「邪魔」

テーマ:
著者: 奥田 英朗
タイトル: 邪魔〈上〉

勝手に採点 ☆☆☆

数年前に交通事故で妻と義母を亡くした刑事久野。

東京郊外にあるメーカーの仮事務所で起こった放火事件
の捜査を進めるうちに明らかになる犯行動機とは。

不良少年や暴力団、平凡な主婦らを巻き込みながら事件
は思わぬ方向へ展開していく。

登場人物が多く、複数の話が同時展開されるので、若干
分かりづらいところはあるものの、それぞれが単独で膨
らませて一冊の本になりそうな話なので引きこまれる。

特に主婦のパート先であるスーパーマーケットでの社長
や店長、パート仲間との複雑な人間関係と怪しげな消費
者運動家との関係はかなりリアル。

国産車の購入や遊興費の捻出のため、セコイ横領に手を
染めるしがないサラリーマンの末路は哀れで物悲しい。

それに比べて突っ込みたいのは久野と義母の関係。


もう少し親切に導線を張っておいてくくれば、だまされ
た気分にならないのに。

ラストでの主婦の意外な脱線振りとスカッとしない尻
すぼみ気味の結末に少々消化不良感。

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著者: 宮部 みゆき
タイトル: ステップファザー・ステップ

勝手に採点 ☆☆☆

ひょんなことから双子の兄弟の父親役を引き受けることに

なった若い泥棒。


彼は持ってるところから盗って一部は待たざるものに還元

するという風変わりなポリシーの持ち主。

兄弟の言動に振り回されながらも本業では推理を働かせ、

次々と荒稼ぎして難事件を解決!?

あらためて思うのは、少年たちの描き方が上手なこと。


今回も一風変わった双子をユーモラスにちょいとシリアス

に仕上げている。

イニシャルが描かれたTシャツを着て、変わりばんこに会話

する姿を思い浮かべるだけでニヤリせずにはいられない。

普通、少年が主人公の話になるとジェネレーションギャップ

についていけなくて違和感を覚えることがあるがこれは別。

両親とも愛人と失踪して、お互い気づいていないなんて、

設定としてはかなり非現実的だが、フィクションと割り切

って十分に楽しめる雰囲気。

万屋の廃業した弁護士や仕事仲間の画聖、魅力的な担任

の先生など、登場人物も個性的でユニーク。

いつまでもこのにぎやかな生活が続けばいいのに。

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著者: 奥田 英朗
タイトル: ウランバーナの森

勝手に採点 ☆☆☆☆

奥さんの祖国である日本で休暇を過ごすジョン。
軽井沢の別荘では、親子水入らずでゆったりとした時間
が流れる。

しかし、重度の便秘に悩まされ近所の病院へ通ううちに、
過去に出会って亡くなった人たちと遭遇するように・・・。

テレビで放映された「空中ブランコ」もそうだったが、
独特で不思議な空間や間を引き出すのがうまい作家だと実感。

本書では、ジョンレノンを主人公に彼の日本で過ごした
であろう日々をリメイクする試みに挑戦している。

人は誰でも誰かにひどいことをしたり、言ったり、されたり
という経験があるはず。

そんなトラウマに悩まされる夫を助けるため、一芝居打つ
妻のケイコはイジラシイ。

結局、夢なのか治療なのか現実なのか妖しい幻想的な再会に
心を癒され、便秘も解消したたジョン。

ラストを飾る灯篭流しがさらに気持ちを穏やかにしてくれ、
黄泉の国へ帰る人たちへの想いを強くする。

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著者: 乙一
タイトル: 暗いところで待ち合わせ

勝手に採点 ☆☆☆☆

久しぶりの乙一作品。


警察に追われる身の青年が、盲目の女性の家に無断で勝手に
隠れ潜んでしまう物語。

居ないはずの存在に気づいた彼女がとった行動は。青年が潜
伏する真の目的は!?

