著者: 大沢 在昌
タイトル: パンドラ・アイランド

勝手に採点 ☆☆

小笠原諸島にほどに近い南国の孤島「青國島」
ここには、米軍駐屯の名残から保安官を置く制度があった。

警視庁捜査一課を退職した主人公が赴任した途端、連発する
殺人事件。古巣の本庁の刑事たちも来島し捜査を開始する。

この島に隠されたある財産について嗅ぎ回る島の鼻つまみ者
たちに訪れる悲劇。犯人は誰か、そして島の財産の正体とは!?

久しぶりの大沢作品。新宿鮫の新作「狼花」の連載もスタートして
いるようなのでこちらも楽しみ。

ハードボイルドと南の島という取り合わせが一見ミスマッチだが、
自身、海の親父といった著者ならではの取り合わせ。

村長、助役、収入役、オットー先生など一癖も二癖もある登場人物
に誰が犯人なのか首を傾げる。

会話中心の文章で読みやすいものの、分量としてはかなり長めで、
読了するのが一苦労。

ポイントは前保安官の死に方。心筋梗塞かと思いきや実は・・・。
それだけクリアするとどうということのない凡庸な内容。

緊迫して盛り上がるところがない割りには、結構人が死ぬ。
それも大した意味なく殺されてしまう。

全体的にバラバラでちぐはぐな印象が最後まで拭いきれない。

やはり平和な南の島には物騒な話しは似合わない。

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著者: 麻耶 雄嵩
タイトル:

勝手に採点 ☆☆☆

過去に音楽家8名が惨殺されるという恐ろしい悲劇が起きた
「ファイヤフライ(螢)館」

大学のサークル仲間が、その館を買い取ったOBに誘
われ、肝試しがてらに集まる。

そして、豪雨の中、新たな惨劇が始まる・・・。

外界との連絡が遮断されたなかで起こる連続殺人。

犯人が内部犯か外部犯か、犯行の目的は何かといった
読者をジレンマに貶める王道ともいえる典型的ミステリー。

身内が殺されつつも、警察に連絡ができず、謎の女性の影
が見え隠れする点は、東野氏の「ある閉ざされた雪の山荘で」
を彷彿とさせる面も。

中盤までは犯人が誰か全く見当もつかず、次の展開が楽しみ
になるほど。なかなかに引き込まれる。

しかし、仲間を殺されているのに比較的冷静で、和気藹々
とした雰囲気に違和感。何か緊張感に欠ける。

ホントだったら、何とか館から逃げ出して助けを呼びに行く
だろう。なのに呑気に料理なんか作って酒盛りまでしてる!?

終盤の説明が長すぎ!隠し部屋や共犯者の存在、連続暴行殺人
の理由などいたって凡庸な仕掛けに意外性が見あたらない。

部屋の奥に鍾乳洞があるなんて!ありえねー!

そもそも、ストーリーの進行上、誰が主体になっているか錯覚
させる眼眩まし的な本書のトリック自体好きになれない。

虚構の世界にばかりに引きこもってはダメ。
良質なミステリーに「リアリティ、現代感覚、社会性」は不可欠。

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著者: 高村 薫
タイトル: マークスの山

勝手に採点 ☆☆☆☆

南アルプスのとある飯場で起きた殺人事件。
アル中の泥酔した作業員が早朝に訪れた登山者を誤って撲殺。

そして13年後、付近で当時殺害されたと思われる白骨死体
が発見され、事態は思わぬ方向に展開する。

登場する捜査一課の刑事たちが誰が誰なのか分かりづらい。

合田警部補を中心に描かれているが、色々出てくるので確認
のために何度も読み返してしまう。

加えてマークスの正体もいわくありげに進むので、どうも
ピンと来ないし、思わせぶりすぎる。

導入部分の取っつきにくさが惜しいところ。

しかし、マークスが殺人を繰り返し、その対象が明らかに
なるにつれ、事件の構図が浮き彫りになる。

特に秀逸なのは、弁護士林原vs敏腕刑事吾妻の息詰まる攻防。
この頭脳戦の緊迫感、駆け引きは白眉。

事件の隠された謎をアッという間に解明してくれる「遺書」の存在。
これだけ深いタネを仕込んでおいた構成に脱帽。

もうこの頃には夢中でページを括っている自分に気づく。

ただ、こんな巧妙、悪質、狂気に満ちた犯罪は、重症の
精神疾患を抱えた患者には実行はできないんじゃない?

