ぽやぽやエブリデイ

ドラクエ10などのWeb世界で、世知辛い世の中を憂い

それでいながら眠気には勝てない毎日を繰り返していきます。

ミソスープの具は豆腐とワカメ!!

特撮やアニメの歌が好きです。スライム状のものは嫌いです。


テーマ:

第8話 あの時計塔を探せ 前編 」の続きです。



注:この小説は18禁です。現実と空想の区別がつかない方にはおすすめしません。


バックナンバーは「こちら 」から!!



マインドスイーパー


……精神掃除士(患者の精神疾患を主とした自殺病治療の特殊能力を持つ医師の総称)




8.あの時計塔を探せ 後編



ムスッとした表情のまま、汀は目を開けた。


そこは、地下室のような空間だった。


広さ十畳ほどの小汚い壁、床。


出口などはどこにも見られない。


天井には裸電球がゆらゆらと揺れながら、時折点滅しつつ光を発していた。


「汀ちゃん……」


どこかおどおどしながら、理緒が後ろから近づいてくる。


「どこですか、ここ……?」


「表層心理壁の、煉獄に繋がる通路よ」


そこで、はっきりとした声が、二人の後ろから投げつけられた。


汀の肩の上で、小白がニャーと鳴く。


振り返った二人の目に、腕組みをして高圧的にこちらを見ているソフィーの姿が映った。


「日本には馬鹿しかいないるのかしら?」


「フランスには礼儀知らずしかいないのね」


汀が低い声でそう返す。


ソフィーは鼻を鳴らして、現実世界とは異なり、しっかりと自分の足で地面に立っている汀を見た。


「へぇ……『かたわ』のままダイブしてきたらどうしようかと思ったけど、そこら辺は特殊なのね、あなた」


平気で差別用語を口にし、ソフィーは眉をしかめた理緒に目を向けた。


「何ボサッとしてるの? マインドスイーパーなら、やらなくてはいけないことがあるんではなくて?」


「……あなたに言われなくても、分かっています」


理緒はそう言ってソフィーから視線を外し、ヘッドセットのスイッチを入れた。


汀も遅れてスイッチを入れる。


「ダイブ完了しました」


「…………」


無言でソフィーを睨んでいる汀の横で、理緒が圭介に状況を説明する。


『今回のダイブでは、俺が三人のナビゲートをすることになっている。だが、このダイブは「競争」だ。ひいきはしないから、そのつもりでな』


圭介がそう言うと、理緒が少し言いよどんだ後、言いにくそうに口を開いた。


「あの……先生。患者さんの命がかかっているんですよ? 競争だなんて……みんなで協力した方が……」


『出来るならそうしたらいい』


投げやりに圭介が言う。


突き放されて、理緒は何かをゴニョゴニョと呟こうとしたが、失敗して口をつぐんだ。


不満そうな彼女の脇で、ソフィーは足を踏み出すと、扉の一角に目をやった。


そこだけ、鋲が打ちつけられた扉のようになっていた。


壁に、手の平大の窪みがある。


正方形だ。


そして、床には薄汚れたルービックキューブが転がっていた。


色がバラバラになっている。


ソフィーがそれを拾い上げた途端、ガコンッ、という音がして四方の壁が一センチ程、三人に向かって『近づいて』きた。


そう、壁と壁の距離が、狭まったのだ。


理緒がビクッとして肩をすぼめる。


汀は、まだ暗い視線でソフィーを睨んでいた。


ソフィーはそれを意に関することもなく、ヘッドセットの向こうに向かって言った。


「ドクター高畑。あなたのナビゲートを受けるのは心外だけど、この際仕方ないわ。一時的に会話をしてあげます」


『それは光栄だ』


「心理壁に繋がる道を開きました。次の指示をお願いします」


カチャカチャとルービックキューブを動かし、彼女は無表情でそれを壁の窪みに嵌めた。


短時間で、色は、六色全て揃っていた。


また、ガコン、という音がして、今度は十センチ程壁と壁の距離が狭まる。


「汀ちゃん! 壁が近づいてきますよ!」


