ぽやぽやエブリデイ

ドラクエ10などのWeb世界で、世知辛い世の中を憂い

それでいながら眠気には勝てない毎日を繰り返していきます。

ミソスープの具は豆腐とワカメ!!

特撮やアニメの歌が好きです。スライム状のものは嫌いです。


テーマ:

第10話 風の先に見えた 後編 」の続きです。



注:この小説は18禁です。現実と空想の区別がつかない方にはおすすめしません。


バックナンバーは「こちら 」から!!



マインドスイーパー


……精神掃除士(患者の精神疾患を主とした自殺病治療の特殊能力を持つ医師の総称)




11.晴れた空に浮かぶ 前編



ハワイのビーチで、岬は楽しそうに水を足で蹴っていた。


それを、椰子の木の下で膝を抱えていた少年が見つめている。


やがて岬は、水を蹴ることに満足したのか、足早に少年のところに戻ってきた。


「いっくんも来ないの?」


問いかけられて、彼――一貴は苦笑して口を開いた。


彼の喉には包帯が巻きつけられており、声はしわがれて、少しガラガラしている。


「俺はいいよ……もう、呆れるほど遊んだし」


「そうなんだ」


一貴の隣に腰を下ろし、岬は病院服の裾を直した。


そして、ジーンズにTシャツ姿の一貴を、不思議そうに見る。


「ねぇ、どうしていっくんは普段着でいられるの? 夢の世界では、単純なものしか具現化できないはずだよね」


問いかけられて、一貴は肩をすくめた。


「それは、医者が勝手に決めたルールだよ……所詮夢なんだ。やろうと思えば、何でもできる」


そう言って、彼は足元の砂を手で掴んだ。そしてギュッ、と握り、手を開く。


そこには、クリスマスツリーの先端につけるような、キラキラと輝く、手の平大の星があった。


目を丸くした岬にそれを放って渡し、一貴は息をついた。


「こんなことも」


彼は砂の中に手を突っ込んだ。


そして中から、長大な日本刀を抜き出す。


「嘘……」


呆然としている岬を尻目に、一貴は日本刀の刃をじっと見つめた。


「『ここにある』と『錯覚』するんじゃなくて、『実感』するんだ。そうすれば、夢は現実になりえる」


それを聞いて、岬は自分も砂を握りこんで、目を閉じて何かを念じた。


そして手を開く。


しかし、そこにはただ、真っ白い珊瑚礁の砂があるだけだった。


「あたしには出来ない……」


残念そうに呟いた彼女に、一貴は日本刀を脇に置いて続けた。


「やり方は、おいおい教えていくよ。でも難しいかも。今も、頭の中のどこかで、『これは砂だ』って思ってるから変質しなかったんだ……」


「でも、砂は砂だよ」


「そうだね」


一貴がそう言った途端、日本刀と星が、サラサラと砂になって散った。


「コントロールだよ。夢の。何もかもを『思い込む』柔軟性が必要だ……訓練である程度は出来るようになると、思う……」


自信なさ気にそう言って、一貴は息をつき、喉の傷口を押さえた。


「まだ痛む?」


岬にそう問いかけられ、彼は頷いた。


「中々治らない……畜生。あの野郎……」


一瞬一貴の目がギラつく。


それを見て、岬は静かに彼の手に、自分の手を重ねた。


「落ち着いて。あたしがいるよ」


「……ああ、そうだね」


頷いて、また息をつき一貴は顔を上げた。


「そろそろ起きよう。結城が煩い」



「……何だよ……」


顔面をグーで殴られてハンモックから転がり落ちた一貴を、雑然と散らかった部屋の中で、結城は睨みつけた。


「岬をお前の夢の中に連れ込むなっつぅのが理解できないのか? お前の脳みそはバッタ以下かよ」


吐き捨てて、岬は、勝手にダイブ機械の椅子に座っている岬を見て、頭を抑えた。


点滴をしている彼女は、まだ体をぐったりと弛緩させている。


「あと二時間は起きないぞ。薬まで勝手に使って……」


「別にいいだろ。てゆうか、毎回毎回こうやって強制的に起こすのやめてくんない? ……脳細胞が死滅するよ、割とマジで」


肩をすくめて、一貴は岬に近づくと、彼女に被せていたヘッドセットを取り除いた。