彼が犯行を繰り返す中、易々と包囲の網をかいくぐって逃亡
を続けられたことも腑に落ちない。

それでも、それを補って余りあるのが進行する捜査の圧倒的リアル感。

刑事たちが抱える確執やライバル意識、なわばり意識の強さ
そして執着心はもはや一般人の理解をはるかに超えたレベル。

いささか平凡すぎるラストに一工夫欲しいところだが、
それまでのドロドロとした展開を払拭する爽やかな読了感に包まれる。

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著者: 渡辺 淳一
タイトル: エ・アロール-それがどうしたの

勝手に採点 ☆☆☆☆

高所得高齢者向け長期滞在型施設「ヴィラ・エ・アロール」

ここに住む老人たちの自由奔放な恋愛や性を始めとした
老後を赤裸々に描く異色ドラマ。

過去の作品の印象から、ポルノまがいのいかがわしいものか
と思いきやお爺ちゃん、お婆ちゃんたちの生々しい生活ぶり
が浮き彫りにされ、怖いもの見たさでページが進む。

出張ヘルスでお楽しみの最中に心臓麻痺を起こして死んで
しまうお爺ちゃんや若い看護士にあの手この手で言い寄る
お婆ちゃん。

なかには20台の若い女性と関係し、妊娠させたのではないか
と悩む70過ぎの名誉教授。

施設でのポルノ鑑賞会は必読。男女の反応の相違はもちろん、
性欲の逞しさは、いつまでも衰えることはないらしい。

ただ、ちょっと閉口してしまうのは70、80歳のお婆ちゃんを
○○嬢と呼ぶんでいること。せめてさん付けにして貰えまいか。

自分も年を取ったらこういう施設で余生を過ごしたい。
彼らのように心はいつまでも若々しく生きる糧を失わないで。

何があっても「エ・アロール」-それがどうしたの?-と
受け流す前向きさを忘れないで。

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著者: 東野 圭吾
タイトル: 名探偵の呪縛

勝手に採点 ☆☆☆

名探偵天下一が挑む過去のない街での難事件。
「本格推理小説」という概念がない不思議な世界。

市長から依頼され、記念館に隠されたミイラをめぐる
謎に迫るうち、関係者が次々と殺害されていく・・・。

ケチをつけたくなりつつも、ついつい手に取りたくなる
東野ミステリー。

まえがきかと思って読み始めると、いつの間にか本編が
始まっているあたりはうまい出だし。

いわゆる名探偵に扮した「東野=天下一」?がまるで
金田一風にコミカルに描かれユーモラス満点。

密室本棚殺人事件やボーガン殺人事件、山荘での連続殺人
などは発想はユニークだが、リアリティは今一歩。

それもそのはず。本書の真意はそこにはない。

いわゆる密室や人間消失などのトリックや犯人は誰か?
といったクラシカルなミステリーは日本だけで受け入れ
られるもの。

隔離された空間、人工的な設定、登場人物をまるで将棋の
駒のように操る。読後に残るものは何か・・・。

東野作品がそうした非人間性を脱却し、多くの人に読まれる
理由が分かった気がする。

もし、殺人事件が起きなくても、登場人物たちが生き生きと
迫って来るような物語こそ本物。

筆者の言う「リアリティ、現代感覚、社会性」はミステリー
には欠かせない。

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著者: 真保 裕一
タイトル: 真夜中の神話

勝手に採点 ☆☆

インドネシアの奥地に伝わる吸血鬼伝説。

飛行機事故で奇跡的に生き残った日本人女性を助け、治療した
謎の部族。神秘的な効果で驚異的な回復を見せる。

部族の存在、治療を口外しないよう口止めされた彼女がその
ヒーリングパワーの真相に迫るべく調査を進めるが・・・。

舞台がジャカルタと未開のジャングルで、登場人物も外人が
多いので現実感に乏しく余り馴染めない。

軍、警察、マスコミ、キリスト教関係者が入り乱れて、救世主
をめぐる謎に群がるあたりはちょっとしたアドベンチャー。

しかし、肝心の仕掛けが超音波を発する少女の歌声では、あまりに
インパクトが弱い。コウモリやイルカと戯れるぐらいが関の山。

そんな怪しげな話しにみんながなぜムキになるのかとっても不思議。
その上、神様ネタを持ってこられては、もう好きにして!

いくら何でも神様たちと一緒にしなくても・・・。
さらにキリスト教組織にはこんなのまでホントにあるの?

