グレイス ペイリー, Grace Paley, 村上 春樹
最後の瞬間のすごく大きな変化

勝手に採点 


40年間でたった三冊の短編小説集の出版で年を追うごとに

文名を上げ、全米に熱狂的ともいえる女性読者を抱える著者

の代表作。訳者はあの村上春樹。


読後の第一印象は「キッツー!!!」


これほどまでに読了に時間を要し、途中で何度も辞めたくなった

小説はない!


その理由は、難解な文章構成。


特に著者をモチーフに家族や起こった出来事を語る「フェイスもの」


いったい誰が何のことを話しているのか分からず、象徴的な比喩

のオンパレードによって混迷の度を深めていく。


著者が長編小説を書かなかったのは良かった!?


しかし、村上春樹のあとがきは一読の価値あり。

これで大いに救われた。


確かにこの原文を日本語訳するのは至難の業のはず。


アメリカの大学で教鞭をとった彼でさえ、彼女の朗読会を聞いて

内容が理解できないとは。


あとがきでは、彼が「不思議な中毒性」があると公言するグレイス

ペイリーの作品を訳したくなった理由がなんとなく伝わってくる。


だが、活字離れの進む日本人が彼女の文章を読みこなすのは

ちょっと不可能。

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「歩兵の本領」

テーマ:
浅田 次郎
歩兵の本領

勝手に採点 ☆☆☆


1970年頃の高度経済成長、学生運動華やかな時勢のなか、

様々な理由で自衛隊に入隊した若者たち。


隊内での日々の生活や訓練の様子、心境などを笑いとペーソス

を交えながら描いた青春群像


今から35年程の前の自衛隊では、戦前の軍隊のしきたりや精神

と戦後の新しい防衛を目的とした組織、考え方が奇妙に交じり合

って独特の世界観を作り出していた。


今でこそ安定した身分の保証と手厚い福利厚生など人気の高い

就職口の自衛隊だが、当時はそうでなかったらしい。


薄給と厳しい訓練、上官、先輩からの謂れのない体罰、暴力、いじめ。

チンピラ上がりや浪人生、社会脱落者たちが街角で肩を叩かれ入隊

し、脱落していくといった現実。


そんな中でも、過酷な生活に慣れ自衛官として一人前になっていく

姿を浅田氏自身の体験と重なり合わせて描いている。


ただ、短編のすべてに共通する自衛隊の存在価値や体罰や暴力に

対する矛盾といったテーマが繰り返されているため辟易する部分も。


できればこのテーマを主眼とした長編に仕立てたほうが、主人公への

感情移入も容易でマンネリも排除できたのでは。


浅田氏は、本書で隊や隊員に対する愛着、愛情と自身のアイデンティ

ティを再確認したのではないだろうか。

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山田 悠介
×ゲーム

勝手に採点 ☆☆☆☆


小学校時代の恩師が何者かに殺害された。

事件の裏には当時いじめられていた女子児童の影が・・・。


×ゲームと称して彼女に告白をした英明の周りでも

不穏な動きが続発する。


復讐なのか愛情なのか。事態は緊迫度を増して思わぬ

方向に・・・。


久しぶりのジェットコースータースリラー。

映画「ミザリー」を彷彿とさせる狂女が、繰り広げる惨劇。


狂気とスリルがいっぺんに味わえ、スピード感も○。


特にリーダー格の男性に対する仕打ちは、主人公でなく

ても精神的に耐えられないほど。


過去の記念写真に写るサングラス姿の女を想像しただけ

でまったくもって不気味。


ただ、あそこまで大胆な犯行にもかかわらず、警察が

身柄を拘束できず、主人公の身辺警護を怠るなど、

ちょっとありえない面が気にかかる。


プロローグとエピローグも蛇足の感。


それでも「リアル鬼ごっこ」でがっかりさせられた分を

見事取り返してくれた。

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森 博嗣
Θ(シータ)は遊んでくれたよ

勝手に採点 ☆☆


連続する転落死体の一部や持ち物に口紅で印されたθの

マーク。


自殺か他殺か。一体何のためにθのマークがつけられたのか。


お馴染み西之園萌絵が事件に隠された秘密に挑む!


県警本部長の親族で、独特の鋭い推理をするからといって

どうして事件に駆り出され、いとも簡単に捜査の内部情報

知りえるのだろう。


この手の非現実的な設定にはいささかうんざりさせられる。


蓋を開けてみれば、いわゆる痴情のもつれが原因の下世話

な事件で、その他自殺者の詳細は分からずじまい。


テクニカルな謎解きをする人物が多く、どうも西之園とダブって

しまう。登場人物のセリフもどれも理屈っぽくて×。


おまけに教授やその娘、犯人の素顔が全くといっていいほど

描かれずじまいなので、とても中途半端な感じ。


特に理解に苦しむのが題名。どういう意味なの?

山崎 豊子
不毛地帯 (4)

勝手に採点 ☆☆☆☆

太平洋戦争において大本営参謀として数々の作戦策定に

携わり、陸士、陸大と超エリート街道を驀進した壱岐正。


終戦に際して停戦命令書携え中国に赴き、自身の意思で

そのまま現地に残った故に10年を超えるシベリア抑留の

辛酸を舐める。


帰国後、関西の繊維系老舗商社「近畿商事」に入社し、

持ち前の冷静な戦略眼と巧みな組織作りによって異例の

昇進を果たし、日本を代表する商社へと変貌させる。

山崎氏得意の実在のモデルをテーマとして、そこへ巧み

にフィクションを織り込むことで一級のエンターテイメント

に仕上げている。


一般には瀬島龍三氏がモデルといわれているが、当人と小説

の人物では全くの別物に仕上がっていることだろう。


また、特に注意しなければならないことは、白い巨塔や沈まぬ

太陽にも共通する人物像の単純化。


それと善悪の対決の構図があまりにシンプルであること。

虚構としてはとても楽しめるが、現実はこうも単純じゃない。


このあたりがなまじ膨大な取材に基づいた事実を散りばめ

ながら物語を構築しているので常に賛否両論が巻き起こる

所以。


しかし、当時と現在の経済情勢では隔世の感。


特にアメリカ自動車産業の日本進出に強烈なアレルギーを

起こす政府、役所、経済界。


今ではトヨタ、日産、ホンダがアメリカをはじめ海外進出で

大成功をおさめ、凋落したGM再建のため、トヨタが手を貸

すような構図に。


一方、石油開発は相変わらず。先日もこんなニュースが。


「新日本石油と石油資源開発、帝国石油、国際石油開発、

三菱商事の5社は3日、リビアで行われた石油・天然ガス

鉱区の国際入札で採掘権を落札したとそれぞれ発表した。

日本企業が同国で権益を獲得したのは初めて」


石油資源の乏しい日本がアメリカのメジャー相手に石油鉱区

を獲得するのは今でも厳しいらしい。