松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。


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「先生の患者さんで妊娠•出産した最高齢の方は何歳ですか?」と訊かれることがあります。「50歳の方です。ただし、妊娠治療中ではありません、治療をやめた後の自然妊娠です」と答えると、皆さんビックリされます。その方の妊娠•出産については、英語の論文として2003年に発表し、「治療をやめることは妊娠を諦めることではない」こと、「平穏な心が大切である」ことを示しました。自分の論文を紹介するのは少々ためらいがありましたが、治療の際の気持ちの持ち方や治療の終結を考える際の一助として頂ければ幸いです。

Tokai J Exp Clin Med 2003; 28: 9
要約:45歳で結婚、46歳と47歳で初期流産の後、A病院を訪れました。人工授精3回、体外受精6回チャレンジし、採卵4回、胚移植2回にて妊娠に至りませんでした。卵巣機能低下による卵巣反応不良と卵子の質の低下のため、ご夫婦は妊娠治療を断念する決断をしました(48歳10ヶ月)。それから1年半後(50歳3ヶ月)、閉経したのではないかとA病院を訪れました。妊娠8週が判明しました。全く妊娠することなど考えていなかったため、多くの薬剤を内服してしまったことと年令を心配され相当悩まれましたが、妊娠継続を選択しました。その結果、妊娠38週で健康な赤ちゃんを経腟分娩により授かりました。この方に、過去3年間の心の状態を尋ねる質問票調査(visual analog scale)を行ったところ、妊娠治療を行っている間は不安、抑うつ、怒りっぽさ、疲労、悲嘆が強く認められました。しかし妊娠治療をやめた後、これらの感情は全て軽減され、活気が回復しました。また、この間ずっと子供を望む気持ちと夫のサポートは強く存在していました。

解説:本症例は、卵子も採れなくなり、移植もできなくなって諦めた後の自然妊娠です。本症例は、体外受精を含め妊娠治療が万能ではないこと、平穏な心が重要であることを示しています。妊娠治療をやめることは心理的にダメージを受けている女性において、妊娠を成立させるもうひとつの選択肢であるかもしれません。

平穏な心は、張りつめていた気持ちが途切れた時に、知らず知らずに生じるようです。引っ越し、転勤、転職など、あるいは治療のお休み期間中やステップアップ直前など、気が抜けている時に自然妊娠することをしばしば経験します。体外受精の妊娠判定日は誰もが緊張していますが、何も考えていないような時によく妊娠します。私は、このような状態を「ニュートラルな気持ち」と表現しています。この様なことは意外に多くありますが、医学を学んだ医師にとって、何となく科学的でないことは頭の外に置いておこうとする傾向にあるため、真面目に取り組むことがほとんどなかったように思います。私はエビデンスを重んじる医師(科学者)ですが、その一方で、心のケアの重要性を研究し発表して来ました。このような領域を研究することによって私が常に感じるのは「生命の神秘」です。私たち人類がクリアできない領域がまだまだ多く残されているように思います。2013.2.4「祈ると妊娠率が上がる?」の記事も参考にしてください。

治療の終結の際に私が必ずお話させていただいているのは、本論文の趣旨「妊娠治療をやめることは妊娠を諦めることではありません」ということです。妊娠治療中は子づくりだけの性交渉に陥りがちですが、夫婦仲良くスキンシップをはかり、その結果授かることがあります。お子さんとは本当に授かりものではないかと思います。

その他の心理的要因の記事も参考にしてください。
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