そして点滴の針を抜いて、彼女を抱え上げる。


一貴が、自分が寝ていたハンモックに岬を移動させているのを見て、結城はため息をついた。


「……で? その子の信頼は得られそうかい?」


「信頼も何も、僕達は元々、強い絆で結ばれてるんだ。それに岬ちゃんは僕に惚れてる。信頼を得るもクソもないよ」


淡々とそう言い、一貴は大きくあくびをした。


「……で? 僕を起こしたのは、相応のわけがあるんでしょ?」


「仕事だ」


床に座り込んだ一貴に資料を放り、結城は腕組みをして彼を見下ろした。


「そいつを、岬と二人で『殺して』欲しい」


「へぇ」


一貴が頭をぼりぼりと掻いて、写真を見た。


「いいの? 機関はもうちょっとゆったり活動していくものだと思ってたけど」


「今まではただの準備段階だ。本番はこれからだ」


結城は不気味に口元を笑わせながら、目を細めた。


「できるのかい? できないのかい?」


「多分、対マインドスイーパー用の護衛を連れてる。どれくらい強力な奴か知らないけど、岬ちゃんは連れて行かないほうがいいかも」


「機関は、あの子の有用性も証明したいんだよ」


「そういうことなら別にいいけどさ。まぁ、責任はあんた達でとってね」


しわがれた声でそう言い、一貴はまた写真を見た。


「…………やっと一人目だ」


彼の呟きを聞き、結城は頷いた。


「ああ、そうだな」



「心に『ロック』をかけてもらいたい」


圭介にそう言われ、だだっ広い会議室の中、理緒はきょとんとして首を傾げた。


「ロック……? 鍵ですか?」


「そうだ。今回の仕事は、自殺病患者の心の中に潜るんじゃない。至って普通の、異常がない人間の心の中に潜る」


圭介はそう言うと、ホワイトボードに貼り付けた写真を指で指した。


「田中敬三(たなかけいぞう)……名前だけは聞いたことがあるだろう」


会議室には他にも数人医師や教授が参加しており、理緒の隣には、すぅすぅと寝息を立てている、車椅子の汀がいた。


彼女が抱いている猫、小白も寝ている。


問いかけられた理緒は、頷いて、少し考えた後言った。


「ええと……一年前に、警視庁を退任した警視庁総監のことですよね」


「正解だ。よく知っているな」


圭介は頷いて、視線を理緒に戻した。


「一時期、汚職などで随分と騒がれたからな。今は総監を退任して、警察学校の校長として働いている。来年定年だ」


「それで……その人の心の中に、鍵をかければいいんですか?」


「そうだ」


「あの……具体的に何をすればいいのか、全然分からないのですけれど……」


周囲の痛いほどの視線におどおどしながら理緒が言う。


圭介は頷いて、自分の席に座ると、手を伸ばしてホワイトボードに丸い円を書いた。


「仮にこれが人間の精神……つまり心だとする。それを最も端的に表した形だ」


「はい。そうですね」


頷いた理緒から視線をホワイトボードに戻し、圭介は続けた。


「人間の精神は何ヶ層かに分かれていて、中核はその中心にある」


彼は円の中にまた数個、なぞるように円を書き、そして中心に小さな丸を書いた。


「心……精神とは形がないものだ。でも、現に中核は存在する。じゃあその中核って何だと思う?」


聞かれた理緒は、しばらく考えてから答えた。


「その人そのものだと思います」


「正解だ。人間の存在そのものに形を定義することは出来ない。でも、物質としてこの世に存在している以上、何かしらの核はなければいけない。それが精神中核だ」


圭介は息をつき、手元のペットボトルから水を口に運んだ。


「……それでだ、今回のダイブでは、いつも君達がやっているように、精神中核についた汚染を取り除くのではなく、逆に、取り除く前に行う『予防』をやってもらいたいんだ」


「自殺病の……予防が出来るんですか?」


素っ頓狂な声を上げた理緒を落ち着かせ、圭介は頷いた。


「まだ実際のところ、世界的にも成功した例はないが、理論的には可能なんだ。理論といっても単純明快なことだ。精神中核を、傷つけないように、何か強固なもので守ればいい」


