著者: 垣根 涼介
タイトル: ワイルド・ソウル

勝手に採点 ☆☆☆☆

国の移民政策の拙さから悲劇の運命を辿ったブラジル移民たち。
母国日本へ復讐を果たすため、立ち上がった三人の男達。

彼らはどんな方法でその目的を果たすのか、そして成功の可否は?

ボリュームはあるものの、メイハリの効いたストーリー、場面設定
に飽きさせることなくページを進めることが出来る。

苦難に満ちた移民たちの過酷な生活環境、その後のサクセスストー
リー、女性記者との情交、外務省への復讐劇、組織の裏切りなど、
どれもエンターテイメントとして素直に楽しめる話題に溢れている。

壮大なスケールにも関わらず、全体的に良くまとまった印象を受ける
のは、テーマがぶれていないこと。復讐にかける男達のひたむきな
情熱がひしひしと伝わってくる。

冒頭から始まる移住先での言語を絶する生活苦によって、主人公たち
に感情移入しやすく、かなり過激な後半の行動にも拍手を送りたくなる。

筆者がカーマニアなのか、ケイの操るマシンはかなりマニアック。
ブラジルで生まれ育ったはずなのに何でそんなに日本車詳しいの?

終盤での決死のダイビングは、単なるフィクションを超えて、ハリウッド
映画並み!

「ワイルド・ワイルド・スピード2」を彷彿とさせるが、非現実すぎて許容
出来ない範囲かな。

作風が若干「真保裕一」に似ている気がするが、移民問題を絡めた壮大
なスケールの冒険小説に新鮮な感動を覚えた。

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著者: 新堂冬樹
タイトル: 三億を護れ!

勝手に採点 ☆☆

夢の宝くじ3億円を当ててしまったうだつの上がらない中年の会社員。
賞金にハイエナの如く群がる家族、親戚、近隣住民そして詐欺師集団。

四面楚歌の彼は果たして無事に3億円を護りきることが出来るのか?

過激なバイオレンスシーンや性的描写もかなり控えられ、ドタバタ
喜劇風にまとめられている分、本来のスピード感、暴力的なまでの
圧倒感が感じられない。

前半の詐欺師が仕掛ける罠が陳腐すぎるもどうか。

冷酷な超二枚目、金のためなら何でもする美女など、登場人物に
新鮮味が欠ける面も手伝って、まさに想像通りの展開。

ただ、救いようのないダメ亭主・ダメ親父を書かせたら、氏の右に出る
ものはいないだろう。

これでもかというほどのいたぶり、バカさ加減を露呈させる手法はマン
ガ的色彩が強い。

後半に登場する不気味な兄弟や変態的ナルシスト「ナッキー」など、
結構おもろいなーと思わせるキャラクターの登場は、ダラダラ続く
争奪戦の救い。

ともあれ、ストーリー展開や人物描写の精緻さを期待するよりも、
決して文学賞候補にはノミネートされないであろう強烈にダークな世界
を描き、疑問を差し挟む隙を与えない強引とも言える文体が氏の魅力。

そういった意味では中途半端な印象が拭えない。かつて「鬼子」で感じた
あの震撼を再び味あわせて欲しい。
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「11文字の殺人」

テーマ:
勝手に採点 ☆☆

恋人を殺された女流作家が親友の女性編集者とともにその
謎を追う。聞き込みを続けるうちに関係者を次々と襲う悲劇。

被害者たちには、クルージングツアーに参加し、遭難した経験
を持つ共通点が・・・。

そこで一体何が起こったのか?そして犯人は?

うーん、どうも「はい、そうですか」と納得がいかない。
一番腑に落ちないのは、真相解明のため、主人公がクルージン
グツアーに参加してしまうところ。

結果的には再び殺人が起きることになるのだが・・・。

味方は親友だけで敵ばかり。まして犯人さえもいるかも知れな
い危険なツアーに、警察に連絡もしないでヒョイヒョイついて
行くか、普通・・・。

どうも殺人の舞台設定やその後の展開を劇的に変えるための、
苦肉の策なようでその強引さが気になって仕方がない。

さらに、良く知らない恋人のためにしては、いささか熱心すぎ
る主人公の行動。

殺害の動機も連続殺人を犯すほど説得力に欠ける。

二度殺されたというあたりもこじつけっぽい。
水泳が得意なら泳いで帰って来れたのではと突っ込みたくなる。

と、批判ばかりしてしまったが、これもスリリングなストーリー、
二転三転する謎解きの巧妙さがあればこそ。

氏の初期の作品ということでそこはご愛敬。
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著者: 伊坂 幸太郎
タイトル: 重力ピエロ

