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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。


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●求められる国家機能の強化と財政再建の意味再考

 シチリア島のタオルミーナで開催された今年のG7サミットは5月27日に首脳宣言を採択して閉幕しましたが、今回の大きなテーマは北朝鮮問題でした。

 昨年の伊勢志摩サミットでは、北朝鮮を国際社会への「挑戦」だとして「強く非難」しましたが、今年は、①国際的課題の最優先事項であり、②国際平和への新段階の脅威と位置付けられ、北朝鮮は「挑戦」から「脅威」へと格上げした表現となりました。

 サミットの際に行われた日米首脳会談では、「対話ではなく、圧力」で一致、安倍総理は新たなミサイル迎撃システムの導入を進める旨、表明したとされます。

 前回述べたように、中国の北朝鮮対策への協力が十分に得られないうちに北朝鮮がICBMの開発に成功し、一国主義に傾く今の米国が北朝鮮と手を握ってしまうという最悪のシナリオが万一、現実のものとなった場合、日本はいくら専守防衛とはいえども、巡航ミサイルも含めた自主防衛力の強化を迫られる可能性があります。

 そのとき、GDP比1%枠で防衛費にタガをはめてきた日本の財政には十分な対応力があるのかといえば、高齢化とともに拡大する社会保障費に財源をとられ、先進国で最も政府にカネのない国になっているということも前回、述べました。

 日本ではこれまで、専ら社会保障や経済政策との関係で論じられてきた財政ですが、いまや、国家としての危機管理、リスク管理の観点から考える必要が出てきたと思います。

 

●日本は「小さくて弱い政府」の国

 戦後の日本は、諸外国と比べて「小さくて弱い政府」で一貫してきました。

 超高齢化が進んでいるわりに、消費税率や租税負担率が低いという「小さな政府」だけではありません。特に国民の安全安心に関わる部分での政府の法的権限はかなり制約されているのが実態です。戦前戦中のトラウマからか、国家が機能を強化しようとする度に、各方面から強いアレルギー反応が起こってきました。

 今通常国会で最後まで与野党が激しく対立した「テロ等準備罪」(共謀罪)の法案も、テロを日常的な脅威として実感している欧州などの国々であれば、むしろ警察機能を強化してほしいというのが国民の声になるのではないでしょうか。

 確かに、数々の冤罪事件で日本の司法警察への信頼は落ちているとは思いますが、戦前の特高警察や治安維持法に懲りた戦後の日本では、警察権力が極めて限定的で、効果効率の観点から刑事司法を見直すべきとの議論が常にありました。

 筆者が衆議院議員として、その成立に関わったマイナンバー法案もそうです。マイナンバー制度は、いずれ、国民の健康や安全安心のための危機管理の上で実効ある社会インフラになるものですので、筆者は推進の立場をとりましたが、個人情報や国家による国民監視への懸念などの観点から、日弁連など各界から強い反対意見が出されていました。

 筆者が現在、東京大学のチームに客員教授として参画しているサイバーセキュリティー対策も、国家や国民生活の安全保障の上で大問題です。直近では日本政府の予算も増えていますが、つい最近まで、米国よりもゼロが3つも4つも少ないと言われたものです。

 東大では、サイバーセキュリティーの現場で活躍する各界の方々を筆者のチームに集めて議論を始めていますが、この分野でも国家機能を強化して、日本全体としての共通インフラや仕組みを構築することが不可欠との意見が強く出されています。

 防災もそうです。2011年の3・11以降、国民の防災意識は高まってはいますが、日本には未だに米国のFEMA(連邦緊急事態管理庁)のような専門部隊の組織がありません。地震の心配のないドイツや英国にも国家レベルで専門組織と緊急時に自治体を指導する仕組みがあることなどに鑑みれば、これだけ災害の多い日本にあっては「日本人の命の値段が最も安い」と言う専門家もいます。

 もともと地震大国の日本が3・11以降、プレートの変化で大地震がさらに起きやすくなっているだけではありません。気候変動の影響か、東京などにも大被害をもたらすだろう「スーパー台風」が頻繁に日本を襲うようになるのは間近だという話も聞こえてきます。

 いまや、「空気と水と安全はタダ」というハッピーな状況は日本から過ぎ去り、国家の本来の目的である国民の命と財産を守る、まさに、国家が何のために存在しているのかという根本に立ち返ったところに国や政治の最重要課題があるという時代を迎えつつあるように思います。

 