円の中心の丸を、四角い線で囲んで、圭介は続けた。


「つまり君達が、常時自殺病のウィルスから中核を守っているような状態だ。だがそれが、実際は不可能なことだ。だから、何かを精神内で『構築』して、中核を入れる。それは金庫でも、アクリル製の箱でもいい。とにかく守れるイメージを作り上げる。これが予防だ」


「でも……精神世界内では、思うとおりのものは具現化できないんじゃ……」


「出来る例があるんだよ」


首を振って、圭介は言った。


「まぁそれは、おいおい話していこう。今日は二人の『訓練』だ。それに、心強い助っ人も用意した」


「助っ人?」


「隣の部屋で待ってるよ」


圭介はそう言い、ニッ、と笑った。



まだ眠っている汀の車椅子を押し、ぞろぞろとついてくる医師たちを尻目に、理緒は訓練室と書かれた部屋の中に入った。


マインドスイープの訓練をする部屋だ。


彼女にとって、なじみが深い場所でもある。


そこで、四人のSPに周囲を固められたソフィーが、座って携帯を弄っているのが見えた。


彼女の目じりにはクマが浮かび、どこか不健康そうだ。


ソフィーは顔を上げて理緒を見ると、少しだけ安心したような表情になった。


「片平理緒。久しぶりね」


呼びかけられ、理緒もふっ、と軽く笑う。


「ソフィーさん。また日本にいらっしゃったんですか」


「ええ。今回のダイブに、私の協力がまた必要だって要請を受けてね。日本には他に人員がいないの?」


鼻の脇を吊り上げて馬鹿にしたように笑い、ソフィーは椅子に座ったまま腕組みをして理緒を見上げた。


「まぁ、一度一緒に仕事をした間だし、暇を縫って来てあげたわ。精々感謝しなさい」


「はい! またソフィーさんに会えて嬉しいです!」


ニコニコしながら理緒が頷く。


その実直な態度とは裏腹に、まだ眠っている汀を、ソフィーは腫れ物でも触るかのような顔で見た。


「この小娘……」


毒づいて、彼女は圭介を見た。


「ドクター大河内の件は聞いたわ」


理緒がそれを聞いて、ビクッと体を振るわせる。


「残念ね」


「ソフィーさん、大河内先生はまだ生きています。大丈夫です!」


声を上げた理緒に、ソフィーは何かを言いよどんで口をつぐんだ。


「そうね……失言だったわ」


彼女にしては珍しく肯定し、目尻を押さえる。


「大丈夫か? かなり疲れているように見えるが」


圭介がそう口を開くと、ソフィーは彼を睨んだ。


「あなたに心配されるようなことは何もありません」


「相変わらずつれないな。今回は、研究の意味もかねて、日本の赤十字委員会の方々が同席する。ソフィーは、それで構わないな」


「勝手にすればいいわ」


吐き捨てて、ソフィーは立ち上がった。


「この二人に、構築を叩き込めばいいわけね」


「よろしく頼む」


圭介はそう言って、ダイブ機を手で示した。


「今回は、汀の精神世界を借りる。過酷な環境だと思うが、三十分で何とかマスターしてくれ」



理緒が目を開けた時、そこは炎に包まれていた。


思わず悲鳴を上げて、しりもちをつく。


そこは、民家の中だった。


燃えて周りの家具が倒壊してきている。


不思議と熱さは感じなかった。


「何……ここ……」


「チッ……スカイフィッシュの悪夢……この子も浸食されてきてるのね……」


ソフィーが舌打ちをして、理緒の後ろで声を上げる。


理緒は振り返って、ソフィーに言った。


「スカイフィッシュ……? 何ですか、それ……?」


「あなたは知らなくてもいいことよ」


ソフィーはそう言って、周りを見回した。


「直に、本当に熱くなってくるわ。ここを出るわよ」


「汀ちゃんはどこにいるんでしょうか?


