裁判の書面 14

テーマ:

ー本件事故後に主に意識喪失でなく、外傷後健忘が起きました。
事故の経緯をたどります。

 

第3の3 本件事故へのWHO定義のあてはめ

 

ーまず被告が、本件事故は第一要件に該当しないという「結論先にありき」で、労災事故の事実関係を解明しようとする姿勢がないことに、苦言を呈しておきたい。

 

(1)本件事故の経緯
ー原告の平成25年9月10日の供述は、次のとおりである。
   「1 平成18年4月15日の災害発生状況については、2階事務所の屋根のペンキ塗り作業終了後、隣の工場の屋根を通って下に降りるのですが、屋根が傷んでいたためか、ペンキを両手に持ちながら工場の屋根を通ったときに、屋根が壊れて穴があき、屋根から約5m下のパイプを置いてあった棚に落ちて、そこから約2m下のコンクリートの地面に落ちました。


2  屋根から落ちたとき、パイプの置いてあった棚の上に落ちたまでは覚えていますが、どんな体勢で落ちたのか、その直後のことは意識が無いのでわかりません。その後の状況は会社の人から聞きました。


3 気がついたときは、病院のベッドの上でした。そのとき首にコルセットをしていて、左肩、腰は骨折していたため固定されており、頭と左足に傷がありました。意識が戻ったのは怪我の翌日か、2日後だったと思います。


4 会社の人が言うには、屋根から落ちたとき、『神様』と言ったらしく、私は死んでしまったのではと思ったようです。すぐに救急車を呼んで松戸市立病院に運ばれたと聞きました。」(乙1・249頁)

 

ーまた、原告の平成26年4月14日の供述は、次のとおりである。


「2 私が負傷した時、ヘルメットはかぶっていませんでした。両手にペンキの缶を持っていて屋根から落ちてしまいました。


3 私の記憶だと落ちて気を失ない、事故から2日位たった松戸市立病院のベッドで気をとりもどしたと思います。」(乙1・252頁)

 

ーなお「神様」というのは意訳で、原告は飲酒や借金を禁忌とする敬虔なイスラーム教徒だから、「アッラー、アクバル」(神は偉大なり)と唱えたのである。


ーさらに、ジャパンクリーンプラント株式会社S専務取締役の供述は、次のとおりである。
   「7(中略)災害が起きたのはそれからまもなくのことで、Rさんの様子は、スレート製の工場の屋根を2歩か3歩くらい歩いたように見えましたが、その直後に、突然目の前からいなくなったという感じで屋根のスレートを踏み抜き下に落ちました。


    8 私は、瞬間的にRさんが屋根を踏み抜いて落ちたことが分かったため、とにかくすぐに下に駆け付けました。Rさんは工場の床ところに横たわっていました。私は、『大丈夫か』『どこが痛い』というように声を掛けてみたところ、Rさんは返事を返してきました。その内容は『痛い』『腰を打った』『頭を打った』というようなものでした。」(乙1・302ないし303頁)


ーそのあと、救急隊が現場に到着した。松戸市立病院救急部の「救急隊搬送記録」(乙6・23頁)によると、傷病発生時刻は平成18年4月15日午後3時25分頃で、救急隊の覚知時刻は3時30分、現着時刻が3時35分、搬送開始時刻が4時00分、病院到着時刻は4時05分である。
ー救急隊が把握した患者(原告)の訴えは「左肩・左下肢の疼痛、右臀部の疼痛、頸部の疼痛」、意識レベルはJCS0など、搬送中変化は「疼痛の増悪あり」ということである。
ーJCSとはJapan coma scale(日本昏睡尺度)のことであり、0は意識清明である。(つづく)

AD

裁判の書面 13

テーマ:

ー週末にかけ、関西です。


ー被告国による、WHO定義の理解が支離滅裂なので、
そもそもから説き起こすとともに、
MTBI専門家の重要な指摘を引用しています。

 

 外傷性脳損傷を「TBI」、Glasgow昏睡尺度を「GCS」、甲4を「平成15年基準」、甲5を「平成15年報告書」、甲7を「平成25年基準」、『ベッドサイドの神経の診かた』(149ないし128頁及び甲9)を『ベッドサイド』、「LECTURE 軽度外傷性脳損傷」(10)を「2011年論文」、「軽度外傷性脳損傷の実際 学際的アプローチと多重的脳画像診断学」(11)を「2015年論文」という。

 

