前置胎盤は、産科大量出血の原因の一つです。
(前回の記事 ココ産科出血の原因と対応」)


前置胎盤とは。。。

胎盤は受精卵が着床した場所にできます。
通常それは子宮体部(子宮の上の方)ですが、
なんらかの原因で子宮の下の方の着床しそのまま胎盤ができ、内子宮口の全部または一部を胎盤が覆ってしまう状態を「前置胎盤」と言います。
お母さんにとっても赤ちゃんにとっても危険性の高いハイリスク妊娠です。



☆前置胎盤の分類☆

前置胎盤は以下の3つに分けられます。

(1)胎盤の端っこが内子宮口に達している「辺縁前置胎盤」
(2)胎盤が内子宮口の一部を覆っている「部分(一部)前置胎盤」
(3)胎盤が内子宮口の全部を覆っている「全前置胎盤」

$TOKYO産科麻酔チーム☆ダイアリー




前置胎盤の中では、胎盤が内子宮口の一部を覆っている「部分(一部)前置胎盤」が最も多く、「全前置胎盤」が最も少ないです。


内子宮口からから5cm以上離れていれば、胎盤の位置は正常です。
内子宮口にはかかっていないが、5cm未満の場合は「低位(低置)胎盤」と言います。
低位胎盤は前置胎盤ほどではありませんが、妊娠中・出産時に出血のリスクが高くなります。



<診断>
超音波のない時代には出産時の大量出血、あるいは内診すれば胎盤に触れるためそこで初めて分かりました。

現在では経膣超音波により、早期に診断が可能です。
受精卵の着床部位により早ければ妊娠12週くらいにその可能性が分かります。
30週頃を過ぎても胎盤の位置が変わらないようであれば「前置胎盤」の診断がつきます。
前置胎盤を診断された場合には32週頃には安静入院をします。
子宮が大きくなるにつれて収縮しやすくなり、出血のリスクが出てくるためです。
最終的に前置胎盤の診断のままであれば、37~38週頃に帝王切開で出産することになります。
辺縁前置胎盤なら経膣分娩が可能な場合もありますが、通常は母子の安全のため帝王切開を勧めます。
最終的に前置胎盤と診断されるのは全妊娠の0.5%程度です。

<原因>
前置胎盤は初産婦より経産婦に多く、また流産手術や人工妊娠中絶術、帝王切開術、その他子宮の手術の既往がある場合はその頻度が高くなります。
子宮筋腫や、生まれつきの子宮奇形、子宮内膜炎などの場合も発生頻度が高くなります。
これは子宮内に傷や筋腫などがあることによって、その場所には受精卵が着床できず、下の方の傷や筋腫などのない場所で着床してしまうためです。
でも大半はこうした異常とはまったく無関係のことも多く、大部分は原因が分かっていません


<前置胎盤の管理>

胎盤の特徴。。。
1.胎盤は赤ちゃんに血液を通して酸素や栄養を送り出している。
2.そのためとても血流が豊富である。

~出産時~
赤ちゃんは生まれてきて、自分自身で呼吸するまでは胎盤から送られる酸素が必要です。
つまり経膣分娩の場合、全前置胎盤や部分前置胎盤では赤ちゃんより先に胎盤が出てきてしまいます。すると胎盤からの酸素が途絶えた赤ちゃんは酸欠になり、最悪の場合亡くなってしまいます。
なので、全前置胎盤、部分前置胎盤の場合はほぼ100%帝王切開を勧められます。

一方、辺縁前置胎盤の場合は胎盤より先に赤ちゃんが生まれてくることもできます。
なので、この点から言えば経膣分娩も不可能ではありません。

経膣分娩の場合、子宮口が開かないことには赤ちゃんは生まれません。子宮口が開くにつれて、血流豊富な胎盤からの出血はどんどん外に出てきます。子宮口が開けば開くほど出血はどんどん増えます。そうするとお母さんは出血多量で貧血になります。貧血により自分自身も酸欠になります。すると赤ちゃんに送る酸素も不足します。これは母子ともに大変危険なことです。

人間の血液量は60kgの人で約5リットルです。このうち3分の1が失われると命の危険にさらされます。60kgの人であれば1.5リットル程度です。
でも妊娠中は赤ちゃんに血液を送るために全身の血液量が増えています。とは言え、2リットルを越えてくるとやはり輸血が必要です。前置胎盤での出血は2リットルを越えることもよくあります
出産に時間がかかればかかるほど出血は増えます。出産までの時間が予測できない経膣分娩では危険が大きいので、前置胎盤の場合は帝王切開を行います。

でも辺縁前置胎盤の場合は絶対に帝王切開というわけではありません。
経膣分娩にトライする場合は、いつでも緊急帝王切開に切り替えられる準備(ダブルセットアップ)をして行われます。
とは言え、辺縁前置胎盤であっても、やはり出血の危険性は高いので帝王切開を勧める場合がほとんどだと思います。

~産後~
胎盤が子宮の壁からはがれると、その壁から今までの血流の名残で出血します。子宮は赤ちゃんが生まれ出ると、一気に元の大きさに戻ろうと縮みます。赤ちゃんがいる時にはお母さんの胸の下くらいまであった子宮が、赤ちゃんが生まれ出た後はお母さんのおへそのあたりまで縮むのです。子宮が縮むことにより胎盤との血流があった部分はふさがれ、徐々に出血が減っていきます。
でも子宮の伸び縮みする部分は子宮の上の方なのです。子宮の下の部分は産後でもあまり縮みません。なので前置胎盤の場合は産後すぐには出血が減らないのです。これはもちろん経膣分娩の場合でも同じです。

そのため帝王切開であっても、出産時には多く出血し、産後もしばらく多めの出血が続きます。合計2リットルを越えると母体の生命にも関わるので、帝王切開時には輸血が準備されます

出産時、産後に多めの出血があった場合は産後には貧血治療のための鉄剤の点滴や内服薬が必要になります。

~妊娠中~
個人病院に通院している場合は前置胎盤の可能性が高くなった時点で総合病院や大学病院を紹介されます。
緊急帝王切開になることもあり、また早産になることもあるので、麻酔科が常在し、NICUのある病院が安心です。

子宮収縮の頻度が多いようなら子宮収縮抑制剤の内服を開始します。
それでも変わらないようであれば、入院して点滴をします。
出血が続く場合にも安静が必要です。
出血により感染の危険性も高くなり、感染を起こしてしまうと早産になりやすいため、
抗生剤の内服や点滴で感染予防をする必要があります。

妊娠後期になると、突然大量に出血することがあります。
子宮収縮に伴うこともありますが、前兆なく突然のこともあります。
ですからこの頃には安静入院をする必要があります。

また前置胎盤では出産時・産後に多量に出血があり貧血になることがほとんどなので、妊娠中はできる限り貧血を改善しておきます。鉄剤の内服や点滴を行います。

正期産である妊娠37週頃になると、帝王切開で出産します。


<帝王切開の麻酔>
通常は、区域麻酔(脊椎麻酔、硬膜外麻酔)を選択します。
分娩前の出血が多い場合や母体や胎児の状態が不安定な場合は全身麻酔も考慮します。




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