まだまだ日本語の勉強が足らないと感じた。「残心」の意味を知らなかった。

残心(Wikipedia)
残心(ざんしん)とは日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。

心残り、ではなかった。

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2006年から川崎フロンターレを応援し始めた私にとって、中村憲剛はその時点ですでにチームの中心にいた。

今でも覚えている。私の初観戦となった2006年開幕戦を控え、テレビのサッカー番組はJリーグ開幕特集を組んでいた。その中の一つ、TBS「スーパーサッカー」において引退したばかりの相馬直樹がVTRでジュニーニョとの関係を述べつつ「中村憲剛は日本代表にもなり得る逸材だ」と語っていた。当時、川崎フロンターレのメディア露出は決して多くない、むしろ皆無に近い状態だった。なのでこの時点でフロンターレの選手のことを全く知らなかった私にとっては中村憲剛が一番最初に名前を覚えた選手と言うことになる。

あの時の川崎はとにかく強かった。勢いが凄まじかった。選手もサポーターも若く、失うものが無い。やること成すこと全部ジャイアントキリング。攻撃で圧倒的な爆発力を備えリーグ戦年間で84得点、勝ち点も67を獲得し準優勝。J1復帰2年目としては素晴らしすぎる成績を収めた。

その勢いはさらに続き、2007年は初出場のACLで準々決勝進出、ナビスコカップも決勝戦まで駒を進める(結果は準優勝)。2008年はリーグ戦で再び準優勝、さらに2009年はリーグ戦準優勝、ナビスコカップ準優勝、ACLで準々決勝進出。優勝こそ逃しているものの、周囲からは明らかに強豪として見られるようになった。

このフロンターレの超右肩上がりともいえる成長曲線は、そのまま中村憲剛の成長曲線とも一致する。2006年のドイツワールドカップ終了後に日本代表監督に就任したイビチャ・オシムによりまず我那覇和樹が日本代表に選出された。しばらくして中村憲剛も選出される。この二人が日本代表に呼ばれ合宿、試合を経てクラブに戻って来るたび、素人目ながらも成長して帰って来ているのが見て取れた。

日本代表に選ばれる→注目される→試合に勝つ→メディアに露出が多くなる→人が集まる

という好サイクルがしばらく続いた。

中村憲剛もフロンターレはおろか日本代表でも押しも押されもせぬ選手になっていた。
しかしそれがいろいろな面で足枷にもなった。

中村憲剛は唯一無二の存在。他の誰も中村憲剛にはなれない。頭では理解をしていても、例えば怪我や日本代表選出での離脱で中村憲剛が欠場し試合に勝てなかった時、私の周りからは「ケンゴがいれば」「ケンゴだったら」という言葉が聞こえて来るようになった。そりゃ、ケンゴがいれば状況は違ったであろう。しかし現実にはいない。そして「ケンゴがいれば」はさらに「ケンゴでなければダメだ」になって行ってしまった。

また、中村憲剛自身も自身の対場を理解し、多少の怪我であれば無理をして試合に出てしまう。無理をしているからプレーにキレが無く、時には相手チームのボール奪取ターゲットにもなってしまった。そして怪我の治りも悪くなる。

川崎フロンターレと中村憲剛の一致した成長曲線は2009年で一度小休止を入れることになる。

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残心。

「心残り」と勘違いした私は、中村憲剛が川崎フロンターレに所属し続けたことで何か心残りがあるのではないかと思った。一つはチーム事情などで諦めた海外移籍のこと。本書にも書かれているがトルコへの移籍話が浮上した時、サポーターがクラブハウスに集まってケンゴに思いを伝えるという話が出た。私はそれに参加することは無かった。トルコのクラブに移籍したからと言ってケンゴが「川崎を捨てた」とは思わないし、そんなことを思う選手でも無いだろうと。また、選手の移籍話にサポーターが口出しをするのも違うと思っている。ただ唯一引っ掛かったのが30歳を目前にした選手の初めての海外移籍先がトルコなのか?ということだけだった。

中村憲剛は結果的にワンクラブマンとして今でも川崎フロンターレに所属している。本書には海外移籍に関してはもう心残りは無いように書かれている。とすれば、もう一つの手にしていないものを手繰り寄せるだけだろう。1stステージも半分を終えた今、チームは良いポジションに付けている。目指すのは年間優勝だが、そこに辿り着くための権利を手にする必要がある。

「2009年にどれか一つでも取っていれば」という心残りだけはさせたくない。


(文中敬称略)

残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日/飯尾 篤史

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