松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。


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妊娠中に出血すると、多くの方は流産してしまうのではないかと心配されます。特に、何度も流産を繰り返している方は尚更です。「出血したんですが、大丈夫でしょうか?」「生理みたいに出血したんです」など問い合わせは極めて多い現状があります。このような場合、「安静にしましょう」という指示になることがほとんどです。医学の世界で最も信頼度の高いレビューのひとつである「Cochrane Review」から、妊娠初期の出血がみられた場合の安静の意義についてのメタアナリシスがありますので、ご紹介致します。

Cochrane Database Syst Rev. 2005 Apr 18;(2):CD003576.
要約:流産は22週未満(欧米では24週未満)に起きる妊娠ロスで、およそ10~15%の妊娠に見られます。流産の多くは胎児染色体異常によるため、母体年齢が高くなればなるほど流産の確率が上昇します。流産を防ぐために多くの医師が様々な取り組みを行いましたが、結局「身体の安静」が最もよく行われる「処方箋」となっています。しかし、安静にしなかったから、運動したから、忙しかったから、流産したという確たる証拠はなく、「身体の安静」について疑問視する声が多くあります。2004年までに出版された全ての論文で、妊娠初期に出血が見られた方を安静群と非安静群で前方視的に検討した論文を検索し、メタアナリシスを行いました。ベッド上安静群と非安静群の流産率に有意差は認められませんでした。入院安静と自宅安静の流産率にも有意差を認めませんでした。安静にせずhCG注射を行った場合より、安静群の方が流産率が高くなっていました(2.5倍)。

解説:日本産科婦人科学会の最新の全国統計(2010年版)によると、体外受精での流産率は35歳までが17~20%、それ以降は増加し、40歳で35%、42歳で47%、45歳で65%、47歳で80%となっています。卵子の老化に伴い、異常な受精卵(胚)が増えるためで、詳細は2012.10.15「卵子の老化」をご覧下さい。

本論文では、妊娠初期の出血に対して「身体の安静」は有効ではなかったことを示しています。つまり、見方を変えると、胎児の運命は最初(受精時)から決まっていて、その受精卵(胚)の生命力によって流産したり、うまく育ったりすると考えられます。ですから「身体の安静」の有無は、流産するかしないかとあまり関係ないことになります。一方、不育症の方では、流産回数が増える程、染色体異常が原因であるケースが減少しますが、流産回数が2~4回の場合は60%に染色体異常が認められます。きちんと原因を究明して対処することも大切ですが、「tender loving care」すなわち心のケア「心の安静」も効果的であることが知られています。そのひとつの説明として、心配したり落ち込んだりすると、子宮の中のらせん動脈が収縮して、胎児への血流が低下してしまうことがあるからと考えられています。この現象は自分ではコントロールできないため、知らず知らずのうちに胎児への血流を悪くしてしまっているのです。妊娠中は「あまり心配しないように」することが大切です。そうはいっても、どうしても心配してしまうと思います。医療者としては、なるべく心配させないような配慮が望まれていると思います。

ヒトと同様にマウスでも妊娠初期に出血が見られますが、これは胎盤を作っているからと考えられます。胎盤の細胞(絨毛)は、血管の豊富な子宮内膜にどんどん侵入していきます。出血するのはあたりまえの現象、「胎盤を作っていますよ」というサイン、であると考えられます。決して流産のサインではありません。あわてず、さわがず、冷静に居て欲しいと思います。
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