米プリンストン大学のクリストファー・シムズ教授は読売新聞のインタビューで、日本がデフレを脱却するためには、一時的に財政の悪化を招いても、財政支出を拡大させることが必要だとの考えを示した。シムズ教授との主なやり取り次の通り。 <本文記事2面
 
シムズ教授インタビュー
 
――日本がデフレ脱却できないのはなぜか。
 
「日本銀行による金融緩和と連携した、適切な財政政策が行われていなかったためだろう。『アベノミクス』は金融緩和と財政出動の協調をもたらすように思えたが、始まって間もなく消費税の増税が行われた。
消費税を徐々に引き上げる計画があることも発表した。これは金融緩和と逆方向の効果をもたらいしている」
「適切な財政支出の拡大を行う場合は、物価上昇野率が目標に到達するまで、低金利の維持と組み合わせた金融政策が重要になる。しかし、財政政策を変えないなら、低金利を維持しても、それほど効果はないかもしれない」
 
――金融政策だけでなく、財政支出の拡大が必要と考える理由は。
 
「私の理論では、財政政策によってインフレやデフレの圧力が決まる。例えば、財政赤字が増えると、国民は『将来、増税が起きる』と考え、消費や投資に慎重になり、デフレ圧力がつよまる。日本と欧州、最近の米国では、国民が財政赤字を心配し、退職金や国の健康保険が危険にさらされていると信じている。これではお金を使いたいと感じるはずかない」
「日本では財政支出の拡大が、物価の上昇率目標を実現するためだということがはっきりしていなかったように思える。必要なのは、インフレを起こすという目的を明確にして財政支出を拡大することだ。『いずれ緊縮財政が必要になるが、デフレ脱却までは実行できない』と宣言し、財政の緊縮を留保する。物価の上昇によって税収を増やし、借金を返済すると国民に思わせることができれば、国民は貯蓄よりも投資や消費にお金を回そうとするだろう」
 
――日本が消費税増税を2019年10月に延期したのは正しい判断だったのか。
 
「正しい方向に向かっているが、増税の時期を定めたのは正しくない。その時にデフレを脱却できていなかったら、誰も増税は望まない。政府は『物価上昇率が目標に到達し、その状況が数ヶ月続いたら、増税する』と言うべきだ」
 
(インタビューは以上、以下は蛇足。ブログ主)
 
=====激しいインフレ懸念も=======
 
シムズ教授が提唱する「シムズ理論」は、デフレ圧力が長引く中では、国の借金(国債)を増やしてでも、財政を拡大すべきだとの考え方だ。ただ財政が際限なく悪化する恐れなど、問題点を指摘する声もある。
シムズ氏の考えは、「物価の水準は財政が決める」というものだ。日本や欧州は、大規模な金融緩和を続けているが、思うように物価は上昇していない。この原因をシムズ氏は、中央銀行が行う金融緩和に、政府による財政拡大が伴っていないためだ、と主張している。
 
シムズ氏は、政府が将来の増税を否定した上で財政を拡大させれば、将来の物価上昇を予想する国民が増えると見込んでいる。将来の増税に備えて、足元の消費を手控えることもない。人々が物価が上昇する前にモノやサービスを購入しようとする結果、実際に物価水準が上がるとの期待がある。
 
国債の返済については、増税や歳出削減ではなく、物価上昇に伴う税収増で賄うべきだとしている。
 
トランプ大統領は、減税とインフラ(社会資本整備)投資という財政拡大策を打ち出している。日本政府内では、シムズ理論も踏まえ、「米国と歩調を合わせ財政を拡張すべきではないか」(経済館長幹部)という声も出ている。
 
安倍首相の経済政策ブレーンで、内閣官房参与の浜田宏一氏は読売新聞のインタビューで、シムズ理論について、「今の日本経済に合った考え方だ」と評価。
 
デフレからの脱却には「金融緩和を続けて上で、財政政策を拡大する必要がある。2019年10月に予定されている消費税率引き上げを延期し、法人税率を引き下げるべき」と強調した。
 
ただ、日本の長期債務は国内総生産(GDP)の2倍程度で、先進国で最悪の水準にある。財政規律に配慮しない政府が発行する国債に買い手が集まるのかを疑問視する見方もある。
 
野村證券の水門善之氏は「野放図な財政拡張に繋がった場合、制御できない激しいインフレになるリスクを忘れてはいけない」と指摘している。
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