ー第3の2 受傷後意識障害の推定方法

(2) MTBIの専門家Ronald Ruff
 定評あるYoumans神経外科学で、Ruffは指摘する。
「患者が報告するLOC(意識喪失)やPTA(外傷後健忘)を遡及的に評価する我々にとって、ある種の臨床的な経験と確信が立ち現れて来る。最初の頃、私は主としてLOCに焦点を当てていたが、この数年、むしろPTAのほうを当てにしている。実際、記憶の空白は概して衝撃の2~3秒後前から始まるものであり、LOCやPTAを経験した患者のほとんどは、問題の衝撃、すなわち、脳へ障害をもたらした加・減速の効果を思い起こせないものだ。

患者たちがPTA前後の出来事について報告してくれる詳細な情報のなかに、私は『空白』がありはせぬかと、耳を澄ませている。PTAの長さを判定するべく患者に質問する際、我々は濁った水の中を進むようなものである。

PTAは一般的にLOCより長びくものだが、そのPTAの期間内のことだと、LOCを経験したか否かの質問に答えるのは、軽度TBIのどの患者にとっても困難である。

言い換えると、例えば私に半時間分の記憶が無いとして、その期間にLOCを経験したか否かを、私はどうして知ることができようか。明らかに、多くの患者たちが記憶の欠如故に、短期のLOCがあったことを、誤って否認、もしくは是認してきている。」(乙1・163ないし168頁)

 

(3) MTBIの専門家石橋医師
 TBIでは「受傷直後に外界の出来事を全体的に、脈絡をもって明晰に把握することができない時間帯が生じる。

被災者からは、受傷直後に放心状態に陥り呆然となっているところを周りの人に声をかけられて我に返ったとか、また受傷直後に気が遠くなり、近くにいる人の話声が遠くのほうから聞こえてくるような錯覚に陥ったとか、くらくらめまいがしてあたかも自分が雲の上を歩いているような錯覚に陥ったと語られることが多く、これらの話からは、受傷時にWAE(鞭打ち関連脳症で、要はTBIのこと)の被災者の認知域が狭まり、浅表化(上の空)している様子が窺える。

なお、これらを知るには、事故当時の様子を被災者から詳しく問診で聞きだすことが必要となる。」(乙1・137頁右側)。


   以上のとおり、意識障害評価の困難性、意識喪失(LOC)より長びく外傷後健忘(PTA)の重視、意識障害の丁寧な検討の必要性が指摘されている。後述するが、本件については上記のうち特に(2)の指摘が参考になる。 (つづく)

AD

裁判の書面 12

テーマ:

ー馬杉が、原告に受傷後意識障害がないと言い張り、
被告国も言い張っています。
ーしかし、かれらはWHOの定義を理解していません。
裁判官に説明する必要があります。

 

第3の1、WHO・MTBI定義の構造
ーWHOの定義を表にすると、次のようになる。
なお、外傷後健忘症と外傷性記憶障害は、同義である。原語は、PTA:post-traumatic amnesiaである。
 

 

第一要件(受傷時)

第二要件(初診時)

混迷または見当識障害

少なくとも1つが存在すること

GCS13ないし15

意識喪失

外傷後健忘症=外傷性記憶障害

 

神経学的異常

 

 

ー第一要件は受傷直後(受傷時)の急性症状であり、第二要件は外傷後30分後、ないしは後刻医療機関受診時(初診時)のGCSであるという、時間的な先後関係がある。
ーこの構造を理解しないままに論ずると、支離滅裂なことになる。

 

2、意識障害の推定方法
(1) WHO
ーWHOは2004年のMTBI定義について、「この定義は、米国リハビリテーション医療学会(ACRM)(10)頭部損傷学際特別関心事グループの軽度外傷性脳損傷委員会の定義から引き出したもので、米国疾病予防管理センター(CDC)MTBIワーキンググループ(11)の専門家パネルが作成した概念的定義と類似性を持ったものである。我々は、損傷を受けた30分後にGCSスコアが13~15と評価されると特定する米国リハビリテーション医療学会(ACRM)の定義に賛同するものである。

ーしかしながら現実問題として、MTBIのある患者がこの時間枠の範囲内で救急部門において評価を受けることなどめったにはないと我々は認識する。従って、損傷を受けて僅か30分後のGCSスコアの評価は理想としては残すが、我々が提案する定義は、損傷後の最初の機会において資格のある治療提供者がGCSスコアを評価して診断に用いることを可能とするものである。」と述べている(乙1・158頁)。 (つづく)

AD