ぽやぽやエブリデイ

ドラクエ10などのWeb世界で、世知辛い世の中を憂い

それでいながら眠気には勝てない毎日を繰り返していきます。

ミソスープの具は豆腐とワカメ!!

特撮やアニメの歌が好きです。スライム状のものは嫌いです。


テーマ:

第9話 name 後編 」の続きです。



注:この小説は18禁です。現実と空想の区別がつかない方にはおすすめしません。


バックナンバーは「こちら 」から!!



マインドスイーパー


……精神掃除士(患者の精神疾患を主とした自殺病治療の特殊能力を持つ医師の総称)




10.風の先に見えた 前編



雑然とした部屋の中、加原岬は目を覚ました。


腕には沢山の点滴がつけられている。


病院の診察台のようなものに寝かされていた。


しばらくぼんやりとして、起き上がろうとし、頭に頭痛が走り、彼女は点滴がつけられていない方の腕で、頭を押さえた。


彼女は、思い出そうとした。


今まで自分は、関西総合病院にいたはずだ。


こんな、タバコとアルコールの臭いがはびこっている部屋にいたわけがない。


「どこ……ここ……」


小さく震える声で呟いて、体を起こす。


そこで、診察台を覆っていたカーテンの向こうから、気だるそうな声が聞こえた。


「目が覚めた? 加原岬さん」


聞いたことのない声だ。


岬は、ベッドの上で起き上がり、毛布を手繰り寄せて体を硬くした。


「だ……誰ですか?」


どもりながら言うと、二十代後半と見れる、くたびれた白衣を着た、ぼさぼさの髪を後頭部で止めている女性が顔を出した。


口にはタバコをくわえている。


そこは、コンビニ弁当の残骸や、生活用品のゴミなどが雑然と積まれた、汚らしい部屋だった。


やけに沢山のパソコンがある。


そして、部屋の隅には、精神世界へのダイブに使用する器具が、無造作に投げ出してあった。


女性はしばらく値踏みをするように岬を見ると、頭をガシガシと掻いて、カルテを手に取った。


「特に問題はなし、と。『ラッシュ』を投与したから、記憶の混濁が見られると思うけど、じきにそれも治るわ」


「誰なんですか……? ここはどこですか!」


疑問が確信に変わり、異常を察知して岬が大声を上げる。


女性は軽く肩をすくめて、タバコの煙をフーッ、と吐き出した。


「まぁ慌てない。それにしても、単純に白髪を赤髪に染めてるとは思わなかったわ」


言われて、岬は頭に手をやった。


「何を言ってるんですか……? 私はずっとこの髪ですけど……」


「あぁ、記憶の中枢壁から弄られてるのね。まぁ大丈夫、その辺もおいおい治していくから」


「質問に答えてください! ここは関西総合病院じゃないんですか?」


「キャンキャン喚かないでよ。二日酔いで頭がガンガンしてるんだから」


軽くこめかみを揉んで、女性は椅子に座り、岬に向き直った。


「私の名前は、結城政美(ゆうきまさみ)……ここの場所は、訳があって教えてあげられないけど、関西総合病院じゃないことは確かよ」


「ど、どうして……? 病院の方ですか……?」


「そう見える?」


手を広げて見せてから、結城と名乗った女性はタバコを灰皿に押し付け、新しいタバコをくわえ、ジッポの火を慣れた手つきで移した。


そして息をついて、気だるそうに続ける。


「聞きたいことはいろいろあるだろうけど、まぁ詳しいことは、おいおいね」


そう言って彼女は、部屋の隅に設置してあるハンモックに近づいた。


そしてそこで仰向けになって眠っている少年の頭に軽く拳を叩きこむ。


「起きろ」


「……ッ!」


殴られた少年は、もんどりうって転がると、ゴミを蹴散らしながら床に転がった。


そして周りを見回し、口をパクパクとさせる。


「眠り姫が起きたんだよ。感動の再会シーンとやらを見せてくれ」


結城がそう言うと、少年……白髪の彼、ナンバーXはきょとんとして岬を見た。


そして嬉しそうな顔になり、口をパクパクとさせながら早足で近づく。


「あぁ、そいつヘマして、今一時的に喋れなくなってるけど、まぁ……分かるよね?」


結城に問いかけられるまでもなく、岬は目を丸くしてナンバーXを見た。


そして、慌てて服を直し、真っ赤になる。


「嘘……そんな……」


ナンバーXが岬の手を握る。


ニコニコしている彼に、岬は言った。


「あなた……いっくん……?」



汀の部屋の中で、汀と大河内は面と向かって睨みあっていた。


いつもは柔和な表情の大河内が、顔をしかめて、何かを必死に考え込んでいる。


