(※登場人物↓)
(※緑の帽子→狐。)
(※ハル・グローリー→狐。主役格です。)
(※カヨ→羊。)


→譚詩。

なんと夜も深い日のことだったであろうか。
上を見れば、少しだけ欠けた月が浮かぶ、
其の月から繋がる場所はどこなのだろうか、
きらびやかな世界なのだろうか、
雲のようにつかめぬ世界なのか、
花溢れ風薫る世界なのだろうか、
いや、違う。
月から繋がる世界は――――、


ガァッ―――ン!


「カヨ!」

サングラスをかけた狐が叫ぶ、
手にもった短剣を血がにじむ掌で必死で握る、
薄暗い城の中、足の下に感じる硬い石の感触が憎たらしい。
愛用していたシルクハットがいつしか土ぼこりに塗れていた。
もう何時間、この暗闇の中にいるだろうか、


薄暗い明かりの中、目立つ明かりといえば、首の無い騎士の炎だけ。


「ハルさん…、私もう、足が…、」


カヨ、と呼ばれた羊がよろめきながら壁に背を預ける、
周りに炎は見えない、つまり騎士はいないということであろう、
何処から光が差し込んでくるか分からないけれど、薄暗い其の場所で、ハルはカヨの隣に、
同じように壁にもたれかかる。
ハァッ、ハァッ、と息を整える、
この城の地下にいるボスモンスターを一緒に狩りにきたのが運の尽きだったのだろうか。
不意を突かれて逃げ出す、気づけば全然知らない場所まで走ってきていた。
広い城である、冒険者たちが掴みきれてない場所も多いのであろう。
回復薬も、多くは無い、ハルはカヨを横目に見遣れば、


「カヨ、大丈夫?」


「はぃ…、足が、痛い、ですけど…。」


そういって足を見遣るカヨの視線を追えば、其処にはたっているだけで痙攣しているカヨの細い足があった。
元々は細く綺麗な足なのだろうけれど、数時間の逃走の末だからか、其の足は今にも崩れ落ちそうで、
なおかつ、城の埃に塗れて薄汚れていた。

「どっかで脱出口見つけないと…、オレたちやばいな…。」

ハルが、そうぼそりと呟く、
しかし周りを見回せどそんなものはない、むしろ、見えない、といったほうが正しいだろうか、

「ひとまず、カヨがある程度回復するまで休憩しよう。」

「すぃません…。」

ハルの言葉にカヨが申し訳なさそうに、そういうと、カヨの身体は地面へと吸い寄せられるように、
壁にもたれかかりながら座り込んだ。
ハルは其れを見て、薄く首を振れば同じように座り込む、

「はぁ…、ここホントどこだろうなぁ…。」

「どこでしょうねぇ…。」

二人がそう呟く中、
暗闇の向こうから近づいてくる影。


「――――っ!」

疾走する其れ、このまま行けば数秒後には違いなくカヨへと突進するだろう、
しかし、立ち上がり構えるには間に合わないほどの速さ、
本能か、それとも直感か、――其れの動きが疾風ならば、ハルの動きは正に光速、

其れが突進するよりも早く、ハルはカヨの前に出て其れを受け止めんとするか。

ドッ――――!

鈍い音が響く、
カヨは咄嗟の事に反応しきれなかったが、目の前にハルがいることはわかる、
とうのハルは自分は突進してくるものの攻撃を受けると思い込んでいたのだろうか、目を硬く閉じていた。
しかし何の衝撃もこないことに、すぐに違和感を覚えて、目を開いてみれば其処には、

「ハァ…ハァッ…、探しましたよ、お二方。」

ハルと同じ狐、サングラスに見慣れた白スーツが其処にいた。

「緑さん…?」

そうたずねれば、緑は笑いながら、己の短剣で殴り飛ばすように凪いだのであろう、骨のモンスターを地面へと落とす。
バラバラ、と音を立ててただの骨と化したそれに一瞥をくれることもなく、緑を二人を見遣り、