●新たな「改革」の視点は「政府にしかできないことを政府にさせる」こと

 「民間にできることは民間に任せる」。これがこれまでの「改革」論の軸でしたが、そもそも自由放任が最適な結果を導くというアダム・スミス以来の市場メカニズムの前提には、市場では処理しきれない「不確実性」が存在しないということがあります。

 ケインズは「不確実性」こそが不況の原因だ(人々がより貨幣を持とうとする、おカネを支出しようとしなくなる)と説き、政府介入の必要性を経済学的に論証しました。

 国民を覆う不確実性を軽減するのは国家の役割であり、危機管理、リスク管理の機能を政府が十全に果たしてこそ、国民は自由と安心を享受し、市場経済も活性化する。アダム・スミスとて「夜警国家」論を唱えたのであり、その「夜警」の部分が大きく意識されるようになっているともいえるかもしれません。

 これからは、日本では諸外国と比べても十分にできていない「国家にしかできないこと、国家がやるべきこと」をできる政府を構築するということが、「改革」論の軸になっていくべきだと考えます。

 筆者はかつて、衆議院内閣委員会で菅官房長官に、よく財政再建といえば「財務省の論理だと言われるが、財政再建は「省益」と考えるか、「国益」と考えるかという質問をしたことがあります。菅長官の御答弁は当然。「国益」でしたが、そもそも財政再建は何のためにやるのかといえば、財政の対応力を回復するためということが大きな目的です。

 前述の観点に照らせば、財政再建は財務省の省益をはるかに超えて、国家国民の存立を全うするための手段を機能させるものであり、まさに国益そのものということになります。

 

●プライマリーバランスを分かりやすく解説すると…

 このように考えれば、社会保障に財源を奪われている状況を無くすために、社会保障の世界は消費税率の引上げで収支相償に持っていき、他の財政支出を圧迫しないようにすることが大事だということになります。

 しかし、安倍政権が消費税率10%への引上げを2度にわたり延期したように、そもそも経済がよくならなければ財政再建も困難です。

 政府は、経済成長を高めて2020年度に財政のプライマリーバランス(PB)を達成することを目標として掲げ続けています。確かに、このPBが達成されなければ、国債など政府部門の借金(公債等)の残高の経済規模(GDP)に対する比率は、無限に拡大し続けていきますので、PB達成は財政再建の必要条件です。

 筆者はよく、この「PB」論の妥当性につき、賛成か反対か、という質問を受けます。しかし、これは妥当性を問う当為(ゾルレン)の問題ではなく、単なる算数であり、事実(ザイン)の問題です。計算すれば、誰にとっても同じ結果が得られます。

 この計算式を書いたのが、[図1]です。

[図1]

 次の[図2]は、前回も掲載しましたが、今年度の平成29年度政府予算の数字を入れたPBの概念図です。借金返済(元本返済+金利支払い)以外の支出が、税収などの収入によって賄われている状態になると、PBの状態になります。このとき、毎年度の新たな借金(新規公債発行額)は、国債費(債務償還費+利払費)の範囲に収まります。

[図2]

 この状態では、国債残高は、毎年度、利払費分だけ増えていきます。これは自明のことで、新規国債発行額は債務償還費と利払費の合計に一致し、新規国債発行額のうち債務償還費に相当する部分は、同額の国債を減らすために増える国債ですから、国債残高の増減上ではチャラになります。そこで、利払費分だけ、国債残高が増えることになります。

 ですから、ある年度の国債発行残高は、前年度の国債発行残高と、それに国債の利率をかけたもの(国債残高の増加分)を加えた額になります。つまり、

国債発行残高

=前年度の国債発行残高+[前年度の国債発行残高×金利(%)]

となります。

 一方、ある年度のGDPの数字は、前年度のGDPと、前年度のGDPに経済成長率をかけたもの(GDPの増加分)を加えた額になります。つまり、

GDP

=前年度のGDP+[前年度のGDP×経済成長率(%)]

となります。

 ここで、[図1]をご覧ください。財政再建の目標が、公債等のGDPに対する比率を一定にする(それ以上増えていかない状態にする)ことだとすれば、PBの状態が実現されていれば、それは、金利と経済成長率が一致しているときに実現するということになります。

 ある年度の公債等のGDPに対する比率が、前年度の公債等のGDPに対する比率と一致するからです。分子の増え方と、分母の増え方が一致するからです。

 しかし、PBの状態になっていても、図から一目で分かるように、金利が経済成長率を上回っていれば、分子の増え方が分母の増え方よりも大きくなり、その年度の公債等のGDPに対する比率は、前年度よりも大きくなるため、この比率は上昇が続きます。

