『千の顔をもつ英雄』 | Wind Walker

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ネイティブアメリカンフルート奏者、Mark Akixaの日常と非日常

『千の顔をもつ英雄』〔新訳版〕 ジョーゼフ・キャンベル著 2015年

 

 

神話学者ジョーゼフ・キャンベルの代表作。

 

原書は1949年(日本版は1984年)に発行されたクラシックな本で、私も若い頃に影響を受けた作品なのです。

 

昨年の12月に新訳で文庫化されていたことを最近知り、驚きのあまり思わずまた買ってしまいました(笑) 

 

かのジョージ・ルーカスもまたこの本に感銘を受け、『スター・ウォーズ』の脚本に神話論を採り入れて大ヒットさせた・・・という逸話がすでに伝説と化していますが、おそらく昨年末に公開された「フォースの覚醒」と時期を合わせてこの新訳版が出されたのでしょう。

 

 

世界の神話の多くがなぜか共通したストーリー展開をもっているのですが、それらの共通項を分析してわかりやすく解説してくれるのが本書。それにしても「千の顔をもつ英雄」とはうまいタイトルを付けたものです。

 

神話というと古臭いおとぎ話のようなもの、と思っている方も少なくないのでしょうけれども、世界中の神話が同じ物語を語っているということは、それだけ人類にとって普遍的なメッセージを内包しているということ。

 

それはどんな物語かというと、主人公が日常とは異なる世界に足を踏み入れ、冒険を通じて英雄となり、その力を携えて元の世界に戻ってくる、という魂の成長譚。

 

この話が私たちに教えてくれることは、英雄とは怪物や竜を倒した架空の人物ということではなく、自分本来の姿や価値に気づいて元々備わっていた力を自由に発揮できるようになった人物のことで、私やあなたのあるべき姿を指しているのです。

 

プロローグではこのように書かれています。

 

 

「・・・私たちはひとりで冒険に挑む必要がない。かつての英雄たちがすでに私たちの前を歩いているからである。迷宮の正体もすっかり知れている。私たちは英雄が用意してくれた糸の道をたどればいい。そうすれば、忌まわしきものを見つけるつもりだったのが神に出会い、出会ったものを殺すつもりだったのが自らを殺し、外の世界へ飛び出すつもりだったのが自分自身の存在の中心に戻り、ひとりでいるつもりだったのがすべての世界と共にいる、ということになるだろう。」(p.46 上巻)

 

 

後年のベストセラーになった対談『神話の力』は更に分かりやすい大傑作で、「なぜ神話を学ぶ必要があるのだろう?」という方はそちらを先に読むのがお薦め。読んでみてキャンベル先生の話をもっと詳しく聞きたくなった方は本作もどうぞ。

 

 

ところでこの「新訳版」の翻訳は驚くほど読みやすくなっていて、「旧訳」は英文を直訳したかのような読みづらい文体が目立ちましたが(それはそれで小難しい専門書を読んでいる雰囲気に浸れたのですけれども。笑)、これなら万人に薦められます。

 

 

 

 

 

 

キャンベル先生のもう一つの集大成、『神の仮面』も新訳で出して欲しいところです。