法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

大学では資源工学科で熱力学などを学んでいました。
科学的分析で法律問題を解決!
多くのデータ(事情)収集→仮説定立(法的主張構成)→実証(立証)→定理化(判決)
※このブログはほぼ法的分析オウンリー。雑談はツイッタ(→方向)にて。


テーマ:
Q 守衛は,勤務中に仮眠を取ることがあります。
  これも「残業代」の対象ですか。


普通に考えると分かりそうなのですが,法治社会では「お堅い手続き」あります。

誤解ありがち度 4(5段階)
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A 適用除外の許可,を得れば「残業代」にはなりません。
  許可を取っていないと面倒なことに・・・


【労働時間の解釈】
守衛などの場合,仮眠時間があります。
これも含めて勤務時間となるのでしょうか。

→判例の基準に照らすと「勤務時間」と認められる可能性があります。

「労働時間」の解釈は,労働関連の法律には明記されていません。
判例の基準は次のとおりです。
<労働時間の解釈>
労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる
(最高裁判所平成12年3月9日,三菱重工業長崎造船所事件)

守衛の業務について,考えてみます。
仮眠中でも,緊急事態があればすぐに駆け付ける必要があるので,「指揮命令下」と判断される可能性があります。

【監視・断続的労働に従事する者に対する適用除外許可申請】
仮眠時間も含めて勤務時間だとすると,膨大な残業代が発生しそうです。
本当に残業代は発生するのでしょうか。

→労働基準監督署の許可を受ければ「残業」扱いにはなりません。

管理・断続的労働については,労働基準監督署の許可を受ければ,労働時間ルールに関する規定が適用されなくなります(労働基準法41条3号)。
この手続きを「監視・断続的労働に従事する者に対する適用除外許可申請」と呼んでいます。

[労働基準法]
(労働時間等に関する規定の適用除外)
第四十一条  この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
(略)
三  監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

【適用除外の趣旨】
許可によって残業代の適用がなくなる,という制度はどのような趣旨なのでしょうか。

→「拘束」「緊張」の度合が「通常の労働」よりも低いため,労働者の保護を一定程度弱めているのです。

監視・断続的業務は,「時間拘束」という意味では,一般の「労働」と変わりません。
つまり,勤務時間内は,従業員は「友人と出かける,食事する」ということができません。
その一方で,作業ベースでは自由(拘束しない)という部分があります。
待機時間中は「緊張」の度合も下がっています。
つまり,具体的作業がない時間については,眠っていても良いし,また,個人的な作業(例えば読書)をしていても良いということになっているのが通常です。
見掛け上,「労働」とは見えない感じもします。
そこで,許可という一定の手続きによるチェックを設けつつ,「労働者の保護」を調整する(弱める)という趣旨なのです。
結局,対価性・経済的合理性・バランスを取っている制度です。
ただし,上記のとおり,「許可」という手続きを取っていないと適用されません。
「理屈」「趣旨」だけでは結果に結びつかない,という点は要注意です。

【監視・断続的業務の要件】
どのような業務の内容であれば,適用除外の許可申請ができるのでしょうか。

→待機時間が多い業務が対象となります。

通達によると,次のように説明されています。
<監視・断続的労働の定義>
「監視労働」
一定部署にあって監視するのを本来の業務とし,常態として身体または精神的緊張が少ない労働のこと
「断続的労働」
実作業が間欠的に行われ,手待時間の多い労働のことをいい,手待時間が実作業時間以上であること,実作業時間の合計が8時間を超えない
(昭和22年9月13日発基17号,昭和23年4月5日基発535号,昭和63年3月14日基発150号)

いずれの場合でも,「常時行う作業」はない,という前提です。
逆に,行う具体的作業の例は次のようなものです。
<具体的作業の例>
・定期的巡回
・臨時,緊急の書類受取,電話引継
・非常事態に備えて待機