 以上、PB論が、いかに単なる算数の世界であるかがお分かりになったかと思います。

 

●アベノミクスで財政再建が達成される絵は描かれているが…

 判断が分かれるのは、ここから先です。上記とは逆に、金利が成長率を下回れば、この公債等のGDPに対する比率は低下していきますが、金利が経済成長率を上回るのが、どの国でも経済の普通の姿です。

 近年では大規模な金融緩和を各国とも行ってきましたから、金利が経済成長率を下回る現象がよくみられますが、例外的な現象です。日本では、この現象は、バブルのときと、いまのアベノミクスの異次元の金融緩和の局面以外には、あまり見当たりません。

 つまり、異常な状態で、いずれ、異次元緩和策が出口を迎えれば、正常な状態へと逆転するとされています。

 これを異常な状態ではなく、金利が経済成長率を下回る状況さえ続けていけば、財政は改善する、つまり、いまの異常な低金利を続けるか、経済成長率を高めて、金利を上回る成長を続ければ財政は健全化すると考えるか、で、判断が分かれることになります。

 実は、もし、高い経済成長率を実現して、それが金利を上回る状態を継続することさえできれば、PBなど達成されていなくても、公債等のGDPに対する比率は低下していきます。

 現に、その姿を2025年度まで描き出しているのがアベノミクスです。

 [図3]と[図4]をご覧ください。これらは、本年1月に政府が公表した「中長期の経済財政に関する試算」(毎年1月と7月に改訂)を筆者が図解したものです。

[図3]

 そこでは、経済の姿を、現状の経済成長率に近い状態で推移していく「自然体ケース」と、アベノミクスが成功して経済成長率が2020年度に向けて名目で4%近くを達成する理想的な「経済再生ケース」の2つに分けて、財政状態がどうなるかを試算しています。

 その前提は、2019年10月に予定どおり、消費税率を10%にまで引き上げることです。

 政府は2020年度でのPB達成を目標としていますが、[図3]で分かるとおり、理想的な経済再生ケースを実現した場合、それによって2020年度のPB赤字は3兆円縮小します。

 しかし、経済成長をしてもPB赤字縮小効果は3兆円でしかなく、2020年度には8.3兆円ものPB赤字が残り、これゼロにしてバランスさせるという政府の目標は達成されません。

 経済成長を遂げても、2019年度に消費税率を10%にしても、達成できないのですから、残りは歳出を削るしかないことになります。

 歳出削減となると、日本の財政は社会保障以外の財政支出のGDPに対する比率がOECD加盟国、つまり先進国の中でビリというぐらい、他の支出は削れないところまで絞っていますから、社会保障費を削るしか大きな歳出削減効果はありません。

 社会保障費を削るというのは、年金を削る、医療や介護の自己負担を増やす、ということですから、これも国民負担増です。

 消費増税以外に8.3兆円も国民負担を増やさないと、政府の目標は達成できないことが示されているわけです。

 しかし、PBは達成できなくても、財政再建の重要な目標である、公債等のGDPに対する比率は低下していく姿を政府は示しています。それが[図4]です。

 前述のように、PBが達成されなければ、この比率は低下しないはずなのに、低下するというのは、金利が経済成長率より低い状態が続く場合だけです。確かに、この試算では、2020年度までは、この状態が続きます。

 問題は、2020年代に入ると、政府の試算でも、金利が経済成長率を上回るようになるということです。

 もう一つの問題は、「経済再生ケース」の前提です。日本経済の生産性上昇率が、現状の0.8%程度から、日本経済自体がピークであったとされる1990年をはさんだ1983年~93年の平均である2.2%程度まで上昇するという、かなり楽観的な想定になっています。

 生産年齢人口がマイナスなので、これぐらいの生産性上昇率を達成して続けていかないと、名目4%近くの経済成長率など到底、実現しないのですが、そこまで生産性が上がるためには、よほどのイノベーションが必要でしょう。

 AI革命で数年以内に日本経済の姿が大きく変わるぐらいの変化が必要かもしれません。

 アベノミクスの第3の矢である成長戦略がどこまで奏功するかです。

 こうした論点も含めて。財政の問題をどう考えるか、そして、これをどうするか、機会を改めて論じてみます。いずれ、筆者が考える対応策も提案いたします。

 

 松田まなぶのビデオレター、第63回は「「強い国家」が求められる時代、財政の対応力をどう強化するか?」チャンネル桜5月30日放映。

 

 

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