勝手に採点 ☆☆☆☆

仙台市内で発生する連続放火事件。その近辺には、意味不明な文字
が羅列したグラフィティアート。

落書き消しを生業とする弟とともに謎解きを始める兄が、放火犯の
真の目的を知り、犯行を未然に阻止するべく行動する。

著者の年齢が自分と近く、舞台が仙台であることから非常に親近感
を覚え、最初からすんなり小説の世界に入り込むことができた。

遺伝子というお堅いテーマに取り組みながらも、複雑な家族設定を
上手く使い、兄弟愛、親子愛といったところにスポットを当ててい
く手法は秀逸。

レイプの結果生まれた弟を抱える複雑な境遇にもかかわらず、「春」
を始め、主人公や父親の間に築かれた絆は何物よりも強い。

ホントだったらこんな良い関係にはならないだろうなと思いつつも、
こんな父親がいれば良いなと感じてしまう。

題名の重力ピエロを始め、仁リッチやジョーダンバットなど目次の
付け方ひとつにもセンスの良さが伺える。

ただひとつ難点は、警察の捜査能力が杜撰に感じられてしまう点。
放火と殺人ならもっと厳しい追及が来るはず。

遺伝子といった運命さえも変えることができる「楽しそうに生きて
いれば、地球の重力を忘れさせる」という言葉がこの家族にとって
何より重要な命題なのだろう。

自身初の伊坂作品だったが、これからも長くつき合える作家に出会
った喜びを感じる一品であった。


著者: 村上 春樹
タイトル: 神の子どもたちはみな踊る

勝手に採点 ☆☆☆

著者が阪神大震災にインスパイアされて著した短編集。

村上春樹というフィルターを通して感じる未曾有の大惨事から
何を感じ取るか?

一番印象に残ったのは「かえるくん、東京を救う」。
震災の恐怖・苦しみが闘争後のかえるくんに凝縮されている気
がしてならない。

かえるくんの断末魔の姿に思わず目を背けたくなる。
実際に被災された方々の艱難辛苦はいかばかりか・・・。

得体の知れない災害をみみずくん、震災を体験しなかった一般
市民を主人公として見てしまった。

ハッピーな気持ちになれたのは「蜂蜜パイ」。
これを最後に持ってくるあたりが心憎い演出。

ストーリー自体も日頃読み聞かせをしている自分にラップする
部分があり、子供の想像力はこちらがびっくりするほど豊かで
奇抜であるので、思わず頷くような場面があった。

ラストがハッピーエンドであるのも効果大。
これから築くであろう明るい家庭を考えるだけで何とも言えず
心が温まる。

震災から立ち直った方々もこのような未来を歩まれたことを願
ってやまない。

氏の著作は大きなテーマを下敷きに独特の比喩的表現がちりば
められ、読者の想像力をかきたてる、独自の世界を持っている。

本書はテーマが明確で短編であることから、独創的であるが、
分かりやすい内容に仕上がっており、読みやすい印象を受ける。

印象的な登場人物も健在。特に「タイランド」運転手は個性的。
一度で良いから、こんなアテンダントの案内で優雅な旅をしてみたい。
勝手に採点 ☆☆☆

北朝鮮における壮絶なまでの「性」の実態をストレートなまで
に描いた衝撃作。

驚愕の事実の数々を目の当たりにして近くて遠い「北朝鮮」
という国をどう考えるか?

著者の「ここに書いたことが早く笑い話になるといい」
という言葉に思わず同感。

もっとおどろおどろしい、凄惨な内容かと思っていたが、
どちらかというと筆者が体験したり、聞いたりしてまとめた
「性」のこぼれ話的要素が強い。

北朝鮮といえば、全体主義、金正日、貧困、飢餓、マスゲーム、
拉致といったマイナスイメージ、画一的な印象で、国民の顔が
よく見えない国である。

だが、これを読むと性風俗は万国共通なもので、人間の本能の
逞しさを感じない訳にはいかない。北朝鮮の国民も血の通った
生身の人間であることをあらためて実感させる。

本書には悲惨な話、おかしい話、怖い話などびっくり箱的要素
が強いが、ひとつだけ羨ましかったのが、
「夫と妻が守るべき十箇条」。

儒教思想が強く残る内容で戦前の日本もこうだったのだろう。
今では見る影もないが。

家庭でここまで解放させないと男性は抑圧された社会で生き抜く
ストレスを発散できないのかもしれない。その犠牲となる女性に
は同情の言葉もないくらいだ。

そして唯一希望の光は若い世代の暮らしぶり。さすがの北朝鮮
政府も若者のパワーには辟易させられているらしい。国を変革
する新しい力になってくれることを期待してやまない。

