だとほとんどないので、そう言われたときは不思議な気持ちがしました。
毎回別の作家を読むような気持ちで読んでくれればいいのに、とも思いました。けれど、そういったご意見を目にするたびに、その方たちの考え方もまた一理あるのかもしれない、とも思うようになりました。
しかし、そうは言っても、よし森晶麿テイストを統一していこうと思っても簡単なことではありません。
たとえば、黒猫シリーズのなかの主成分と思われている、ペダンティック、ゴロンゴロン、女性視点、そのどれかひとつ、あるいは全部を使ったとしても、形式だけ「森晶麿」になっていても本質で違っている可能性もあります。
それらは、じつは表面的なタグでしかありません。タグだけをそろえてもテイストにはならないのです。いったい、読者の皆様がどういう状態を指して「森晶麿だ」と判断するのか。その基準を知りたくて、僕はこの三年間足掻き続けていました。
で、少し前に断篇小説集なるものをブログで一日即興で書き続けたときに、少しずつ何かが見えはじめました。それまで勝手にやっちゃいけない、と思い込んでいた檻みたいなものがはがれていったのです。
でもまだ足りませんでした。
そこで、読者により身近に意見を聞きたくて、オーダーメイド森晶麿なる企画を立て、読者編集者を募って、読者さんを編集者にして小説を書いてみました。これも大いに発見がありました。
何というか、自分が外から押しつけられたと思って窮屈に感じていた「森晶麿」という檻が、じつはとても自由度の高いものであることに気づいてきたのです。
一方で、それとはまったくべつの経路で、三年間の実験を総括するような小説も書きました。『恋路ヶ島サービスエリアとその夜の獣たち』がそれです。
断篇小説、読者編集、恋路ヶ島という三つの体験によって、僕は完全に自分のなかのあれこれに片がつけられたのです。
しょうじきに言えば、今も具体的に何が求められているのかはわかっていません。わかっているのは、今回の『四季彩のサロメ』を執筆しているときの状態がとても自然であったこと。そして、「ああ、たぶんこれは全然テイストが違うけれど黒猫シリーズの読者の方にも読んでもらえるはず。これを読んでかなりびっくりはするだろうけど、森晶麿じゃない、とは言わないはず。むしろこれを待っていたと言ってもらえる確率がけっこう高いんじゃないか」と感じたということです。
内容は、まったく黒猫シリーズとは真逆です。
焦れ焦れはなく、触れて触れて触れまくる小説で、そこに嫌悪感を抱かれる可能性もじゅうぶんにあります。女性一人称ではなく、華影忍という「女百科全書」を自称する高校生の一人称です。
でもこの作品を書けたことで、たぶん僕はようやく皆さんが求めている「森晶麿」の輪郭をわずかにでもつかめたような気がしています。それは自分の創作の挑戦とはまた別個の、皆さんとつながるための挑戦だったのだと思います。

といったわけで、一人でも多くの方に、飼い主におなりいただければ光栄です。

華影忍より一言。


「俺を飼え」


それでは特典について。
もはや恒例のようになっていますが、決して恒例にしたいわけではないのですが、何やかやと内外から要望があったりなかったりで結果的に今回もやらせていただくことになりました。

【特典クイズ】
作品に登場するカラス。物語のエピローグ部分では、彼と縁戚のある人物が登場します。その人物の名前を、カタカナ三文字(または、わかる方は漢字二文字)で記してください。

【応募期限】
5月15日~6月15日kuroneko.since2011@hotmail.com宛てにご応募ください。
お送りいただいた方には、48時間以内に特典PDFデータがダウンロードできるURL付のメールを送付させていただきます。※48時間過ぎてもメールがこない場合、メール送信エラーもしくは貴方様のメールが受信できていないおそれがありますので、ブログコメント欄やTwitterにてその旨お知らせください。前回のように期限を待ってから送信する形式だと、エラー発見が遅れますので、今回はこのようなスタイルにさせていただければと思います。
【肝心の特典】
それで、今回の特典ですが、触れて触れて触れまくる今作にちなんで、「触れまくる断篇小説集」とさせていただきます。いつものように、どこかで一日時間をとって集中的に即興でこれから書く、どこにも売られていない断篇集をあなたに。※もしかしたら他にももう一点何かがつくかもしれません。その際はまたアナウンスします。