「ふむ…、疲労以外はそんなに大した被害はないようですね…。」

「はい、カヨが足を痛めて…、オレは…、」

そうハルがいいかけたときに、
不意に気の抜けるような音、そして、
現れる青白い灯火、


「…説明は後ほどお聞きいたします。一先ず…、」

振り向きざま、緑が其の炎へと向かって赤数珠を投げつけた、
ガァン!という音と一緒に緑は二人か離れて、

「カヨさんをつれて逃げて!此処からブラッドの寝室は近い、其処に脱出口がある!そこで落ち合いましょう!」

そう叫び、首なしの騎士をひきつけていった。


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カヨの手をひいて先ほどの場所から逃げるハル。

もう大分遠くまで来たであろうか、周りには何の気配もしなかった。

壁に飾られている古びた絵、吹き抜ける風はいったい何処から来ているのだろう、と思うほど冷たい。

仰げば其処には天井の見えない暗闇、絶え絶えになる息を押さえ込むようにしながら、ハルはカヨに話しかけた。

「ハァ…ハァッ……、かなり走って来たけど、ブラッドの寝室って何処だっけ…。」

「え、えと…、」

其の言葉にカヨは周りを見回すも、そこは闇だらけで何も見えない、隣にいるハルすらもう、あまり直視しても見えなかった。

今の状態で不意に傍を離れると違いなく二人ともはぐれる事になるであろう。

其の時、不意に鼻腔を擽る香りがあった。

高級感溢れる其のにおいの元は、

「…ん。バラの香りがする。」

ハルがそう紡ぐ、其の言葉にカヨも頷いた。

そして運命は―――、不意に二人を引き離す。


シュン、シュシュン。


気の抜けるような音と一緒に現れたドクロの騎士たち。

薄気味悪い其の形相、瞳の中の青い炎が此方を向いているのがわかる。

「――!カヨっ!」

そういってカヨの手をひこうとしたハルの手はむなしくも空を掴む、

焦ったときにはもう遅い、四方八方に見える青い炎の群れ、

そして、感じたのは激しい鈍痛。


「ぐぅっ…!」

背中が唸るように痛む、心臓の動きを停止させるような鈍痛にハルは前のめりになった、


地面に這い蹲りそうになる身体をどうにか支えて周りを見回せば、カヨの声。


「Lo-Terou!」


術語と同時にハルの頬を掠めるのはカヨが巻き起こした風であろう、

しかしその風はあまりに頼りなかった。

「くっ…カヨ…!」

手に持った短剣を振り上げるより早く、ハルの身体に第二撃が降りかかる、

今度は敵のうちはなったアローだった。

幸運の高い己であるから避けることとて可能だったはず、しかし、長時間の移動と精神的なダメージにより、其れは体力が許さなかった。

「かふ…!」

わき腹に直撃した其れ、激しい血が闇夜を染める。

焼けるような痛みを覚えながら、其の痛みは自然と涙腺を刺激した。

じんわり、とぼやけてくる視界、

どこかでカヨの悲鳴が聞こえる、恐らくカヨも攻撃を受けたのだろう。

嗚呼、友人がダメージを受けているのに守ってやれない己はなんと非力なのだろうか、

己の弱さを恨む、かすれる意識の中でただ呟く、親しきその友人の名を…。

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このまま気絶してしまえばどんなに楽だったんだろう

だけど、現実はそれを許してはくれなかった

 

「ハルさん・・・・っ!」

 

状況は、最悪だった

周りを囲む敵、敵、敵・・・

先ほどの衝撃で負傷したのか左足の感覚がなかった

魔力を唱えようにも、もう魔力は残っていない

杖も、とっくに折れて使い物にならなくなっている

 

敵達の間から地に沈んだハルさんが見える

声を呼んでも反応しないばかりか、横たわったままで少しも動く気配はなかった

それなのに、紅い紅い血だけがまるで湖のように広がっていた

 

まさか・・・

 

最悪の事態が頭をよぎった

だが、時間は絶望に浸ることを許してはくれなかった

 

カクカクカクカク・・・・・

 

骨と骨がかち合って鳴り響く音、音、音

まるで、侵入してきた私達を嘲笑っているかのようだった

 

せめて、何か武器があれば・・・

だが、手元には空っぽの鞄しかなく・・・

ふと、鞄を探っていた手が何か硬いものに当たった

 

「これは・・・・」

 

それは、ハルさんが分けてくれた小瓶に入ったお酒だった

かなり強いお酒で飲まずに閉まったままだったのだ

 

辺りを囲む敵、敵、敵

今、相手は勝利を確信し油断している

これを使えば・・・何とかなるかも・・・

 

ヘタをすればこちらも危険になる諸刃の剣

だが、このまま死に逝くよりはマシだった

 

傍観していたドクロ達がトドメを刺さんと腕を高く振り上げた

今だっ――!!

手に握った小瓶をドクロの瞳めがけて思いっきり投げつけた

 

恐らく、ドクロ達に声があったのなら耳を覆っていただろう

身体中にかかったお酒が瞳の炎から燃え移り、たちまちドクロの身体は火に包まれた

 

『風よ』

 

刃のような風は吹かずに、強風がカヨの身体から吹き出した

途端に燃え移る火、火、火

他のドクロ達の顔に、肩に、腕に、腹に、足に炎は燃え移った

ドクロの瞳から燃え移った為か、炎の色は全て青白かった

そして、一瞬にしてあたりは火の海となった

 

「ハルさん!」

 

走り逃げ惑うドクロ達の間を地べたを這いながらも近寄った

 

「ハルさん!」

 

もう一度大きな声で名前を呼んでみる

だが、炎に包まれているにもかかわらず、ハルさんの掌は氷のように冷たかった

顔も唇も一目で判るほどに青白かった

 

「ハルさんっ!目を開けてください・・・、ハルさんっ・・・!!」

 

回復の言葉を唱えても、大きく開いた傷口はまたすぐに開いて新たな出血を生むだけだった

動かないハルさんの身体を必死でつかんで、一番火の手が少ない壁際に必死に移動した

だが、火の手は収まるどころかなお酷く辺りを包んでいった

 

私、死ぬのかな・・・?