夫と娘を亡くした主人公も内面の描写が足りなく役不足。
ところで旦那はなんで死んじゃったの?

話しが膨らみすぎて、収拾がつかなくなったのを無理矢理辻褄を
合わせてきたって感じ。

そんな違和感が最後まで拭いきれず、ストーリーに全く同化できず。

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著者: 綾辻 行人
タイトル: 最後の記憶

勝手に採点 ☆☆

原因不明の痴呆症に罹った母親。
彼女の記憶には、何者かに襲われた幼少期の記憶が残るのみ。

遺伝性の疑いが強いことから、母親の家系を探るべく、友人
と故郷を訪ねることに・・・。

彼女の記憶に残された恐怖の体験とは・・・。

初の綾辻作品ということで期待が大きかったが、ホラーものと
してはパンチに欠けた凡庸な印象。

会話中心の分かりやすい描写からページが勢い良く進むものの、
あまり恐怖やワクワク感は感じない。

「バッタの羽音」や「キツネのお面をかぶった子供」「黒衣の人間」
といった思わせぶりな表現、いかにもといったフリが鼻につく。

それでも、東京を離れ、祖父母の家を訪ねるあたりは何が起こる
かと期待が膨らむ。

しかし、真相を突き止める一歩手前で現場から逃げ出し、その上
訳の分からない異次元に迷い込むあたりは全く肩すかしの格好。

母親の過去の隠された秘密を解き明かす仕掛けは手が込んでいて
辻褄も合っているものの、何の脈絡もなく、突然タイムスリップ
する必然性がどこにあるのか理解に苦しむ。

幼なじみの女友達との関係も全く尻窄みで終わってしまい中途半端。

夢の世界に逃げないもっとリアルな恐怖を味わいたいものだ。

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著者: 重松 清
タイトル: 送り火

勝手に採点 ☆☆☆☆☆

とある私鉄沿線住人たちの悲喜交々を様々な視点から迫る
ハートウォーミングストーリー。

久しぶりの重松作品。子供や老人が主人公のものが結構あって
敬遠していたのだが、ようやく年代が合うものを発見。

30~40歳台のサラリーマンの悲哀を書かせたら、共感のあまり
思わず「ホロリ」とさせられる。

特に前に読んだ『熱球』や『流星ワゴン』は良かった。
このジワッと広がる「ホロリ」加減が真骨頂。

ただ、最初の方は珍しくホラータッチでビックリ。
でも怖さよりほのぼのさが前面に来るあたりはさすがというところ。

おすすめは「かげぜん」と「送り火」
どちらも爽やかな感動が涙を誘う。

前者は息子を失った同世代の両親が主人公。

子を持つ親として、同じ状況に追い込まれたとき、立ち直れる
かかなり不安な気持ちに。夫婦が協力して悲しみを克服する様
が胸を打つ。

後者は一児の母親とその両親のお話。

これも子供を持って夫婦生活を営んでいると急逝した父親や女手
ひとつで娘を育てた母親の気持ちが痛いほど理解できる。

自分より年下の両親と訪れる遊園地のファンタジックな雰囲気に
包まれた世界が悲しくも美しい。

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著者: 森 博嗣
タイトル: 工学部・水柿助教授の日常

勝手に採点 ☆☆☆☆

N大学工学部水柿助教授とその奥さん、研究室仲間が主な
登場人物。筆者の自叙伝、私小説の雰囲気が強い。

日常に転がる何気ないちょっとしたミステリーを紹介し、
それにまつわる蘊蓄、解説を少々脱線気味に展開する。

前から読みたかった期待度の高い作品。
結論から言うとこれで森博嗣ファンの仲間入り。

著者曰く、ライトな1ミリグラムのテイストと評するほど
の肩の凝らない軽妙さが特徴。

数々のエピソードが紹介されるが、特に興味を引くのが試験に
まつわるお話。

さすが現役の先生だけあって、作問や試験官としての経験は
「え、本当?」「なるほどな~」とつぶやきたくなるリアルさ。

そういう意味では本格ミステリーの醍醐味を堪能するというより
は、肩の力を抜いて「森博嗣」の嗜好(思考)を楽しむ内容。

一見おふざけ半分に書いているようだが、ミステリーに関する
手法や知識はやはり他を圧倒するものを感じる。

本書の言葉を借りればまさに「巨編ではなく虚編」。
ぜひ本格作品を手に取ってみたい。

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