「多分逃げ回ってると思う。こんな状況でレッスンなんて……」


歯噛みして、ソフィーは息をついた。


「……贅沢は言わないわ。これも、私に対する嫌がらせの一つね」


そう言って、ソフィーは理緒の手を握った。


そして出口に向かって駆け出そうとして、動きを止める。


ドルン、というエンジン音が聞こえたのだった。


振り返ったソフィーが顔面蒼白になる。


それを追って振り返り、理緒はきょとんとした後、真っ青な顔になった。


それは、チェーンソーの刃が回転する音だった。


錆びた巨大なそれを持った男……ドクロのマスクを被った人間が、ボロボロで血まみれのシャツとジーンズ姿で、燃える家の中から出てきたのだ。


身長は、百九十はあるだろうか。かなり高い。


小さな理緒やソフィーから見れば、まさに巨人だった。


『どうした? 汀はそこにいるのか?』


ヘッドセットから圭介の声が聞こえる。


それに答えず、ソフィーは震える手で理緒の手を掴み


「逃げるよ!」


と言って、家の外に向かって走り出した。


「な……何なんですか? 何で汀ちゃんの精神世界に、あんなものがいるんですか!」


走りながら理緒が声を上げる。


一瞬マイクの奥の圭介が沈黙し、押し殺した声で言った。


『汀はどこにいる? 早く合流するんだ!』


「どこにいるのか分からないんです! チェーンソー……チェーンソーを持った男の人が!」

理緒が悲鳴のような声を上げる。


男はゆっくりと足を踏み出した。


ソフィーと理緒は懸命に走っているが、一向に出口が見えてこない。


まるで無限回廊のように、燃える家の廊下が後ろに流れていく。


段々と炎が熱くなってきて、理緒は体を縮めて声を上げた。


「熱い……熱いよ……!」


「もっと熱くなる! 早く走って!」


『二人とも落ち着け。落ち着いて、そのドクロの男を撃退するんだ』


圭介の声に、ソフィーは素っ頓狂な声を返した。


「撃退? 撃退ですって!」


『そうだ。これは「訓練」だからな』


「ふざけないで!」


ソフィーが絶叫する。


「スカイフィッシュを撃退できるわけがないでしょう! 現に、夢の主が出てこないじゃない!」


『ふざけてなどいない。スカイフィッシュの悪夢に入り込んでしまったのなら、撃退するか、逃げるかしかない。夢の主がいない以上、夢を終わりにすることは出来ない。逃げるのが無理なら、戦うしかないだろう』


淡々とした圭介の声に、少女二人が次第に落ち着きをなくしていく。


走り続けているソフィーは、目に涙を浮かべながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる「スカイフィッシュ」と呼ばれた男を見た。


「やだ……怖い……!」


ソフィーはブンブンと首を振った。


「怖いよ……怖い! お母さん! お母さん!」


恐慌を起こして喚き始めたソフィーの手を、理緒が一生懸命に握った。


「大丈夫、大丈夫です! 私がいますから! 落ち着いて!」


「助けて! 回線を遮断して!」


「汀ちゃんがいないと、扉が開きません。無理です! 落ち着いて、あれが何なのか私に教えてください!」

そこでソフィーが足をもつれさせてその場に盛大に転んだ。


慌てて理緒がそれを抱きかかえ、床に転がる。


二人は、震えながら、ゆっくりゆっくりと近づいてくる男を見た。


「あ……あれは……断片の集合体……」


「集合体……?」


ソフィーはなるべくスカイフィッシュの方を見ないようにしながら、続けた。


「心の中に溜まったトラウマの集合体……実在しないけどしてるものなの!」


意味不明なことを喚いて、ソフィーは近くに転がっていた燃える木片を手に取った。


その手がブルブルと震えている。


「いい? 一度しか言えない。夢の世界のものを『変質』させるには、『ここにある』と少しの疑念も挟まずに『思い込むこと』が重要なの。単純なら単純なものほど成功率は高いわ……!」


