飢餓海峡 (下巻)/水上 勉
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勝手に採点 ☆☆☆☆


戦後直後の混乱した世相のなか、青函連絡船の転覆事故が

発生し、多くの死者が出た。その混乱の最中、北海道のある

村が、一軒の質屋の火災により焼き尽くされる悲劇が起きる。


多数の水死者のなかに乗客名簿にない、身元不明の男二人

の遺体があった。


一方で出火もとの焼け跡からは、惨殺されたとみられる一家四

人の死体が発見され、強盗放火殺人事件と断定される。


網走刑務所の老看守部長の情報提供と北海道警察の粘り強い

捜査により、身元不明の男二人と犬飼太吉という謎の男が、強盗

を働き、転覆事故にまぎれて海を渡る途中、仲間割れをしたもの

と断定された。


青森に渡り、犬飼太吉を追う弓長刑事は、身体を売って働く貧しい

女・八重の虚偽の証言により、あと一歩のところ彼をで取り逃

がしてしまう。


彼女はなぜ嘘をついたのか!?その後の犬飼太吉の足取りは!?

それから10年後、思わぬ悲劇が訪れる・・・。


「罪を憎んで人を憎まず」

登場する刑事たちの共通する思いに共感を覚える。


戦後の激動を生きていくために犯罪を犯した者、逮捕され刑期を

終え出所しても金はなく、再び犯罪に走る彼ら。


そんな彼らの境遇を痛いほどに理解できる刑事たちは、犯した

罪を清算させるために懸命に捜査に打ち込む。


「彼を逮捕して本当に良かったのか」

そう問いかける味長刑事のせつなさ、悲しみ、やるせなさが心に

しみる。


ただ、一点どうしても納得できないのが、八重をあんな形で殺して

しまった太吉の動機。


幾等なんでも、あんな杜撰な犯行では捕まってしまうのは明らか。


彼ほど精神的にタフで明晰な頭脳を持っているなら、きっと違う

方法をとったに違いないと思うのは私だけであろうか。


それでも、最近の小説にはない、骨太な筆致、複雑・緻密なストー

リー構成に逆に新鮮さを覚える。