「当たり前のことをいちいち喚かないで」


理緒の悲鳴を冷たく汀が打ち消す。


「それじゃ、お先に」


ソフィーがニッコリと笑って手を振る。


シャコンッ、と音を立てて、鋲がかかっていたはずの扉が開いた。


向こう側は白い空間になっている。


「え……? ちょ、ちょっと待って!」


理緒が大声を上げる。


しかしソフィーは口の端を吊り上げて笑った後、壁からルービックキューブを抜いて、床に叩きつけた。


プラスチックが砕ける音がして、ルービックキューブがバラバラになる。


また、壁が今度は十五センチほど近づいてきた。


かなり狭くなった部屋を見回し、ソフィーは余裕の表情で白い空間に体を躍らせた。


次の瞬間、またシャコンッ、という音がして扉が閉まった。


そして鋲が内側からせり上がり、しっかりと扉を固定する。


「嘘……」


理緒が呆然として、砕けたルービックキューブに駆け寄る。


また、壁が狭まった。


「壊されちゃった……! これ、多分この人の心の中に入る鍵なのに……!」


「選別してるのね。マインドスイーパー用のトラップだわ。この患者、私たちのことをよく知ってる」


冷静に言う汀に、ルービックキューブの欠片を拾い集めながら、理緒が青くなって言った。


「汀ちゃん手伝って! これを早く直さなきゃ……」


「そんな必要はないよ」


汀は肩の上の小白を撫でてから、不思議そうに理緒を見た。


「どうして、この人の心が作ったルールに、わざわざ合わせなきゃいけないの?」


「でも合わせなきゃ扉が開かないんですよ。他に、どうすればいいっていうんですか!」


「こうすればいいんだよ」


汀はそう言って、扉の前に立った。


部屋はもう、二人が立っているだけでやっとといったくらいの四方の狭さになっていた。


汀は、軽く助走をつけると、右足を強く鉄の扉にたたきつけた。


凄まじい音がして、次いで部屋のいたるところから、血液が噴出した。


それを浴びて、面白そうに汀は何度も、何度も扉を蹴った。


「汀ちゃん、何してるの……やめて!」


血の雨を浴びながら、理緒が悲鳴を上げる。


しかし汀は、扉を蹴るのをやめようとしなかった。


そして、遂に鋲と扉の継ぎ目から、大量の血液があふれ出す。


それが溜まって、二人の腰までを血が覆い隠す。


「あは……あはははは!」


血のシャワーを浴びながら、汀は嬌声を上げた。


そして、十数回目の蹴りで、扉がひしゃげ、どろりと溶けた。


汀は、そこで理緒の手を掴んで、胸の高さまで上がって来た血液を掻き分けながら、歩き出した。

「行こ」


「汀ちゃん、これって不味いんじゃ……だって、心の表層心理壁を物理的に破壊してるわけだから……」


「知らないよ、この人のことなんて」


汀は簡単に言って理緒を切り捨てると、その手を引いた。


「早くしないと、あの女が一位取っちゃうでしょ?」


その無邪気な笑顔を見て、理緒は口を閉ざした。


言い知れない、何か邪悪なモノを感じたからだった。


しかし、体を包む生ぬるい血液の感触に、汀の手を握り返してしまう。


彼女にニッコリと笑いかけ、汀は白い空間に身を躍らせた。



気づいた時、汀達は、地上二十メートルほどの地点に立っていた。


足元はレンガ造りの堅牢な足場になっているが、手すりも何もない。


幅一メートルほどの足場だ。


コチ、コチ、コチ、コチといたるところで時計の音が聞こえる。


全てが狂っているような、不規則な時の刻み方が多かった。


不協和音が反響して、耳が痛い。


空はどんよりと曇っていて、今にも雨が降ってきそうだ。


理緒はあまりの高さに驚いてよろめき、汀に支えられて周りを見て、硬直した。


二人がいたところは、時計塔の頂上だった。


足元では直径三メートルはあろうかという巨大な時計が、二秒に一度ほど秒針を進めている。


見渡す限り、その時計塔の群れだった。