氏の舞台設定は突飛で非現実的なものが多いが、これは意外
とまとも。とはいっても全盲の女性がひとり暮らしとは大変。

人との交流を極端なまでに恐れる二人が、ふとしたきっかけで
心を通わすようになる。

このあたりの展開は、とても自然で純愛のムードが漂う。

さらに、犯人が青年であるとばかり思わせておきながら、意
外な展開に持ち込むのも○。

できればラストにもう一捻りあってもいいが、これはこれで
シンプルで納得いく結末。

グロいイメージが強い作品が多いなか、流行の純愛路線もなか
なかいける。

著者: 池波 正太郎
タイトル: 鬼平犯科帳〈1〉

勝手に採点 ☆☆☆☆


ご存知「鬼平」こと火付盗賊改方の御頭長谷川平蔵の活躍を描く
痛快時代劇。


強盗、殺人、暴行の限りを尽くす残虐極まりない悪党どもを「鬼平」

率いる盗賊改方の正義の刃がブッタ切る。


テレビで一度も見たことはがないはずなのに、読んでるうちに
自然と中村吉右衛門の顔が浮かんでくる。番宣の影響か。


弱気を助け強気を挫くまさにヒーローだが、かなりの人情家で
あることも幅広く受け入れられる理由。


本編でも、盗賊夫婦の孤児を自分で引き取ったり、夜逃げした
情報提供者を見逃すなど味な対応を見せている。


彼ら盗賊改方の鬼神のような働きは、幕末に活躍した新撰組を
髣髴とさせ、これだけの気概をもった剣術使いが直参旗本から

生まれることに新鮮な驚きと感動を覚える。


また、江戸庶民の慎ましやかで、生き生きとした暮らしぶりが
さりげなく描かれている様は、まるで宮部ワールド。


宮部氏の時代物は、かなりこの世界観に影響されたのではないか
と思えるほど作風が似ている。


この巻で語られる女のしたたかさと色におぼれる男の愚行の鮮
やかな対称は、時空を超えて万国共通の命題。

「動物記」

テーマ:
著者: 新堂 冬樹
タイトル: 動物記

勝手に採点 

鬼才新堂冬樹が放つ動物系感動ファンタジー。

熊と犬とプレーリードッグを主人公に自然の厳しさ、人間の身勝手さ、
動物と人間の心の交流を描く。


はっきりいってひどい出来の駄作。
中途半端なお涙頂戴が鼻につき、わざとらしさが気に障る。


いくら何でも動物たちの生態を人間の感情や描写で書くのは無理。
だって熊が複雑な感情を持ち合わせてるはずもないのだから。


おかげで動物たちがあたかも言葉を喋るかのような錯覚を感じさせ、
さらにストーリーの強引さが現実味を失わせる結果に。


それを書ききる大胆さと無謀さにいささかあきれ気味に。


さらに犬の話での殺し合いは悲惨。まさかそんなことある訳ないだろ!
まるで映画「レザボアドッグス」のような結末に開いた口がふさがらない。


かなり強調されている自然破壊や無責任な飼い主に対する警鐘も

取ってつけたようなありきたりなもの。


感動で涙が止まらないものとは言わないが、もう少しアクセントを

利かせてホロリとくる説教臭くない自然さが欲しい。


氏はこの手の作品が描きたかったようだが、悪いことは言わないから

これっきりにすべき。

著者: 宮部 みゆき
タイトル:

勝手に採点 ☆☆☆

東京の下町で発生する女性連続バラバラ殺人事件。
警視庁の刑事八木沢と息子順がその犯人に迫る。

読後の第一印象は、何か読んだことあるぞ!
要は「模倣犯」に設定や背景が良く似ている。

女性を陵辱し殺害する実行犯とそれを操るフィクサー。
そしてマスコミを使った大胆な犯行声明と警察への

挑戦的態度。

今回は模倣犯のような目立ちたがりの青年ではなく、
息子をかばった父親の計画。

宮部氏の少年ものは現実的にはありそうにないのに

なぜか違和感なく受け入れられるところがミソ。

まさに少年探偵団ののりだが、親友や親、よき理解者が
しっかり脇を固めているせいか安心して読んでいられる。

かなり猟奇的な内容にも関わらず、血生臭さと無縁な

ところも氏の性格、人柄によるものか。

ただし、いただけないのが犯行の動機。
犯罪に加担していない息子のためにいくらなんでも

そこまでやるか~。

それも相手は少年たち。
黙らせて復讐する方法は他にもいろいろあるはず。

それと中途半端過ぎたのが少年たちの姉の存在。
良い人?悪い人?自己保身のため、殺人まで犯した

弟を庇うなんて・・・。

ありえね~!