【部分的な監視・断続的業務】
1日の業務のうち半分はノーマルのオフィスワーク,残り半分が守衛業務,という場合はどうなりますか。

→監視・断続労働と通常業務が『1日の中に』混在する場合「適用除外申請」はできません。

勤務時間の適用除外制度は,あくまでも例外的なものです。
要件に合致しない場合は,適用できません。
ただし,「日単位」「週単位」で,監視・断続労働と通常業務が切り替わる場合は,対象となる「日」や「週」で適用されます。

このように「日によってタイプが違う」場合,記録・管理をしっかりしておかないといけません。

【所定労働時間超過分の割増賃金】
監視・断続労働の許可を取った後は,残業代は一切発生しないのでしょうか。

→「所定労働時間」を超過した場合は,賃金が発生します。

適用除外許可申請の時点で,「所定労働時間」を定めてあるはずです。
既に決まっている「所定労働時間」よりも超過して勤務すれば,賃金が発生します。
言い方を変えると「許可により,『1日8時間制限』は解除されるけど,「勤務時間無制限」になったわけではない」ということです。
当然と言えば当然ですね。
もっと正確に言えば,労働基準法の超過勤務手当(割増賃金)の適用が排除されているのです。
結果的に,「所定労働時間超過部分」については,労使間で自由なルール設定が可能です。
<所定労働時間超過の勤務に関するルールの例>
・通常の労働時間として(1時間あたりの賃金を用いて)超過分の賃金を計算する(1倍)
・一般の残業代と同様の方法で,割増賃金として計算する(1.25倍)
・独自の時間単価を設定する

【深夜手当は適用除外にならない】
守衛業務が夜間に行われていますが,許可を取ってあれば残業代なしで良いのでしょうか。

→許可を得ても深夜勤務手当は発生します(排除されません)

「8時間を超過しても残業代は不要」ということは合っています。
しかし,労働時間の中に「深夜」(22時~5時)が含まれていると,その部分についての「割増賃金」は発生します。
要は,換算した時給単価の0.25倍の部分だけは発生する,ということです。
(ごく一般的な「残業」では,深夜の場合,0.25倍が「上乗せ」なので,1.25倍となります。違いに注意して下さい)
また,この際,誤解があるのが「時給単価の計算」(換算)です。
簡単に言えば,「給与を『所定労働時間』で割る」ということです。
所定労働時間が1日10時間であるとすれば,この時間数を使います。
法定労働時間の8時間を誤って用いているケースがたまにありますのでご注意下さい。
また,当初より,一定額の「深夜勤務手当」を設定してあれば,給与算定が楽ですし,労使ともに分かりやすい(予測が付きやすい)ので良いと思います。

【監視・断続労働の典型業種】
具体的にどのような業種が監視・断続労働の許可を取れるのでしょうか。

→守衛,警備員,管理人など,典型業種はいくつかあります。

<監視・断続労働の典型業種>
・守衛,踏切番
 1日10往復程度までが限度とされています
・学校の用務員
・会社役員等の専属運転手
・集合住宅の管理人
・隔日勤務のビル警備員(関連通達後掲)

<関連通達>
平成5年2月24日基発110号

【適用除外許可の対象外業務】
交通誘導員は,自動車が来ない間は「待ち時間」となります。
断続的労働として許可を取れますか。

→「精神的緊張の高い業務」として許可は下りないでしょう。

労働時間ルールの適用除外制度は,「業務内容の精神的緊張の程度が低い」ということが趣旨になっています。
物理的な「待ち時間」が存在しても,「緊張が高い状態が継続している」という業務は「適用除外許可(申請)」の対象にはなりません。
<適用対象許可の対象外業務>
1 交通関係の監視,誘導を行う駐車場の監視など精神的緊張の高い業務
2 プラント等における計器類を常態として監視する業務
3 危険又は有害な場所における業務

【許可未了の場合】
監視・断続労働ではあっても,許可を取るのが遅かった場合はどうなりますか。

→許可を得ていない期間については,残業代が発生すると思われます。

具体的な業務によりますが,杓子定規に,待ち時間も含めて残業代計算をすると過大な金額となります。
しかし,裁判例(後掲)の傾向としては,「杓子定規な計算」を採用しています。
一切例外がないとは言い切れませんが,今後も,裁判所はこれら裁判例を重視すると思われます。