高さはまちまちで、装飾もまちまちだが、共通していたのは、それが『塔』であるという事実。


それが何百、何千と果てしなく広がっている。


空調音のようなゴウンゴウンという音は、時計の針が時を刻む、不規則な音が織り成す巨大な不協和音だ。


「何……これ……?」


理緒が唖然として呟く。


汀は鼻を鳴らして言った。


「防衛型の進行が進みすぎたせいね。理緒ちゃんは一度、入ったことあるでしょ? 防衛型。この中のどれが一つが正解なの。中枢に繋がる道の」


言われて理緒は、DID患者の中にダイブした時のことを思い出した。


その時も、同じような群れの中に一人だけ、中枢に繋がる道を持つ人間がいたのだった。


「じゃあ……今回も、この沢山の時計塔の中から『正解』を見つけなきゃいけないってことですか……?」


「察しがいいね。その通りだよ」


「でも……どうやって?」


「それを考えるのが、私達の仕事」


「あの……この前から気になってたんですけれど……」


理緒は汀を見下ろして言った。


「こういう場合、もし間違ったものを選んじゃったら、どうなるんですか?」


「さぁ? 死ぬんじゃないかしら」


汀は小白の頭を撫でて、肩をすくめた。


「わかんないな。私、間違えたことないもん」


「そんな……本当?」


「私も興味あるから、ためしに間違えてみたら? 多分、この塔はダミーだし」


そう言いながら、汀は、時計塔の起動スイッチと思われるレバーを引こうとした。


「ちょ、ちょっと待って!」


慌てて理緒がそれを止める。


「何?」


不満そうな顔をした汀に、理緒は汗を垂らしながら言った。


「もうちょっと考えよ? ね? もし爆発とかしたら、どうするの?」


「面白いよ」


理緒は深くため息をついた。


そしてヘッドセットのスイッチを入れて、圭介に呼びかける。


「高畑先生。患者さんの心理壁の内面に到達しました。指示をお願いします」


『入れたのか。まぁ、汀がいるんだから、問題はないだろう?』


さして意外でもなさそうに圭介が返す。


そこで汀がヘッドセットに手を当てて、圭介に言った。


「圭介、手、どうしたの?」


『お前には関係ないと言っただろ?』


「あの女にやられたの? 何かされたの?」


食い下がる汀に、圭介は一瞬沈黙した後答えた。


『さぁな。勝負に勝ったら教えてやるよ』


「高畑先生! ふざけている場合じゃ……」


『中枢をさがして治療してくれ。時間が差し迫っている。それより先に、ソフィーの方が治療に成功するかもしれないな』


圭介が挑発的にそう言う。


汀の目の色が変わった。


「私が勝つよ。フランス女なんかには負けない」


「汀ちゃん、目的は勝つことじゃ……」


『頼もしいな。その調子で頼む』


「高畑先生!」


理緒がおろおろしている脇で、汀は時計塔の扉に手をかけた。そして引く。


「中に入れるみたいだよ」


そして理緒が答えるのを待たずに、彼女は時計塔の中に体を滑り込ませた。


「待って!」


慌てて理緒が後を追う。


時計塔内は、錆びた鉄製の螺旋階段が下まで伸びていた。


時計の内部がカッチコッチと音を立てている。


管理室だろうか。


一つだけ、ブラウン管型テレビが置いてある。


壁には、風車がついた時計塔の写真が貼ってあった。


「これを探せばいいんでしょうか……? でも、こんな何百何千ってある中でどうすれば……この前みたいに、逃げてく人を選別するわけにもいかないし……」


「多分、理緒ちゃんが言うとおり、これが正解の時計塔だね。この人の心の中で、重要なものなんだと思う」


「停止させればいいのかな?」


「うん。多分」


汀の肩の上で、退屈になってきたのか、小白が大きな欠伸をする。


そこで、テレビがプツリと音を立ててついた。


「ひっ……!」


息を呑んだ理緒の脇で、汀は興味深そうにそれを見ていた。


そこには、豚のト殺場の様子が映されていた。