「黒笑小説」

テーマ:
著者: 東野 圭吾
タイトル: 黒笑小説

勝手に採点 ☆☆☆

まさにブラックユーモアいっぱいの短編集。

職業柄、作家が主人公の話が多くそのプライドの高さや賞レースを
皮肉る内容が楽しい。

選考している先生方や担当編集者にも悲喜交々があるということ。

読者としても、「○○賞受賞の話題作!」などと帯に書いてあると、
ついつい手にとって見たくなるもの。あまり知られてない賞でも。

そこを狙って涙ぐましい努力を重ねる出版社も大変だなぁ~。

それと一番先が知りたくなったのが鉄仮面のホテルマンのお話。

売れないお笑いコンビが、宿泊先のホテルの従業員をあの手この手
で笑かそうと大奮闘するが・・・。

何かコントで見たような気もするが、結局どうなるの!と思わず
先をイソイデシマッタ。

落ちはいたって単純。やっぱり何かで見たような気がする・・・。

東野氏のこの手のお話は肩がこらず気軽に楽しめて○。トリックのみ
に傾倒した非現実的なミステリーとも無縁なところが好感が持てる。

毒笑、黒笑と来たので次は怪笑かな。

著者: J. K. ローリング, J. K. Rowling, 松岡 佑子
タイトル: ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団 ハリー・ポッターシリーズ第五巻

勝手に採点 ☆☆☆

ご存知ハリーポッターシリーズ最新作。


「例のあの人」が復活したと公言するダンブルドアとハリーに対して、
魔法省ではアンチキャンペーンが繰り広げられ、ホグワーツ魔法学校

にも高官を派遣しダンブルドアの失脚を企てる。


一方、ダンブルドアは「例のあの人」に対抗するため「不死鳥の騎士団」

を結成し、メンバーとともに彼の完全復活を阻むため活動を開始。


試験勉強に追われ何かと忙しい毎日を過ごすハリーだが、騎士団の

情報も知らされず蚊帳の外に置かれた状態とクディッチの活動停止

を命じられ、次第にイライラが募るはめに。


そして、毎夜不思議な夢にうなされる様になり、ボルデモートの

魔の手が・・・。


ダンブルドアと魔法省の政治的対立が強調されすぎて背景が複雑化

している。おかげでハリーの活躍の場が極端に狭められ、残念なこと

に胸のすく痛快さが失われてしまう結果に。


特に見所のクディッチシーンが少ないのは残念。
せっかくロンがメンバーになったんだから二人のかけあわせを増やし

ても良かったのでは。


少年から徐々に成長していく過程のためか、妙に苛立ってばかりの

ハリーにも共感できない部分が多々噴出。


おかげで大切な恩人まで死なせてしまうのだから、いくらダンブルドア

がフォローしてもあまりに身勝手な振る舞いに憤りを隠せない。


特にスネイプに対する態度は、窮地を救ってもらったにもかかわらず

あまりに子供じみていて見苦しいほど。


文量も子供向けにしては多すぎるので、夢のある独特な世界を描くの

は結構だが、読み手の負担も考えて欲しい。


さらに、ネタが尽きてきているのか授業風景にも目新しさがなくなって

きてるし、同級生たちの顔ぶれ、行動もパターン化してきている感は否

めない。


ここいらで初心に戻った痛快さを取り戻した新作を期待したい。

「深追い」

テーマ:
著者: 横山 秀夫
タイトル: 深追い

勝手に採点 ☆☆☆

某県警三ッ鐘警察署に勤務する警察官に巻き起こる様々な事件。

それらの出来事を通じて、家庭生活や恋愛の苦悩、階層社会に

生きる厳しさをリアルに描く短編集。

最も気に入ったのは表題にもなっている「深追い」

交通事故で死んだ男のポケベルを拾った交通係が、その妻に遺品

を返そうと会いに行くとそれは昔の恋人。


ついつい返しそびれたポケベルには、なぜか彼女から夕食の内容を

伝えるメッセージが送信される・・・。

人は噂や見かけでは判断できない典型例。やはり子供ネタには弱く、

虐待を受けていた事実とそれが妻の悲しい過去に起因する現実が

あまりに切ない。

逆に明るい気分にさせてくれるのは「又聞き」

小さいころに溺れて死に掛け、救助してくれた大学生が死亡すると

いう辛い過去を背負う新米警官。


当時の関係者を訪ね、話を聞くことで隠された「ある事実」を知り、

ようやく過去の呪縛から開放される。

いつもの唸らせるようなストーリーの意外性や緊迫感、男臭さ、

スピード感に欠け、どちらかというとほのぼの系に走っているのは

好みの分かれるところ。

これはこれでよく出来ているが、印象としては想定の範囲内に

収まっているようで物足りない気が。

それでも、警察の内部事情に通暁している氏ならではのネタが

散りばめられているのはいつもながら感心。

これだけ上層部の締め付けきつく、足の引っ張り合いやプライド

の激突が多いあまりに劣悪な職場環境に同情する。


いまどきの警官は楽じゃない!