先日テレビで隠し撮りされたホームレスの子供たちを見たが、
思わず目を背けたくなる内容に「何とかならないものか」と
胸が痛くなった。

経済制裁も声高に叫ばれるなか、その影響が彼らに与えるダ
メージはいかばかりか。

本書はあの国の悲劇を再確認させるとともに、日本が今後どう
つき合わねばならないのかを深く考えさせる。


著者: 浅田 次郎
タイトル: 輪違屋糸里 上

勝手に採点 ☆☆☆☆

いまだに根強い人気を誇る「新撰組」

その結成から芹沢鴨暗殺までの事件や登場人物を、
女性の視点から捉えた浅田版新撰組。

糸里や吉栄、お梅やお勝といった、いわば歴史上の
脇役の女たちが、何を考え、どう生きたのかが鮮や
かに伝わってくる。

まず強く感じることは女性の強さ、したたかさ。
いつの世も男性の陰に隠れがちだが、その実男達を
手のひらで遊ばす余裕、操る術を身につけているの
ではないか。

ラストで糸里が土方に放つ言葉に、いじらしくも何者
も寄せ付けない秘めた強さを感じ取り、思わず引き込
まれてしまう。

また、永倉や土方、沖田らが一人称の形式で独白する
場面は、構成にスパイスを与え、読み手を飽きさせない。

彼らの超人離れした偶像化された姿ではなく、ひとり
の人間として生き、苦悩する等身大の人間味をひしひし
と感じることができる。

芹沢鴨の人間性については、これまで知っていた事実と
は異なる解釈があるものの、全く違和感を感じることは
なかった。

ここまで人を引きつける「新撰組」の人気の秘密はどこ
にあるのか?

友情、愛情、忠義といった感情に素直に生き、そして散
っていった男達の悲劇性からか?

新撰組を知らずとも堪能できる、男女の複雑な関係、女
性の悲哀を鮮やかに描いた一級のエンターテイメントに
拍手を送りたい。


著者: 室積 光
タイトル: 小森課長の優雅な日々

勝手に採点 ☆☆

殺したいほど憎かった部下とひょんなことから意気投合。
いつの間にか会社内にできたあるサークルの代表へ。

順調に会員も増え、盛り上がりを見せる秘密サークル
の正体とは?

『都立水商!』『ドスコイ警備保障』の印象から爆笑系の
笑いを期待していたが、シニカルなユーモアでちょっと
期待はずれの感。

警察の捜査能力を考えれば、そのままで済むはずがない
と思うと内容にあまり入り込めない。

最初の犠牲者までは展開としてはおもしろかったが、その
後は話しが膨らみすぎて間延びした感じに。

ただ、仕事に疲れた中年サラリーマンが、熱中できること
に打ち込むことで家庭も仕事もうまく行くようになるという
設定は頷ける。

「ダブル不倫」のエピソードも下世話で親しみやすいので、
むしろこっちを掘り下げた方が良かったかも知れない。

ラストの奥さんの言動には思わず苦笑。
知らぬはダンナばかりなりけりということか。


著者: 山田 詠美
タイトル: A2Z

勝手に採点 ☆☆☆

夫から不倫を告白され、自らもまた年下の郵便局員と恋に
落ちる女性編集者。

彼に強烈に惹かれる一方で、夫にも未練が残るジレンマの
なか、彼女はどんな選択をするのか。

読売文学賞受賞の洗練された大人の恋愛小説。

お互いに恋人がいながら夫婦生活を続ける意味とは・・・。
普通お互いの不倫がばれたら修羅場だろうな。
こんなにアッサリ済むはずがない。大人すぎる。

結末はダンナが別れたあたりで分かってしまう。
出会いに別れは付き物だがだからこそ夢中になれるのかな。
いつまでも続いて欲しい・・・とか。

夫婦はそうはいかない。
良いとこ、悪いとこひっくるめてずーっと一緒。

でも、ちょっと憧れてしまう夫婦関係。
同じ職業に就いて、お互い力量を分かり合いつつも、素直
には認められないライバル。

夫・妻としてなくてはならない存在なのに恋人を作って純粋
に恋愛を楽しむ。

子供がいない、お金と時間はあるからこそできるんだよね。
できない自分が少し悲しい。

やはり恋愛小説は苦手である。
読書の楽しみは、主人公に同化して、色々な冒険ができること。
そういう意味で今一つ入り込めない世界。でも憧れる世界。

「誰か」

テーマ:


著者: 宮部 みゆき
タイトル: 誰か ----Somebody

勝手に採点 ☆☆☆☆

ある財閥会長の運転手が自転車でひき逃げされて死んだ。
会長から被害者の二人の娘の相談相手に指名されたのは、
グループの広報室で働く元編集者の娘婿。

妹が発案した亡き父の自叙伝出版を手伝ううちに次第に
明らかになっていく死んだ運転手の隠された過去、姉の
誘拐事件、そして姉妹の関係・・・。

そしてひき逃げの真犯人は?

大上段のミステリーはどうも馴染めない私にとって、
かなり楽しめた一作。人物描写の繊細さ、丹念さは、
ストーリーの巧緻さと相まって、読み手を引きつける。

ひき逃げ事件や姉妹の確執、夫婦愛といったありふれた
題材から、人が何人も殺されなくても、十分に複雑で楽
しめるミステリーを書き上げる宮部氏の力量はお見事。

氏の時代物や超能力ものの作品も良いが、また新たな一
面を見せられたようで嬉しい。

最初は「自転車でひき逃げ」なんてと、設定にいささか疑問
を感じていたが、主人公の複雑だが幸せな家庭・職場環境、
姉妹やその関係者との交流、義父とのやりとりを読み進め
ていくうちにどんどん引き込まれた。

ひき逃げの犯人探しはさほど重要ではなく、この事件を通じて
主人公や関係者たちが何をどう考え、感じたのか、行動したの
かが重要な点。

結果的に二重の不幸を背負う結果になった姉妹は、この先
どうなるのだろうと感じざるを得ない。