それでは、多くの方のご応募、お待ちしております。



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黒猫:こんばんは。毎月20日に更新しております〈黒猫の夜話または活字ラジオ〉の第二回です。
作者:いやー前回は何も話すことがなくて、よく間がもったもんだと我ながら感心してしまうね。
黒猫:間がもったんじゃないよ、もたせたんだよ。まあ、毎月やるわけだから、あまり気合いを入れずにいこう。
作者:ふふ、ところが今回は告知しなきゃならないことがあるからね。「気合い入れずに」ってわけにもいかないのだ。
黒猫:『四季彩のサロメまたは背徳の省察』か。
四季彩のサロメまたは背徳の省察/早川書房

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作者:そうそう。装画は丹地陽子先生、装丁はハヤカワデザインさん。色校はこんな感じ。もう何も言うことはないくらい美しいよね。ここにはアップしないけれど、ミステリマガジン掲載時の丹地先生のイラスト3枚も非常に美麗なんだよ。ぜひ本を読んだ後にでもバックナンバーを見ていただきたいところ。



黒猫:じゃ、もう皆知ってるかもしれないけど、知らない方のためにも、まずあらすじからお願いしようか。
作者:オホン。では、ハヤカワさんのHPに掲載されているあらすじをそのまま読もう。
私立扇央高校朗読部の主・華影忍(はなかげしのぶ)。
あ、これがその忍さま。


〈歩く女百科全書〉を自称する彼は、
新入部員の後輩、通称「カラス」から、(これがカラス↓)