ソフィーが持っていた木片がぐんにゃりと、粘土のように形を変えた。


唖然としている理緒の前で、ソフィーは数秒後、小さな手榴弾を手に持って立っていた。


凄まじい集中力を要するのか、彼女は汗だくになっていた。


荒く息をつき、口でピンを引き抜き、ソフィーはそれを男に投げつけた。


そして理緒を突き飛ばして床に伏せる。


爆音が響きわたり、彼女達の背中を吹き上がった炎が撫でる。


「きゃあああ!」


理緒が悲鳴を上げて床を転がる。


ソフィーは、しかし爆炎の中、悠々とこちらに向けて足を進めてきているスカイフィッシュを見て、絶望的な顔で震え上がった。


「に……逃げなきゃ……!」


しかし腰が抜けて立てないのか、ソフィーはへたり込んだまま、ずりずりと後退しただけだった。


彼女は砕けている木片を手に取ったが、恐怖が集中力に勝ったのか、動けずに、また、変質させることも出来ずに、それを床に取り落とした。


ドルン、ドルンとエンジンの音がする。


チェーンソーの回る音。


足音。


それは、ソフィーの前で止まった。


「あ……」


何かを叫ぼうとして、失敗するソフィー。


男はチェーンソーを淡々と振り上げた。


理緒はそこで、訳の分からない言葉を叫びながら、近くの木片を手に取った。


そして、今にもソフィーを両断せんとしている男に、木片を手に体ごと突っ込む。


男の体がぐらりと揺れた。


理緒の手には、いつの間にか、彼女が料理の時にいつも使っているような、菜切り包丁が握られていた。

それが、根元まで男のわき腹に突き刺さっている。


理緒は荒く息をつきながら、震えて固まっているソフィーの手を掴んだ。


「逃げましょう! 早く!」


「う……うん!」


何度も頷いて、やっとのことでソフィーが立ち上がる。


スカイフィッシュは少女達に不気味に光るマスクの奥の瞳を向け、血があふれ出している脇腹の傷口から、包丁を抜き取った。


そして走り出した理緒に向けて、それを投げつける。


理緒の右足の腱が両断されて、彼女はもんどりうって床に転がった。


「片平理緒!」


ソフィーが悲鳴を上げる。


理緒は足を襲う激痛に耐え切れず、喚きながら地面をのた打ち回った。


ゆらりとスカイフィッシュが立ち上がって、こちらに歩いてくる。


ソフィーが理緒を守るように、震えながらスカイフィッシュの前に出る。


そして壁の木材を手で引き剥がして、頼りなく男に向けた。


「家の外に出て、早く!」


スカイフィッシュが手を振り、ソフィーの持つ木片を弾き飛ばした。


そしてチェーンソーを振り、ソフィーの肩に振り下ろす。


凄まじい音と、絶叫が響き渡り、ソフィーの血肉が周囲に飛び散った。


ゴトリ、と彼女の左腕が、肩口から無残に両断されて、床に転がった。


意識を失ったソフィーを蹴り飛ばし、スカイフィッシュは、倒れた彼女の頭にトドメのチェーンソーを叩き込もうとし――。


そこで、巨大な肉食獣の腕に吹き飛ばされ、数十メートルをも長い廊下を、ゴロゴロと転がった。


グルルルル、とうなり声を上げながら、化け猫に変身した小白が、スカイフィッシュを睨んで毛を逆立てる。


『どうした? 状況を説明してくれ! ソフィーのバイタルが異常値だ!』


圭介がヘッドセットに向かって怒鳴る。


しかし理緒は、泣き顔のまま地面にへたり込んで、自分を守るように四肢を固める小白を見た。


そして、家の入り口にうずくまっている汀を見て、叫び声を上げる。


「汀ちゃん! ソフィーさんが……ソフィーさんがやられちゃった! 助けて!」


『汀がいたのか! 汀、早く二人を助けろ!』


圭介の声を聞きながら、しかし汀は耳を塞いで、目をつぶり、震えながら首を振った。


「汀ちゃん!」


足から凄まじい量の血液を流しながら、理緒が這って彼女に近づく。


そしてその肩を強く振った。


「ソフィーさんは、私たちのためにここに来ました! あの男の人を倒せるのは、汀ちゃんだけです! だから目を開けて!」


しかし汀は、ただ震えるだけで反応がない。


その、いつもとは百八十度違ったか弱い様子に、理緒はハッとして手を止めた。


小白がまたうなり声を上げて、スカイフィッシュに体当たりをする。


大柄な男は、床を転がり、家の奥に消えた。


「小白ちゃん! ソフィーさんを連れてきて!」


理緒が声を上げる。


小白は、それを分かったのか、分かっていないでのことだったのか、ソフィーを口でくわえて理緒のところに後ずさりしながら戻ってきた。


そこで、また、家の奥から、スカイフィッシュがドクロのマスクを出したのが見えた。


一部が破れて、中身が見えるようになっている。


それを見て、理緒は一瞬停止した。


「え……そんな……」


『理緒ちゃん、どうした!』


圭介の声に、理緒は呆然として答えた。


「坂月……先生……?」



後編に続く。



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