著者: 飯塚 訓
タイトル: 墜落遺体―御巣鷹山の日航機123便

勝手に採点 ☆☆☆☆☆

航空機事故としては史上最悪の惨事となった日航機123便墜落事故。
遺体の確認班長を務めた著者が綴る壮絶なまでのドキュメンタリー。

決して涙なしには読めない・・・。

航空機事故の悲惨さ、痛ましさは想像を絶する。

人間の肉体はこんなに脆いものか・・・。

遺族の方々の救い難い深い悲しみと警察官、医者、看護婦などの
仕事の領域を超えた奮闘ぶりを目の当たりにして言葉を失う・・・。

お子さんの犠牲者やお父さんが家族に宛てた走り書きの遺書など
胸に響く場面が数多い。

ああいった墜落は免れない極限状況において、自分の人生に感謝
し、家族へメッセージを残せる勇気と愛情に敬意を表する。

そもそも「沈まぬ太陽」に感銘を受け、事故に関する文献を読ん
でみたいと思っていたところ、この書に巡り会った。

航空会社の経営者、社員は、絶対に繰り返し読み続け、乗客の安全
確保をしっかり胸に刻んで欲しい。

ボイスレコーダーに残された機長の絶望に満ちた一言を忘れない
ためにも・・・。

亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈り申しあげる。

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著者: 中野 独人
タイトル: 電車男

勝手に採点 ☆☆☆☆☆!

今話題のベストセラー小説。

生涯童貞独身を覚悟していたエロ同人ヲタの主人公がちょっとした
勇気の甲斐あって、ひとりの女性に巡り会い一念発起。

初デートのために日頃から利用する2chの掲示板にSOS。
すると激励やアドバイスの書き込みがドンドン増えて・・・。

果たして周囲の期待に応えカップルになれるのか!?

久しぶりに味わった爽やかな感動。

告白の場面や、祝福する毒男達の「キター!」のオンパレードに
スレ住人ならずとも思わずもらい泣き。

一昔純愛なんて言葉が流行ったが、それを彷彿とさせるものが。
恋愛にここまでのめり込み、正直になれるなんて羨ましい。

本書の形式が、いわゆる「カキコ」であり、リアルタイムに進行する
恋愛を疑似体験できる手軽さがすごい。

デートやメール、電話での彼女とのやり取りを報告する電車男と
すかさずそれに反応する毒男達の温かいコメントは端で見ていて
微笑ましい限り。

この掛け合いが絶妙でドンドンページが進む。彼のまじめで純粋な
性格も手伝って応援したくなるのが人情というもの。誹謗中傷とは
無縁の清々しい連中に拍手を送りたい。

誰でも付き合う前はこんな経験したことがあったり、これからして
みたいと思わせるシチュエーションで共感しやすいところも○。

「カキコ」形式の文体や散見される専門用語もさほど苦にならない。
それ以上に効果的なのが大きな絵文字。思わずにやりとさせられたり、
感心させられるほどの内容。

これがあってはじめて感動やおもしろさが倍増する。

掲示板を卒業していった電車男。
月並みではあるが、エルメスさんと幸せな将来を築いて欲しいと願わず
にはいられない。

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著者: 宮部 みゆき
タイトル: 初ものがたり

勝手に採点 ☆☆☆☆

本所深川一帯をあずかる岡っ引きの「茂七」に持ち込まれる不思議な
事件の数々。町人からの信頼も厚い彼が、ときに厳しく、ときに鋭く
そして鮮やかに解決に導く。

江戸下町の義理人情、悲喜こもごもが一杯詰まった連作短編捕物張。

「うまい!」が第一印象。
氏の時代物の中でも出色の一編ではなかろうか。

時代物の短編集で発揮される、老獪にして巧みな人物描写は、目の前
を「茂七」が闊歩し、ときに屋台で汁を啜っているような錯覚に陥る。

おかみさんや下っ引きの手下ども、町人たちとのやりとりは、下町情緒
たっぷりで、下手な時代劇よりよっぽど引き込まれる。

多彩な登場人物も見所。
拝み屋の「白道様」はその後どうなったのだろう。ある種の使命感に
燃える息子とそれを操る父親。茂七ならずとも不快感が拭えない。

また、武士上がりと思わせるいなり寿司の屋台の親父と梶屋の「勝蔵」
との関係は気になるところ。最後まで解き明かされなかった謎に対する
消化不良感が唯一の不満。

鰹や柿、白魚といった初物の食材に事件を絡めている点もお見事。
決まったお題で話しを進めるあたりは、落語や笑点にも通じ、
ある種の安心感、安堵感をもって読み進められる。

