FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

ようこそ、いらっしゃいませ。
キレイなお花で一杯の庭園のように、たくさんの「素敵」な出来事を綴ったブログになっていれば嬉しいです。
小説がメイン(のつもり)ですが、そのほかにもお好みの記事があれば嬉しいです。どうぞごゆっくりご覧下さいませ。








☆お陰様で、「東めぐみ」は今年で筆歴21年を迎えました。アクセス数に関係なく、自分の書きたいもの、伝えたいことを自分の言葉で紡ぎ出してゆけば良い。そして、それを読んで「何か」を感じたり、良かったと思ってくれる人が一人でもいれば良い。それが私の夢であり、究極の目標です。

筆歴24年の大きな節目を迎えた今年、「一人でも多くの方に自分の作品を読んで頂きたい」という初心に戻り、これからも書き続けてゆこうと決意も新たにしています。





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小説 霞み桜~炎のように雪のように~

炎のように激しく、雪のように清らかな恋をした。

大切な人を守るために、あなたなら何をしますか?

「幼い頃に川に落ちて溺れかけてからというもの、お芙美はたとえ浅瀬でも怯えて入ることはできなくなった。それが災いしたんだ、川に落ちたお芙美は恐慌状態を来たし、本来なら溺れるはずのない足の立つ川で溺死した。亡骸が見つかった同日、その件(くだん)の役者が芝居小屋の者に付き添われて番所に出頭してきたそうだ。それで、お芙美の死んだ原因が判ったというわけさ」
「そんな、馬鹿な」
作蔵の声が戦慄いた。
「お芙美の死因が明らかになるのを金を使ってもみ消したという世間の噂は真実だ。だって、お前、たとえ心はとっくに離れていたとしても、お芙美は十六年も連れ添った女房じゃないか。息子のような年の若い役者に入れあげた挙げ句、棄てられそうになって別れ話の果てに死んだなどと到底、世間さまに言える話ではなかった。それでは、あまりにお芙美が不憫だからな」
「だが、おとっつぁんは私が実の子ではないと思っていると―」
信右衛門の声が皆まで言わさなかった。
「つまらない噂を信じるな。世間は何でも他人の家の揉め事は面白おかしく取り沙汰するものだ。だが、お前が誰の子かはこの私がいちばんよく知っている。お芙美は祝言を挙げたときは綺麗な身体だったし、お前を身籠もったのはそれからすぐだった。その後は知らないが、お前は間違いなく私の子だ。それは父親である私が保証しても良い」
「嘘だ嘘だ嘘だ! おっかさんが役者と別れ話で揉めて川に落ちただなんて、そんなことがあるはずがねえ」
「作蔵!」
信右衛門の悲痛な声が上がる。到底、出てゆける雰囲気ではなく、結衣は身を強ばらせたまま立ち尽くしていた。そんな彼女の眼前で突如として襖が揺れた。怒りに任せて力一杯蹴り上げられた襖が烈しい音を立てて倒れてくる。
結衣は小さな悲鳴を上げ、後ずさった。咄嗟の動きが幸いして、倒れてきた襖が結衣にぶつかることはなかった。
「何て乱暴なことをするんだ、お前は」
信右衛門が絶望に染まった顔で作蔵を見つめている。結衣は居たたまれず、うつむいた。その寸前、作蔵と視線がぶつかった。
ぎらついた視線が結衣を射竦めるように絡みついた。その嫌らしげな視線が検分するかのように、結衣の身体を舐める。あまりのおぞましさに、結衣は総毛立った。
「怪我はなかったかい?」
流石に信右衛門は動ずることなく、結衣に身の安全を問うた。結衣は小さく頷き、頭を下げた。
「申し訳ございません。旦那さまのお部屋の掃除をしておりましたが、出ようにも出られず、ご無礼を致しました」
信右衛門は鷹揚に頷いた。
「これだけ烈しい父子喧嘩をしていては、出ようにも出られないのは仕方ない。済まなかったね、できれば、このことは他の奉公人には口外しないで貰えるとありがたい」
流石は江戸屈指と呼ばれる大店の主だ。見事な受け答えに、結衣はいっそう頭を垂れた。
「もちろん、承知しております」
「もう、ここは良いから、行きなさい」
「はい」
結衣は作蔵にも一礼して、静かに下がった。背中にはまだ、あの粘りつくような作蔵の視線を感じていた。
それにしても、世の中は面妖なものだと思わずにはいられない。信右衛門と作蔵は紛れもない血の繋がった親子でありながら、判り合えない。姿形も作蔵は信右衛門そっくりだ。何より二人の姿を見ずとも声だけを聞いた結衣には、この父と息子の声が紛れもなく父子であることを確信した。
作蔵が信右衛門ほどの年になったら、恐らく声に深みが出て、こんな声になるであろうと思えるほど、二人の声は酷似していた。
信右衛門と作蔵に比べ、結衣と喜助の間に血の繋がりはまったくない。それでも、父と自分は血の通った信右衛門父子よりよほど強い絆で結ばれている。そのことを結衣はありがたいと思った。
―おとっつぁんのようなお人の娘になれて、私は幸せだ。
そう素直に思える自分が嬉しかった。作蔵がもう少し分別のある男であれば、信右衛門がどれほど息子を案じているか判るというものだろうに。何故、信右衛門ほどの男にあんな愚かな息子が生まれたのか。顔は父に似ていても、どうやら作蔵の性根は父親とは相反しているようだ。
美濃屋の先妻の死については世間では確かにあれこれと取り沙汰されている。その大方は婿養子の信右衛門が妾のおこうを正妻に直したいがために、おこうと計ってお芙美を事故に見せかけて謀殺したというものだ。お芙美の死の真相を隠蔽するために南町奉行所の役人にも多額の賄賂を送ったとも。
しかし、噂の大半は信右衛門自身の今し方の証言で誤りであることが判明した。あのときの信右衛門の言葉には微塵の偽りもないと、傍で聞いていた結衣にも判った。むしろ顔を見ずに声色だけを聞いていたからこそ、そこにこもった真実を知ったともいえる。
信右衛門が妻の死因を公表しないために金を使ったのは確かではあったけれど、それは妻の不名誉な死を隠し、あくまでも妻の体面を守るためであった。
噂ほど、当てにならないものはない。結衣はこの時、つくづくと思い知らされたのだった。


