明治以来の文字式の計算規則 | メタメタの日

文字式の計算規則は、日本では100年以上、「立場1」(2a÷2a=1 現行の学校教科書方式)で、やってきました。明治初めの代数教科書も「立場1」であったことを、国会図書館のサイト「近代データライブラリー」で確認できました。

http://kindai.ndl.go.jp/BIDtlSearch.php

 ということは、明治初めの教科書は、欧米の翻訳が中心でしたから、当時(19世紀後半)の欧米も「立場1」であったことがわかります。

 ということは、「はたして「立場2」で文字式の計算を書いた数学の本というのが、世界中を探してみてあるのだろうか」という疑問は、否定的に解決されたと断言していいでしょう。つまり、立場2のルール(2a÷2aa^2 )で書いた数学の本なんてものは存在しない!!!

 となると、残る疑問は2つです。

 第1は、なぜ、ずっと中学高校で立場1の規則が教えられてきたのに、立場2で「理解」する(つまり、立場1を誤解する)生徒がこんなにいるのか、ということ。

 第2は、立場1の規則ははたして「正しい」のかということ。「正しい」という意味は、答が2つ以上出てくるような式はないし、答が確定しない式もないということ。(無矛盾かつ完全、というと大袈裟ですが)

 第1については、教科書の教え方が悪い、ということでしょう。教わる側が理解しないのは、教える側の責任だということは、教育の鉄則でしょう。

100年間以上、立場1が教えられてきたわけですが、教え方(教える順番)はいろいろでした。

 1980年前後の中1の教科書では、

a÷bc

 a

=―

 bc

ということを、中1の文字式の最初の段階で教えたこと、しかし平成15年の教科書では中2になってから、ということは、以前書きました。

1以来、立場2で理解していた生徒が、中2になって困惑する実例は、前トピにありました。当然だと思います。立場2で理解して構わない問題しか、1年間やってこなかったのですから、その理解が誤解だということを納得するように教えなくては、立場2は払拭されないまま、大学生になり、社会人になるでしょう。(そして、mixiで発言するでしょう。)

ゆとり教科書は、「難しいこと」を後回しにして誤解を生んでしまったのです。

今回知ったのですが、明治30年の『代数学教科書』(チャールス・スミス著、藤沢利喜太郎他訳)の20コマ目にこうあります。http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/828132/37

a÷b÷ca÷(bc) なり  a÷(bc)の代わりには通例a÷bcと書く」。

最初から、こうはっきりと、( )の省略についても書かれていたら、立場1の理解はスムーズにいったでしょう。

さて、第2の論点です。

立場1の計算規則は「正しい」のか。

このトピでは、70番台後半あたりで、単項式の演算については解決をみたような雰囲気になりました。私も、多項式については議論が残っているけれど、というような趣旨の発言をしました。

しかし、私のブログにごんべえさんからコメントをいただき、

http://ameblo.jp/metameta7/entry-10883856196.html#cbox

また以前、積分定数さんがご自身のブログで書かれていたのですが、単項式と多項式を分けて扱う(まとめる場合は「整式」という)のは、日本の中等教育(中学・高校)の特異な教え方のようで、本来は「単項式も多項式である」。

だから、立場1が多項式についてあいまいさが残る計算規則であれば、問題です。

確かに、現在の教科書でも、(多項式)÷(単項式)は中2で、(多項式)×(多項式)は中3で、(多項式)÷(多項式)は、高1でやります。多項式についても計算規則は確定しているはずです。

しかし、

ア.(単項式)÷(単項式)(多項式)  (÷の後が、×が省略された形)

イ.(多項式)÷(単項式)(多項式) 

ウ.(多項式)÷(多項式)(多項式) 

の場合が「微妙」です。

ア、イ、ウと区別しましたが、単項式と多項式を区別する意味がないのですから、「ウ」ひとつで良いのですが。

つまり、

6a÷2(a2a)

という式の意味が確定しているのか、ということです。(私も判断を保留していました。)

もし今までの規則では、「ウ」の意味が確定しないなら、その意味を確定する規則を追加すればよいわけですが、はたして規則を追加しないと、ウの意味は確定しないのでしょうか。

先ず、実際問題として、「ウ」タイプの問題は、最近の高校教科書で出てくるのでしょうか。私が参照できたのは、昭和60年の東京書籍『精選数学Ⅰ』(小平邦彦編)なのですが、(多項式)÷(多項式)はあるが、「ウ」タイプはありません。「ウ」タイプは、÷記号を使わないで分数式になっています。

÷記号を使った「ウ」タイプの問題は、立場1で意味のある式です。この式の意味(値)が1通りに決まらないとすると、立場1は問題でしょう。(その場合は、「ウ」タイプの式の意味を1通りに確定する規則を追加すれば良いのですが)

明治6年の海軍兵学寮の『代数学教授書』の37コマ目に「ウ」タイプの問題がありました。

5(a+b)^310(a+b)^2+15(a+b)}÷-5(a+b)

という問題など4題があります。http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/828163/25

当時は、式の意味は確定していたということでしょう。

確かに、思えば、

a^2÷a^21

は、立場1だけでなく、立場2も認めていました。

ならば、

(a+1)^2÷(a+1)^21

も成り立つでしょう。

すると、

(a+1) (a+1)÷(a+1)(a+1)1

も成り立つとするほうが理にかなっているでしょう。

ならば、

2(a+1)÷2(a+1)1

も成り立つでしょう。

 とすると、

6a÷2(a2a)1

となるでしょう。

 立場1の計算規則に、矛盾や不完全性は、とりあえず無いと言って良いでしょう。