エイベックスは、今のままだったら、エイベックスである必要はないし、存在する意味すらなくなってしまうかもしれない。エイベックスっぽいアーティスト、エイベックスっぽい音楽というのがなんだかわからなくなってきて、なんでもありになってきている。最近うちからデビューしたエイベックスっぽいアーティストと言えば、もはやlol(エルオーエル)ぐらいしかいない。時代が変わって、エイベックスっぽい音楽なんかもう必要なくなったのだろうか。僕は、絶対にそんなことはないと思っている。

僕がやってきたエイベックスというのは、Every LittleThingとか浜崎あゆみとかポピュラーな音楽もやりながら、その反対側ではテクノとかジャングルとか最先端の音楽もやっていて、そのギャップがエイベックスだった。マニアから見れば一般受けしそうなダサいことをやっている一方で、ものすごくクールで最先端なこともやっている。そういう振り幅の大きさがエイベックスらしさだった。たとえば、当時最先端のユーロビートをガンガンつくっている一方で、安室奈美恵の「TRYME?私を信じて?」をプロデュースする。ジャングルという当時最先端のサウンドをやりながら、小室哲哉さんと浜田雅功さんでH Junglewith tというユニットをつくる。最先端を手がけながら、そのエッセンスをポピュラーな形に変えてヒットを生みだす。これがエイベックスだった。



今はこの振り幅がなく、両端に点があるだけ。コアとポップの両方を理解している人間が社内にまったくと言っていいぐらいいない。

50億円売り上げるアーティストと、2億円売り上げるアーティスト。エイベックスにとってはアーティストが事業にあたるから、経営学の原則で言えば、50億円のアーティストに資源を集中させるために、2億円のアーティストからは撤退すべきだということになる。僕は、エイベックスにおいては、この経営学の基本原則はまるで間違っていると思う。2億円のコアなアーティストが生みだしたものの影響力が、50億円のアーティストを生みだし、さらには100億円のアーティストに育てていく。今、EDM(エレクトロダンスミュージック)が世界的に流行って、エイベックスもEDMを手がけてはいるけど、それをポップな形に変えたEDMっぽいアーティストが生まれてこない。ほんとうだったら、エイベックスがまっさきにやらなければいけない仕事なのに。コアを手がける人はコアなものだけ、ポップを手がける人はポップなものだけやって満足していて、点と点をつなげる努力を誰もしていない。



一方で、仕掛けやプロモーションは上手だったりする。メディアに露出するには、こういう方法がいいとか、そういうことはとても上手だし、一生懸命やる。でも、それも音楽がいいから成り立つことであって、根本である音楽がだめなのに、いくらそういう仕掛けをやったところで、今の時代では、ヒットにはつながらない。クリエイティヴこそいちばん根本なのに、そこを忘れている社員が多い。

今の新入社員に朝まで音楽について語れるやつはいないんじゃないかと思う。音楽が好きでエイベックスに入ってきたというより、イベントが好きだったり、派手なところが好きだったり、そういう”ちゃらい感じ”に憧れて入ってきているのではないか。それは僕にも悪いところがあった。アーティストと飲んだりする姿を社員に隠さずに見せていた時期があったから。でも、そうやっている陰で、ずっと仕事の事を考える。何時まで飲んでも朝早く会社に行く。エイベックスの曲をかけてくれないラジオ局に毎週足を運んで、エイベックスの音楽はこうだからと説明して回る地道な努力だってしていた。さすがに社長になってからは、先方の担当者が恐縮してしまうのであまりいかなくなったけど、専務時代は普通にテレビ局やラジオ局を回っていた。そういう部分は学ばないで、楽しそうなところばかり、僕から学んでしまっている。

子会社の役員がそのいい例。役員という名前はついているけど、ホールディングス制を採っているから、子会社の役員になっているだけの話で、本来だったら事業部長のようなもの。それが”役員”という肩書に舞いあがってしまって、でかい役員室をつくって、なかにはそこに自分の趣味のものを置いたりして悦に入っているやつもいる。ダサいったらないよね。もう、子会社なんか整理統合して数を減らしてしまおうと思っている。

他の役職者もそう。テレビ局やラジオ局をまったく回っていない。テレビ局にいっても、先方からうちの役職者の人間の名前が出てこない。音楽を広めなければいけない立場の人が、会社にじっとしていて、なんの仕事をしているんだろう。



日本では労働基準法に守られていて、簡単に解雇することはできないけど、海外の企業だったらとっくにクビになってもおかしくない人が紛れこんでいる。だから、給与体系を大きく変えようと思っている。パフォーマンスの悪い社員は、どんどん降格させるし、給与も法で定められた範囲でガンガン下げられるようにする。一方で、実績をだした社員の給与はどんどん上げていけるようにする。上限なんか考えずに、どんどんあげて、結果として社長である僕の給与より多くなってもいい。それだけ会社に大きな貢献をしたということなんだから。過去にも、大きな貢献をした社員には、多額のボーナスを支給したことがあるけど、それをもっとはっきりとルール化していく。だから、エイベックスは社内格差がものすごい会社になるよね。それでいいと思う。今、言われている残業代だってみなしをやめ正確に法律の範囲内で最大限支払うつもりだ。在宅勤務も導入する。




新南青山オフィスからはビル自体のIOT化を目指している。コーワーキングスペース、フリーアドレス、ペーパーレス、セキュリティは顔認証、エレベーターも会議室予約も勤怠管理もAIを使う予定だ。タレントの卵やアーティストの卵たちのレッスンスペース、レコーディングスタジオもここに置きすべてAIで管理する予定だ。コーワーキングスペースは誰に使ってもらってもいい。ここから新しい才能と才能が出会い何かが生まれることを願う。休みの日に地方から来た子達が竹下通りに行くよりも「エイベックスの新しいビルでお茶しているほうが色々なプロダクションにスカウトされるよ」なんてなることを想像してみたりする。もちろんコーワーキングスペースだからどこのプロダクションの人が来たっていい。ただし、セキュリティは徹底した顔認証とAIで行い警備員も配置し最大限事故の起きない努力を徹底する。



会社が求めている人材は振り幅の大きな人。MBA(経営学修士号)もっているのに、なぜかアニメについてものすごく詳しいとか。「なんでそんなこと知っているの?」という人がほしい。ネットで調べてもわからないようなことばかり知っている人がほしい。コアな音楽とポップな音楽の両極端を理解できる人がほしい。コアな音楽を理解し、それをポップの世界に活かせる人材がほしい。ハードもソフトも詳しいエンジニアには天国のような会社にするつもりだ。プログラミングを理解していない社員はもういらない。振り幅の狭いやつも、もういらない。