その日も結衣は庭にいた。上女中になってからというもの、女中頭のお登勢からも庭の掃き掃除はしなくて良いと言い渡された。にも拘わらず、暇があれば、結衣は庭掃除をしている。人気がないときは最奥部まで歩いて、蔵の建つ位置、目印になりそうな樹木を記憶に刻み込み、深夜、紙に書き付ける。そんなことを繰り返している。
奉公に上がってしばらくは他の女中と相部屋だったけれど、今は狭いながらも一人の部屋を与えられている。そのため、夜更けまで書き物に夢中になっていたとしても、見咎められる心配はない。美濃屋では下女中は大部屋、上女中になると一人用の部屋を与えられると決まっているらしい。
あまりに頻繁に一味の者と接触しても、怪しまれる危険性がある。そのため、繋ぎを取るのは半月に一度と決めてあった。繋ぎは半月に一度のその日、必ず結衣の前に現れる。ただし、その時、繋ぎがどのようないでたちをしているかは判らない。
襤褸を纏った乞食かもしれないし、裕福な商人風かもしれない。男なのか女なのかも判らない。喜助の手下には女も数人はいる。いずれもこれまでは彼女らの誰かが引き込みとして押し込み先の商家に潜入してきたのである。
どのようななりをしているか知れずとも、結衣は必ずその者と接触しなければならない。予め周囲に気付かれないように向こうから合図はあるというけれど、結衣は今一つ自信がなかった。
お登勢は幾ら止めても結衣が庭掃除を止めないので、呆れている。
―お内儀さんから何とか言ってやって下さいまし。
お登勢が訴えると、おこうは笑んだ。
―良いことじゃないの。若い娘で今時、結衣のような子はいないわよ? そんなにやりたいなら、させておやり。
そのひと言のお陰で、結衣は今も掃き掃除をしている。今日は思い切って蔵の鍵を見てみるつもりだ。可能ならば、次回は鍵の型も取りたい。
だが、彼女が庭掃除を好きなのは実のところ、引き込みの役目のためだけではない。美濃屋の庭は広大で、様々な草木が植わっているため、見ていて飽きない。
幸いにも蔵のある奥まった場所まで誰にも逢うことなく行け、蔵の鍵も確かめることができた。美濃屋の蔵には千両箱や父祖代々伝えられた名宝が眠っているという。錠前は流石に立派なものだが、型を取ることはできると判断し、次回は早速実行に移すことにした。
その帰り道、結衣はつい油断していた。蔵の側からは離れたので、余計に気を緩めていたのだろう。山梔子が植わっている辺りで立ち止まり、爽やかな白い花をしばし眺めていた。その中にどこからか蝶も飛んできて、ひらひらと白い花に戯れかけるように舞う。