春休みに一目惚れした女子生徒を探してほしいと頼まれる。
だがカラスが探していたのは
「存在するはずのない」少女だった……。


カラスの仄かな恋心は、
嫉妬が引き起こした残酷な夏の事件、
軽薄さが全てを崩壊させた秋の事件を経て、
次第に忍と彼の婚約者の歪な関係へと繋がっていく――。


青い春の只中で、今は亡きサロメの幻影に囚われた
美しき男子高校生の一年を描く。
黒猫:なるほどね。内容について僕があれこれ聞くのはやめておこう。どうもあまり僕の好まない種類の話のような気がするしね。
作者:ん? BLじゃないぞ?(※←定義によります。ホームズ&ワトソンがBLならBLかも知れません)
黒猫:そういうことじゃなくて、よくもこんな露骨な……。
作者:ふふ、なんだ、読んでないふりして読んでるんじゃないか。まあまあ、それなりに理由があるんだから。
黒猫:そりゃ理由はあるだろうさ。ただね、はっきり一言言っておきたい。「黒猫シリーズの飼い主の皆様にもぜひお読みいただきたい」って君はTwitterで言っていたよね?
作者:言ったね。
黒猫:そもそもその宣伝が少し僕にとっては迷惑なんだよ。
作者:ほう。それはなぜ?
黒猫:黒猫シリーズとまるで趣向が別物じゃないか。
作者:そうだよ。
黒猫:黒猫シリーズの飼い主の方のなかにはこの手の小説に嫌悪感を抱く方もきっといると思うよ。
作者:いらっしゃるかもしれないね。でもそれはどんな作品発表するときも避けられないリスクなんだよ。誰からも好かれる作品なんか存在しないし、黒猫シリーズで森晶麿に興味をもってくださったからといって、ほかの作品がイケるとも限らない。くわえて、君も指摘したとおり、この作品の持ち味は黒猫シリーズとは大きく異なる。それでも、黒猫シリーズの読者に読んでいただきたい理由が三つある。
1つ:本作が、早川書房から出す、初の黒猫シリーズ以外の作品だってこと。
黒猫:デビュー出版社からシリーズ以外のものを出すというのは一つの大きな挑戦だからね、黒猫シリーズの飼い主の皆様に応援いただきたい気持ちはわかるよ。しかし……まあいい。二つ目は?
作者:2つ:装画が、黒猫シリーズの装画を手がけてくださっている丹地陽子先生だから。
黒猫:うん…装画が丹地先生ときたら、そりゃあ黒猫シリーズの飼い主の皆様にとっては食指の動くところかもしれない。しかしだからと言って……。
作者:三つ:詳しくは言えません。でもとにかく最後まで読めばわかります。というか、黒猫、君はもう読んだからわかってるだろう?
黒猫:ノーコメントだ。この件に関しては僕はいっさいコメントしないでおこう。そのほうがいい。
作者:じゃあ、僕が黒猫シリーズの飼い主の皆様にお読みいただきたい理由も理解できるだろ?
黒猫:だからノーコメントだと言ってるじゃないか。
作者:どうせノーコメントなら、最初から非難がましく言わなきゃいいんだよ。
黒猫:できれば読んでほしくないんだよ。というか、黒猫シリーズの飼い主の皆様をこんな世界に引きずり込まないでほしい。
作者:こんな世界、とは?
黒猫:……だからノーコメントだって。
作者:言いにくそうだから僕が話を進めていこう。要するに、黒猫シリーズが触れ合わない恋愛を軸に描いているのに対して、この忍さまのシリーズは徹頭徹尾触れて触れて振れまくる恋愛を描いている。ここの部分がどうなのってわけだろ?
黒猫:……それだけじゃないけど、それは大きいかな。
作者:君の心配はよくわかる。僕だってそこは書く前から危惧してたからね。この作品は四話構成なんだけれど、最初の一話を書いた段階で編集の高塚さんに送ったときに絶対つっ返されると思ってたんだ。「森さん何ですか、この小説は! こんな、こんな、こんなものを書いて! 信じられません! やっぱりシリーズ外はやめて黒猫の続きでいきましょう!」って言われるんじゃないかなってね。
黒猫:ずいぶん長いセリフを想定したもんだね。
作者:ところが、彼女がいろいろディレクションはしつつも、大筋としてはオーケーを出してくれたものだから、おいおいいいんですかい、と。
黒猫:自分で書いておいて「いいんですかい」はないだろう。
作者:自分としてはミステリの書かれた書物として出版印刷できるぎりぎりがどのへんなのかを知りたいというのもあって、かなり挑戦的な気持ちで書いたつもりだったんだ。「これがボツになったらお清楚な物語書いちゃおっと」くらいの気持ちでね。だからさあ困った。書くからには嫌われるのは百も承知で取り組まなければならない。黒猫シリーズとは似ても似つかないものを始めるわけだからね。
黒猫:そもそも最初に「黒猫シリーズ以外で」ってなったときは話し合わなかったの?
作者:話し合ったよ。最初俺は人間の一生を通して一つの恋愛を追っていくような話を書きたいと思ってたんだよね。そうしたら、高塚さんが「高校生の恋愛が読みたいです」って。
黒猫:キリッ!て?
作者:そう、キリッ!て。だからね、青春のなかにも一生分の恋愛はあるよね、と考え直したわけ。で、一生分を詰めるとなったら、ふつうの青春もので終わらせるのはつまらないっていうのと、僕が打合せの前日に見た夢が重なったんだよ。
黒猫:夢ってどんな?
作者:高校生らしき少年が草むらの袋小路に女性を追い詰めていく夢だ。そして、彼女に言う。「あんたの恋人に言うなら言ってみなよ」ってね。
黒猫:何というか、危険な展開だ。
作者:朝起きてからね、スガシカオの「リンゴジュース」って曲を久々に聴きたくなって流したのを覚えてるよ。
黒猫:スガシカオというのは、君が『黒猫の遊歩』を執筆するときに聴いていたアーティストだね?
作者:そう。スガシカオの『クローバー』ってアルバムには「黄金の月」と「月とナイフ」という、月にまつわる曲が二つ入っている。だから、「遊歩」も月で始まって月で終わる構成にしたいな、というのが最初にあったんだよね。失われた二人の距離を描く物語ばかりだから、月というのはとても象徴的だと思ったしね。
黒猫:なるほど。それで、今回もスガシカオが浮かんできた、と。スガシカオの曲がアイデアのはじめに顔を出すのはデビュー以来ってことだね?
作者:そうだね。今回はいろいろ自分のなかに制約を設けていたんだ。たとえば、謎→推理→解決というミステリの基本フォーマットを踏まえつつ、そうは見えない見せ方をしていくこと。読み手にはできるだけ物語として楽しんでほしいと思ったんだ。
黒猫:つまり、物語を魅力的に展開させるための手法としてミステリを機能させたかったってことかな?
作者:うん。それから、ひたすら触れまくる話にしたのも、逆説的なテーゼになっている。くわしくは前回ココダケ話( https://note.mu/millionmaro/n/n94b933e145a7?magazine_key=mf3f8b4f070f5)に書いたのでそちらを参照いただきたいんだけど、じつは僕自身は、触れ合うことがそんなに恋愛のなかで大きなウェイトを占めるとは思わないんだよ。黒猫と付き人の関係性というのは、両者の緊張状態がある。それは、それだけ気持ちが本物で揺るがないものであるからこそ生まれる緊張だと思う。そこにあるのは単なる「臆病」とか「恐れ」とは次元が違うんだけど、もしも誤解されている部分があるとしたら、それをきちんと語るためには、まったく反対のベクトルから語っていくしかないのかな、と考えたわけ。
黒猫:ふうん。ただヘンタイ魂で書いたわけではない、と。
作者:そうだね。あとはコントラストもあるかな。「高校生の純粋な物語」というのは、「中高年の不純な物語」同様に「あ、そう」と言いたくなる代物なんだよ。少なくとも僕にとってはね。だから、そのへんをくっきりさせたかったというのもある。
黒猫:それこそ、色彩の効果をあげるための考察だね?
作者:そうだね。純粋というのも、不純がない世界ではそもそも単語自体が存在しないわけだから。
黒猫:だから「背徳」をキーワードに置いてみたわけか。そして、ワイルドの「サロメ」が題材に選ばれた、と。
作者:そう。『サロメ』って実際に読んでみると、とにかくストレートに欲求をむき出しにする女だなと思う。妖艶だったり、官能的だったりしても、サロメはその反面恐ろしいまでに純粋な女なんだよね。でもこれって、そんなに珍しいタイプじゃない。多かれ少なかれ女性にはそういう側面があるよね。触れ合うのは簡単なのに、離れようとすると厄介で恐ろしい生き物に変わったり。付き人だっていったん付き合ったら豹変する可能性はあるよ?
黒猫:……僕の話はいいんだ。
作者:誰が君の話をした? 付き人のことを言っただけだぞ?
黒猫:……ところで各話、タイトルには「サロメ」という言葉が入ってるようだね。
作者:何だ、その下手な話題の逸らし方は。まいっか。



