彼女、というのは犬のことだ。
同居人が去年の9月に引き取ってきた老犬。
超極小サイズ、健康時でも1.4kgしかないまさにティーカップサイズのマルチーズ。
ここまで極小にしてしまうとやはり無理が出るらしく10歳を超えることがまれなのだそうだが、この子は確か10年を越えてたんじゃないかな。
先住犬が旅立ってから丁度8ヶ月を数えるころだったが、どうもあまり良い飼い方をされていないらしいとのことで急いで引き取ってきたのだと。
そしてひと月半が過ぎたころ。
突然の激しい痙攣。
どうやらてんかんの発作らしかった。
前の飼い主に連絡してみたが以前に発作を起こしたことは無いらしく、獣医に駆け込むと脳腫瘍等によって脳が圧迫されている可能性があるとのこと。
動物のMRIを撮影してくれる獣医にも行き、診察を受けたがやはり腫瘍の影響と末梢神経のマヒとの複合だろうとのこと。
詳細はMRIを取らなければわからないが、撮影には麻酔をかけて30分ほどの時間がかかる。
体力の落ちた極小サイズの老犬であること、たとえ腫瘍であっても手術に耐えることは出来ないだろうことからMRIの撮影は断念し、脳圧を下げる点滴を入れ、それからしばらくは飲み薬と発作を止める座薬を使用しながら過ごすこととなった。
食事もうまく咀嚼できないのでヤギ乳の粉ミルクやビタミンなどをシリンジを使って強制給餌するようにして。
最初の発作が出た当初はまともに歩くこともできなかったが、12月に入るころには発作の回数も減り、多少まっすぐ歩くこともできる程度には回復し、食事も固形物を欲しがるのでドッグフードを織り交ぜることが出来るようになっていた。
やれやれ、このまま回復してくれる。
そう信じていた。
が、年末になって再び激しい発作。
同居人はどこに行くにも老犬を連れ歩き、24時間体制の看護を強いられることとなる。
そして年が明け、1月14日。
同居人は仕事始めとなったのだが、仕事先であの老犬はお正月どうしていたかと心配してくれていた人たちに囲まれ。
たくさん、たくさん撫でてもらい。
抱っこしてもらい。
声をかけてもらい。
そして夕刻みんなが帰って行ったあと、彼女はひっそりと息を引き取った。
まるで世話になった人たちに挨拶をするかのように、その日一日を過ごして。
なんだかねぇ。
まだ「家族」というほどの時間も過ごせていなかったじゃないか。
まだそんなにあちこちお出かけもしていなかったじゃないか。
君が好きな食べ物も、結局わからずじまいだったじゃないか。
何もしてやれなかったじゃないか。
なのにさ。
かってにポイとやってきて、勝手にさっさと行くなんて、ずるいじゃないか。
君が長い間苦しまずに済んだ、薬が効いているうちに静かに逝けたのは良かったのだとも思う。
それでも、もう少しいたかったじゃないか。
昨日荼毘にふして遺骨を持ち帰ったのだが、もうどこにも彼女の気配を感じることが出来ないでいた。
彼女は次の行先、次の運命がすでに待ち構えていたのだろうか。
だからさっさと旅立ったのだろうか。
ならばせめて、次の運命では幸せな時が共に在らんことを。
今は祈るばかりである。