「これだ!」


短く言って、手に持っているトランプを一枚、テーブルにパシンと叩きつける。


「ダウトだよせんせ」


汀がそう言って、ベッドの上に上半身を起こしている、自分の前に置かれたカードの中から一枚を取って放った。


「何ぃ!」


「大河内先生の二十七連敗ですね」


淡々と言って、理緒が壁のホワイトボードに得点を記入する。


「せんせ、もういいよ。もう休も?」


汀に静かに言われ、大河内は息をついて肩を落とした。


「何てことだ……私が、ここまで負けるとは……」


「汀ちゃんがカードゲームは強すぎるんです。異常な強さですから」


「知らなかった……汀ちゃんにこんな特技があったなんて……」


大河内が頭をわしゃわしゃと掻く。


「いやぁ参った! 降参だよ」


「まだやってたのか」


そこで圭介が、三人分のジュースが入ったコップをトレイに乗せて部屋に入ってきた。


「大河内。お前じゃ勝てないぞ。何せ、俺もまだ勝ったことがないからな」


「本当か?」


信じられないといった顔で大河内が圭介を見る。


彼は肩をすくめて、大河内と理緒にコップを渡すと、汀のベッド脇にある台に彼女の分のジュースを置いた。


そしてストローを指してやる。


「汀に対してのテストをするのは初めてのことだから、戸惑うのも無理はないだろうが、こいつはまがりなりにも特A級だ。俺達じゃかなわないよ」


「うぅーん……」


大河内が悔しそうに考え込む。


汀はそんな大河内の様子をにやにやしながら見ていた。


そして口を開く。


「せんせ約束だよ。何でも言うことを聞くんだよ?」


「仕方ない。汀ちゃんには負けたよ。何が欲しい?」


「せんせが欲しい」


大河内を指差し、汀はにっこりと笑った。


「せんせと結婚したい」


その、あながち冗談とも取れない発言に、圭介以外のその場の二人が凍りつく。


大河内は頬に一筋汗を流し、しばらく口ごもった後、静かに聞いた。


「汀ちゃん、そういうのは大人になってから……」


「私もう大人だもん」


汀はそんな言葉を意に介さず、嬉しそうに言った。


「どこに住む? 私、田舎がいいな。せんせはどのくらい子供が欲しい? 私は三人くらいがいいと思うんだけど……」


カードゲームの勝負に負け、しかも十三歳の女の子と告白ついでに結婚することになっている大河内は、目を白黒とさせた。


そして状況が上手く認識できないのか、目じりを押さえる。


「どうしたの?」


「汀ちゃん、女の子はね、十六歳にならないと結婚できないんです」


そこで、理緒が冷静に突っ込みを入れた。


汀は一瞬ポカンとすると、すがるように圭介を見た。


「本当?」


「本当だ」


端的に、点滴のチューブを交換しながら圭介が言う。


「じゃあせんせ、三年後に結婚しよ。約束だよ」


汀が手を伸ばして、小指を立てる。


「ゆびきりげんまん」


そう言って、無邪気に笑う彼女。


大河内は少し考え込んでいたが、やがてふっ、と笑い、その指に自分の小指を絡めた。


「……ああ、約束だ」


「うふふ」


よほど嬉しいのか、汀が満面の笑顔になる。


それを、表情の読めない顔で圭介が見下ろしていた。


彼の無表情に気づいた理緒が、ビクッとして発しかけていた言葉を止める。


それほど、圭介の目は感情を宿していなかった。



「……驚いた。私のことを好いていることは知っていたが、まさか結婚まで考えていたとはな……」


汀と理緒が寝静まった夜中、診察室の椅子に腰掛けながら大河内が言う。


圭介はピンクパンサーのグラスに麦茶を注ぎながら、それに答えた。


「俺はもう、耳にタコが出来るくらい聞かされている」


「人が悪いな。それくらい教えてくれてもいいじゃないか」


「生憎と、お前にそんな義理はないからな」


冷たくそう返し、圭介はグラスの中身を口に運んだ。


「安心しろよ。そんな未来は一生来ない」


圭介のゾッとするような冷たい声に、大河内の目が厳しくなった。


彼は腕組みをして圭介を見て、そしてせせら笑うように言った。


「……汀ちゃんと私の問題だ。お前がどうこうできる話じゃない」


「勘弁してくれ。俺にペドの趣味はない」


そう言って、圭介は続けた。


「……自殺病にかかった者は決して幸せにはなれない。それは、神が定めた摂理なんだ。汀も同様だ」


「そんなことはない。汀ちゃんは誰よりも幸せになる権利を持っている」


大河内がそう言うと、圭介はドンッ、と乱暴にグラスをテーブルに置いた。