黄色い蝶は小さく愛らしく、忙しなく羽根を動かしてはまた花に止まり、また舞い上がっては別の花に止まる。その様子に思わず微笑んでいると、背後から男の声が聞こえた。
「随分と熱心だな」
突然のことに、結衣は飛び上がった。振り向かずとも、この声が誰のものであるかは知れた。
「申し訳ございません。花があまりにも綺麗だったもので」
頭を下げた結衣の前で、歩いてきた作蔵は止まった。
「いや、お前が熱心に眺めていたのは花ではなく、むしろこちらだろう」
作蔵がつと動いた。結衣がハッとする間もなく、山梔子に止まった小さな蝶は作蔵の大きな手に掴まれ、握りつぶされていた。
「あ―」
あまりの出来事に、声も出ない。作蔵はそんな結衣の前で、握りつぶした蝶を地面に投げ捨て更に脚で踏んだ。
「私は綺麗なもの、美しいものが好きだ。だが、あまりにも美しすぎるもの、愛らしいものはこうして踏みつぶしてやりたくなるんだ」
作蔵の手がつと伸び、結衣の頬に触れた。
「お前は美しいな。先刻の蝶などより、この白い花などより、お前の方がよほど綺麗で可愛い」
そういう生きものほど、私は無性に手に入れたくなるのだよ、そして、手に入れた後はさんざん穢して踏みつぶしてやりたくなる。
男の声が結衣の耳に不吉な呪(まじな)い言葉のように注ぎ込まれる。
「震えているのか?」
人に触れられているのに、これほどに冷たく感じるのは何故だろう? 作蔵の触れた頬が冷たく、そこから氷と化してゆくようだ。結衣は思わず身震いした。
「だが、安心するが良い。踏みつぶす前には、たっぷりと可愛がってやろう。この世の悦楽という悦楽を教え込んでやるから」
彼がスと手を動かし、結衣のすべらかな頬を撫でた。
「お前は既に私の手に囚われた蝶だ。愉しみにしているが良い」
頬に触れた指は呆気なく離れた。作蔵は低い声で笑いながら、踵を返し去ってゆく。結衣は茫然とその後ろ姿を見つめた。
緩慢な動作でしゃがみ込み、無残に潰された蝶を見つめる。溢れた涙で黄色が滲んだ。結衣は小さな穴を掘ると、潰された蝶をその中に埋め、土をかけた。
あの男は狂っている。元々、狂気を帯びた性格なのか、母親の尋常でない死を乗り越えきれずに精神に異常を来してしまったのか判らない。店の者からは、元々、性癖に変質的で異常な―例えば道端で見かけた犬猫に対して訳もなく蹴ったり石を投げたり、時には野良猫に毒をわざと食べさせ、のたうち回って死ぬのを見て歓んでいたという。そういう残忍性は幼いときから見られたという話を聞いたことはあった。
遊廓通いが顕著になったのは母お芙美が死んでからの出来事だとはいうが、元々、あの男の中には狂気じみた性格があることは疑いようもない。
―お前は既に私の手に囚われた蝶だ。愉しみにしているが良い。
先刻、囁かれた言葉が耳奥でこだまし、結衣は思わず両手で耳を覆い烈しく首を振った。とんでもない男に眼を付けられてしまった。引き込みとしては大失態だ。
無意識の中に男が触れた箇所を手のひらでこすっていた。まるで汚いものでも触れたかのように。

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