政事は角の中を丸く歩むが如くするべし

正雅堂 貞風 (森 光厚  1742‐1819)

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2012-06-02

ヴェルサイユ宮殿に輝く鶴丸紋の栄光

テーマ:我が家の家史

フランス国王・ルイ14世。


その名はヨーロッパ全土に轟かせ、フランスに絶対王政をもたらせた偉大な王として、世界史で語られている。近隣諸国との戦争を繰り返し、多くの命と資金を費やした反面、文化に対する造詣は深く、音楽をはじめ芸術文化のすべてを庇護した。その最たる作品がパリ郊外にあるヴェルサイユ宮殿といっても過言ではないだろう。

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ヨーロッパ全土を統治する勢いを持った王。

その王者の住居であり、その正殿とも言うべき場所は、史上最もよく知られた「鏡の廊下」である。

京都御所で言うところの紫宸殿、紫禁城でいう太和殿といったところだろうか。


フランス絶対王政が廃された後も、プロイセン皇帝の即位式、ヴェルサイユ条約の調印会場、近年では第1回先進国首脳会議と、常にヨーロッパの中心的場所であり続けた。


天井画には宮廷画家・ル・ブランによって、ルイ14世の戴冠から宮殿落成までの栄光が全面に描かれている。ルイ14世を神格化させ、その周囲には敵国や敗戦国がそれに従うかのような構図である。その天井画の一枚に、実は鶴丸紋を配した甲冑具足が描かれていることを知る人は少ない。だが日本のそれは、他のヨーロッパ諸国のように屈辱的な演出ではなく、まるで遠国と知り合いであることを自慢するかのような描きぶりなのだ。


また、描かれている場所も興味深い。

そこは、ひとたび儀式があれば、国王の玉座が据えられるというべき場所。当時は鎖国していた日本・・・・そこをも知っていると言わんばかりに。


ここで少しヴェルサイユ宮殿の構造について話をしてみたい。

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ここに、一枚の絵画がある。

これは1685年5月15日、ジェノヴァ総督・ドージェをルイ14世が鏡の間で謁見しているときの図だ。このちょうど国王の頭上、左上辺りが件の天井画に相当すると考えられる。ル・ブランによって鏡の廊下が完成したのは1682年。ドージェが謁見した当時は、まだ真新しい宮殿であった。


このように、鏡の間は、国王の正式な謁見場所として用いられてきた。


外国から使節はこの廊下に至るまでに、宮殿の多くの居室群を渡り歩き、国力の豊かさを見せ付けられる。そして、その居室群をクリアし、最後の部屋を左折した時、そこに華麗な廊下が広がるのである。そして、その一番奥に玉座が据えられ、国王が迎える。謁見者はそこまで歩いて、この図のように国王に跪くのである。ヴェルサイユ宮殿は、外国使節に、王国の威厳を最も表現できる、この上ない演出装置だったのである。しかし、そんな演出装置も、ルイ14世はその治世で3回しか用いなかったという。


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毎日何万人と宮殿を訪れる観光客。そのうち日本人は数千人に及ぶというが、おそらく、ガイドも含めてこの天井画に目を留めた邦人は1日何人いるだろうか。


だが、それは無理もない。鏡の廊下は2006年から2009年にかけて、大掛かりな大修復が行われた。この甲冑具足の天井画は、そのときの修復によって発見されたのである。


おそらくそれ以前から甲冑らしき画像は認識できたであろうが、鶴丸紋までは見えなかったはずである。


昨年、この話をとある民放局から取材を受けた。

しかし、寝耳に水であり、写真を見せられてもなんだか現実味を感じず、申し訳ないとして回答を控えてしまった。鶴丸紋の写真には驚愕したが、鶴丸紋を持つ大名家は森家だけではない。仮に森家であっても、森家がフランスのブルボン朝と関わりを持っていたなんて、SF小説でも書かぬ限り、あまりにも唐突な話である。関係者に相談するのも恥ずかしい、しかし否定も肯定もできず、参考になる資料さえ思い当たらぬ、雲を掴むような話、というのが正直なところであった。


それから半年後、私は機会を得てこの場所を拝見することとなった。百聞は一見にしかず、自分のこの目で確認しなくては、と今回の渡仏の最重要課題であった。

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簡単に見つかるであろうと思い、観光客として見学するも、こんな状態。