本書の特徴として、おいしそうな料理がふんだんに登場する。
江戸の庶民も粋なものを食していたんだなあと思うと同時に、
食の楽しみは時空を超えて共通なものと再認識。

無骨・素朴な感じで力強い挿し絵も効果的。「勝蔵」の印象は
これだけで決定づけられるほど。

この続編が読みたい!

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著者: 吉田 修一
タイトル: パレード

勝手に採点 ☆☆☆☆
 
第15回山本周五郎賞受賞作。

奇妙な共同生活を送る若い男女5人の日常と生き方。
それぞれが悩みを抱えながらも、現実に折り合わせをつけ
暮らしている中で起きるある事件・・・。

自分もかつて味わったせつなさやほろ苦さを再体験できる
懐かしい感じとうらやましさが複雑に交錯。

それぞれの視点で物語が進行するというメリハリの効いた、
分かりやすい構成に好印象。

特に「真実という言葉に真実を感じない」と言い切る頼りな
さげな大学生には親近感を感じる。

ストーリー的には、ラストに用意された落とし穴には全く気
づかなかった。突然サイコホラーに急転するあたりは、なか
なかうまい持っていき方。

ただ、日常に潜む狂気に薄ら寒いものが走るものの、あまり
に唐突すぎて容易に飲み込めない。

長い道のりを旅した終着駅で電車が脱線した感じ。あれって?

でも、それが不自然とか、受け入れられない訳でないから不
思議な感覚にとらわれる。

一見和気藹々とした中にも、決して一線を越えない目に見え
ない壁の存在。

彼らの無関心さが故意にやってるの?との疑念から、事件の
前後で不気味なコントラストを醸し出す。

それがラストに彼が感じた疎外感か?

核家族化が進み、テレビゲームに熱中し、個人が尊重されて育
ったせいか、一人でいることに苦痛よりもむしろ幸福を感じる
世代。

チャットやブログのように表面的なつき合いだけで、心を通わ
せた交流や他人を思いやる倫理観、優しさが欠如した世代。

この世代が誰でも抱えて生きる寂寥感や焦燥感をリアルに浮かび
上がらせ、スポットをあてた功績は大きい。

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「天使の耳」

テーマ:


著者:
タイトル: 天使の耳

勝手に採点 ☆☆☆

交通事故がもたらす突然の悲劇を描く短編集。
被害者と加害者のそれぞれの事情から、捜査を担当する警察官を
巻き込んで、事件がよりドラマティックに展開する。

隠された真実は一体どこに・・・。

最近長編や難編が続いていたせいか、肩が凝らずアッという間に読める
手軽さにホット一息。

日常茶飯事の感がある交通事故がテーマ。
思わず自分の身に振りかかるリスクを考えないわけにはいかない。

謎解き自体はそれほど奇をてらったものではなく納得できる
オーソドックスな範囲。

標題でもある「天使の耳」だけは、被害者の全盲の美少女という設定
と驚異的な聴力、記憶力に頼るあたりがこじつけっぽくてあまり好き
になれない。

反対に最後の「鏡の中で」は納得感十分。何せ自分もハワイでレンタ
カーを借りた時に、数回同じような失敗をやらかし、冷や汗ものの経
験をしたくち。

頭で分かっていても、実際に交差点で左折すると信じられないことに
逆走してしまうんですね。

替え玉の結末もイイ。特にラストがすんなり受け入れられた。
真実が表沙汰になっても良いことばかりとは限らないということ。

しかし、本書にもあるとおり、事故処理をめぐる警察の対応の悪さ、
遅さはどうにかならないものか。

スピード違反や駐車違反、最近では携帯電話の取り締まりばかりに
力を入れてないで、ひき逃げや当て逃げなどにもきちんと捜査を行
って欲しいものである。

そういえば10年ほど前に被害にあった当て逃げの捜査はどうなった
のだろう・・・。

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著者: 京極 夏彦
タイトル: 豆腐小僧双六道中ふりだし