そして歯を噛んで大河内を見る。


「どの口がそれをほざく」


「悪いが、お前よりも、私はあの子のことをよく知っていてね」


含みを持たせて笑い、大河内は続けた。


「それをお前に教える義理はないが」


「ふん……」


鼻を鳴らして、勝手にしろと言わんばかりに肩をすくめると、圭介はテーブル上の資料を手に取った。


「『裏』か」


そう言った圭介に、大河内はまだ視線を厳しくしながら口を開いた。


「ここは病院だろう? 患者のことは詮索しないのが礼儀だ」


「それでも、相応のリスクは負わなければいけないからな。最低限のことは知っておきたい」


圭介はそう言って資料をめくった。


そして呆れたようにため息をつく。


「いい加減、赤十字で処理しきれなくなった案件をこっちに回すのはやめろ。俺達は便利屋じゃない」


「お前が汀ちゃんを手放せば済む話だ」


「残念ながらそういう未来も一生来ないな」


大河内と目を合わせずにそう言って、圭介は資料を閉じた。


そして、それを放って大河内に返す。


「ダイブは明後日だ。だが条件がある」


「何だ?」


「理緒ちゃんをサポートにつける。赤十字から、あの子の管轄を俺に回せ」


「何だと?」


思わず腰を浮かせた大河内に、圭介は醜悪に笑いながら言った。


「元老院も承諾済みだ。あの子は、俺のものにする」


「高杉が黙っていないぞ」


「あいつは俺に多大な恩があるだろう。それに、『お前も』だ。形式上ではあるがな。忘れてもらっては困る。ギブ・アンド・テイクだ」


大河内は椅子に腰を下ろし、深く息をついた。


「……最初から狙っていたのか?」


「さぁな。だが、『役に立つ道具』は一つでも多い方がいいからな」


圭介はそう言って、グラスの中の麦茶を、一気に喉に流し込んだ。


「ここに住まわせる。おかげで、俺も大分動きやすくなるだろう」


「……変わったな。高畑」


大河内が呟くように言う。


「…………あの頃の私達は、もっと…………」


「昔の話は昔の話だ。それに、俺はまだ許してはいないからな」


「…………」


「お前と、坂月をな」


大河内が何かを言おうとして言葉に詰まる。


圭介は、話は終わりだと言わんばかりに立ち上がった。


「精々気をつけて帰るんだな」


含みを持たせてそう言って、彼は診察室を出て行った。



暗い夜道、大河内は息をついた。


もう夜中の十一時近い。


中央通りに出ないと、タクシーをつかまえられそうにもなかった。


電話をしてくるんだった……と若干後悔しながら、しかし中央通りはすぐ近いと思い直し、大河内はまた歩き出した。


しばらくして、彼は自分の足音に合わせて、もう一つ、足音が聞こえてくることに気がついた。


ハッとして立ち止まる。


足音も消えた。


あたりには人影がない。


街灯もなく、非常に薄暗い場所だ。


大河内はゆっくりと、横目だけで振り返り、少し離れた場所に、「何か」を持っている、少年と思しき人影が立っているのを見た。


彼はフードを目深に被り、表情を読み取ることは出来ない。


大河内はそれを確認する一瞬の間もなく、全速力で中央通りに向かって走り出した。


少年も、それを追って走り出す。


小柄な少年とは思えないほどの俊敏な動きだった。


彼は近くの民家の塀を蹴り、三角飛びの要領で大河内の目の前に転がり出ると、彼の首を掴んで、足を払った。


素人の動きではなかった。


大声を出そうとした大河内の口を塞ぎ、少年はフードの奥の瞳を、冷たくニヤリと笑わせた。


大河内の目に、フードから覗く白髪が見える。


そして次に、少年が持っていた、刃渡り三十センチはあろうかという長大なサバイバルナイフを目にした。


必死にもがく大河内を難なく組み伏せ、少年は、彼の腕をナイフで撫でた。


簡単に皮が切れ、血が流れ出す。


無言だった。


それが大河内の恐怖を更に煽った。


うめく彼の上腕までに切れ込みを入れ、少年はナイフを振り上げた。


そして――。



「せんせ! せんせえ!」


隔離された集中治療室内で、呼吸器をつけられ、目を閉じて横たわっている大河内を、ガラス窓の向こうから、汀は車椅子から転がり落ちそうになりながらも必死に呼んだ。


答えはない。


「…………」


険しい顔をして、圭介は虚空を睨んでいた。


「そんな……大河内先生……」


口元に手を当てて、理緒が震える声で呟く。


「……発見された時はこの状態だったそうだ。肺に達する刺し傷が三箇所。うち一箇所は、肺を貫通してるらしい。警察は総力を挙げて、犯人を捜している」