その豪華絢爛な廊下は、自宅の白い壁紙が恋しくなるほどに目が疲れる華やかさで、とても見つからない。

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そこで翌日、かつて王室礼拝堂の件で世話になった宮殿の管理官とコンタクトを取り、観光客の居ない特別な時間に学芸員を紹介してもらって改めて場所を示されると、昨日見たはずのその場所に、お目当ての天井画があった。 

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鎧の形は、色々威(いろいろおどし)といい、大鎧などをイメージする様式。で3色以上の色紐で編まれているのが特徴である。奉納鎧にも多く、古典的な姿なれど、戦国時代でも高級武将を中心に用いられている。

強いていうなれば、その華やかさから、外国人が好みやすいデザインとも言えなくはないだろう。


下に書かれた標語には、オランダの都市ガンを陥落した時のことが書かれている。学芸員は日本の大名から贈られたというが、ヴェルサイユ宮殿が築かれた当時の日本は、元禄文化の少し前。

鎖国状態にあった日本が、フランスと直接の国交を持つはずがない。

唯一、江戸幕府と国交のあったオランダはプロテスタントの国。フランスはオランダとは敵対する異端の国として、これもまた国交をもたない。

では、ルイ14世がガンを制圧したときに、オランダから戦利品として到来させたのだろうか。


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当時、幕府が平戸のオランダ商館に世界情勢を知るために年々提出させていたオランダ風説書がある。紀州徳川家からやってきた吉宗が、8代将軍の座についた年、この風説書によってボルボン(ルイ14世)崩御が報告されている。舶来の知らせなので、1年遅れで。


邪宗門フランス国之守護ボルボンと申者、歳七十七ニテ去年八月上旬病死仕り候。此者存生之内、オランダ国、エゲレス国と争ひ、捕合仕り侯にて御座候に付、病死仕り侯儀、本国より申し越し候・・・・」


このように、かの地フランスは邪宗の国としてハッキリ記されている。当時の日本人からしたら、カトリックもプロテスタントも邪宗であり、通詞の解釈はあれど、このショッキングな表現は明らかにオランダ目線によるものである。このような又聞きの国交関係で、日本の大名が直接ルイ14世に品物を贈るなどは、どうしても考えられないのである。

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学芸員はさらに、修復時に天井間近で撮影した写真を見せてくれた。
床面から見るより、とてもリアルなアングルだが、脛当てなどに描かれた鶴丸紋は、羽先が3枚になっていて、森鶴丸とも、佐伯鶴丸とも酷似している。しかしながら鶴丸紋は元々源氏を象徴する紋章でもあり、具足につけられたからといって、すぐさまその所有者の家を示すものではない。


そして驚いたことに、この天井画のモデルとされた甲冑のオリジナルが、パリ市内の博物館に収蔵されているという。オランダからの戦利品なのか、舶来物をフランス王が購入して日本の献上品と称したのかはわからないが、天井画のみならず現物が残っていることにはさらに驚きである。

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学芸員の解説では、甲冑の作者はIWAI Yozaemonという。


その実名、岩井与左衛門は、安土桃山から江戸初期に掛けて活躍した甲冑師で、秀吉や家康、秀忠など、著名な戦国武将の具足を調製した人物として知られている。

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面白いところでは将軍秀忠は三浦安針に与左衛門の甲冑を授けている。安針は日本で没しているが、もしかしたらこうした外国人の一人が将軍から拝領し、そして舶来したものなのかもしれない。
学芸員の解説も、十分裏づけを感じさせてくれるものだった。

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今回は日程の都合で、そのオリジナルの甲冑を拝見することは叶わなかった。しかし、次回は是非その現物を検分してみたいと思う。


おそらく十中八九は森家とは無縁のものだろう。

しかし、我が家と同じ家紋が、かの絶対王政を誇ったヴェルサイユ宮殿の最たる一室に描かれ、宮殿を訪れた諸侯に遠国の威厳を見せつけ、世界中の誰もが知る太陽王・ルイ14世の栄光の一助になったのかと思うと、それはそれで、大変光栄なことである。


最後にもう一つ、

これは、同じヴェルサイユ宮殿に置かれている18世紀の地球儀である。

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勿論日本の地図も描かれている。この遠国に、ヨーロッパの人々は黄金の国と呼び、憧れを抱いていたのである。

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しかし、日本の国はなんと小さなことか!!


これからヴェルサイユを訪れる方には、是非見ていただきたい。


(鎧図は以下の図中赤枠の所にあります)


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