勝手に採点 ☆☆

江戸時代の妖怪「豆腐小僧」が様々な妖怪たちとの出会いを経て成長
していく自分探しの旅を描く異色作

まず驚かされるのが本の形。スクエアに近く分厚いため、ちっとした
箱のようなユニークさ。

そして、それに負ていないのが主人公の「豆腐小僧」
キャラや容姿が脳天気で微笑ましく憎めない。

すぐに忘れる鳥頭のくせに以外と鋭いところもある。
よこしまな考えがない天真爛漫、無垢な性格に敵はいない。

著者の妖怪に関する造詣の深さには改めて驚嘆させられるが、
いつものような重苦しさとは無縁のおふざけ半分の語り口、
人間くさい妖怪たちに肩肘を張らずに気楽に楽しめる。

語り手は現代、舞台を幕末に据え、時にツッコミやジョークを
交えながら、軽妙なタッチでミョーに明るい展開。

宇宙人やエステなど説明に使う喩えが今風で面食らう場面も多々
あるが、ユーモアたっぷりでそこはご愛敬。

これまでの京極先品にはないコミカルな作風に驚かされる。

ただし、前半部分の新鮮さとを通り越してしまうと、後半に訪れる
狐軍団vs狸軍団の争いあたりから、ページをめくるペースが鈍って
しまう。

挿し絵や画像がないので、妖怪の容姿や密談の様子が掴めず、
登場人物の多さから誰が話してるのか理解できなくなる。

それと妖怪が語る出自などの蘊蓄のオンパレードにバテ気味に。
終盤はまだこんなにページが残ってるの?と思いたくなる。

唯一納得できた蘊蓄が「幽霊から個性をなくしたものが妖怪」とのこと。
確かにお岩さんには強烈な個性・名前があり、河童や一つ目小僧には
太郎とか固有の名前がない相対的概念。

しかし、それだけ知るにはちっと長すぎる分量である。
マンガにした方が絶対おもしろい。

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著者: 津原 泰水
タイトル: 綺譚集

勝手に採点 

死の臭いが強く漂う幻想的虚構に包まれた世界。
オリジナリティー溢れる幻影怪奇短編集。

残念ながら著者の意図・真意が伝わらない、受け入れられない領域。
こういうのが好きなで理解できる人もいるのかな?

短編なので読破するのはさほど難しくないが、句読点がなくダラダラ
続く文章や、やたら難しい漢字、懐古調の文体にただ戸惑うばかり。

ストーリーもあってないようなものに等しい。

印象に残ったのは「頸骨」
交通事故で右足を失ったホステス。その骨を見つけた主人公が、
30年後に持ち主に返しに行く・・・。

それでも、最後に喜んでいたようなので「あー、よかった」という程度。

そんな中「約束」は良い話しっぽい。
ちょっと映画「ゴースト」に通じるところが・・・。

他は、はっきり言ってよく分からない。
生理的嫌悪感を抱く死にまつわるブラックファンタジー。

「姉飼」ほど直接的な表現やスプラッター色は少ないものの、
根底に流れるのは似たようなテーマ。

「生、性、死」

人間はこれらにこだわり、魅せられ、惹かれる。
すべて密接に関連付いた不可分なものからか・・・。

第二の「乙一」はいつ見つかるんだろう・・・。

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著者: 神山 裕右
タイトル: カタコンベ

勝手に採点 ☆☆

本年度の江戸川乱歩賞を受賞した話題作。
人跡未踏の洞窟探索に向う調査隊を襲った岩盤崩落事故。

事故に巻き込まれた恩人の娘を助けるため、単身救助に向かった
ひとりの青年。彼には悔やみきれない悲劇的な過去が・・・。

洞窟が水没するまでのタイムリミットは僅か。
果たして彼らは生還できるのか!?

