コンピュータ技術が70年代以降アメリカで大発展したことは前述した。一方、ソ連のコンピュータ技術開発が思わしくなく、SDI対策に失敗する遠因となったことも前述した。

人工衛星を世界で初めて打ち上げ、核ミサイルと原子力発電所を自力で開発したソ連が、コンピュータ技術開発で思わしくなかったのはなぜだろうか?

それは、共産主義体制だったからだろう、とmattは考えている。

FT&FXを読んでくださっている皆さんは、コンピュータ技術と通信技術の融合 - ネットワーク化、の恩恵に毎日浴している。これを書いている matt もそうだ。

「ネットワーク化」されていることが、コンピュータ利用の利便性を非常に高いものにしていること、このことには皆さんは異存は無いと思う。

そう、コンピュータの価値は、他者(人間か機械かを問わず)とネットワークを形成することにある。

コンピュータは、情報を蓄え、加工し、他の何者かに加工した情報を提供する、そういう道具だ。コンピュータそれ単体だけで存在していても意味のある道具ではない。他者から情報を得、その情報を蓄え、その情報を加工し、他者にその加工した結果を伝達する道具だ。ネットワーク化されていないと、あまり意味がない。

言い換えると、「他者と情報を自由に交換できる環境におかれていること」が、コンピュータに存在意義を与えている。

共産主義体制下では「他者と自由に情報を交換すること」は許されていない。原則として「共産党が許可を与えた場合」に限り情報を交換することができる(註1)(註2)。そうすると、コンピュータの利用価値が高まりようがないので、コンピュータ技術を発展させる必要がない。それどころか、そんな技術を発展させたら、共産党体制にとっては危険だ。

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註1: 口コミは止めようがない。個人的な意見だが、携帯電話の普及は共産党体制にとっては恐怖かもしれない。もっとも、共産党員一人一人の個人の日々の生活の中では、携帯電話は便利な道具ではあろう。

中国政府が携帯電話を導入するのを認めたことは、中国共産党幹部層が「もう、共産党体制は長くはもたない」と考えている傍証なのかもしれない。

註2: 例えば、陝西省西安市で殺人を犯した容疑者が河南省開封市に逃げ込んだと仮定する。その場合、西安市警察(公安)は開封市警察にすぐには連絡をとってはいけない。「陝西省政府→陝西省共産党委員会」と情報を回して共産党委員会の許可をとった上で始めて河南省・開封市当局にその情報を伝達することができる。

実際どこまで厳密に実施されているのかは不明だが、建前はこうなっているらしい。日本の官僚機構は効率的とは言えないかもしれないが、共産圏のこの「システマティックな非効率」よりはだいぶ効率的だと思う。

携帯電話はこの「システマティックな非効率」を破壊する可能性を持っていると思う。