京都のイラストレーター・米光マサヒコの一期一絵。 -2ページ目

ミッドナイト・コール。

DJコーズィが招集した仲間達が、散り散りにハコマチに消えていった頃、
クロカワ トシユキは妹ミユキを宿舎まで送り届けた帰り道だった。

トゥルルルル・・トゥルルルル・・

「もしもしィ~?」

クロカワのかけた電話の向こうで、迷惑そうな女の声が聞こえた。

「ゴメンねレイコちゃん、 起きてた?」

「起きてるの知っててかけてんでしょぉ、あんたァ、
しかも、あんたからかけてきたって事はァ、なんか面倒くさい話ってコトォ?」

「う~ん、まぁ、そうなんだけどさ
悪いんだけど、今そっち向かってるから・・・」

「はいはい」

昨年、恋愛私小説「アナタをすすらせて」で世間の注目を集めた女流作家、クジョウ レイコは
タイプの手を止め、保存キーを押してからタバコをくわえた。
執筆中の第二作目「どす黒い闇のキラメキ」は完成間近だった。

つづく。

京都のイラストレーター・米光マサヒコの一期一絵。-ミッドナイト


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ハコマチのさえずり。

「ちす」

「ちわっっす、コーズィくん」

「ちわ~」

はなむぐり市の歓楽街には、サブカル中心に若者文化が根付く裏町、通称「ハコマチ」がある。
その一角に古くからあるクラブ「エコー」に溜まる決して品が良いとは言えない若者の中心的存在が
DJコーズィと、TOKKだった。

クロカワ兄妹との密談のあと、ツイッターにたった二文字「招集」と打ち込んだ2人は
すぐにホームグラウンドである「エコー」に向かった。
表町にある「ショットバー・オボン」からナベブタ横町を抜けハコマチに入り
入り組んだ路地をスルスルと抜ける。
「エコー」にはすでに十数人が集まっていた。

「おそいっすよ、コーズィさぁん、
あ、やっぱTOKKくんも一緒だったんスねぇ、」

コーズィは集まったメンツを確かめてから、手短に仲間達に指示を出した。


京都のイラストレーター・米光マサヒコの一期一絵。-エコー
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真夜中の密談。

「と、とにかく、話を聞こうか・・」

クロカワ トシユキは、見ず知らずの男が突然会話に乱入してきたコトよりも
ミユキの表情が腑に落ちなかった。
日本屈指の名門プロ野球チーム、ワイルドウルフのエースピッチャーが突然の引退?
確かに母親の健康状態は良くないが、それは何年も前から変わっていない。
なのに、なぜ今ミユキは引退を考えたのか?
トシユキはなるべくストレートな言い回しを避けながらミユキに聞き返した。

「ホントに母さんのコトだけなのか?」

「・・・。」

DJコーズィと、ひ弱な友人TOKKUはいつの間にか
この兄妹の超重大な家族会議に、しれ~っと加わっていた。

「これを見て欲しいの・・」

クロカワ ミユキが一枚の書類をカウンターに差し出した。


京都のイラストレーター・米光マサヒコの一期一絵。-密談
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DJ-コーズィ。

ショットバー・オボンは気だるくも暖かい時間が流れていた。
時計の針ははまもなく深夜2時を過ぎようとしていた。

「実はね、明日の試合で最後にしようかと思って・・・」

「母さんの件か、・・」

「・・・まぁ、 ね、」

こみいった話というのは、どこにでも転がっているものだ。
しかし、この兄弟の話に関してはどうしても聞き流せない。
日本球界の最高峰、ワイルドウルフのエースピッチャーが
明日の試合でマウンドを降りるというのだから、

ガタン!

「待ってくれYO!」

近くのテーブルでジントニックをチビチビ飲んでいたキャップの男が立ち上がった。

「やめときなよ、コーちゃん!」

弱々しい表情の連れが止めに入ろうとしたが、キャップの男はその勢いのまま
クロカワミユキに詰め寄った。

「お、おれ、DJ-コーズィっていうんだけどYO!
クロカワ選手のファンなんだYO!・・・」

DJコーズィは少しふざけたような調子で、しかし誠実に自分の気持ちを語り始めた・・。


京都のイラストレーター・米光マサヒコの一期一絵。-コーズィ
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エースピッチャー。

カランコロン、

クロカワ トシユキが2杯目のバランタインを飲み干した頃、
ショットバー・オボンのドアが静かに開いた。

黒いワンピースに身を包んだ女性客がひとり、
クロカワを見つけると、そのまま彼の方へ歩みを進めた。

「女性のお連れ様は初めてですね、」

バーテンダー マツオカは、女性客には聞こえない程度の自然な音量でクロカワにつぶやいた。

「ああ、いいんだ、 妹さ、」

マツオカはなるほど、という表情をクロカワに返しながら
新しいコースターをひとつ、クロカワの隣の席に用意した。

他の客が少し、どよめいたのは
その女性客が明日はなむぐりスタジアムで地元野球チーム脳天チョップスと対戦する
ワイルドウルフのエースピッチャー、クロカワミユキだったからだ。


