飢餓海峡 (下巻)/水上 勉
¥620
Amazon.co.jp

勝手に採点 ☆☆☆☆


戦後直後の混乱した世相のなか、青函連絡船の転覆事故が

発生し、多くの死者が出た。その混乱の最中、北海道のある

村が、一軒の質屋の火災により焼き尽くされる悲劇が起きる。


多数の水死者のなかに乗客名簿にない、身元不明の男二人

の遺体があった。


一方で出火もとの焼け跡からは、惨殺されたとみられる一家四

人の死体が発見され、強盗放火殺人事件と断定される。


網走刑務所の老看守部長の情報提供と北海道警察の粘り強い

捜査により、身元不明の男二人と犬飼太吉という謎の男が、強盗

を働き、転覆事故にまぎれて海を渡る途中、仲間割れをしたもの

と断定された。


青森に渡り、犬飼太吉を追う弓長刑事は、身体を売って働く貧しい

女・八重の虚偽の証言により、あと一歩のところ彼をで取り逃

がしてしまう。


彼女はなぜ嘘をついたのか!?その後の犬飼太吉の足取りは!?

それから10年後、思わぬ悲劇が訪れる・・・。


「罪を憎んで人を憎まず」

登場する刑事たちの共通する思いに共感を覚える。


戦後の激動を生きていくために犯罪を犯した者、逮捕され刑期を

終え出所しても金はなく、再び犯罪に走る彼ら。


そんな彼らの境遇を痛いほどに理解できる刑事たちは、犯した

罪を清算させるために懸命に捜査に打ち込む。


「彼を逮捕して本当に良かったのか」

そう問いかける味長刑事のせつなさ、悲しみ、やるせなさが心に

しみる。


ただ、一点どうしても納得できないのが、八重をあんな形で殺して

しまった太吉の動機。


幾等なんでも、あんな杜撰な犯行では捕まってしまうのは明らか。


彼ほど精神的にタフで明晰な頭脳を持っているなら、きっと違う

方法をとったに違いないと思うのは私だけであろうか。


それでも、最近の小説にはない、骨太な筆致、複雑・緻密なストー

リー構成に逆に新鮮さを覚える。

AD

「宿命」

テーマ:
宿命/東野 圭吾
¥650
Amazon.co.jp

勝手に採点 ☆☆☆


地元の有力企業の社長が殺害された。


凶器はボーガン。捜査を担当する刑事・勇作は、容疑者として幼馴染

であり、ライバルでもあった瓜生に目を付ける。


瓜生は殺害された社長の前の社長の息子で、今は医学部で教鞭を取

っている。そしてその妻は、かつて勇作が愛した美佐子であった・・・。


勇作は事件後行方の分からなくなった古いファイルとその謎を解くべく、

ひとりで調査を続けていくが・・・。


ラストを含め全体構成は見事。なるほどそういうことだったのかと納得。

運命に翻弄された二人の兄弟は事件後どのような関係になるのだろう。


ただ、瓜生や美佐子の人物描写が甘く、勇作と美佐子の関係も中途半

端な感じが否めない。


犯人の人となりもあいまいなままなので、殺害動機も不明瞭。


人が殺人を犯すまでの複雑な心理描写がすっぽり抜けているので、

物語に深みがなく表面をなぞった印象が強い。


それでも、白夜行や手紙といった作品群の原点ともいえる運命を受け止め

ひたむきに生きるテーマは氏のオリジナリティを感じる。

AD
ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編/村上 春樹
¥540
Amazon.co.jp

勝手に採点 ☆☆☆


ある日妻のクミコが突然出て行ってしまう。


途方にくれた僕はその原因を探るが、そこには彼女の兄である

綿谷ノボルが大きく絡んでいるらしいことを突き止める。


空き家の古井戸に佇んで、彼女のいる別世界へたどり着こうと

懸命に空想するが・・・。


珍しくミステリータッチで話が進む。


ただ、結局綿谷ノボルがどのように姉妹を汚したのかは分からず

じまい。加納マルタもどこへ行ったのやら。


文量が多いだけに、サイドストーリーは豊富。


間宮中尉の中国談や加納マルタ&クレタ姉妹・ナツメグ&シナモン

親子の不思議な仕事とその生い立ち、近所の不登校少女・メイ

との交流など、それだけで十分一冊の小説になるおもしろさ。


ただ、あまりにサイドストーリーを組み込みすぎたせいで、肝心の

クミコの存在が忘れがちに。


彼女がどうしてそんな行動を取ったのか、兄からどんな束縛を受け

ていたのかが尻すぼみで終わってしまう。


ラストの空しさも寂しい。


彼女が出所できて元の暮らしができるのはどれほど先だろう。

AD
水の眠り 灰の夢/桐野 夏生
¥660
Amazon.co.jp

勝手に採点 ☆☆☆☆


時代は東京オリンピック前の1960年代。


トップ屋と呼ばれるスクープ専門の記者・村野善三が、連続爆弾

魔・草加次郎の追跡や自ら巻き込まれた女子高生殺人事件の真

相究明に挑む活躍劇。


全く理解不能な題名からは想像できない面白さ。

「トップ屋・村野善三」の方がよっぽど良い。


当時の時代背景描写のリアリティ、事件記者たちのチームワーク、

軋轢、刑事たちとの駆け引きなど、真に迫る描写で息をつかせない。


ストーリー展開のうまさが随一の横山秀夫氏や独特の世界観、文章

で村上ワールドを繰り広げる村上春樹氏など、すばらしい作家は数多

く存在するが、筆者の「読ませる文章」を描く力は相当なもの。


ついつい引き込まれラストまで読者を手放さない力強さを感じる。


今回はコテコテの男世界を描いた作品にも拘らず、女性であるハンデ

キャップを全く感じさせない。


欲を言えば草加次郎は第三者であった方が、よりリアィティが増して良

かった気もする。爆弾魔と殺人犯の親子というのも・・・。


主人公の村野は、別作品で主人公となる村野ミロの父親という設定

らしい。ぜひ彼女が主役のも読んで見たいところ。