[東京高等裁判所昭和41年(行コ)第17号、昭和41年(行コ)第18号時間外勤務手当支払請求控訴事件昭和45年11月27日(抜粋)]

のみならず、かりに引率・付添の勤務が原判示のような実質をもつ労働であるとしても、本件において労働基準法第四一条第三号に規定する行政官庁の許可を受けたことについてなんらの主張・立証がないから、第一審被告は同法を適用することによつて時間外勤務手当の支払義務を免れることはできないものというべきである。この点についても、「労働の性質においてそのように解せられる以上行政官庁の許可を受けた者ではなくてもその違法性とはかかわりなく、かかる労働に対する対価としては、時間外勤務の割増賃金支払義務は発生しないものと解するのが妥当である。」とする原判示は、法律の解釈を誤つた不当の判断といわざるを得ない。
[大阪地方裁判所平成6年(ワ)第12731号賃金請求事件平成8年10月2日(抜粋)]
1 原告らの業務の内容を考えると、原告らの業務は、労働密度が希薄で、手待時間の長いいわゆる断続的労働に該当するというべきである。そして、前記のとおり、被告は、原告らの業務について、平成五年一二月二七日、茨木労働基準監督署長から、断続的労働の許可を受けている。
2 被告は、原告らの業務が断続的労働であることを理由に、時間外手当等の支給義務を負わない旨を主張する。しかしながら、労基法四一条三号の趣旨は、実際に区別することが難しい「監視又は断続的労働」と一般の労働について、使用者が断続的労働であることに藉口し、不当な労働形態を採ることを防止するため、労働基準監督署長に判断を委ねて、労働者の保護を図ることにあると解すべきであるから、その労働実態にかかわらず、労働基準監督署長の許可を受けていない以上、労基法の労働時間及び休日に関する諸規定の適用を免れないというべきである。

【従業員が納得していることが前提】
監督署は,従業員の意見を聞かずに適用除外の許可を出してしまうのでしょうか。
従業員としてはいつ残業代が打ち切られるか心配です。

→従前残業代が支給されていれば,「打ち切り」は不利益変更として原則認められません。

労働基準監督署の許可と従業員の納得,はまったく別の問題です。
従前の条件よりも従業員に不利な方向の変更は原則的に無効となります。
対象となる従業員全員の了解を取った上で運用を変更するというのは大前提です。
なお,新規に募集・採用する従業員については,最初から「新ルール」を説明し,了解を得れば「新ルール」を適用しても問題ありません。

【最低賃金の減額の特例】
守衛業務について,許可を取って所定労働時間をアップさせる予定です。
その結果,形式的な「時給単価」が最低賃金に抵触しそうです。
対処法はありますか。

→最低賃金の減額の特例許可を得れば違反を回避できます。

断続的労働については,最低賃金の減額(の特例)の許可を申請することができます。
労働基準監督署に許可申請書を提出します。
宛名は労働局長宛です。
また,「減額率」は,割合的に,「待ち時間に相当する部分の40%」が上限です。
待ち時間というのは「実質的な拘束」がなく,「緊張」の程度も通常業務よりも相当低いです。
その一方,場所的に拘束するなど,「一定の拘束」は存在します。
そこで,待ち時間のうち40%だけを減額できる,ということになっています。
式で表すと次のとおりです。
<減額率の上限の計算方法>
A=所定労働時間
B=実作業時間

減額率の上限(%)=(A-B)×40% ÷ A

[最低賃金法]
(最低賃金の減額の特例)
第七条  使用者が厚生労働省令で定めるところにより都道府県労働局長の許可を受けたときは、次に掲げる労働者については、当該最低賃金において定める最低賃金額から当該最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した額により第四条の規定を適用する。
(略)
四  軽易な業務に従事する者その他の厚生労働省令で定める者

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