圭介は小さく舌打ちをした。


「……だから気をつけて帰れと言ったんだ……」


聞こえるか、聞こえないかの声で彼が呟く。


耳ざとくそれを聞きつけ、汀が圭介の服を掴んだ。


「圭介! 何か知ってるの? 犯人のこと、何か知ってるの?」


「……知らない。俺が聞きたいくらいだ」


「嘘だ! 圭介は何か知ってる……知っててせんせをこんな目に遭わせたんだ!」


半狂乱になって、汀がヒステリックに喚く。


「せんせが死んだら、圭介も殺してやる! 私が、私が絶対に……」


そこで汀の喉から、カヒュ、と空気の抜ける小さな音がした。


そのまま激しく咳き込み、汀は呼吸が出来なくなったのか、体を丸めた。


「汀ちゃん! 興奮しすぎです!」


理緒が青くなって、看護士が持ってきた紙袋を膨らませて、汀の口に当てる。


何度か深呼吸を繰り返し、汀はしばらくしてぐったりと車椅子に横になった。


「汀ちゃん? しっかりして。汀ちゃん!」


「刺激が強すぎたみたいだ。君は、ラウンジの方に行っててくれ」


荒く息を吐いて、視線をうつろに漂わせている汀の額に手を当て、圭介は冷静に懐から注射器を取り出し、それを汀の右手首に注射した。


そして理緒に、小白の入ったケージを渡す。


「少し寝かせる。大丈夫だ。汀は、時折ヒステリックになるんだ。起きた頃には冷静になってるだろ。小白を離さないようにして、近くで寝かせてくれ」


「高畑先生! 大河内先生が通り魔に遭ったんですよ!」


咎めるような声で理緒が言う。


圭介はメガネをクイッと中指で上げて、それに答えた。


「ああ、そうだな」


「高杉先生の時もそうでした……どうして、そんなに冷たくしていられるんですか! 汀ちゃんの気持ちを考えてあげても……無理やり眠らせるなんて! 誰だって……誰だって、自分の好きな人がこんな事件に遭ったら、冷静でいられませんよ!」


「君も少々ヒステリーの気があるらしいな」


「茶化さないでください!」


理緒は圭介に詰め寄った。


「大河内先生は大丈夫なんですか? 汀ちゃんに、いきなりこんなところを見せるなんて、どうかしてます! 幻滅しました!」


「いくらでも幻滅してくれて構わない。別に、俺は君達の機嫌を取るために生きているわけではないからな」


冷たく理緒の言葉を打ち消し、しかし視線はあわせずに、圭介は続けた。


「……手術は成功した。命に別状はないはずだ。今の医療技術を、信用するんだ」


「でも……でも!」


「俺がやったわけではない。憤りは分かるが、落ち着け、理緒ちゃん」


彼女の頭にポスン、と手を置き、圭介は言った。


「少し休みなさい。ここでいくら喚いても、大河内が良くなるわけじゃない」


「……私……聞きました」


「何?」


問い返した圭介に、理緒は小声で言った。


「高畑先生と、大河内先生が話してるところ、聞きました。汀ちゃんと大河内先生は、絶対に結婚できないって、高畑先生、断言したじゃないですか!」


「…………」


「自殺病にかかった人は絶対に幸せになれないって……どういうことですか!」


どうやら、手洗いに行こうとして起きたところ、彼らの会話を聞いていたらしい。


圭介はしばらく沈黙して、汀が眠っていることを確認してから腕を組んだ。


そして軽く笑う。


「何がおかしいんですか!」


理緒が声を張り上げる。


「特に何も。何も知らない君が、少々滑稽でね」


「こっけい……?」


「ああ。赤十字では教わらなかったのか? 『自殺病にかかった者は絶対に幸せにはなれない』……それは、神様が定めた摂理なんだよ」


「そんなこと、聞いたことありません! それに汀ちゃんが……」


「汀は、俺がマインドスイープで治療した『最後の』患者だ」


淡々とそう言って、圭介は冷たい目で理緒を見下ろした。


「え……」


口ごもった彼女に、圭介は続けた。


「いいかい。これからも人を治療していきたいと思うなら、覚えておけばいい。自殺病にかかった者は、絶対に幸福にはなれない。何度でも言う。絶対にだ」


「どうして……? どうしてそんなに酷いことを……」


「俺も昔、自殺病の患者だったからさ」


抑揚なくそう言って、圭介は吐き捨てるように呟いた。


「それ以上でも、それ以下でもない」



後編に続く。



バックナンバーは「こちら 」から!!



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