舞台が外界から隔絶された洞窟内という設定が秀逸。
息苦しいほどの緊迫感が漂う。

カタコンベ、ケイビング、ドリーネといった聞き慣れない用語や
白亜の地下空間、巨大な地下湖の存在も神秘的な雰囲気を
盛り上げる。

最後まで落ちないスピード感もなかなかのもの。迫り狂う地下水
に飲み込まれずに逃げ切るのか、思わず手に汗を握る。

一方、救出に絡む復讐劇は陳腐そのもの。
10年間洞窟内で死なない雑種犬や横領を恐喝される税理士など、
あまりに安易な設定に首を傾げる。

決定的な違和感は、犯人が遺体を放置したままでいたこと。

現場に戻って隠すなり焼くなり地下水に流すなりしておけば
良かったじゃないかと突っ込みたくなる。

10年間も何時発見されるか怯えて暮らすぐらいなら・・・。
全員殺してしまったら余計に疑われるだろう普通・・・。

恩人の使い方や娘の言動にも全くひねりがないし、冒頭のヤマイヌ騒
ぎは何だったの?歯形で分かるだろう、ただの犬かオオカミかぐらい。

そのため、全体的に重厚感や深みに欠け物足りない印象で、
尻窄み気味の後半に興ざめの感が拭えない。

スリリングな冒険小説に取って付けた殺し合いは似合わない。

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「第三の時効」

テーマ:


著者: 横山 秀夫
タイトル: 第三の時効

勝手に採点 ☆☆☆☆☆!

県警捜査本部を舞台に刑事たちの葛藤、執念に満ちた熱き闘いの
ドラマ。追う者と追われる者のスリリングな駆け引き、県警内部
の複雑な人間模様を鋭く描く刑事小説。

事件とそれを取り巻く刑事や記者にスポットをあて、圧倒的なまで
のリアル感、存在感で読み手を強く惹きつけ容易に放さない。

特に男臭さとその経歴から捜査第一班を率いる朽木がカッコイイ。
沈着冷静で何事にも動じない強靱な精神力を持つ一方で、被害者の
小さな棺桶を前にメンツや手柄も捨て去ることが出来る潔さ。

その他二班楠見、三班村瀬など曲者揃い。それぞれの刑事にスポット
を当てワンパターンに陥らない展開は見事。

それぞれのストーリーも刑事の閃きに頼る部分が大きいものの、
緻密な構成と行間を読ませる手法で思わず唸らせるうまさが目立つ。

特に良かったのは「沈黙のアリバイ」と「第三の時効」
どちらも哀愁が深く漂う味わいと大岡越前的な痛快さを併せ持つ秀作。

短編でここまで引き込まれたのは初めての経験。
それだけ主人公に感情移入でき、同じ視点で体感できる迫力感。

この「読引力」ともいうべき力を持った作家は、現在横山氏の右に
出る者はいないだろう。とにかく満足できるその出来映えに、
いまだお読みになっていない方にはぜひ一見の価値あり。

注意事項として、睡眠前の服用はお薦めしない。
ただし、「寝不足」覚悟の方なら、貴重な睡眠の対価に見合う
素晴らしい時間を過ごせること請け合い。

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著者: 伊坂 幸太郎
タイトル: アヒルと鴨のコインロッカー

勝手に採点 ☆☆☆☆

大学に入学した主人公が、知り合ったばかりの隣人に誘われ書店強盗
の片棒を担ぐ羽目に。盗みの目的は「広辞苑」

二枚目の隣人は一体何を考えてるのか?書店を襲う真の理由とは?

「現在の僕」と「二年前の私」の話が時間を超えてシンクロで進行する
構成に戸惑いつつも、小気味よいテンポで進むストーリー展開。

「何で?何で?知りたい!」が先行してドンドン進みたくなる。

前半部分では、「二年前の私」に何が起こったのか、スーダン人の留学
生が引きこもった理由、隣人の病状など、漠然とした不安感が漂う。

身内にこれから不幸が訪れるような、何とも落ち着かない気分に陥りな
がらも、想像を超えるどんでん返しに後半は良い意味で期待を裏切り続
けられる結果に。

よくよく考えると、知らないうちに事件に巻き込まれ、その謎解きを始
めるあたりは、「重力ピエロ」に似た構成だが、そんな臭いを感じさせ
ない力量に才能の片鱗が垣間見られる。

ペット店主の容姿や性格にいまひとつ違和感を感じるし、琴美とドルジ、
主人公と家庭の関係も釈然としない。あまりにサラッとし過ぎの感。

しかし、それを補って余りあるラストには清々しい気分とやっぱり・・・
と寂しい気分が交錯し、この後どうなるの?という程良い余韻も感じ
させてくれる。

物語のすべてが凝縮されているような題名、神様に例えたボブ・ディラン
の使い方など相変わらずの卓抜したセンスに魅せられる優れた作品。

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