春夏秋冬を四つの色に分けている。いずれもサロメがモチーフとなった連作短篇集だ。ミステリマガジン連載のときからだいぶ変わっているところもあるから、できればプロローグから順にもう一度読んでいただきたい。

黒猫:そう言えば、今回は帯キャッチがかなり強烈だと聞いたが。
作者:耳が早いじゃないか。これが先日届いた見本。



で、これがキャッチ。



裏には黒猫シリーズの宣伝が! お陰様でシリーズ累計10万部突破! ありがとうございます!



黒猫:ほかの部分も見たいね。
作者:脱いでみせろ、と?
黒猫:わざわざそういう言い方をするのはやめたまえ。
作者:え、こっちのほうが普通だよ。付き人に言うの?「君のほかの部分も見たいね」って。ちょっとそれはヘンタイっぽいからやめたほうが……。
黒猫:だ、誰が彼女にそんなこと言うと言った! 君と話すと僕にとってあまりプラスがないんだよ、ホントに。この活字ラジオも一人でやってほしいくらいだ。
作者:まあまあ。では、脱いだところも見てみよう。
カバーを脱いだところ。


そしてこれは中表紙。




今回は全体に艶っぽく&シックに。

黒猫:オトナっぽいね。でもそれでもやはり僕としては黒猫シリーズの飼い主の皆様におススメするわけには……。
作者:しつこいな。僕からは前回同様、「恋人に内緒で飼ってください」と言っておこうかな。それから、今回の話はたしかに黒猫シリーズとは大きく違うんだけど、この作品を書いたことでいろいろと、納得のいった部分が大きいんだよね。おもに自分の作風について。
黒猫:ほう?
作者:これまで焦れ焦れを書くことが多くて、逆にこんなこと書いちゃいけないんだ、とかいろいろ自分のなかに「森晶麿」として書いてはいけない領域を勝手に決めていたところもあったような気がする。でも、あえてこういう物語に踏み込んだことで、ようやく何か「トーン」とか「タッチ」といわれるものが少しだけ自分のなかでくっきりと輪郭をもってきたような気がするんだよね。
黒猫:タッチということで言うと、君はこれまでわりにいろんなタッチで小説を発表してきたと思うが。
作者:そう。この三年はあれこれ意欲的に実験していたんだ。そして、ある意味で実験の集大成というか縮図となっているのが『恋路ヶ島サービスエリア』だった。
で、この『四季彩のサロメ』はというと、
「結局、森晶麿のタッチって何なんだ? 
それって焦れ焦れを描かなかったら消えちゃうのか?
女子の一人称にしないとダメなのか?」
という自分のなかの疑問への一つの回答になっているんじゃないかなと思う。
やっぱり黒猫シリーズでデビューしたから、女子一人称を求められる側面はある。で、それをやらないと僕もこれまでは自分のなかの少女漫画脳みたいなものにアクセスできなかったりしたんだけど、どんな物語でもブレない「森晶麿タッチ」を徐々にでも作っていく時期がきているんじゃないか、と感じていたんだよね。もちろんこういったものは意図的に作っていくものではなくて鍛錬によって生成される部分が大きいんだけど、かと言ってまったくの無意識でできるものでもない。
だから、『四季彩のサロメ』では「焦れ焦れ」も「女性一人称」も(幕間ではやってるけどね)あえて封印して、なおかつご新規さんの方はもちろんのこと、黒猫シリーズの飼い主の皆様に対しても堂々とお商売できるか、というチャレンジをしてみたんだよ。結果として次の新しいステージへ行けたんじゃないだろうか。実際、今回の小説は男女問わず人によってまったくべつの読み方ができると思うし、何を愉しむかも人それぞれだと思う。ある人とある人の感想がまったくもってかみ合わないということもあるかもしれない。ある面では少女漫画的でもあり、ある面では成人男性向けでもあり、またそのどちらでもない。