沢山の豚達が、機械で絞め殺されて断末魔の悲鳴を上げている。


無音だ。


しばらくして、テレビからノイズ交じりの、淡白な男性の声が流れてきた。


「アミハラナギサ、カタヒラリオ、フランソワーズ・アンヌ=ソフィー」


「なぎさ……?」


汀がそう呟いて、怪訝そうな顔をして頭を抑える。


不意に、右即頭部に頭痛が走ったのだった。


「次の犠牲者は、この三人です」


画面の中に、両手両足を天井から縛られ、吊るされた汀、理緒、ソフィーの姿が映し出される。


「わ、私……?」


理緒が震えながらそれを見ている。


豚の断末魔が聞こえ、プツリとテレビが消えた。


「ど……どういうこと……?」


唖然として、ペタリとその場にしりもちをついた理緒に、頭を抑えながら汀は言った。


「ただの異常変質心理壁の特徴が出ただけ。これ以上入ってくるなら、トラウマに触れるぞって警告を発してるの」


「それにしては不気味でしたけれど……」


そこで、二人は外からキィィィ! という豚の断末魔が聞こえてきて、顔を見合わし扉を開けた。


時計塔と時計塔の間に、錆びた鎖と、巨大な滑車が出現していた。


時計塔の歯車から動力を得ているのか、数万の鎖がギチギチと音を立てる。


そこには、おびただしい数の肉を引っ掛ける鉤が釣り下がっていた。


その先には、まだ生きている豚。


豚が、首先を鉤に突き刺されてゆっくりと進んでいる。


時計塔の頂上には、ノコギリのようなものが高速で回転しており、豚たちは、生きたままそれに両断され、ゴロリゴロリと地面めがけて、真っ二つになって落ちていく。


どこから補給されるのか、豚の数は減ることがない。時計塔で切り刻まれて、出てくる時には新しい豚が補充されているのだ。


理緒は、間近で豚が真っ二つに両断され、その血液だか体液だか分からないものを間近で浴びてしまい、悲鳴を上げた。


「これで移動すればいいんだね」


しかし汀は表情一つ変えず、出てきたばかりの、まだ動いている豚につかまった。


「理緒ちゃんも。早く」


呼びかけられ、理緒は真っ青になりながら汀を呼んだ。


「駄目……行けない! 行けない!」


「どうして? 早くしないと……」


「私高いところ駄目なの! それに、このままついてったら、ノコギリで真っ二つになっちゃう!」


「その前に飛び降りればいいよ。大丈夫。ここは、所詮脳内イメージの世界だから」


「そんな風に割り切れないですよ!」


「いいから。ほら」


汀に無理やり手を引かれ、理緒は近くの豚に恐る恐る抱きついた。


「行くよ」


汀も同じ豚に抱きつき、鎖を手で掴む。


二人を乗せた鎖がゆっくりと動き、地上二十メートルの空中に躍り出る。


意識を失いそうになった理緒の手を掴んで、汀は面白そうに、時計塔と時計塔を繋ぐ、豚のト殺光景を見た。


「ふーん。そうなんだ」


空中に出て、周りを見回して、汀は呟いた。


「理緒ちゃん、目開けないと危ないよ」


「開けられない! 開けられない!」


首を必死に振っている理緒にため息をついて、汀は片手でヘッドセットのスイッチを入れて言った。


「圭介。ここ、D型の変質区域だ」


『そのようだな。先ほどソフィーからも同じ通信があった』


汀が頬を膨らませ、不満そうに言う。


「私の方が先に分かってたもん」


『そんなところでひいきはしない。何せ、ソフィーは「このため」に、フランスから連れて来られたんだからな』


「どういうこと?」


『彼女は、IQ190の超天才児だ。パズルを解くことは、何よりも、誰よりも得意なんだ』


「ゲームするうえで、チートはいけないと思うけど、まぁ、でもチートは単なるチートだよね」


汀が冷めた口調でそう言う。


彼女の目に、既にソフィーによって停止させられたのか、いくつかの時計塔が見えた。


それが上下左右対称の、幾何学的模様を描いている。


