自らを窮地に追い込む。ギリギリのスタンスで勝負する。勝つか負けるか、どちらかしかない状況の中では、弥が上にも緊張が高まり、邪念は瞬時に消え去る。だからこそ今何が必要か、徹底的に絞り込み、どう立ち向かっていくかを命懸けで考える。そんな環境をあえて作り出したのは、1977年8月に開催された「第1回札幌ロック祭・ツーアウト・フルベース」だ。当時の商業主義的な音楽=メジャーレーベルによる、売るための手段としての音楽マーケットを否定し、自らの手で、自分たちの音楽を取り戻し、育てていこうとする、切羽詰った熱い思いが確かに伝わってきた。札幌のバンドが、第一線で活躍中の東京ミュージシャン達と一体となり、とてつもない大きなエネルギーの塊となった一大ムーブメント。札幌からはマーシャン・ロード、スカイドッグ・ブルースバンド、和田セッションバンド、ベイカーショップ・ブギーなど、東京からは、ムーンライダース、オレンジ・カウンティ・ブラザーズ、久保田麻琴と夕焼け楽団、そして細野晴臣氏が参加。しかも3日間にわたり、プロ・アマ、東京・札幌の垣根を超えたステージ構成なのだ。そこには、いい音楽を共に認め合い、感じ、シンパを増やしながら、正しい音楽フィールドを培っていこうという共通の思いが息づいているからに他ならない。ツーアウト・フルベースという、勝負の打者との真剣対決の中では、青臭い行動を冷やかす愚か者は出るはずもなく、常に本気なのだ。B6サイズ18ページのモノクロ手書きプログラムにも、そんな思いがぎっしりと詰まっている。各バンドのプロフィールや演奏曲目など語るスペースもなく、音楽に向き合う真面目なメッセージがただひたすら書き連ねてある。イベントに参加するプレイヤーと主催スタッフチームのだれもが主役。一体となっているからこそここまで実現できた。「音楽」をキーワードに同じ目線で向かっていく純粋な強さは何物にも代え難い。今から33年前の真実。そして当時の主役たちは、今50代半ばになっている。