黒猫:よしわかった。じゃあもう僕は止めないよ。どうぞ皆さん、我こそは、と言う方は、『四季彩のサロメまたは背徳の省察』の飼い主に名乗り出てあげてください。そして、お飼いになる際は、くれぐれも恋人にバレないようにお願いします。僕からもそれはお願いしておきましょう。
作者:ふう。黒猫のせいで話が長引いたじゃないか。それじゃ、最後のコーナーにいこうか?
黒猫:今日必要かな? これだけもりだくさんだったのに…。
作者:サラッとやっとこう。まあ今日の話のなかでも出てきたことだし、スガシカオのアルバムにしよう。5thアルバム『SMILE』。

SMILE/BMG JAPAN

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「アシンメトリー」のほか、「thank you」や「あだゆめ」など濃いナンバーが多くそろった特に評価が高い一枚なんじゃないだろうか。
黒猫:スガシカオって音が濃いよね。ベースもドラムも強くて喫茶店なんかで流れていると音圧がJ-POPから浮いているからすぐにわかる。歌詞の聴こえ方もちょっとユニークだよね。
作者:そうだね。何というか、本質を突かずにかすめる感じというのかな。「君が好きだよ」とかそういうわかりやすい歌詞はなくて、誰でも経験のあることの裏側にある雨の音みたいなものをうまく拾いあげる歌詞が書ける人だと思う。
黒猫:なかでもこの『SMILE』を薦める理由は?
作者:たぶん僕のアルバムコレクションのなかでもっとも再生回数が多いアルバムなんだけど、とにかく闇が深い。そして、その真っ暗闇からそれでもひとすくいの光を探せないかと手を伸ばしてみる感じがとてもいい──などと言ったらいささか抽象的かな。でもこのアルバムばっかりは音がどうとか、歌詞がどうとか、そうやって分析するのは難しいと思う。ここにあるのは、一括りの深い闇と一筋の光「スマイル」なんだよ。そういう意味で、青春期における一生分の恋愛をテーマにした『四季彩のサロメ』にちょうどいいなと思って、執筆中、飽きもせずに繰り返し聴いていたんだよね。
黒猫:じゃ、今回の勝手なテーマソングだ。
作者:そんな感じだね。青春って、そのなかにいるときはみんなそれなりに苦しいんだと思うよ。君だってまだ二十代半ばならそんな感じだろ?
黒猫:急に僕に振るなってば。
作者:パリにいると、今ごろ付き人はどうしてるかとか考えるだろ?
黒猫:だから、僕は君のその手の質問には答えないと言っているじゃないか。
作者:君も忍さまの爪の垢でも煎じて飲んでだな……。
黒猫:誰があんなヘンタイの爪の垢など!
作者:もう少し付き人に積極的にならないと、もし忍さまみたいな男が現れたりしたら、取られるぞ?
黒猫:君は僕らの恋愛はちょうどいい距離だとさっきは言っていたはずだけどね。
作者:ん? いま何て言った?「僕らの恋愛」? え? 俺そんなこと言ってないんですけど。聞きましたか皆さん! この男、いま「僕らの恋愛」って……わっこら!暴力!ぼ……(手に持っていた辞書で殴られる)
黒猫:ふう……おっともうこんな時間だ。最後になりますが、『四季彩のサロメまたは背徳の省察』の発売日は4月22日です。この男にかわって、よろしくお願い申し上げます。そして、どうか物語のなかのある秘密については、読後もご内密に。
そうだ、特典はあるのか? おい、森……ダメだ、よく眠っているようですね。まだ決めてないのかも知れません。それでは皆さん、とりあえず、今夜はここまで。どうぞ良い夢を。
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