ハルさんも、このまま死んじゃうのかな・・・?

 

やだ、嫌だ・・・

まだ・・・・死にたくないよ・・・・

 

「誰か・・・誰か、助けて・・・」

ハルさんの身体に顔を埋めながら目の前に迫り来る恐怖に涙を零していた

 

 

「やっと見つけましたよ、お二方」

ああ、とうとう幻想が聞こえ始めたのかな?

ふと、顔を持ち上げた先に立っていたのは夢でも幻でもなくまさしく彼女だった

 

「緑、さん・・・?」

「嫌ですね、私以外の誰がいるんですか?」

 

炎の中を無理して突っ切って来たのか、真っ白なスーツは所々焼け焦げていた

 

「ハルさんが、ハルさんが・・・・っ!」

「落ち着いてください、とにかく今は此処から脱出するのが先決ですよ」

「でも、辺りはもう・・・」

 

広がる炎は不思議と壁を破壊することも煙をあげることもなく、ただ燃えているだけだった

 

「大丈夫ですよ、ここはブラッドの寝室。そう簡単には崩れませんから」

なるほど、そう言われれば確かに此処は見覚えがある場所だった。暗闇で全く判らなかった

 

「あそこに檻が見えますよね?アレが外へと通じる脱出口です。あの檻の道を越えればすぐに城の外へと出れます」

「あそこが・・・」

 

一言で言えば、不可能だった

あそこへ出るにはこの炎の海の中を真っ直ぐに突き進まなければならなかった

遠回りしてる時間なんてない、もう炎は天井をも包み込みそうな勢いで燃え上がっていたから

 

「どうやって、あの中を・・?」

「これですよ」

そう言って緑さんが取り出したのは地雷だった

 

「本来は設置して使うものですが・・・今回はこれを投げて炎をぶっ飛ばして突き進みます。もしも爆風で押し戻した炎が帰ってきたら・・・ゲームオーバーですよ」

 

自然と冷や汗が頬を伝う、もう残されていない時間

僅かでも希望があるなら・・・それを

 

「やりましょう、緑さん・・・どの道このままじゃ皆死んじゃいますから」

「OK、じゃあハルさんはあっしが担いで行きますけど・・・カヨさんは走れます?」

「はい、大丈夫です」

 

嘘だった。本当はもう立っているのも限界だった

緑さんも気づいていて聞いたのかもしれない、でもあえてそれ以上は聞かないでいてくれた

ありがとうございます・・・

そっと、感謝の言葉を心の中で呟いてジッと迫る炎を睨んだ

 

「じゃあ・・・行きますよ!!」

手にした地雷を叩きつけるように炎へと投げ込んだ

 

ドオンッ!!

 

爆風で二つに割れた炎の中を全速力で突き進んだ

激痛が走る左足を堪えながら先を走る緑さんを見失わないように必死に目を凝らした

 

後少しっ!

 

もう少しというところで安心したところを、さっきよりも強い激痛が左足を襲った

 

「あっ・・・」

もつれた足に引きずられるように、全身が地面へとゆっくりと沈んでいく

 

「カヨさん!」

緑さんが差し出した手をつかもうと手を伸ばすが、僅かに届かなかった

 

「カヨっ!」

別の手が崩れ落ちそうになった手をしっかりと強くつかんで引っ張った

 

ゴオオオッ

 

危機一髪、引っ張られた直後に後ろを炎の壁が覆いつくした

 

「ここまでくれば・・・大丈夫ですね」

どういう構造なのかはわからないが炎は檻の中へは侵入してこなかった

そして、あの時手を引っ張った人物はいつものように陽気に笑っていた

 

「ハルさん・・・」

「ごめん、起きるのが遅すぎたや」

「全くですよ、借りはまた今度返してもらいますからね」

 

あはは、といつもよりも浅い笑い声を立てながらハルさんは壁に崩れ落ちた

顔はさっきよりも真っ白で、今生きてるのが不思議なぐらいだった

 

「心配するな、これぐらいすぐ治るから」

 

そう、いつもみたいに笑って

 

「っ・・・!」

 

堪えられなかった。滴がポタポタと地に沈む

留めなく溢れ出る滴を隠すこともせず、ハルさんにしがみつきながらただ泣いた

 

「大丈夫・・生きてるから、俺もカヨも緑さんも、皆生きてるから・・・」

 

溢れ出る涙が止まるまで、ハルさんはずっと頭を優しく撫でてくれいていた。




→End.




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