おそらく、紋様を描く時計塔を停止させた先に見える、中心のものが、あの風車のある時計塔なのだろう。

豚のト殺レールがそのルートになっているらしい。


うっすらと遠くに見えるそれを目を細めて見て、汀は歯噛みした。


そして目を閉じて震えている理緒を見た。


分が悪いのは、誰が見ても明らかだった。


「理緒ちゃんは、ここで待ってる?」


汀が釣り下がりながらそう聞く。


理緒は必死に豚にしがみつきながら、何度も頷いた。


「でも一緒に来ないと、治療した時に外に出れないよ」


汀は考え込んでため息をついた。


「いい加減慣れようよ。夢の世界って、大体こうだよ。理緒ちゃんがダイブしてた、子供の頭の中とは違うの。人間って、大きくなればなるほど汚れていく生き物だから」


まともに返事も出来ない理緒を見て、汀は回転ノコギリが迫ってきたのを見て、別の時計塔に飛び降りた。


「理緒ちゃん、降りてきて」


理緒にそう呼びかけるが、彼女は硬直してしまってそれどころではない様子だった。


「理緒ちゃん?」


問いかけた後、汀はサッと顔を青くした。


理緒がここまでの高所恐怖症だとは思わなかったのだ。


『どうした、汀?』


圭介に問いかけられ、汀は慌ててそれに返した。


「理緒ちゃんがまずいの。このままじゃ、真っ二つにされちゃう」


『どういう状況だ。いいか、理緒ちゃんは無傷で連れて帰れ。約束してるだろ?』


「わ……分かった!」


汀は頷いて、飛び上がった。


そして理緒の近くの鎖にぶら下がり、彼女に手を伸ばす。


回転ノコギリが迫っていた。


「理緒ちゃん、目を開けて! 早く降りないと、まずいよ!」


「……だ、駄目! 駄目なんです! 体が動かないの……腰が……腰が抜けちゃって……」


「理緒ちゃん!」


汀は慌てて、回転ノコギリから理緒を守る形で、その間に割って入った。


嫌な音がした。


汀の肩の上で、小白が驚いて声を上げる。


「……ッあぁ……あ……ッ!」


汀が苦悶の表情に顔を歪ませる。


彼女の左腕が、綺麗に肩口から両断されて、ボトリと時計塔の足場に落ち、転がって下に消えていった。


凄まじい量の血液が、彼女の肩口から噴出する。


「汀ちゃん……!」


理緒が目を開いて、驚愕の声を上げる。


汀は痛みに耐えることが出来ずに、鎖を離し、その場に落下を始めた。


理緒が無我夢中で手を伸ばし、彼女の右腕を掴む。


そして彼女は、悲鳴のような絶叫を上げると、汀の体を持ち上げ、豚から手を離し、転がって時計塔の足場に飛び降りた。


しばらく茫然自失して、荒く息をつく。


そして彼女は、肩口を押さえてうめいている汀に近づいて、震えながら、上腕が両断されてしまった彼女の傷口を見た。


「ど……どうしよう……! どうしよう! 高畑先生! 汀ちゃんが……汀ちゃんが!」


『どうした? 落ち着いて状況を説明してくれ』


「汀ちゃんの腕が、ノコギリで切られて、なくなっちゃった……!」


『何?』


圭介は思わず問い返して、慌てて言った。


『回線を遮断する。汀、聞こえるか? 返事をしろ』


「……圭介……私、まだやれる……大丈夫……」


病院服を右手で破りとって、腕の傷口を縛りながら汀はそう言った。


理緒が慌てて口を挟む。


「む……無理です! 汀ちゃん、戻ろう? このまま失血したら、現実世界の左腕も……」


「元々動かないんだから、どうでもいいよ……」


痛みに耐えながら汀がそう言う。


しかし圭介は、少し考えてから言った。


「駄目だ。回線を強制遮断する。二人とも、戻って来い」


彼の声は、断固とした調子で二人の耳を打った。


汀は歯噛みして、肩の傷口を押さえた。


とめどなく流れていく血液。


そこで、彼女達の意識はブラックアウトした。



第9話に続く。



バックナンバーは「こちら 」から!!



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