京都のイラストレーター・米光マサヒコの一期一絵。-クロカワミユキ3
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オボン。

「ほんと困っちゃったよ、あの市長にはさ、」

深夜1:00をすぎた頃、フリーライター クロカワ トシユキは行きつけの店に居た。
ほのかに漂う「ナイト・ルージュ」の甘い香りは彼のクールすぎる佇まいを
やさしくオブラートに包んでくれる。

「悪い人じゃ、ないみたいですよね・・」

無口なバーテンダー マツオカ ハルヨシ は誰も傷つけないよう配慮しながら
クロカワの会話にヒトコト返した。

「まぁ、ね。・・・」

マツオカの飾らない無垢な人柄は、クロカワの心を落ち着かせてくれる。
ナイト・ルージュの甘い香りとクールなルックスに魅せられて、
クロカワに好意を寄せる女は多かったが
彼はこのショットバー・オボンにだけは独りで来ることにしていた。

「ああ、今日も良い一日だったよ、マスター、」


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グリーンビレッジ構想。

「いやぁ、本当に昨日の試合は良かったですよ~」

「は、はぁ」

タウン情報誌「ハナハナはなむぐり」の記者クロカワ トシユキは
マサダ市長の熱弁に困り果てていた。

「市長、今日は先月発表になったグリーンビレッジ構想について
市長の熱い思いをですねぇ、」

高貴な夜の香りを漂わせながら、クロカワはなんとか市長の暴走を止めようと懸命だった。
たいていの女性の心は意のままに操れる彼も、アメリカ帰りのこの男はどうにも攻略できないのであった。

「ほんと、もう、両キーパーがスゴイんですよ~」

カリフォルニア州ボンパレー大学で都市緑化工学の権威であったマサダ イゾウが
生まれ故郷のラブコールを受けて市長になったのが昨年。
温厚さの裏側に隠された彼の奔放さを市民はまだ知らない。




米光マサヒコの一期一絵。-マサダ
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ミドリカワFC優勝!

はなむぐり市少年サッカー大会決勝は近年まれにみる名勝負の末、
後半30分ヨコハシマリエの逆転ゴールを守りきったミドリカワFCが初優勝を果たした。
表彰式でははなむぐり市長のマサダ イゾウが選手達を讃え、大会は幕を閉じた。

この小さな街の少年サッカー大会は
後の日本サッカー界にとって、大きな財産となる人材を輩出した。
ムンバイオリンピックにて女子サッカー史に青いイナズマの名を残すことになるヨコハシ マリエ、
ワールドカップ・カサブランカ大会で日本の初優勝に大きく貢献することになる
ソノダ ヒョーゴ、ネギ ユウイチ、ネギ ユウジ、イシジマ タクミ、
その大会で大会初出場にして準優勝という快挙を果たすチベット代表キャプテン、キムラ ケンゴ、

日本サッカー界の華々しい歴史は、この時代に各地で小さな産声を上げていた。

・・・それはまだ、しばらく先の話である。


米光マサヒコの一期一絵。-優勝
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ゼロ・カウンター。

ミドリカワFCゴールキーパー、キムラケンゴはイシジマのシュートを右逆手でキャッチすると
そのままロングスローのモーションに入った。
右手が予備動作なくゼロカウントで鋭く振り抜かれた!

ボールは一瞬にしてナベヤキ陣内まで鋭い弧を描き跳んでいく!
小学2年のエースストライカー、ヨコハシ マリエはすでにトップスピードまで加速。

「キムラくんがとったら、ゴール前まで走り抜けなさい・・」

ハーフタイム、名将アガツマの指示通り、ヨコハシ マリエがゴール前まで辿り着くと
足もとにキムラからのボールがワンバウンドして追いついた。

キムラからのタルパのエネルギーをまとったボールは
そのままヨコハシの思いをも形に変える!

「勝ちたい!!」

心臓が張り裂けそうなくらいダッシュを続けたヨコハシの放ったシュートに
ナベヤキディフェンス陣は誰も触れることができなかった。


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ツイストキャッチ。

イメージを具現化すると言われる、チベット密教の秘技「タルパ」の力を得たキーパー キムラは
上半身をあらぬ方向に反転、ナベヤキFC大型フォワード イシジマの強烈なシュートを
まさかの逆手で「ツイストキャッチ」した!!

-- その時すでに! --

右サイドを駆け上がる小さな影は、センターラインを越えナベヤキ陣内へ単独で切り込んでいた!
なぜ、キムラはリスクを冒してまで「ツイストキャッチ」に出たのか?
答えは簡単である。
ボールをキャッチしたキムラの右手は、ボールをなでるように手首を反転させ、
そのまま、何の無駄な動きも無くロングスローのモーションへと移行した!


米光マサヒコの一期一絵。-ツイストキャッチ

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